第四十話 事件終結は死神娘と共に
さて、学校を直した光景に驚くエルネスの背後には女性の幽霊が浮いていて、こちらに話しかけてきた。
「エルネスを助けてくれてありがとう。あの邪神に私の声は塞がれていたの」
その声を聞いて、エルネスは泣きそうな顔をする。
「君、はアイーシャなのかい?!」
「ええ、そうよ、エルネス」
そういえば、今回は魂に直接触れていないのでなぜアーティファクトを使おうとしたのか、さっぱり分からなかったけど、この光景を見る限りではエルネスは彼女を蘇生させようとしていたのかもしれない。
「アイーシャさんは、その姿は維持できるんですか?」
俺は思わずそう聞いた。
「いえ、もうそろそろ、消えます。私は天界から一時こちらに降りてきただけで、エルネスの魔力供給がなくなれば再び天界に戻ります」
「そんな。せっかくこうしてやっと話せたのに」
エルネスはついに泣き出してしまった。
たぶんなんだけど、エルネスにとってアイーシャは恋人のようなものだったのかもしれない。
「泣かないでエルネス。私を愛してくれてありがとう、もう少しあなたと一緒に生きていたかった」
「君、ウッ……君は、ただ川に溺れた子供を、助けただけなのに、代わりに死んでしまうなんて神様、あまりにひどいじゃないか!」
そんな事があったのか。
そんな善行を積んで置きながら彼女は亡くなってしまったらしい。
……なんてバッドエンドなんだ。
俺はその二人を見ていられなかった。
脳裏には蘇生に関する魔道書の記憶が流れる。
だが、蘇生させた場合、天界の死神が直接魂を狩りにくるらしい。
俺は現代世界の神の手違いで亡くなってしまったらしいので、転生することが特別に許されたんだろうけど、これは俺が関わっていいことじゃないはずだ。
そうは思ったが、目の前の光景はただただ残酷な現実だった。
こんなのハッピーエンド主義の俺が見せられて何も起こせないなんてあるだろうか。
俺が関わったらそれは俺の自己満足にすぎないだろう。
だが、そんな光景は俺は見ていたくない。
手に持っているアーティファクトを見つめる。
蘇生魔法とは違うかもしれないが、この浄化されたアーティファクトならアイーシャを魔力の体として留めておけるかもしれない。
「ちょっとアイーシャさん、このアーティファクトに触れてみてください」
二人は俺の方を見て、アイーシャは不思議そうな顔をしたが、アーティファクトに手を触れる。
すると、あの澄んだ声が聞こえてきた。
「魔力流出、停止。魂魄固定、完了。アトス・ライトニングの願いにより、アーティファクト合体を半永久的に可能とします。なお、神々の干渉は禁止とします」
俺の願い?
それに半永久的に合体って大丈夫なのだろうか?
というか、これって時空神アトロパテネスの祝福みたいなものだろうか?
それに声を聞く限り天界全体にこの事が連絡されているんだろうな、これ。
そんな俺の考えとは裏腹に光がアイーシャの体を包む。
光が収まると、アイーシャは真っ白なワンピースを身に着けた肉体の姿でその場に現れた。
「アイーシャ?」
エルネスはくしゃくしゃになった顔でアイーシャに声をかける。
「これは、なに?蘇生魔法とは違うみたい」
あのアーティファクトはどうなったのか分からなかったが、一つにするときにどうなるのか不安ではあった。
アイーシャは自分の姿を学校の窓に映すと、泣き出したのだった。
「うそみたい。私、生きてるの?」
「アイーシャ!」
そして、エルネスはアイーシャの方へと歩いていき、彼女を抱き締める。
彼女もエルネスの背に手を回し、抱き締めた。
この先どうなるか分からないが、ひとまずこの二人のバッドエンドは回避されたようだった。
そこへ、上空から頭に天使の輪を浮かべ、長柄の鎌を持った、典型的な黒い死神の女性が降ってくる。
「困るなー、そんなことをされちゃ。アトロパテネス様からの突然の思念には驚いたけど、僕はそんなこと認めたくないね!」
アイーシャに鎌を向けようと向かってきたので、俺は魔剣を鎌に当てる。
すると、柄が切れあっさりと鎌は地面に落下する。
「え?なになに?!なんなの!?」
目の前の天使は冷や汗を浮かべ、地面に落ちた刃の部分と俺の顔を交互に見比べ、気まずそうにニヤーっとする。
「お前な、誰だか知らないけど、さっきの話聞いたんなら、受け入れろ!アトロパテネスって主神に近い存在なんだろ?」
その天使の女性は黒いフードで頭を隠していたが、白銀のツインテールで赤い瞳だった。
身長はサフィールと同じくらいでやはり子供に見える。
女性だと分かったのは胸があったからだ。
シルキーと同じくらいじゃないかな、たぶん。
「なんでそんなにまじまじと僕を見ているんだ!?」
その天使は慌てて自分の体を隠すように両手で胸を隠す。
その服、胸の谷間が見える服だな!
