第六十八話 死神娘セレスティと生死の予定表
俺は転移の魔法陣が発動したはずの建物の内部に立っていた。
廃墟とは思えない建物の内部からこれまたさっきまで地面に崩れ落ちていたはずの扉を開けて外に出ると草原だった。
いやうん、フォクトリア大平原だった。
背後にある建物は倒れそうだったあの姿からキレイな大聖堂の姿になっていた。
「あの建物は僕達天使が作ったものだよ。ここはこの時代から未調査だから作りやすかったんだ」
俺の隣にはいつの間にやら霊体の姿のサフィーネがいた。
背後の建物の光景に驚きつつも、サフィーネのその姿にも驚いた。
「ホントに過去に来たんだな。というか、サフィーネはその姿で話しているけどこの世界の人には見えるのか?」
「いや、君以外には見えないよ。僕も現在の天界から他の天使達の力を貰いながらこうして通信している」
「見えないってことはサフィーネの言葉もこの過去の世界の人間には聞こえないんだな?」
サフィーネは頷く。
人のいるところでは話せそうもないけど、そもそもついてくるつもりなんだろうか?
あの天使は。
「君、断片的とはいえアトロパテネス様を復活させたんだろう?クロノと名乗っているあのアトロパテネス様はあの世界で実際に生きられるのが嬉しいのか、楽しそうだったよ」
「クロノ、楽しそうだったもんなぁ」
フォクトライト自由連合国を出発する前に楽しそうな顔をしていたクロノを思い浮かべる。
「だから、僕もちょっと冒険してみたいなーって」
「そんなことのために他の天使達の力を使っていいのか?」
「他の天使達にもこの僕が見ている映像は伝達されてるから、みんなも楽しそうだよ」
全く。
天使ってホント気楽だよな。
だが、乾坤一擲の作戦に乗り出そうとしていた天使達の話はバカにはできない。
いかにお気楽でもやるときはやるんだろうな。
「それで?俺はどういうルートでバイゼルハーツ公国に行けばいいんだ?」
「近くに浜辺があるって話は聞いたよね?あそこに船を用意したはずだから海側から入ろう」
そう言われたので、俺はサフィーネを連れて浜辺に光速で向かう。
サフィーネは一旦姿を消して、俺が浜辺に着くとまた姿を現す。
「便利だな、その姿」
「まあ、僕は君を特異点として、君のいる座標にはすぐに行けるからね」
サフィーネって、天使達の中でもかなりの地位がある天使なんだろうな。
天使長みたいなもんか。
じゃなければ天使達をまとめるとか力を貸してもらうとかできなさそうだもんな。
浜辺の近くには海の家のような建物があり、近くにはボートよりは大きい小舟があった。
「あの建物は君が泊まれるように作ったつもりだよ。
この時代の人間には見えないように魔法の刻印をしている。
万が一公国から待避しないといけない場合、君の隠れ家にもなると思う。
そんなことはないと思うけど、用心するに越したことはないからね」
「いろいろ俺が動くこと前提に作っているんだな」
「僕達からすれば君は、アトロパテネス様と同じくらいの力を持つ主神クラスの人間だ。
これくらいはしないとね。
君が敵じゃなくてホントによかったよ」
ここまでお膳立てをされていると断られたらどうしようなんて全然考えてなかったんじゃないかと思ってしまうが、俺も断るつもりもなかったし気にしないことにする。
「それで?もう出発してもいいのか?」
「うん、構わないよ。僕も君が他の人と話しているときは話しかけないから安心してね☆」
霊体とはいえ下界で冒険できるのが嬉しいんだろうな。
そんなことを考えながら、小舟に乗る。
「お、これは小舟だけど全然揺れないな」
「当たり前だよ。この小舟は本来死神の住みかにある生死の境を隔てている川を渡るための船の材料が使われているから、この世界の人間に沈めることは魔神のような存在でもなければ絶対不可能だ」
天使やべぇ。
というか生死を隔てている川って三途の川ってやつかな?
セレスティって冥界在住なのかな?
死神だし別に不思議なことでもないけど。
「さすが天使だな。やっぱり人智を越えているよ」
「ちなみに君を気に入ったセレスティは冥界に運ばれて来た死者の魂の裁判をする場所の裁判長と同じかそれ以上の権限を持っているよ」
それって閻魔大王って奴じゃないかな!?
