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第三話 初戦闘と山崩し時々ヒロイン?

 あの衝撃の光景から約1時間。

 本当に1時間かどうかは分からないが、体感でそのくらいの時間が経過しているような気がした。

 座り込んでいた俺の頬を風が撫でていく。


 いい風だなー。


 ご覧の通り、現実逃避であった。


「落ち着いたか?」


 そんな俺にいち早く正気を取り戻したカイは心配して俺に話しかけてくれた。


「まあ、それなりには。まだ実感が湧かないけど」


「そいつは結構。どうだ?水、飲むか?」 


 カイはどこから持ってきたのか、透明な容器のペットボトルに似た形状のものをこちらに差し出してくる。受け取る。

 ん?ペットボトル?


「どっから持ってきたんだよ、それ」


「これか?持ち物の空間からとりだしただけなんだが?」


「いや、その空間ってどんな空間だよ」


「どんなって、こんなの?」 


 カイは何気なく空気中に手を伸ばす。

 そんなところに持ち物を保管するスペースなんてないだろう。

 と思ったが、そんな俺の想像は簡単に崩れ去る。


 その光景を見ながらまた俺は現実逃避をしたくなった。

 なんとカイの右手がどこかの空間の切れ目に吸い込まれていた。


「……もういい、なんか考えるのバカバカしくなった」


 いまだにあの衝撃の光景を引きずっている俺は考えるのを放棄していた。


 へえ、そんな収納のしかたがあるんだー。


「んなわけねーだろ!」


「うおっと、びっくりしたじゃないか!」


 いきなり大声を出した俺にカイは一瞬ビクッとしてそう返した。


「どーなってんだ、それ」


「ん?この世界ではこれが普通だぞ?」


「はあ、そうなのか。って納得できるか!」


 どうみてもホラーです、本当にありがとうございました。


 それはさておき、この世界では道具の収納は空間の中に詰め込むような形式らしい。


「それってどれくらいのものを入れられるんだ?」


「そうだなー、この空間袋は大体三十個位だったと思うぜ」


「空間袋?」


「ああ、アトスにはこの記憶は渡してないが、メクリエンス帝国ってところの空間魔術師が開発した便利バックみたいなもんだ」


 メクリエンス帝国。

 帝とついてるってことは皇帝制かな?


「ふーん、魔法を道具にするのか、面白そう」


「メクリエンス帝国はかなり発展した帝国で、魔法の刻印によるキカイと呼ばれる自動で動くおかしな物があった」


 もしかして、これはあれか?

 魔法と科学の融合とかって胸踊るワードの国か?


「カイは本当にいろんな場所を旅してきたんだな」


 はっきり言おう。

メクリエンス帝国という国は俺の小説には存在していない!

