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第四話 初会話は規格外と共に

 その人は全身真っ黒で、第一印象は不気味な印象だった。


 トレントの腕を切り落とした魔法は恐らくウィンドカッターなのだが、威力がおかしかった。

 ウィンドカッターではあのエルダートレントと思われる魔物の腕にせいぜい少しの切り傷を残す程度の威力しか出ないはず。

 なのに、無数の腕ごと切り落とすなんてどんな修行をすればそんなことができるのか。

 見当も付かなかった。

 あのウィンドカッターはもしかして神話級の威力なのかもしれない。


 助かったことには素直に感謝するのだが、私は動揺していた。


「なんなんでしょう、あの人」


 しかもいきなり現れたような感じだった。

 ますます謎だった。

 一体どこから現れたのか。もしかしたら天使なのかもしれない。

 もしくは王子様みたいな。

 なんて自分でもどうかと思うくらいの空想をしてしまっていた。

 なんせ、死ぬはずだった自分の命を助けてもらったのだ、それも突然現れて。

 同時に年下っぽい男性に助けてもらうなど、初めての体験だった。


 その人はトレントの連続突きをいとも容易く回避する。

 彼は心なしかその状況を冷静に見て、少し笑っているような気がした。

 魔法だけではない、あの人物はなにかおかしいものを感じる。

 そして今さら気づいたが、どう見ても自分より年下っぽく見えた。童顔だったから。


 そんな考えをよそに、回避していたかと思うと、恐ろしい速度でトレントの腕を切り落としていく。

 さらにはトレントの胴体を真っ二つ寸前まで切り刻む。

 あんな速度で人間が動けるわけがないのだが、その人物は簡単そうにその行動をする。

 まるで夢をみているようだった。


「あり得ないです」


 胸が高鳴るのを感じた。


「っ!あり得ないです」


 突然現れて自分の命を助けてくれたあの少年になぜか凄く興味が湧いてしまった。

 そんなことなど理解したくなかったが、鼓動は早まるばかりだ。

 自分はこんなに惚れっぽい性格だっただろうか?


 トレントと黒い人の勝負は、黒い人の圧勝だった。

 最後に特攻を仕掛けたトレントに対して、彼は剣閃を飛ばし、トレントを木っ端微塵にする。

 剣閃もかなり修行をしないと出せないと王国騎士の父は言っていた。

 その剣閃もやはりおかしく、木々をなぎ倒しながら、さらにはこの森のちょうど東側にある、ゼーダ連山まで届いたらしく、山が崩れたのだ。


「山の地形が変わるなんて、なんて威力なんでしょうか」


 私は呆然とその光景を眺める。

 戦闘が終了したのち、彼は私に声をかけてきた。


「あの、大丈夫ですか?」


 少年のような声だった。


          ☆


 またしても、理解できない破壊力だった。


「地形を変えるなんて、剣閃恐ろしいな」


 戦闘終了後、俺は思わずそんな事を言ってしまう。

 この世界の地形に多大なる影響を出してしまいそうだから、封印するしかないか?

 もうすでに影響をだしてしまった後だが、そう思う。

 だがまず、女性が無事かを確認しなければ。


 「あの、大丈夫ですか?」


 声をかけられた例の女性が歩いてくる。

 ロングヘアーで金髪緑眼のその女性は、両方の頬の横にある両髪をそれぞれ髪止めで止めている。

 背は俺のこの身体より若干高めで胸はそれほど大きくないが小さいわけでもなく、女性によくある身長のようだった。

 いや、この世界の女性の平均身長は知らないけどな。

 その彼女は魔道士によくあるフードを着ていて杖を持っていた。


 その彼女はすごく天使を見るような目で恐る恐る近づいてくる。


「あのー、助けて頂きありがとうございました。その、お名前は?」


「え?ああ、俺か?俺はアトス・ライトニング」


「アトスさん、ですか?」


「うん」


 そういえば今まであんまり考えてなかったが、この世界の言語はどうして聞き取れるのだろう?

 それに話もちゃんとできるらしい。

 どういう仕組みなのだろう。

 もしかしたらあの夢の中の天使が俺の言語機能を、この世界の言語を理解できて、使用できるようにしてくれたのかもしれない。

 もしそうなら感謝するしかない。


 俺は外国語とか苦手であんまり話せないからな。


「失礼だとは思いますが、意外と普通の方ですね。もっと尊大な性格の人かと思ってました」


「まあ、あんな力を持ってたらそう思っちゃいますよね」


 なんとなく敬語になってしまったが、どう見ても俺より年下だし、普通に話しても良いのだろうか?

 そういえば、さっき湖で確認した記憶を思い出し俺の姿は少年にみえる姿だったのを忘れていた。

 そう考えるとどう見ても彼女より俺の方が年下にみえる。


「ええ、そうですね。あんな力をどこで習得したのですか?」


 答えにくい質問来ちゃったな。

 どこでというと他の人の記憶。

 としかいえないのだが、そんな話をするわけにもいかない。

 それに他の人の記憶を元にしたのは間違いないのだが、どうも記憶の中の剣閃より破壊力が段違いで、なんで戦闘初心者の俺が地形を変えるほどの剣閃を出せたのか、それすらわかなかった。


 それに他の人の記憶でそこまで動けるものなのか、不安になりそうだし。

 なので、話を作ることにした。


「あー、俺の故郷は遠いんですけど、そこで、兄さんから教えてもらったんです」


 そこで、俺は彼女の次の言葉を聞いて、失敗したなと思った。


「アトスさんの故郷ってどこなんですか?」


「え?」


「アトスさんの故郷、ちょっと興味があります!」


 俺の故郷?それは地球の日本だ。

 しかしそんな話をしたところで彼女は理解できるのだろうか?


