第五話 なんか惚れられたらしい?
「アトスさん達はこれからどこへいこうと思っているのですか?」
ひとしきり会話をしたあと、リコリスはそう聞いてきた。
「これから?近くの村に行ってみようと思ってるとこだ」
この出会いがなかったら俺達は村に向かおうとしていたはずだったので、そう言う。
「この近くと言えばヴァレッタ村ですね」
「ヴァレッタ村?」
俺はまだ村の名前を知らなかったので聞き返す。
「ヴァレッタ村を知らないんですね。ということは西のリヒテリンス共和国からこちらに来たのですね」
そういえば、別の国の話などは聞いたが、この今いる場所の周りなどの情報を聞くのを忘れていた。
「ちょっとこっちに来い」
カイにリコリスから離されてリコリスには聞かれない距離まで引っ張られる。
「なんだ?」
「周りの情報話すの忘れてたぜ!」
とカイは慌てながら小声で話始める。
おい、それ重要な話だぞ!
「今ここにいる場所はアルデイト王国という国と、リヒテリンス共和国という国との国境沿いなんだ。
今から向かうヴァレッタ村と王国は東でリコリスが言ったリヒテリンス共和国はここから西にある国だ」
丁寧に話してくれるのだが、記憶共有でもよかったんじゃないだろうか?
などと考えたが、カイは若干焦っていたので忘れているようだ。
「たぶんリコリスはアルデイト王国の国民だから、ヴァレッタ村のことを知らないアトスと俺を西の共和国から来たと思ってるんだろう」
「リコリスが王国国民というのは、どうして分かったんだ?」
いや、話の雰囲気からして予想はできるのだが、確証があるわけではないので聞いてみることにした。
「リコリスは王国で薬屋を開くための許可証代わりのバッチをつけている」
そう言うのでリコリスをみてみると、確かに左胸にバッチがついていた。
なるほど。
いきなりどこの名探偵だ?と思うような言動をしていたカイを疑ったが、推理したわけではないらしい。
「というわけでだ、とりあえずリヒテリンス共和国から来たってことにしよう」
「ああ、そうだな、そうした方が良いかもしれない」
カイが居なかったら、俺は早々に怪しい人間になっていたはずなので、一応感謝しておこう。
「あのー、アトスさん、カイさん、なんの話をしているんですか?私も混ぜてくださいよ」
いきなり離れた場所に行った俺達を不思議そうにみながら、しびれを切らしたのか話しかけてきた。
その声にビクッとして俺とカイは仲良くリコリスの方に向き直る。
「あーうん、ちょっと夕飯何にしようかと相談していただけだ、なあカイ?」
「そうそう!きっと村には宿屋があるんだろうなーとか話してたんだ」
「そうですか。
ヴァレッタ村はゼーダ連山の麓にあって、関所としても機能している村なんですが、国境警備隊がいるので辺境の村とは言えそれなりに発展していますし、食べるものを出す店とかありますよ」
国境警備隊ときたか。
なるほど確かに国の国土があるならそういう組織もあるのは当然か。
それはいいのだが、お金はあるのだろうか?
カイに後で聞いてみよう。
「へ、へえー楽しみだなー」
明らかに動揺している声だったし目が若干泳いでいたが、リコリスにはバレなかったようだ。
「あの、助けて頂いて申し訳ないのですけど、もしよかったら私の護衛をお願いしてもいいでしょうか?」
先程の戦闘を見るに、リコリスは戦闘には向いていない。
そんな彼女を一人で歩かせるのは正直気が引けたので、引き受けることにした。
もし先程のような目にあって、命を落としたら寝覚めが悪いことこの上ないしな。
カイはどう思うだろうかとチラッとみると、ウインクを送ってきたので、いいということだろう。
「ええ、俺で良ければ」
「とんでもないです、あんな力を持った護衛なんて心強いです!」
リコリスはわずかに頬を染めて、喜ぶ。
というわけで、彼女と一緒にヴァレッタ村を目指すことにした。
そう決めたのだが、俺は先程のトレントの残骸から淡く光る欠片っぽいものを発見する。
「あの光ってなんだ?」
俺は二人に聞いてみる。
先に答えたのはリコリスだ。
「わかりません、倒した魔物からあんな欠片が出て来るのは初めて見ます。ですが、話には聞いたことがあります」
「俺にもわからないが噂程度には聞いたことがある。だが、あれは神聖な力を感じる」
「どういうこと?」
「いや、その力を感じるだけだ、恐らくあのトレントは欠片のせいで恐ろしく強かったはずだ」
ほぼ一瞬で倒してしまった俺はそんな感覚はなかったなーなんて考えていたのだが、リコリスは思い当たるところがあるらしく、うんうんと同意する。
「リコさん、何か思い当たることが?」
「ええ、あれはトレントでしたが普通のトレントとは違い、エルダートレントと呼ばれる魔物で普通は遭遇することはないはずなんです」
「エルダートレント?」
そしてカイは、待ってましたとばかりに解説を始める。
「エルダートレントってのはトレントが数十年、いや数百年に一度くらいしか出現しない希少な魔物で魔物ランクっていうものがあるんだが、かなり上位のランクとして認識されている」
ランク、魔物にもランクがあるらしい。
正直覚える事が多くて混乱しそうだったが、聞き流し程度に聞いておくことにした。
「ランクは魔法ランクとほぼ同じだが少し違って、初級、中級、上級、超級、ここまでは同じで次に来るのが、災害級、そのあとは魔法のランクと同様だ」
「災害級っていやな響きだな」
「災害級っていうのは主に野良ドラゴンとかクラーケンとか、普段は動かないが動いた時は神話級くらいの危険度があるという位置付けのランクだな」
災害級以降は魔法ランクと同じということは、神話級の魔物とはどんな強さなのだろうか?
