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第六十五話 魔狼進化!

 森林の茂みから出て魔物に近づいてみると大型の黒い狼、ダイアウルフがまずこちらに気付き警戒心を抱いたのか、唸り始める。

 それをきっかけに他の群れのダイアウルフも唸り始める。


「あのー、俺は敵対しようとしているものじゃないから、そんなに唸らないでくれ」


 俺が汗をかきながら、そう言って両手を前に出し、手を振る。

 しかし、俺の言葉がわかるのか俺の言葉を聞くと一斉に大人しくなる。

 うん?

 野生なら普通、人の言葉がわかるわけないし、なんでみんな大人しくなったんだ?

 と考えたが、群れのリーダーというかボスみたいなダイアウルフの中でもかなり大きい狼がこちらに来る。

 狼の顔が俺と同じくらいの高さにあるため、高さは165mくらいありそうだ。

 その顔の右目の真下に傷跡がある。

 全長は大体3mくらいだろうか。

 しっぽまで含めると4mまで行きそうだ。

 かなり大きい。


 近くまで来ると、なんとそのボスは俺に頭を下げて一礼したのだ。

 え?どういうこと?

 狼が一礼するだって?

 だが、その次の光景でそんな驚きは即座に吹っ飛んだ。


「敵対心のない人間か。怖がらせたようですまないが、我々は流浪の狼。どこに脅威が潜んでいるのかわからない以上このような対応になってしまった」


 キャァァァァ!シャベッタァァァァ!


 あまりの光景に思わずそんなことを言ってしまいそうになった。

 え?なに?どういうこと?!

 この世界の狼って喋るの?!マジで!?


 待て待て、ダイアウルフだからかもしれない。

 突然の出来事に理解が追い付かなくなっていた。


「あの、えっと、しゃ、喋れるのか?」


「言葉を話せるのはわたしだけだが、群れとは思念で会話しているから言葉は必要ない。私も話せるようになったのは最近だが」


「そ、そうなのか」


 思念で会話とかどんな会話方法だよ。

 というか、狼言葉で会話しているのだろうか?

 ガウッとかワオンとか?

 すごく混沌としているな、それ。


「えっと、名前とか、あるのか?お前は?」


「私か?野を駆け回る狼に名前など不要」


「そ、そうですか。あっ、ちなみに俺はアトス、アトス・ライトニングだ」


 狼のボスにぶっきらぼうに答えられたので俺は対応に困ってしまった。

 いやまあ、野生だったら普通の人間とかと会話なんてしたことないんだろうけど。


「ほう、アトスというのか。私はこの群れをまとめている狼だ」


「それは見ればわかるけど、なんで話せるんだ?最近話せるようになったって言ったけど」


 気になって仕方ないので聞いてみることにした。


「うむ、私自身も驚いているのだが、少し前に海に光る欠片が落ちていて近づいたら勝手に私の体に吸収されたのだが、その時に人の思考と人の言葉が頭に流れてきてな。

 その影響でこうなっている」


 え、それアーティファクトじゃね?

 呪われたりしなかったのは何でなんだろう?

 ていうか、海に落ちているとかこの狼達はどこからやってきたんだ?


「その時、変な声が聞こえなかったか?」


 すると狼のボスは不思議そうな顔をして答える。


「変な声?全く聞こえなかったが。もっともキレイな声は聞こえてきたが」


 キレイな声はアトロパテネスだろうな。

 だがもし浄化されていないアーティファクトなのであれば魔神や邪神の干渉を受けそうなものだが、あの狼はそんな気配は全くないので変な感じだった。

 謎だな。


「そうなんだ、じゃあ死王国動乱って知っているか?」


「いや、我々は海を渡って来たからそれは知らない。死王国動乱とはなんだ?」


 海を渡る?

