第六十一話 教国、侵攻開始
アトスがフォクトライト自由連合国に来た謎の飛行艇を見ていたその頃。
アルデイト王国のある大陸から南に存在する時空神アトロパテネスを主神としている世界宗教、アトロパテネス教の本拠地アトロパテネス教国の首都クロノパテネスにある教皇庁の地下。
頭に細長い帽子をかぶった一人の教徒が目の前の複数のアーティファクトを見ながら、目を輝かせて、近くに立っている神官達の中で教皇の立場の人物に話しかける。
「教皇様。これで私もアトロパテネス様の元へとお仕えに行けるのですね!」
教皇と呼ばれたその人物は肥えた体型で口の上にある髭を指でいじりながら答える。
「そうだ。魔物と暮らそうなどというバカげた国を作っている法敵であるアトス・ライトニングを倒すためにお前には殉教してもらう」
教国では魔物は絶対悪としている。
「喜んで!」
この会話だけでこの教国が狂っていることが分かるが、周りの神官達もそんな彼を止めるでもなく、拍手をする。
だが、神官達の中でその光景を苦々しく見ている若い神官がいた。
それは俺、アイソル・セイグリフだ。
(こんなの狂ってる。アトスという人物はそんなに悪い人物ではないはずだが)
近頃教皇の様子がどうもおかしい。
聞いた噂によればアルデイト王国の滅亡の危機を解決してくれた人物らしいのだが。
教徒はアーティファクトのある場所に歩いていくと、複数のアーティファクトが彼の中に入っていく。
「アトロパテネス教に繁栄あれ!」
そういうとその教徒はどんどん干からびて骨と皮だけの姿になった。
そして、地面に倒れる。
あのアーティファクトと呼ばれるものはアトロパテネス教の教徒の中でも神殿で洗礼を受けた神官が浄化したもので、各国で聞くアーティファクトの暴走は起こらない。
教徒の体内に入っていったアーティファクトが彼の体内から外に出て、空中に浮き上がると結合を始めて、白い十字架の形になる。
教徒の精神力をすべて吸い尽くして生命さえも吸い取ってできたあの白い十字架はとても聖なるものには見えない。
儀式が終わると教皇が口を開く。
「これであの法敵の力を封じることができる!神官達よ!迷うことなく私に続け!大義は我らにある!」
そう言うと神官達は腕を振り上げて叫ぶ。
こうした行動を始めたことに最初は疑問を持つ神官もそれなりにいたが、そんな人物は徹底的に地位を落とされて、この中にはあの教皇を信じている神官しかいない。
苦々しく見ていた俺はそれを表に出さず、変わってしまった教皇を退け教皇へ上り詰めようと考えながら、表向きは狂信者じみた行動をしている。
儀式が終わって十字架が地下に固定されると俺は地上に戻り、教皇についていく他の神官とは別行動を始める。
そして、首都クロノパテネスの町の地下酒場に足を運ぶ。
「いらっしゃい、おや?君はアイソルくんじゃないか。今日もあれかい?」
「ええ、そうです。今、大丈夫ですか?」
「もちろんだとも、ではどうぞ。そうだ彼女も来ているからよろしく」
「いつも迷惑をかけてすみません」
カウンターの板を上げて店主は俺をカウンターの中に入れる。
その後ろにある酒棚を少し横にずらすとさらに地下へと続く階段が姿を表す。
この酒場の地下には小さいながらも神殿が作られている。
その地下の神殿の奥には時空神アトロパテネスの女神像があり、その像の前で跪いて祈りを捧げている純白のシスターの姿をした女性がいた。
俺の足音に気づいたのか、振り向かず話しかけてくる。
「来たんですね、兄さん。今日はどうでしたか?」
「ああ、ひどいもんだ。また一人、教徒が死んだよ」
それを聞くと彼女は胸の白い水晶をつけたペンダントを揺らしながら振り返って悲しそうな顔をしていた。
「そう、ですか……やはり教皇様は変わってしまったのですね」
「そうみたいだ。あんなに非人道的なことをする人ではなかったはずだが」
あの教皇は昔は優しい人で、俺は変わってしまう前の教皇に仕えていた。
しかし、ここ最近はまるで人が変わったかのような行動ばかりするようになった。
アトスという人物を目の敵にするようになったのもここ最近だ。
「兄さん、辛くないですか?」
「辛くないと言えば嘘になるな。神官が亡くなっていくのは見ていられない。
でも諦める訳にはいかないんだ。この国のため、未来の教徒のため、なにより世界のために」
俺は平和が好きだ。
だから犠牲を払いながらも必死にそれをこの手で実現しようとしている。
妹からすればそんな俺は理想を追いかけるばかりの心配な兄なんだろう。
「近々アトス・ライトニングを討伐するために、聖十字騎士団ができたばかりのフォクトライト自由連合国に進攻を始めるという話が出ている」
聖十字騎士団とは少数精鋭で構成されているが、神官の中でも異端審問官と呼ばれる人物が所属し、アトロパテネスを復活させるその時まで戦い続けることを誓った神官達だ。
教皇庁とはまた別の組織で必ずしも教皇の命令を聞く訳ではないが、こちらは善悪関係なく魔物は絶対悪、倒すべき存在と位置付けているため、今回の戦いには喜んで参戦することだろう。
