第四十五話 考えてなかった!
戻ってきて、ウィンドカッターを使って加工をする。
この作業は警備隊の魔道士、さらに女性陣も加わって結構早く終わった。
「ああ、でももう夕方だな」
空を見るともう赤くなり始めていた。
俺が呟くと近くにいたノルンが話しかけてくる。
ノルンはあの歳だが、魔法はあんまり使えない。
なので、作業には加わってなかった。
というのも、王都と違って地方で暮らす住民は魔法を学べる場所はあんまりないからだ。
まあ、教会とかがその役割をするらしいんだけど、ノルンは教会に通う歳の頃に男子にいじわるをされて、家からあんまり出なくなった。
そのせいで魔法をあんまり習えなかったのを少し前に話してくれた。
「……夕方、だね。野宿するの?」
「んー。せっかくだから軽く土魔法で一晩は過ごせる土の家でも作ろうかなって」
それくらいは俺にとってはとても簡単なことなので、今日のところはそうしようか。
「そんなこと……できるんだ」
「まあ、簡単なことさ、見てて」
そう言って俺は草原に手をかざす。
そんな土魔法を使うのは初めてなので、うまくできるかはわからなかった。
イメージ。
土の塊を。中は空洞で壁は水やある程度の衝撃を防げる強度の壁。
疲れた者に休息を与える土の家を。
「メイクアースホーム!」
とりあえず、男女を分けられるように二つ分作る。
魔法を唱え終わると俺は一言。
「うん、見事な豆腐ハウスですなー」
できた土の家は、ちょうど豆腐のように長方形の形をしていた。
男女比は今は男性の方が多いので、男性の家はもうひとつよりも大きめだ。
だが、土の家は完璧に人が住める位の大きさはあった。
どんなものかなと中に入ってみると、真っ暗だった。
窓なんてないから、恐らく昼でも暗いのかも。
「うわ、暗っ!」
一緒についてきたノルンが後ろから声をかけてくる。
「これは……住めなくは、ないけど。暗いね」
もう一仕事だ。
常時発動を応用して、火の魔法で天井辺りにランプ的なものを作ることにした。
「ファイアーボール・オート!」
これは簡単にできて、部屋は明るくなった。
天井に火の玉が浮かんでいる。
「これで明るくなったけど、これ火を消す時は俺が直接出向かないといけないかな?」
「そう、だね。……でもウォーターボールをぶつければ、消せる?」
「それは考えてなかったな。そうすれば問題ないか」
試しにノルンが言ったことをやってみるとあっさり消せたので問題ないだろう。
「さすがだね……アトス」
ノルンは少し頬を赤くしてそう言っていた。
☆
ということで、俺は二つの家にファイアーボール・オートを使っておいた。
そんで、今俺達はたき火を起こして、夕食の準備をしていた。
ひとまず、フォクトリア湖の水を使ってお湯を沸かす。
「あの、アトスさん。ちょっと」
リコリスが俺背後から袖を引っ張るので振り向く。
「あのフォクトリア湖の水なんですが、あそこにいた魚、川で獲れる魚よりも肉厚で脂がのった魚だったんです」
あの湖、魚いたんだ。
その事実に少し驚きながら話を聞いていたが、リコリスはなんでわざわざそんなことを言っているんだろうか?
「もし、国の名産とするならあの魚を使った料理とかどうですか?」
リコリスは国の特産品のことを考えていたらしい。
そういえば国を運営するならゴールドは必要だろう。
それは俺の、というかカイと共同で使っていたゴールドをしばらくの間は当てることにしているが、俺がいなくなっても運営できるようにするのは絶対に必要だ。
ならば、国の特産品とか税金とかもそのうち考えないといけないのかもしれない。
「リコリス、ありがとうな。そこまで国のことを考えてくれて」
俺はリコリスに礼を言った。
そこまで考えてくれて感謝しかなかった。
「い、いえ役に立てるなら嬉しいです」
リコリスは照れながらそう言う。
「それでその魚を焼いているのですけど、ひとつどうですか?」
俺がいるところのたき火とは別の場所から焼いたその魚を差し出してきた。
俺はそれを受け取る。
カイが近くにいて、その魚を見ると名前を言ってくれる。
「それって、アーユってやつか?」
「アーユ?」
俺は受け取ったその魚を見る。
うん、どう見てもアユだよね、これ。
「ああ、そうだ。塩とかで焼くと美味しい魚だったはずだが」
「そうですね。アーユです。でもフォクトリア湖の魚は通常のアーユより食べ応えありますよ」
「へえ、そうなんだ」
俺はひとまずそう言っておく。
そして一口食べてみる。
うまいな、アーユ。
「これ美味しいな」
「やっぱりそうですよね?カイさんもどうぞ」
カイも受け取ったアーユを食べる。
一口食べるなり顔を輝かせる。
「おお、これはうまい!他のアーユより旨味が強いみたいだしな」
「そうなんだ」
カイがそう言うならかなり美味しいってことなんだろうな。
ということは特産品にすることもありかもしれない。
まあ、保存にはあまり向かなそうだけど。
いや、でも塩焼きなら少し位は持つのかな?