 何を言っているんだろう、この狼は。


「お前達って泳げるのか?」


「我々は魔狼ダイアウルフ。海を渡るなど魔狼であれば誰でもできる」


 魔狼ってことはやっぱり魔物なんだな。

 いや、それよりも広い海を渡ることなんてできるのか。


「驚いたな。魔狼はそんなことできるのか?」


「うむ、我々魔狼は普通の狼とは違う」


「なるほどね。でも魔物ならなんで人間と争わないんだ?」


「私は魔物の狼ではあるが、昔、人間の女性に助けられたことがある。

 この右目の真下の傷はその時の傷だ。

 それ以来、私は人間とは果たして敵なのかと考え始めた」


 その女性って変わった人間なんだな。

 この世界の常識としては魔物は敵らしいんだけど、そんな人間もいるのか。


「じゃあ、人間とは戦わないのか?」


「いや、一族の危機が迫っているならば私は迷うことなく人間でさえも殺す。

 しかし、敵意のない人間とは争いたくはない」


 この魔物も人とはできれば戦いたくはないということらしい。

 だったら、俺がやることは一つだ。


「そっか、なら俺の作っている国に来ないか?」


「……なんと言った?」


「俺の作っている国に来ないかって言ったんだけど、なんでそんな変な顔をしているんだ?」


 狼のボスは疑わしげに俺を見ていた。

 気持ちはわかるけどな。


「我々は魔物だが、何をバカなことを言っているんだと思っただけだ」


「ああまあ、突然そんなことを言われたら変な感じするよな。

 詳しく話すと、俺は敵対心のない魔物とすべての種族が仲良く幸せに暮らせる国を作ろうと考えている。

 だから、もしよければ俺の仲間にならないか?って話だ」


 すると狼のボスは目を瞑り、考え始めてしまった。

 迷うのは仕方ないだろう。

 今日出会ったばかりなのにいきなり俺の仲間にならないかなんておかしい人にしか見えないもんね。


「無理にとは言わない。もしよかったらの話だから」


「我々は他の人間から迫害されてきた者達だ。それゆえにお前の言うことが信用できない」


「だよな。それは今すぐに答えを出さなくてもいい。しかし、さっき言っていたキレイな声って、なんて言っていたんだ?」


「?不思議なことを聞く。

 確か、頭脳強化、完了。人語、解放。

 と言っていたが?」


 ということはやはりアーティファクトを使用する時に聞くアトロパテネスの声だろう。

 頭脳強化と人語か、すごく頭良くなっていそうな内容だな。

 だが、浄化はされていないはずなのでちょっと手をつけることにする。


「ありがとう。ところでちょっとお前に手を触れてもいいか?」


「なぜだ?」


「その光る欠片って危ないもので浄化しないと今後、邪神の干渉を受けるかもしれないから処置しておこうかと思ってな」


「そうなのか?ならば頼む。私も邪神の干渉など受けたくはないからな」


 魔狼が邪神を嫌っているのはなかなか皮肉の気がしたが、ボスの頭に触れて目を閉じる。

 野生だから毛がごわごわしていたけど、今は関係ないのでボスの魂を見る。


 魂は白く輝いているため、邪神の干渉は受けていない。

 シャーリーの時のように魂の周りに黒いもやがあるということもないため、何も問題は無さそうだ。

 アーティファクトは魂に結び付いているのか、魂の周りには白い霧状のアーティファクトと思われる反応があった。

 アーティファクトは一つのようだ。

 そして、その白い霧を一回まとめて白い欠片に結合。


 やはり浄化されていないアーティファクトのようだ。

 さらにそれを浄化。

 完了したので再び霧状に戻す。

 これで大丈夫のはずだ。


「うん、これで大丈夫だと思う」


 俺は目を開けて手を離す。

 すると辺り一帯が眩しくなった。

 こんな反応初めてみたけど、大丈夫なんだろうか?


 遠くで隠れている仲間達も眩しいのか、目を瞑っていた。

 光が収まると、魔狼ダイアウルフの姿が変わっていた。

 白い。真っ白だ。

 それも周りにいた魔狼達も真っ白だった。

 そして、あの声が聞こえてきた。


「神聖強化、ダイアウルフ昇格。群れ強化、完了。種族名、セイントウルフ」


 は?え?

 なんか進化したの?

 これまでそんな反応なかったよね?!

 真っ白になった魔狼ダイアウルフ、いや、種族名セイントウルフとか言っていたし、セイントウルフなんだろうけどさ!

 そのセイントウルフのボスが話しかけてきた。


「これは、どうしたことだ?我々は魔狼ではなくなっているだと?おい、お前、何かしたのか?」


「いや、俺も驚いているところだ。何も異常はないのか?」


「それは問題ない。むしろあらゆる能力が飛躍的に上がっている。……これは感謝せねばなるまいな」


 とか言っていたんだが、周りのセイントウルフも話し出したので、また驚いてしまった。


「なに?!お前達も話せるようになったのか?」


「お頭、どうやらそのようですぜ?」


 ボスのすぐ近くにいたボスよりも少し小さいセイントウルフがそう言う。


「……ふむ、ここまでされてしまったのならば、我々はアトスを頭領にしたい」


「え?いいのか?」


「我々魔狼はこれより前から人間に多大なる恩を受けてしまった。迫害されもしたが借りを返さねば我々が納得できん」


 そう言うと、セイントウルフ達はボスを始めとして、首を下げて臣下の礼と思われるものをする。


「じゃあ、俺と一緒に来るのか?」


「無論!迷惑でなければ我々はアトスの傘下に入り、生涯仕える主人としたい!」


「えぇ……そこまで思わなくていいんだけど」


 そこまで言われると自分でやっておきながら困惑してしまった。


 ともかく、こうして、魔狼ダイアウルフ改めセイントウルフは俺の仲間になった。

 なお、カイの記憶にはセイントウルフなんて名前の魔物は存在しなかった。




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