それにさらに上の神級というのは神とついているので十分危険そうだ。
そんな危険な奴らとは出会いたくないが、少し、ほんの少しだけ戦ってみたい気もする。
いやまた死ぬのはごめんなので、本当にほんの少しだ。
「それで?エルダートレントってのはどのランクなんだ?」
ここまで俺と一緒に聞いていたリコリスが答える。
「エルダートレントは超級です」
「え?あの強さで?」
何度も考えているのだが、どう考えても弱かったような?
「いや、それアトスだけだから!」
いつもツッコミをされる側のカイにそんなことを言われてしまった。
「アトスさんは自分の強さを自覚したほうがいいです。もちろん、そんなアトスさんも素敵なのですが」
最後は小声で言っていたのたが、リコリスの呟きはしっかり俺に聞こえていた。
が、聞き間違いと思って追及しないことにした。
というか、さっきから熱い視線を送ってきたり、頬を染めたり、もしかしなくてもリコリスは恋をしているのだろうか?
しかも俺に対して。
いやいや、自惚れてはいかんな!
そんな考えを無理やり頭の隅に追いやって、話を続ける。
「それで?あの欠片のせいで普通のトレントが強力な存在になったと?」
「最近よく聞くんです。
突如として普通の魔物しか居なかった場所に強力な魔物が出現して、討伐に失敗したり、魔物の軍隊に町が襲われたり、いずれも倒したら白い光の欠片を落とすと。
魔物の軍隊は統率していた魔物からです」
なんだこれ、かなり危ない世界じゃないか?
やっぱり転生する世界間違えたかな!
「俺が聞いた噂もそんな感じだ。真相は分からないが」
「とりあえず、拾ってみるか?」
「危なくないですか?」
リコリスは一瞬不安そうな表情を浮かべるが、その表情は消えて俺なら大丈夫だろうという顔になった。
「神聖な力なら、多分大丈夫だと思う」
もし俺があの夢で出会った謎の声の主が本当に天使だとするならば、問題はないはずだ。
「アトスなら大丈夫だろう」
カイは全然心配していないようだった。
よし、もし何かあったらカイのせいにしよう。
そう決めた俺は欠片に手を触れる。
だが、特に何も起こらずに手に取れてしまった。
拍子抜けだったが、手に取った瞬間、光が収まり、白い水晶のようなものに形を変えた。
「なんか形変わったんだが?なんだこれ」
「こいつは驚いた、そんな形状になるとは」
カイは形が変わるなんて思いもしなかったのか、驚いていた。
「アトスさん、何も体に変化はないですか?」
「それは全然大丈夫」
特にこれといって何も起こらなかったので、別に悪い物ではないようだ。
「これは一体なんだろうな?」
アドバイザーのカイですら知らないらしいのだから、全く未知の物体だった。
「でも、ここに置いていくのは危険な気がする」
「ええ、もしエルダートレントみたいになったら大変ですからね」
これはその通りであのトレントが欠片の影響だとすると、ここに放置してもしまた強力な魔物が現れたら、リコリスのように被害にあう人物が後を絶たなくなる。
さすがにそんなことをしたくはないので、この欠片は回収しておこう。
「カイ、空間袋ってまだ空きあるか?」
「ああ、大丈夫だろう。道具はあんまり持ち歩いてないからな」
「じゃあ、とりあえず空間袋に入れておいてくれ」
「りょーかい!」
カイは軽く敬礼のようなものをしたあと水晶を俺から受け取り空間袋に入れる。
「空間袋ってすごいんですね。
私もメクリエンス帝国で開発されたって噂しか聞いていませんでしたし、王国ではかなり高額で売られているので買えなかったんです」
そう言えば空間袋の構造ってどうなっているんだろう?
取り出せなくなったりしないのだろうか?
気になったので聞いてみると、空間袋とは個人と魔力で繋がっていて魔力さえ通せば開くという簡単な構造だった。
聞くまでもなかったな。
気になる欠片も回収したし、いよいよ俺がこの世界で初めて訪れる村だ。
楽しみだな。
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