そこら辺の知識はないのでよくわからない。
「塩焼きなら保存できるだろうか?」
「そうでした。保存の方法を考えないといけないですね」
リコリスは言われるまで気がつかなかったようで、どうしようかという顔をしていた。
俺はもしかしてと思って提案をしてみる。
「時魔法でも使って商品を開けるまで保存するとかどうかな?」
「あっ、その手がありますね。でもそれだと大量生産できないですよね?」
それもそうだ。
俺は簡単に使うが時魔法というのは普通の人間が簡単に使える魔法じゃなかったのを忘れていた。
俺が作ろうとするとどうしても大量生産なんてできなくなる。
「だったら、時魔法の刻印を着けた魔法石を使って誰でも生産過程でその商品の時間を止められるようにすればいいんじゃないかな?」
そうすればできそうなものだが。
「どんな感じですか?」
「例えばこの食べかけの塩焼きに時魔法をかけるだろう?」
そう言って俺は手に持ったアーユの塩焼きに軽く時魔法をかける。
アーユの塩焼きは食べようとしてもガチガチに固まっていて動かない。
完全に時間が止まっている。
「それで食べるときに包装を剥がすと魔法が解けるようにするって感じ。どうかな?」
今度はそう言って包装を剥がすフリをする。
それに合わせて時魔法が解除される。
そして再び食べると普通に食べられるようになる。
「で、加工する時に時魔法を魔法石で代用して包装と、塩焼き自体に時間停止を使うんだ。解除するときは、包装を剥がすだけで解けるようにするとか」
それにもしこの方法が使えるなら日本国では普通に食べられている刺身もできるかもしれない。
「聞いたことない手法ですけど、アトスさんが言うならできそうな気がしますね!」
一連の話を聞いていたリコリスは笑顔でそう言う。
「アトスならできるよな。まあ時魔法を刻印するための魔力石を入手しないといけないけどな」
「それはヴァレッタ村から安く手に入るからそれを少しこの国に持ってくるようにすればいいかもな」
確か、ヴァレッタ村で採れる魔力石は結構量があるのでそこそこ安く取引できるはずだ。
「でも、その場合はヴァレッタ村にもなんかの利益が出るようにしないと不公平じゃないか?」
「あー、そうだよね。何かないかな?」
俺が聞くとリコリスは考え込んでしまった。
「まあ、この話は国が安定してきたら改めて話そう。今は時期尚早な気がするよ」
国を安定させないと貿易どころではないしな。
まだ家すらできてないのに。
「そうですね。またそのうちに話しましょう」
リコリスは考えるのをやめてそう言う。
そしてカイが聞いてくる。
「そういえば、さ。国の名前、どうするんだ?」
「……え?」
俺は何の話だろうという顔をするが、そのうちにカイの話を理解した。
盛大に忘れてた!
そういえば、国の名前まだ決めてないじゃん!
俺は今さら気づいて頭を抱える。
「か、考えてなかった!」
なんてアホなことをしているんだ俺は。
貿易どころじゃねーぞ!?
国の名前も分からないのになに貿易の話なんかしているんだ。そんな場合じゃない。
「え?考えてなかったんですか!?」
リコリスは驚きながら聞いてきた。
「全く、全然考えてなかった!どうしようかな、名前」
「アトスってちょこちょこやらかすよな、天然か?」
「いや、天然ではない……と言いたい」
名前か。
うーん、思い付かないぞ?
その様子を見ていたリコリスが助け船を出してくる。
「じゃあ、この場所とアトスさんの名前のライトニングを組み合わせてみたらどうでしょう?」
「俺と、フォクトリア大平原の名前を?」
「組み合わせはアトスさんに任せますけど、分かりやすい名前がいいと思います」
確かに、分かりやすい名前はいいと思う。
それに俺の名前とフォクトリア大平原の名前を組み合わせるのはいいかもしれない。
少し考える。
そして、考えてみた名前を言ってみることにした。
「ネーミングセンス無さそうだけど、フォクトライト自由連合国とかどうかな?」
「いいな、それ。この先魔物とも暮らすなら自由連合でいいと思うぜ?」
「私もいいと思います。後は皆さんに名前を公表するだけですね!」
二人が大筋で肯定するので、ひとまずフォクトライト自由連合国と名前をつけることにしよう。