死神執行者No.0って言っていたけど、俺はどうやらとんでもないものに惚れられたらしい。
「セレスティに嫌われたら俺生きてられないんじゃね?」
「それはどうかな。君は神すら敵に回しても余裕で生き残れるだろうし、そもそも死神は死の刻が来るか、天界戦争とかが起きない限り勝手に魂を刈り取ってはいけないから心配ないよ」
なんかものすごく物騒なことを最後ら辺に言っていたけど聞かなかったことにしよう。
天界戦争って生前の世界の宗教の話みたいだな。
「まあ、あとは悪魔と取引した人間とか、人間の死の予定表と違う殺人を起こしたりした人間とかは断罪の意味も込めて刈り取るらしいけど」
聞きたくない話をペラペラと。
人間の生死って予定表なんてあるのか。
なら運命は変えられないんだろうか?
だとしたら生きていくことに絶望しそうなもんだけど。
「それを聞くと人間って何をしても無駄って気がしてくるけど、そんなの納得できないぞ?」
自分は運命を変えたと思っていたのにそれすらも運命だったとか、無気力になりそう。
「勘違いしないで欲しいんだけど、人間がどう生きてどう死ぬのかまでは僕達も死神達も知らないよ。
予定表っていうのはあくまで目安だから生き方によっては本来死ぬはずの刻を大幅に超えて生きる人間もいる。
逆も然りだけどね。
だから人間は面白いんだ」
それなら俺の疑問は意味のないことだろう。
サフィーネが言うことはつまり未来は神にも分からないってことだし。
「神ってもっと過去・現在・未来全てを知っていると思っていたんだけどな」
「アトロパテネス様は未来視ができるそうだけど、知的生命体の種の存続に関わるような世界の危機以外はあまり見たくないって言っていたよ。
それは面白くないだろうって。
でも遥か遠い想像もできないくらい遠い未来に人間は滅ぶって悲しそうに言っていた」
「人間って滅ぶのか、やっぱり」
まあ、生前の世界とか知っているといつ滅んでもおかしくないよねって思ったことあったけど。
「と言っても人間達の頑張り次第でそんな未来は回避されるみたいなことも言っていたけど」
未来は人の手に委ねるってか。
滅んだ後も影響力半端ないな、時空神。
俺としてはやはりハッピーエンドが好きなので人間は存続して欲しいけどな。
俺という一人の人間でも何かできるだろうか。
「さっき言ったよね?予定表っていうのはあくまで目安だって。
知的生命体という種の存続にも同じことが言えるから、覚えておいて。
もっともこんなことを知っているのは君くらいだけどね。
僕もつい口が止まらなくなっちゃったよ」
なるほど、それなら俺は俺なりに頑張ろう。
ひとしきり会話を終えると小舟が勝手に動き出した。
「勝手に動く小舟とか怖い」
「勝手に動いているように見えるだろうけど、僕が操作しているんだ」
霊体だが、俺の背後の席に座りながらそう言う。
俺はサフィーネの方に向き直る。
「器用なんだなサフィーネは」
「まあね、伊達に天使達のリーダーやってないからね」
「前から思っていたけど、サフィーネはリーダーなんだな」
「うん、筆頭天使と言えば僕のことだよ。この役割はアトロパテネス様からもらった役職だけどね」
「天界の天使は役割をこなすだけの存在なんだろうな」
俺がそう言うとサフィーネはニヤニヤ笑う。
なんだろう。違うのかな。
「いや、確かに創造した主と与えられた力とかは変わらないけど、堕天した天使とかもいるし、限界能力を超えて成長する天使もいる。
限界能力を超えて成長する天使っていうのは僕なんだけどね」
堕天使なんているのか。
神とか天使が出てくる物語にも堕天使とかはいるから別に変なことではない。
サフィーネは少し恥ずかしそうに言う。
「なんでそんなに恥ずかしがるんだよ?」
「人間って成長するものなんだろ?なら僕も少しは人間気分を味わえているのかなって」
「天使からしたら当たり前じゃないだろうけど、それならサフィーネは人間の気分を味わえているんじゃないか?」
成長する天使とかって、主神に反乱を起こしたりしないんだろうかとか思ったけど、サフィーネはそんなことしなさそうだ。
「ありがとう。君とこうして話せるのは楽しいね。僕も君に惚れちゃいそうだ」
「そんなこと微塵も思ってないだろ。というかサフィーネは性別ないし意味なくないか?」
「性別がないなんて誰が言ったのさ!僕はその必要がないだけで、その気になれば男の子にも女の子にもなれるよ」
なんか衝撃の話だったけど嘘ではないんだろうな。
さすが天使。
ともかくバイゼルハーツ公国に向かう。