死神ってのはみんなそのようなセクシーな服装なのかな!?
「いや、すまん、うっかり別の天使と見比べていた」
「それってサフィールってやつだろ!知ってるぞ!お前を転生させた天使だからな!」
どうやらサフィールのことを知っているらしい。
それはいいが、後ろの二人は今の話を聞いていたのでもしかしたら俺が転生したってバレるかも。
「明らかに死神っぽいけどなんなんだ、お前」
この異常事態にも関わらず俺はのんきだった。
「ぼ、僕か。死神執行者No.0セレスティだ」
あっさり名前を言ったので、こいつチョロいんじゃね?とか思った。
「死神執行者No.0?それってどれくらい強いの?」
「む、No.0は死神の中でも最強の死神と呼ばれる天使だ。というか、僕の鎌は神が作った神造兵器のはずだから切れる訳ないんだけどな」
最強の死神ときたか。これもうわかんねーな!
今ならこの世界がゲームでしたって言われても驚かないぞ!
いや、それは信じないけどな!
「ほう、その最強の死神さんとやら。さっきの話聞いてないのか?」
俺は少し脅しの意味も込めて、剣を片手に持ちながらセレスティににじりよっていく。
セレスティは口をピクピクしながら少しずつ後ろに下がる。
「いや、その。ごめんなさいー。死神のプライドがあるんですー!」
半泣きになりながら俺を怖い存在と認識したのか、どんどん顔を青くしていく。
「んで?俺が助けようとしたあの女の人を殺そうとしていたよね?」
「いきなりあんな話を聞いて納得できるわけないじゃん!」
そりゃあ、死神からすれば面白くない場面なんだろうけど。
魂を天界に運ぼうとしたら逃げられたみたいな。
「ち、近寄ってくるな。僕をどうするつもりだ!」
自分の体を両手で抱き締めながら今度は顔を赤くしてくる。
いや、どうもしませんから。ちょっと脅すだけですから。
「なんにもしねーよ?!」
するとなぜか少し残念そうな顔をするセレスティ。
どうしてほしいんだよ!?
「ぼ、僕の体を貪るんだろう?か、覚悟はできているぞ?」
なんで、そうなったのかなー!
こいつも、ポンコツだったか!
「しねーよ?!てかなんでいきなり来たのにそんなことになるんだよ」
「あの鎌を切れた人物の嫁になるって死神のルールで決められてるんだよ?!知らないの?」
「いや、知るわけないだろう。俺神様でも天界在住でもないから」
なんだそのルール。どっから来た。
俺の知っている知識ではそんな死神聞いたことないぞ。
「そうなのか?」
「なんで鎌が切れたんだよー、僕死神業、廃業になっちゃっただろう?!」
なんで逆ギレされてんですかね。
「いや、あの鎌、直そうとすれば直せるぞ?たぶん」
神造兵器だとしても俺の創造の力で直せるだろう。
「え?なんだその力。実は普通の人のフリした神様なのか?」
「違います。神様がわざわざ普通の人になる理由あるのかな?」
というわけで地面に落ちた刃の部分とセレスティが手に持っていた柄の部分をくっつけ、その部分にヒールをかけてみる。
すると切れたことが嘘のように完璧に直ってしまったのだった。
「アトスとかいったか?なんなんだ、お前。神造兵器を直すなんて簡単にはできないはずなのに」
「サフィールが言うには、もし神様だったら最高神並みの力があるらしいぞ?」
その話を聞いたセレスティは顔を青くする。
忙しい奴だな。
「ぼ、僕はとんでもないことをしたんだな。そんなレベルの力がある人に鎌を向けるなんて。クッ、やはり体で償わせろ!」
「やめてください。エルネスとアイーシャが驚いているじゃないか」
エルネスとアイーシャは感動の再会も束の間、呆然と俺とセレスティのやり取りを見ていた。
「え、えっと、死神様、私の魂が欲しいなら持っていって下さい。元々ここにいてはいけない人間なので」
「もういいよ。アトロパテネス様の言葉もあるし、その時が来るまで天界は君を狙わない。僕も勢いで来てしまったうえに、今さらだけど、こうなったら君達には幸せになってもらおう」
そう言って、セレスティはエルネスとアイーシャに何かの加護を与える。
「死神の加護だ。こういうと不吉なものに聞こえるだろうけど、ささいな出来事では君達が引き裂かれないようにした。幸せになってね。寿命が来たら迎えに来るから」
セレスティはニコッと笑って帰ろうとするが、何を思ったのか、俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
「なんだ?なんで腕を絡めてくる?」
するとセレスティは顔を赤くして俺をみてこう言う。
「君は気に入ったから僕のダーリンにする」
は?何を言っているんですかね、この死神娘は。
「突然すぎるでしょ!」
「気にしない気にしない!僕が君をオトナにしてあ・げ・る」
最後にハートでもくっつきそうな甘ったるい声でそんなことを言ってくる。
俺はまた変なのに気に入られてしまったようだ。
ああ、頭が痛いな!




