第五十三話 ツンデレ娘、目覚める
シャーリーが目を開けて上半身を起こす。
見ることなかったから知らなかったけど、シャーリーの目は銀色だった。
「ふう、やっと戻って来られたわ」
「異常はないか?シャーリー」
シャーリーは俺の顔を見るなり頬を赤くして顔を背ける。
いや、恥ずかしいのは分かるけどね。
俺は医療行為だと自分に言い聞かせていたので、意外と何にも感じなかった。
俺は冷たい人間なのかもしれない。
ほんの少し恥ずかしかったけどね!
「アートースーさーんー?説明してもらえるんですよね」
リコリスに睨まれました。
気持ちはよく分かるけど。
好きな相手がいきなり見知らぬ人にキスしたら俺だってそうしたくなるもんな!
行為が終わった後にリコリスに一回外に出てもらえれば良かったんじゃないかと少し後悔した。
今さらなので、もうどうしようもないけど。
「えっと、うん、シャーリーを目覚めさせるにはこうするしかなかったからさ」
「どういうことですか?」
「アトスは悪くないんだからそんなにアトスを責めないでよ!」
シャーリーは頬を赤くしながら立ち上がり、リコリスに詰め寄りながらそう言う。
「え?あなたもアトスさんを呼び捨てにするんですか!?」
「アトスは私にとっていろいろ初めての相手だし、少しくらいいいでしょ!」
おーい、それ何言ってるかわからないよー!?
その言い方だといろいろ誤解されるから!
「は、初めての相手。アトスさん、一体何したんですか!」
ほら、リコリスが頬を真っ赤にしてこっちをジト目で睨んでるじゃないか。
「俺は何もしてないからな!シャーリーを助けただけだから!」
「私の裸を見て、さらにファーストキス奪ったんだから責任取りなさいよ!」
「むう、アトスさん争奪戦にまた人が加わりました。私が一番最初に出会って好きになったんですからね!」
「待って、いろいろ待ってくれ」
ああ、またこのパターンか、頭痛いよ。
ていうかリコリス、それは正妻宣言だよね、どう聞いても。
「問題の先送りでしたけど、こうなったら私もうかうかしていられません」
そんなことを言って真っ赤な顔で服を脱ぎ出すリコリス。
「なにしてんの?!」
「こ、こうなったらき、ききき既成事実を作るしかないです!」
「ちょっと、それはズルいわ!なら私も加わるわよ!?」
「収拾つかなくなるからやめてくれ!」
俺はひとまず白熱してきた議論に文字通り水を差すことにした。
なんかイメージするのもバカらしいので精神力を使い魔法名だけを唱える。
「ウォーターボール!」
作り出した不完全な水球をリコリスとシャーリーの頭の上から被せる。
やっぱりイメージしていないので不安定になるみたいだ。
改めて確認したけど、俺にとって魔法を唱える前にするイメージは詠唱みたいなものなのかもしれない。
「つ、冷たー」
「くしゅん!アトスさん、ひどいですー」
「少し冷静になりなさい、二人とも」
俺は少しだけ怖い顔をして二人を見る。
リコリスとシャーリーの服が肌に張り付いていろいろ透けていたけど、気にしない。
「そんなことをしたら他の女の子達が悲しむだろう?優柔不断だと自覚しているけど、俺はみんなが笑って生きていてほしい。だから俺のわがままだけど、もう少し待ってくれ」
ダメ人間だな、俺は。
そんなことを言いながらも転生したことも話してないし、寿命のことも話してない。
それにいずれみんな俺より先に亡くなってしまうから気持ちに応えるのは無責任なのではないだろうか?
でも、それはそれで誠実さに欠けるような。
それに、もし応えなかったら俺のことが好きな人達が不幸になってしまうような気もする。
一度、この世界でまず俺が幸せになろうと決めたが、そんな考えが頭の中をぐるぐる流れる。
たぶん考えすぎなんだと思う。
俺は真面目に考えすぎることがあって、生前もマスターに神経質すぎじゃないかと言われたこともあったし。
答えはまだ出せないけど、時間はある。
ゆっくり考えることにしよう。
「すみません、私もちょっと急ぎ過ぎていました」
「私は、別に。ちょっとからかってみただけよ」
「いや、からかってたのかよ」
「でも責任取りなさいって言うのは結構本気よ?私は別にあんたのこと好きなわけじゃないけど、あんなことされたらお嫁に行けないわ」
シャーリーはどうしたいんだろう。
好意が見え隠れするその顔は結構可愛いんだけど。
「とりあえず、服乾かすからそこに立ってて」
このままでは風邪を引かせてしまいかねないので、複合魔法の温風で乾かす。
「アトスさん、ありがとうございます!でも複合魔法ってやっぱりすごいですね」
「くう、私もこんな魔法使ってみたいわ!」
二人してそんなことを言う。
「まあ、これくらいは俺にとっては簡単なことだからな」
リコリスは先程までの睨む顔からキラキラした視線を送ってくる。
シャーリーはこっちをチラチラ見ている。
「シャーリー、なんでチラチラ見ているんだ?」
「バ、バッカじゃないの。誰がチラチラみているのよ!自意識過剰なんじゃないの!?」
このツンデレめ。人の心にグサグサくる言葉をかけてきやがって!