「まあ、それはいいじゃないですか、今度話しますよ。それよりあなたの名前は?」


 そういえば名前をまだ聞いてなかったことを思い出し、とりあえず適当にその話題に変えることにした。


「あっ、すみません。まだ自己紹介していませんでしたね。私はリコリス・アルソレイユと言います」


「リコリス・アルソレイユさんですか」


「みんなにはリコって呼ばれています」


「分かりました、じゃあ俺もリコさんって呼びますね」


 リコリス・アルソレイユ、それは小説には一文も出てこないキャラクターだった。


「はい、よろしくお願いしますね」


 リコリスはニコッと笑う。

 うん、可愛いな。

 もう小説がどうこうとか考えるの止めようかな。

 同じ箇所は同じだし、違うところはまるで違うので、思いきってこの世界に身を任せてみよう。

 というか他は分からないけど、今ところ国の名前すら合ってないし。


 そんな自己紹介が終わった直後にカイの声が聞こえてきた。


「やれやれ、案の定もう終わってたか、少し楽しみだったんだけどな、アトスの初戦闘。ゼーダ連山の地形が変わった時は何事かと思ったが」


「カイ、やっと追い付いてきたのか」


 いきなりの別の人間の出現に驚いているリコリスだが、俺の口調を聞いてこれもまた驚く。


「アトスさんってこっちの方が素なんですね」


「いやまあ、初対面だしいきなり馴れ馴れしく話すのはどうかと思っただけですよ」


「じゃあ、私にも普通に話してください」


「えっと、わかりまし――あーっと、わかった」


「フフッ」


 笑われてしまった。


「んで、この女性がさっきの悲鳴の?」


 カイがリコリスを見て、俺に聞いてくる。


「うん、そうみたいだ」


「やあやあ、俺はカイ・ライトニング、アトスと兄弟だぜ☆」


「そんな馴れ馴れしい紹介があるか!」


 そういって俺はカイの胸にツッコミを入れる。


「お二人とも仲の良い兄弟なんですね。私も妹がいますが、ここまで気軽に話せません。あ、別に仲が悪い訳ではないですよ」


「そうなんですか」


 話をすり替えることには成功したらしい。

 内心ホッとしながら俺はリコリスの話を聞いていた。


「ええ、それは良いのですが、アトスさんがさっき言っていた兄さんってこの人なんですか?」


「うん、そう。二人でいろいろ旅をして一休みしていた時にリコさんの悲鳴が聞こえたから、気になって来てみたんだ」


「それにしては直前まで姿がみえなかったのですけど、一体どこから来たんですか?」


「えーと、走ってきたんだ」


「走って?」


「そう、こんな感じで」


 話していても実感が湧かないと思うので、実演してみることにした。


「ちょっとみていてくれ」


 そういって俺は、疑いながらもなぜか目をキラキラさせてこちらを見てくるリコリスの目の前で走る。

 人の目では多分見えない速度なので、恐らくリコリスからしたら突然俺が消えたようにみえるはず。

 とりあえず、あの木の近くにでも行くか。

 一瞬でそこに到達し、リコリスとカイのいる方向に手を振って声をかける。


「リコさーん、聞こえるー?」


 するとリコリスは驚きの表情と先程よりもさらにキラキラした熱い視線を送ってきていた。

 なんでそんなにねっとりとした視線を送って来るのだろうか?

 俺には理解できなかったがリコリスは楽しそうな顔をしてこちらに声を出してくる。


「はーい、聞こえますよ!」


 リコリスは手を振る。

 では、戻るか。

 またしても突然視界から消えて、リコリスの目の前に戻る。


「っと、こんな感じだ」


「俺だってそれくらいできるし……」


 カイが小声でいじけているのを聞き逃さなかったが、聞こえないフリをしてリコリスと会話をする。


「すごいです!あんな速度で人間が走れるものなんですね!」


 多分普通の人間には無理だと思う。

 そもそも物理法則を完璧に無視しているので、こんな事ができる人物は限られるだろう。


 そこまで思ったが、この世界って魔法という便利現象で俺の生きていたあの世界とはまた違う法則があるかもしれない。

 現にこの走り方は魔法によって実現可能となった方法のはずだ。

 さらには竜と吸血鬼の怪力によって筋力が極限まで強化されている。


「まあ、魔法をそこそこ習得していれば誰でもできるかも」


 俺はつい適当にそんなことを言ってしまう。


「私そんなことできないです、アトスさんは特別なのかもしれないですね。まるで神の加護でもあるみたいです」


 何をいっているんだろう、この娘は。

 確かに転生するときにあの怪しげな謎の声にそんな話をされたような気もするが。


 力の謎は深まるばかりなのだが、この謎は考えてもしかたないので置いておくことにした。


なんとなく遅い展開のような気が


「面白そう!」


「続きが読みたい!」


と思ったら


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