彼の作っているあの国は王国から来る旅人を通し、この教国まで聞こえ始めていた。
教皇はそれよりも前に彼の存在と国の名前を知っていたので、どこでそんな情報を手に入れたのかは謎だったが。
「そ、そんな。私は、アトスという人物を見たことはありませんが、彼はこの世界の救世主となる人なんですよ!?」
「それは、そのアーティファクトの力か?」
妹がつけているペンダントはアーティファクトである。
妹はあのアーティファクトを使うと本当にアトロパテネスの声が聞こえるそうで、教皇庁の中ではかつて大聖女と呼ばれていた。
だが教皇から殺されそうになり、必死の思いで教皇庁を逃げ出し、各地を転々としながら隠れ住む暮らしを送っている。
「そうです」
「大丈夫なのか?そのアーティファクトは悪い影響も受けることがあると聞いたが」
「このアーティファクトは私が浄化したものでよく知りませんけど、アトスさんと同じくらいの浄化能力があるとか」
さすが大聖女である。
俺はアトスという人物のことを詳しく知らないがアトロパテネス教の教徒の中でも浄化能力に差があることが分かっている。
妹が他の神官よりもはるかに高い浄化能力を持っているということは知っていた。
「この話もアトロパテネス様から聞きました」
「そうか。お前が言うならそうなんだろうな。さて、じゃあ俺も祈りを捧げよう」
「あ、兄さんがやるなら私も付き合いますよ!」
教皇庁にあるアトロパテネス像は邪悪な空気に汚染されていそうで、とても祈りを捧げようとは思わなかった。
この地下神殿は教皇が変わってしまったあとに俺が秘密裏にコツコツ作った神殿だ。
二人で並んで跪き、両手を組んで祈りを捧げる。
(世界が平和になりますように。その時まで俺は戦い続ける。だから見守っていてくれ時空神アトロパテネス様)
ふと考えた。
アトスという人物もそう思っているだろうか?
もしそうだとしたら俺達は同志のはずだ。
この世界を救ってくれるらしいアトスという人物といつか話をしてみたい。
そう俺は考えていた。
しばらくして祈りを終えると妹は俺に話しかけてきた。
「ところで兄さん、聖十字騎士団が出るということは、兄さんも?」
「どうだろう。俺も神官の中では戦闘力があるから召集されるかもしれないけど」
今回は恐らく聖十字騎士団の数名と神官でも戦闘力がある者にアーティファクトが配られるらしいので俺にも恐らく参戦命令が出されるだろうが。
本意ではないが、命令なら従わない訳にはいかない。
その場合は俺が死ぬか、アトスが死ぬかになってしまうだろうな。
「アトスは死ぬかもしれないな」
「なんでですか?」
「今回の教徒が亡くなったことで、アーティファクトにアトスの能力を封印させる力が付与されたらしい」
「なんてことを……」
アトスがどれ程の力を持っているのかは知らないが、少し前の死王国動乱の際の力を聞く限り、並みの力ではないはずだ。
その力を封印されるということは必然的に苦戦するということになる。
「お前はこの国から離れた方がいい。今のこの国に大義はない」
「どこに行けと言うんですか?」
「……フォクトライト自由連合国にこの話を持っていくといい。ドラゴン輸送は手配してやるから一直線にそこを目指すといい」
「えっ」
妹は少し頬を赤くして俺を見てきた。
「アトスという人物の話を神様から聞いて気になっているんだろう?」
妹がその力を覚醒させてからどこか目をキラキラさせてアトスの話をしばしばしていたのでもしかしてとは思っていたが、どうやら妄想でありながらアトスという人物が気になって仕方ないらしい。
妹の能力は疑いようもない力なのでアトスのことは本当の事なんだろうが。
「そ、そんなこと。大体姿を見たことも話したこともない人を好きになるなんておかしいですよぉ……」
そうは言うが妹の頬はますます赤くなる。
確かにそんな人物を好きになるとか変態もいいところだが、大聖女なら救世主が気になることは変ではないはずだ。
妹の場合は夢見がちな性格なのでやっぱり変態なんだろう。
ここは俺と似ているかもしれない。
「まあ、そう言うなって。兄としては応援してやるから」
「に、兄さんのバカ!……でもその話を持っていくことは必要でしょうね」
「ハハ。そういうことだ。俺はなんとかここで頑張るから」
俺はフォクトライト自由連合国に妹を送り出すことにした。
願わくばアトスの国がこの戦争を解決してくれることを祈りながら。
☆
その数日後、アトロパテネス教国から聖十字騎士団の数名を基幹とするアトス討滅先遣部隊が結成され、フォクトライト自由連合国に向けて進軍を開始した。
軍とはいうが少数での進軍だった。
その二日後。
先遣部隊のあとに続いて、教皇自身とやはり含まれてしまった俺がいる本隊はあの白い十字架の形になっているアーティファクトを持ち出して出発する。
始まってしまったか。
☆
この後に俺、アトス・ライトニングは教国と戦うことになるが、俺はあること巻き込まれてしまうためしばらくあとに遭遇することになる。
別視点からの光景になるので混乱するかもしれません。
雑なのでクオリティは高くないです。
読んで頂きありがとうございます!




