第五十話 魔道国事件 その二
光速でその場所に行くと、あの植物はかなりの大きさなのが分かった。
「結構大きいな」
その植物は俺の身長三個分くらいの高さがあるがどちらかと言えば横の長さの方があって、いばらが意思でもあるようにウネウネしていて結構気持ち悪い。
それを切りながら進んでいたのだが、コアがあると思われる場所には何層かの魔法障壁が張ってあって、魔剣で切ってみると一気に貫通する。
しかし、直後にまた何層もの魔法障壁が張られるもんだから、少し困った。
後から俺に追い付いてきて戦いに加わったカイやセブルス含む警備隊も触手を何本も切りながら進んでいるが、直後に触手が再生するから思ったように進めないようだ。
「カイ、セブルス、警備隊のみんな!触手に足を取られないように気をつけてくれ!」
言った直後にセブルスの足が触手に絡め取られそうになるが、それを走りながら切っている人物がいた。
セレスティだった。
アーティファクトを使わなくても死神なのでカイやセブルスよりも強いみたいだ。
彼女の周りに近寄ってくる触手は片っ端から鎌の餌食になっていて、一気に何本も切ったりしていた。
そうしながら、セレスティは俺の近くに来て話しかけてくる。
「僕はこんな戦いに加わる義理はないけど、ダーリンが戦うなら僕も手伝うよ!」
「助かる!ありがとうな、セレスティ。危険になったらアーティファクトを使ってみてくれ」
「もちろん!それでどうするのあの魔法障壁?回復速度がすごいけど、大丈夫なの?」
セレスティの背後から来た触手を切る。
セレスティは鎌を肩に担いでいたので、大丈夫かと心配になった。
「気配は感じていたし放っておいても僕なら問題なく対応できたけど?」
「いや、あまりに無防備だったから心配になったんだよ!」
「そうかなー、これでも戦闘態勢なんだけど、な!」
今度は俺の背後に来ていた触手をセレスティが恐ろしい鎌捌きで切り落とす。
うわー、あんな速度であの大きさの鎌動かせちゃうんだー。
そりゃあ楽勝だよな。
これアーティファクト使ったらどうなんの?
「悪い、俺も気づいていたから放っておいても良かったけどな」
「むー、助けてあげたのになんて言い草だ!」
「おあいこだ」
こんな会話をしている場合ではないんだけどな。
「セレスティ、あの魔法障壁、一瞬だけ全部破壊する事ってできるか?」
「ん?それくらい簡単にできるぞ!この鎌はあらゆる魔法を貫通させて切ることができるから」
さすが神造兵器、あの鎌もチートみたいなものか。
まあ、神様が使う武器だし、それくらいはできるか。
というか、今この陣営の中ではやっぱり一番強いんじゃないかな、あの子。
いや、子って歳じゃないけどな!
「なんか今失礼なことを考えていなかったか、ダーリン」
直感恐ろしい。
そんなことまで分かるのか。
「いや、気のせいだろう。さて、それじゃあ魔法障壁の破壊頼む。再生する時にできる一瞬の時間で内部に突入する」
そう話していたが、あの植物のコアがある中央の上の方でいくつもの火の玉ができはじめる。
なんかあれヤバそうだな。
次の瞬間、その火の玉が次々と放たれてくる。
しかも撃ち出した直後にまた火の玉が生成されるので、絶え間ない弾幕が地上に降り注ぎ始める。
草原は焦土となり始めていた。
「退避ー!退避しろ!火の玉の直撃をもらうなよ!」
ついてきていたセブルスが少し遠くで警備隊全員に撤退命令を出す。
妥当な判断だろう。
あれは普通の人間の手に負える攻撃じゃない。
もはや物量攻撃だった。
さらに悪いことに、巨大植物の下部から紫色を含んだ水魔法らしきものが洪水のように流れてくる。
マズイ、あれはカイの記憶によれば毒性の水だ。
俺はみんなに大声で呼び掛ける。
一番最初にそれを見たのでひとまず注意しなければ。
「みんな、あの水には触れないようにしろ!あれはポイズンウォーターだ!」
「ポ、ポイズンウォーターですと?!」
セブルスは汗を額に浮かべながら、そう言う。
頭上の火の弾幕、足元は毒の水。
警備隊の隊員達は足元に気を付けながら直撃しそうな火の玉は剣で切ったり、水魔法で相殺したりしながら後退していく。
こんな状況だけど、相変わらず警備隊の練度おかしい。
普通だったら誰かしら直撃したりしそうなものだけど。
「これは結構大変だね」
俺と行動しているセレスティはマジックウォール・オートを使っていたのか、火の玉を弾き、毒の水は皮膚に触れないようになっていてその光景を他人事のように見ていた。
「どうする?強行突破する?ダーリンの判断に任せるよ」
強行突破もできなくはないだろうけど、コアにたどり着く保証もないまま突入しても大丈夫だろうか?