 故にカイがそこを旅したなんて知るはずもない。


 俺が書いていたあの小説は本当に空想だけの世界だったのかもしれない。

 謎は増えたがもうこの際、あの小説とこの世界は別物と思っておこう。


「まあ、伊達に1000年旅してはいないな」


 1000年という言葉に俺は驚かなかった。

 なぜならそこは俺の小説と同じだったからだ。


「寂しくなかったのか?」


 ふとそんなことを聞いてしまっていた。


「寂しい、ね。確かに孤独ではあったな。一緒にいた仲間と何人もお別れしてきたしな」


 それはつまり死に別れということだろう。

 自分はこれから先もずっと生きていくのに、周りはどんどんいなくなっていく。

 寂しくないわけがない。


「俺が覚えている限り、そいつらが死ぬことはない。

 忘れ去られたときに人は死ぬんだ。

 俺はそう思っている。

 そんな何人もの仲間と一緒に旅をしているつもりだ。

 たとえ記憶でも仲間は俺が死ぬまで仲間だ。

 だから俺はいつでも明るく面白く生きていこうと思った。

 仲間が悲しまないように」


「カイは強いんだな」


 こちらをみて笑いながら話すカイは本当に楽しそうに話す。

 ああ、やっぱり俺もあんな風に生きていきたいな。

 そう思った。


「そりゃあ、次元最強ですし?」


「ムカつく」


 とりあえず軽く殴った。


「ちょっ、それはひどくない?!」


 しんみりした空気がほどけていく。


「空間袋ってサイズなんてあるのか?」


 俺はそんな空気を壊すためにサイズの話なんて聞き始める。


「うーんと、サイズは小、中、大、特大、って感じて四種類あったかな。んでこれは中だったはず」


「へえ、発展してるんだな」


「そうだな、恐ろしい位に発展していた国だった。軍事、経済、魔法研究、その他にも様々なことが、他の国より頭ひとつ抜けてるな。

 そのパールも帝国の開発した消耗品だ」


「パールってこれのこと?」


 カイからもらったペットボトルみたいな透明な容器はパールというらしい。


「ああ、そうだ。なんでも貝殻を一度キカイで粉にしてそこからこの容器に加工するらしい。詳細は俺も知らん、開発したの俺じゃないし」


「じゃあ、帝国が世界征服とかしたら止められないんじゃないのか?」


 それだけの力を持っているなら、そんなことをしてもおかしくはないと思うが。


「いいや、そいつは無理だ」


 カイはそんな考えをあっさり否定する。


「なぜ?」


「他の国だって対抗策があるってことさ」


「対抗策?」


「ああ、いくつも国があるが、それぞれ対魔法防壁とか、竜騎兵なんていうドラゴンライダーを保有する国、世界最強と言われる魔法使いがいる国、とかいろいろある」 


 なにそれ面白そう。

 こんなことを聞いてはしゃげない人なんているのだろうか?

 俺はめちゃくちゃ楽しみになってきていた。


「凄いんだな、この世界は」


「ああ、帝国一強ってわけじゃないってことだ」


 一段落したところで、俺は水を飲む。


 ほっとしたのも束の間、どこからか微かに誰かの声が聞こえてきた。


「誰かっーー誰かいませんか!」


 少し遠くの森林地帯からのようで、女性の声だった。

 あれ?聴覚ものすごくよくなってる?

 カイも今の悲鳴を聞いたらしく、その方向を見ていた。


「もしかして、魔物とかに襲われてるのか?」


「かもしれないな、見に行ってみるか?」


「言うまでもない」


 そういって俺はカイの記憶からあの場所にたどり着ける方法を見つけ出す。

 なんということはない、走るのだ。

 ただし普通の速度ではない。


          ☆


 アトス達のいる場所から少し離れた森林で、彼女は魔物に襲われていた。


 その魔物はトレントといって、通常時は木なのだが、森に侵入者が入って来ると、戦闘形態になる。

 戦闘形態に移行すると、木の姿は変わらないが腕と足が現れるため、初めてみた冒険者などは混乱するらしい。

 しかし彼女はトレントを見るのは初めてというわけではないので混乱はしなかった。


「困りました」


 トレントの腕に見えたものは無数に枝分かれし、複数の手が彼女を逃すまいと猛攻を仕掛けてきていた。

 あのトレントは明らかに他の弱かったトレントとは違う。

 恐らく長年魔力を溜め続けたエルダートレントだろう。


 退避をしながら、ふと気づくと岩に囲まれていたのが致命的だった。

 これでは逃げ道がない。

 助けを呼べばいいのだが、ここは町からも村からも離れた森林なのである。

 助けが来る保証などどこにもなかった。


「私、戦闘得意じゃないんですよね」


 彼女は戦闘経験が豊富という訳ではないので苦戦を強いられていた。

 先ほどから防戦一方で、反撃している暇がなかった。


 彼女は前衛に出るタイプの職業ではなく、それどころか、本来は前衛が戦っている間に魔法とかを使う職業である。

 距離が取れないため魔法を使う暇がなかった。


 かろうじてできたことと言えば魔法障壁を張るくらいだった。

 その魔法障壁も少しひび割れてを起こし始めていた。

 さらには維持するために魔力を生成し続けないといけないので、他の魔法を使う余裕がない。


 このままではジリ貧なのはよく分かっていたが、障壁を維持しながら他の魔法を使うなど超級ランクの魔道士でもないとできない。

 彼女はまだ中級ランクになったばかりで超級の魔道士にはあと二つランクが足りない。


 トレントの猛攻は収まるところを知らず、彼女を貫こうと全く攻撃の手を緩めない。


 彼女は魔道士の資格を持ちながらも、薬師として生計を立てて行こうというところだった。

 町で珍しい薬草がある森と聞いて来たのが間違いだった。

 そもそも一人で来たのがダメだった。

 冒険者でも雇えば良かったなどと後悔していた。


「私、ここで人生終了なんでしょうか」


 それは嫌だった。

 彼女は18歳になったばかりで、魔法学校を卒業し人生これからっていうところだった。

 男性と付き合ったこともなければ、魔法学校に進学させてくれた両親に恩返しもできていない。

 今死んだら幽霊になる自信がある。


 そんなことを考えていたが、唐突に終わりが訪れる。

 魔法障壁が破壊されたのだ。

 もう一刻の猶予もない。

 トレントの腕が彼女を貫こうと間近まで迫ってきていた。

 一か八か、彼女は助けを呼ぶことにした。 


「誰かっ――誰かいませんか!」


 来るはずもないと思っていたので、彼女は目を閉じて死を覚悟しながら一瞬だけ防御できる薄い魔法障壁を張る。

 しかし、やはり一瞬でそれもすぐに突破される音が聞こえた。

 

 やれることはやった。


 そう思っていたのだが、一向になんの痛みも来ない。

 不思議に思って目を開けてみると、間近まで迫っていたトレントの片方の腕が根元からごっそりなくなっていたのだ。 


「え?」


          ☆


 恐ろしい速度で走る、恐らく光速に近い。

 足がタイヤのように回転する。


 摩擦熱で燃えないか若干心配だったが、カイの記憶の走り方をマネした結果、風魔法の力で摩擦が極限まで削られているらしい。

 空気が俺を避けているようだった。


「いや、これもおかしいだろ!」


 一人でツッコミをする俺。

 カイはどうしたのかって?

