第五十四話 俺達の物語は始まったばかり
さて、あの植物との戦いの傷跡を消すために俺は焦土となった草原に向かって時を戻す魔法、クロノスリターンズを使う。
シャーリーはどうしても見たいと言っていたので俺についてきた。
ミュリンはそもそもシャーリーの助手とのことなので一緒についてきてその光景を眺めていた。
リコリスはポーションの研究とフォクトリア湖の魚や、魔生花とその場所にある大木を調べると言っていたので別行動だ。
「あんた、ホントにおかしいわね。クロノスリターンズなんて簡単に使えるような魔法じゃないわよ!」
「そうなのか?あそこに見えるゼーダ連山あるだろ?あそこの土砂崩れ直したときに使ってみたんだよ」
俺はキレイになっている山頂を指差す。
「軽く言ってるけど、詠唱も無しにその魔法使うなんて、ジオグラード様でも必死の作業だったらしいわよ」
俺はジオグラードのことをよく知らないが、俺みたいに簡単に使えるわけではないようだった。
「ところで、クロノスリターンズって魔法ランクどこなの?」
魔法名を軽く言っているが、精神力を使ってないので発動はしない。
そういえば、あの魔法のランク聞いてなかったな。
カイとか偶然通りかかったあの二人組が言うには神級ランクらしいんだけど。
「クロノスリターンズは間違いなく神級よ」
「やっぱり神級なんだ。神話とかじゃなくて?」
「あんたねー。そんな魔法を簡単に使えるくせに魔法の知識ないの?」
そんなものあるわけない。
俺はこの世界の住人ではないからな!
「いやまあ、ハハハ」
とりあえず笑ってごまかす。
しかしシャーリーは許してくれないらしい。
「笑ってごまかそうとしないの!」
「別に魔法の発動原理とか興味ないし、問題なく使えれば大丈夫だろ?」
覚えられないことではないだろうけど、面倒なんだよなー。
知ったところでやること変わんないし。
「それはそうだけど。アトスってどこでそんな魔法覚えたのよ」
「カイっているだろう?俺の兄さんなんだけど、あの人から知識を教えてもらってやってみたらなんの問題もなく魔法使えたからさ」
というわけで、転生してきた頃に作った設定を持ち出すことにした。
知識を教えてもらったのは嘘ではないはずだ。
「ふーん、そうなの。あのカイって人、なんか魔力の体みたいだけど、どうなってるの?」
シャーリーには分かるのかよ!さすが世界最強の魔法使い。
カイには悪いけど、話を作ることにしよう。
「ちょっと昔に古代遺跡に入ったらカイがトラップに引っ掛かって、その影響であの体にならざる負えなかったんだ」
この世界って古代遺跡なんて存在しているのだろうか?
「古代遺跡って探検するもんじゃないと思うけど、アトス達って面白いわね」
あるらしい。
適当に作ったけど、言ってみるもんだな。
ていうか面白いってな、どうしてそう思ったんだよ。
「シャーリー様は退屈を嫌いますからねー」
ここまで黙って俺とシャーリーの話を聞いていたミュリンが混ざってくる。
「ああ、あの植物の内部でそんなこと言っていたもんな!」
「ふん!恥ずかしいから忘れなさいよね!心の声が漏れるなんて恥だわ。無意識だから止めようがなかったのよ!」
シャーリーは頬を赤くしてそっぽを向く。
「無意識だったのか。なんかすごく暗そうな話していたけど」
それを聞くとシャーリーは少しだけ落ち込んだ顔をする。
「アトスにはほとんどのこと知られちゃったわね」
「そんな顔するもんじゃないぜ?俺が聞いた話は過去の話だろ?気にしたところでそれは損するだけだ」
するとシャーリーは目を見開いて俺を見ていた。
これはカイの受け売りだけど、誰にでも言えるものかもしれない。
過去から学ぶこともあるが、それだけに囚われていると新しいことができなくなるからな。
「アトスってポジティブなのね」
ポジティブと言われれば確かにそうかもしれない。
転生した直後は生前の中高生くらいの暗い性格を少し引きずっていたけど、この世界で生き直しをしているうちにカイのように楽しく生きたいと本当に思えるようになった。
というか、カイのせいでネガティブなことを考えるのがバカバカしくなった。
「そうかもな。俺は暗い話は好きじゃないしね」
「いいわね、そういうの。なんか退屈とは無関係みたい」
「今は全然退屈はしてないな。でもシャーリーだって退屈を嫌ってここに来たんだろ?」
あの植物の内部で言っていた話によればそのはずだ。
「隠しても意味ないしあんたには知られたから認めるわ。まあ、アトスに迷惑かけることになっちゃったけどね」
「アトス様が居なかったら今頃どうなっていたのか、私も怖いですよ」
確かに、俺とセレスティが居なかったらまだ戦闘していたはずだ。
それどころかあの高速で回復する魔法障壁を突破できる人がいないだろうから、対抗できなかったかもしれない。
コアがある場所に行こうにもダンジョン構造だし、中心にたどり着けてもあのとてつもなく魔法耐性が高かったプラントまでいるのでやはり厳しかっただろう。
「そうだ、ミュリン。アトスに助けを求めに行ってくれたこと、お礼を言わないとね」
「いえ、私にはどうすることもできなかったので」
今回の件はシャーリーの自業自得に等しいものなので、少しからかう。
「感謝してくれよな。コアから救出したときもシャーリーってば全裸だったんだから、俺が隠してやったんだぞ?むしろ見せたくてアーティファクト使ったんじゃないかって思うよ」
「バ、バカなんじゃないの?!隠してくれたことには感謝するけど、見せたくて見せたんじゃないわよ!」
バカ呼ばわりされたので、からかうつもりが少しイラッとしたので反論する。
「バカとは失礼な。俺だって見たくて見たんじゃないんだよ!おかげで脳内にハッキリ焼き付いてるわ!」
シルキーとセレスティより少しだけしか大きくない胸とか、その他にもいろいろな!