いや、俺ならば問題はないはずだ。
「ここで突入しないと好機を逃すかもしれない。だからセレスティ頼んだ。俺が突入したのを見届けたらセレスティも撤退してくれ!」
俺の言葉にニヤリとしてセレスティは鎌を構える。
「わかった。じゃあ行くよ?一、二、三!」
その合図に合わせて、三の段階で俺は光速で走り出す。
息がピッタリ合い、セレスティが魔法障壁を破壊したのと同時に俺は内部へと行くことができた。
外からセレスティが声をかけてくる。
「じゃあ、後はダーリンが頑張って!僕は後退するね!」
「おう、ありがとう!」
セレスティが撤退していくのを見届けて、俺はコアがあるらしき場所へといばらの壁を剣で切って道を開く。
その壁の内部は植物で言う所の水の通り道に似ていて通路みたいになっていた。
「まるでダンジョンだな」
俺はそう言いながらそこに入っていく。
俺はここにコアというかシャーリーがいると聞いただけなので場所は分かっていない。
とりあえず、中心だと思われる場所に向かおうと通路を歩かず、壁を切っていく。
そのうちに壁からいくつもの触手が伸びてくる。
「全方位から触手とかマジかよ」
と言っても俺は戦闘前にマジックウォール・オートをかけたので触手は俺の方までは届いてない。
なので、触手を切りながら普通に進む。
そうしているうちに誰かの声が通路に響いてくる。
なんの声だろう。
「私はジオグラード様の子孫。周りは血は受け継いでいても才能がなかったみたいだからジオグラード様の魔法は再現できなかった」
俺に話しかけているわけではないようだ。
通路全体から聞こえてくるので恐らく思念のようなものだと思う。
というか、ジオグラードの子孫?ホントに?
「だから私は必死に努力して少しでもジオグラード様に近づこうと思った。周りと同じような退屈な生活をしたくなかった」
これはシャーリーの心の声みたいなものだろうか?
「母は私を愛してくれたけど、普通の人より少し強い魔法が使えるくらいでそれ以上のことができなかった。だから退屈そうな顔をいつもしていた。父は退屈を嫌い、私が小さい頃家族を放り出してどこかへと旅に出てしまったと母から聞いた。それ以来父の姿は全く見ない」
ということはシャーリーはそれ以上のことができるということだろう。
世界最強といわれる魔法使いならそれくらいはできるんだろうけど。
父親はシャーリーの記憶には薄く存在しているだけのようだ。
「努力した結果、私は才能を開花させることができた。でも母はそれを喜んでくれなかった。むしろ、私の才能を妬ましく思い始めた」
なんというか、ドロドロした光景が頭の中を巡る。
聞く限りではシャーリーは結構大変な人生を送って来たのかもしれない。
「母は嫉妬を抱いたまま亡くなった。私はただ母に誉めて欲しかっただけなのに。私は母を逆に苦しめてしまった。後悔した」
その声は悲しそうに言う。
自分を責めるんじゃない。
それはシャーリーが悪いんじゃない。
だが、母が悪いってことでもないと思う。
退屈な人生を歩んでいた母親からすれば、才能を開花させたシャーリーは羨ましく写っていたのかもしれない。
母だって人間だからそんな感情があるのは当然だ。
俺は伝説の魔法使いの子孫というものの家族がどのような関係性なのかは知らないが誰が悪いということはないと思う。
といっても子供の才能を素直に誉められなかった母親はやはりいい人とは言えないだろうな。
「でも私はそれをなんとか割りきって、前を向くことにした。そしてマジェス魔道国の国主となった」
シャーリーって国主なのか。
そういえば老婆のイメージだったけど、声を聞く限りまだ若そうな声だった。
「国主となったけどある程度の生活に慣れてくるとやっぱり退屈を感じていた。私はどちらかと言えば父親に似ているのかもしれない。
そんなときにあの死王国動乱があった」
てことはシャーリーもあの戦いを見ていたんだろうな。
あの戦い、一体どれだけの勢力が見ていたんだろう。
「あのアトスという少年は私以上の力を持っていた。あの少年はたぶん退屈とは無縁なんだろうなと思った。この退屈を吹き飛ばしてくれるかもしれない、そう思って期待と共に私は彼がいるはずの場所へと向かった」
そんなことを思ったのか。
なら、あのマジェス魔道国は俺に用があったんだろうな。
そして、その時に浄化されていないアーティファクトに触れてしまったのだろう。
俺は声を聞きながら、触手と壁を切って進む。
そのうちに開けた場所に出る。
どうやらシャーリーのいる場所についたらしい。
それというのもいばらに包まれているが、いばらの隙間から人間の肌が見えたからだ。