 激しい運動はできないから、あとからゆっくり行くよと言われたので、俺が先行した次第だ。


 そんな速度で走っていたので森林などすぐに到着してしまった。

 あの湖から一秒も立ってないと思う。

 そして少し遠くの岩に囲まれた場所に魔法障壁を使っている女性がいたが、魔法障壁は破壊され魔物にトドメを刺されようとしていた。


 あれってトレントっぽいけど、どうなんだろうか?

 トレントというのは森の守護者と聞いたことがある。

 なんてのんきなことを考えていたが、そんな状況でもなかったので、カイの記憶を参考に魔法を使う。


 鋭い風のイメージ。刃のように切れ味抜群のかまいたち。


「ウィンドカッター!」


 とりあえず、女性に迫ろうとしてる腕っぽいのを切り落とすことにした。

 目論見はあっさり成功し、トレントの片方の腕がバターのように切れた。

 切れ味おかしい。

 全く手応えがなかった。


 腕を切り落とされたトレントはこちらを見る。

 うわ、めっちゃ見てんじゃん。

 トレントは標的を変えたのかこちらの方へと向かってくる。

 どう戦おうかな、いろいろ試してみたいところだけど。

 俺の頭の中はカイが使ったあらゆる戦法が駆け巡っていた。

 と、視線を左側の腰に落とすと、剣があったことをすっかり忘れていたのに気づく。

 ふむ、この剣の威力も見ておかないとな。


 そう思った俺は、腰の鞘から剣を抜く。

 その剣は魔剣と呼ばれる類いの物で、ステラ・マグナという名前を持ち、左右に刃がついてる両手剣だ。

 剣を抜くと剣全体が赤と青の光を交互に発していた。

 ここら辺はあの小説と変わらないらしい。


 トレントは間近に迫ってきていた。

 切り落とされていないもう片方の腕が、枝分かれし無数の腕に姿を変える。

 そして無数の腕が、槍のように連続突きを繰り出してくる。


「うわっと、あぶねーな!」


 一旦距離を取り、俺は後ろにジャンプする。


 うん。

 ちゃんと身体は動く。


 これならカイの記憶通りに動いてもなんとかなるか?


 この森はそれなりに大きい森で周りがほぼ木で埋め尽くされている。

 下手に動くと戦いづらいかもしれない。

 剣を構え直す。

 これが俺にとっての初戦闘だ。

 気は抜けない。

 が、なんとでもなるような気がしてきた。


「来いよ、木の化け物!」


 その声に触発されたのかトレントはまたしても距離を詰め先程の連続突きをしてくる。

 俺はその一つ一つの軌道を冷静に見ながら回避する。


 ふむ、動体視力もかなり凄いな。

 トレントの連続突きの軌道がすべてスローモーションのように見える。

 これが遅いってやつか。

 そうしていくうちにトレントの攻撃に隙が多くあるということを知った。


 緊張して損した。

 これは余裕じゃないかな?


 俺は凄まじい速度で上下左右に剣を振り下ろして、トレントの無数の腕一つ一つを正確に切り落としていく。

 そして、トレントの胴体まで迫ると袈裟斬りを仕掛ける。

 これがまたあっさり決まり、トレントは薪割りを中途半端にされたような姿になる。


 だが、まだ生きているらしい、しぶとい。

 攻撃手段がなくなったのか、トレントは胴体ごと特攻を仕掛けてくる。

 もうひとつ試したいことがあったので、剣を左側に引き、居合いのような格好になる。


「これで多分最後だ!」


 剣を左から右に思いっきり振る。

 すると剣閃が空気を裂いてトレントにクリティカルヒットする。


 だが、剣閃は止まらず木々を乾いた音と共になぎ倒し、さらにはゼーダ連山の山頂へ届いたのか、山の山頂が盛大に土砂崩れを起こす。


 なんか標高低くなった?

 って、いやいやいやいや、威力おかしすぎねぇかこれ!?

 地形変えちまったぞ。

 あの山に人が住んでなければいいのだが。


漢数字か英数字か、迷いながら書いたので読みづらくなってるかもしれません、すみません。


「面白そう!」


「続きが読みたい!」


と思ったら


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星5でも1でも嬉しいです。


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