可愛いから許すけど!
生前から思ってはいたけど、やっぱりツンデレって現実にいると扱いに困っちゃうな。
「シャーリーさん、正直になりましょう?」
リコリスはシャーリーの性格がなんとなくつかめたようで少し笑いながらそう言う。
「私はね、リコリスみたいに素直にホイホイ言葉を言わないの!って、わ、私はこれでも素直な方なの!」
「そうなんですね」
リコリスはやっぱり笑いながらシャーリーをみている。
これはシャーリーの負けだろうな。
完全にリコリスのペースに乗せられている。
そこにミュリンがやってくる。
そういえば女の人のエルフって真面目に見るのは初めてだな。
めっちゃ耳尖ってる。
救援依頼をしてきたときは俺もよく見ている場合じゃなかったからな。
ミュリンは緑のショートヘアで緑と白を基調とした半袖で動物の毛皮でできたふわふわのホットパンツの姿だった。
寒くないのかな?
身長は俺やシャーリーより少しだけ高めで全体的に見ればどっかのモデルかなってくらいのスレンダーさだった。
その彼女はやはり狩人のエルフなのがわかった。
なぜそう思ったのかと言うと背中に弓と矢筒をつけていたからだ。
「シャーリー様!やっと目を覚ましたんですね!」
ミュリンは家に入ってくるなりシャーリーに抱きつく。
助けられて良かった。
「アトス様、感謝します!」
「ちょっとミュリン、痛いって。離しなさいよ!」
「シャーリー様、不用心にアーティファクトに触れたことは反省してください!」
アーティファクトに触れたのは自発的だったのかよ!
確かにミュリンから聞いたときはそんな風なこと言っていたけどさ。
「それは、その……悪かったわね」
「自分でアーティファクトに触ったのか?」
「ええ、シャーリー様がなんの警戒もしないで制御してみせると豪語して自ら触ったんです」
「自業自得じゃねーかよ!?」
「だから悪かったわよ!」
全く仕方のない奴だな、シャーリーは。
「シャーリーさんは本当におっちょこちょいですね」
「本当ですよ、私も焦ったんですからね!」
リコリスの言葉に少し怒りながらミュリンはシャーリーに向けて言う。
アーティファクトは危険物だからな。
浄化されていないアーティファクトはたぶんだけど、邪神や魔神の干渉を簡単に受けてしまうのだろう。
そんなことを知らないと不用意に触る場面があるかもしれないから、やっぱり噂を流したり、国の動きとかを調べるのに諜報部は必要な気がする。
そういえば国が集めているって話を聞かないけど、隠しているのか、それとも本当に持っていないのか。
こっちから攻勢に出られないのが歯がゆい。
なんとかしないとな。
といっても、アーティファクトを感知できるのは今のところ神級の能力を覚醒させたノルンだけだ。
どうしよう?
俺の考えなど知らないシャーリーが話しかけてくる。
「でも、その……助けてくれてありがとう。アトスが居なかったら私、元に戻れなかったわ。本当に反省しているわ」
シャーリーは礼を言い慣れていないみたいで、チラチラこっちを見ながらそう言う。
「いいさ、どうせどんな経緯であれアーティファクトは集めようと思ってたし」
「え、アトスってアレ集めてるの?」
シャーリーは寝ていた床に落ちている六個の白い水晶となったアーティファクトをみてそう言う。
「うん、そう。ちょっとした目的があってね」
ちょっとどころではなく、かなり大きい話なんだけどね!
「目的?なんなの?」
「うんとね、神様を復活させようかなって思ってる」
軽く天気の話でもするように言う。
伝説を信じてない人からしたら変な人に見えるんだろうけど、俺には天使というこの上ない証言者がいるので嘘じゃなく真実なんだけどね。
「神様?それって伝説に伝えられていて、世界宗教の主神、時空神アトロパテネス様のことかしら?」
宗教があることは初めて聞いたが、教国なんて国があるなら宗教もあるということか。
「そう、その伝説の話」
「アトスさんがアーティファクトを集めている理由ってそれだったんですね!」
話してなかったっけか、この話。
「私はジオグラード様の子孫だからこの伝説は信じているわよ」
あれ?そうなのか?
ジオグラードの子孫なんていたのか!驚きだ。
植物の内部で俺はそれを疑いながら聞いていたけど、どうやら本当のことらしい。
俺の心中を代弁するようにリコリスが驚きながらシャーリーに聞く。
「シャーリーさんってホントにジオグラードの子孫なんですか?!いえ、マジェスタ姓と聞いたからそうかもとは思っていましたけど」
「ええ、世界にはあまり知られていないんだけど、ジオグラード様の弟子ってジオグラード様の妻だったのよ」
「マジか」
弟子が妻だったらその子孫にはジオグラードの血が流れていることになる。
あのマスター、ホントにこの世界に伝説残しすぎだろ!
そんな驚きもあったがシャーリーは無事に助けられたので良しとしよう。
あともう一話でひとまず二章完結です!
ここまで読んで頂きありがとうございます!