記憶を消したくても女性耐性のなかった俺はその光景を消し去れていない。
衝撃の光景だったからね。
「消しなさいよそれ!恥ずかしい!その記憶で発情してるんでしょ!」
「してねーよ!」
本心はといえば恐ろしくドキドキしているけどね。
でもそんなこと話したくないし。
俺とシャーリーが顔を向かい合わせにしてそんな痴話喧嘩みたいなことをしている光景をみていたミュリンが笑い出す。
「フフフ、仲良しですねー」
「一生の不覚よ、あんたなんかに見られるなんて」
シャーリーはうらめしそうに顔を赤くしながらこちらを見ている。
「仲良しではないから」
ミュリンの話に否定の言葉を返す。
そんな会話をしながら草原を戻していく。
「これで全部かな」
「ねえ、さっきの退屈はしていないとか、暗い話は好きじゃないとか、本心なの?」
なんだろう?シャーリーは腕組みをしながら顔を横に背け、片目でこちらをチラチラ見ている。
その頬は赤い。
「ん?嘘を言っても仕方ないだろ?本当だよ」
「そう」
そうつぶやくとシャーリーは突然、俺の間近に来て、俺の首に手を回して爪先を少し立てながら顔を近づけてくる。
「え、な――」
なんだ、と言おうとした俺の口は目をつぶったシャーリーに唇で塞がれてしまう。
俺は驚きの表情のまま目を見開いてその光景を見ているしかなかった。
不意打ちとは卑怯な。
ていうか、いきなりなんなんだ?!
「んっ……ふぅ」
その行為を終えるとシャーリーは俺から慌てて離れていきなり背を向けて言葉を続ける。
「た、助けてくれたお礼!か、勘違いしないでよ?私は別にあんたのことなんて好きじゃないんだからね!」
それは無理があるだろう。
キスって好きな人にしかしないものだと思うけど。
そして、そう言うと体の半分をこちらに向けシャーリーは自分の唇に人差し指を当てて顔を赤くしながらニコッとする。
「退屈、させないでよね!」
草原に風が吹く。
シャーリーのツインテールが揺れた。
そのまま、恥ずかしかったのか、足早に去って行ってしまった。
あまりの破壊力に俺はドキドキしっぱなしだった。
「アトス様、大変な人に気に入られちゃいましたね」
その光景を見ていたミュリンは自分の孫でも見るような優しい眼差しでそう言う。
「全くいきなりすぎるだろ。ていうかミュリンはよく恥ずかしくないな」
俺の顔はたぶん赤くなっている。
医療行為でもなんでもなく完全に俺のファーストキスだったから冷静でいられるわけなんてない。
「私はこれでもエルフですので、きっとアトス様が思うより長く生きていますよ?だからそんな光景にいちいち驚きません」
「そっかー、さすがエルフだな」
そんなミュリンの話など俺はほとんど上の空で聞いていた。
「アトス様、あなたの瞳には魅了の効果もありますが、あなたのことが好きな方達は本当にあなたのことが好きみたいですよ」
「ミュリンは俺の能力がわかるのか。ていうかみんな本当に俺のこと好きでいてくれてるんだ」
やはり年の功なんてのがあるんだろうけど、それを聞いて俺はなんとなく嬉しくなる。
ならばエミリアの言うようにハーレムでも作った方がハッピーエンドなんだろうか。
日本人の感覚から離れられない俺は複雑な心境ではあった。
ここは異世界だ。生前の世界とは違う。
なら思い切ってそんな人生を歩んでもいいかもしれない。
☆
草原から帰ってきたあと、まだ心が落ち着いてはいなかったが俺はセブルスに全員を集めるように言葉をかけて、家が建ち並ぶ中心地に全員を集める。
あのシャーリーとの草原での話はなんとか気にしないようにし、まだみんなに国の名前を言っていなかったのを思い出したので、それを発表しようと思う。
「みんな、集まってくれてありがとう。まだみんなには言っていなかったけど、これから国の名前を発表する!」
俺は集まったみんなから少し離れた場所でそう言う。
みんなはそれぞれ口笛とか、パラパラと拍手をする。
「この国の名前はフォクトライト自由連合国とすることに決めた!これからまだまだ大変だけど、ハッピーエンドを目指してみんなで頑張ろう!」
俺がそう言うと、警備隊の人達は声をあげて腕を上に突き上げる。
中には頭に被っていた帽子を外したり、上着脱いで空中に投げてる人もいた。
カイや他の女性達は拍手をして笑顔で俺を見ている。
こうして、正式に国の名前を公表した。
どういう国になるのか、楽しみになってきた。
これにて第二章完結です!
読んで頂いた方々に感謝を。




