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第三十六話 魔法学校で事件?

 もう少しで仲間達と合流する予定だった昼近く、魔法学校で異変が起きたと酒場に入ってきた旅人は言った。


「西のアルデイト魔法学校で異変?」


「一体何が起きたと言うのだ」


 俺と王は顔を見合せそう話す。

 アルデイト魔法学校ってエミリアが行っている学校なのだろうか?


「バーク、王宮に戻った方がいい。危ないかもしれないから」


「アトス様の言う通りです」


「しかし、人と会う約束はどうする?」


「この酒場のマスターに伝言を頼みましょう」


 王は仕方ないという顔をして渋々うなづく。

 俺はその姿を見届けてからシルキーの元に行く。


「シルキー、俺と一旦王宮に来てくれ!」


「そんなこと言わなくてもオイラはアトスから離れないぞ?」


 シルキーはこの状況であっても意外と普通のままだった。

 肝が座っているとか言うんだっけ、こういうの。


「よし、じゃあ外に行こう」


 マスターにゴールドを払ってシルキーと外に出る。


「お気をつけて、またのご来店をお待ちしております」


 マスターの言葉にうなずき外に出ると、魔法学校があると思われる方向で気味の悪い赤い球状の結界が、ここからでもよく見えるくらいの大きさで存在していた。


「なんなのだ?あれは。」


 シルキーは不思議そうな顔をする。


「さあな、俺にもわからない」


「でも、あの魔法障壁。人に悪い影響出そうなのだ」


「それは俺も感じる」


 なぜなら、あの魔法障壁に向かって魔力が吸いとられている感覚があったからだ。

 俺の体からも魔力があの場所に吸われていた。


 魔力って精神力を使わないと生成できないはずなんだけど、無意識に精神力を使われているような気がした。


「あの魔法障壁、なんなのだ?オイラの精神力も使われているような気がするのだ」


 シルキーも感じたらしい。


 このまま王都全体でこれが行われているならば住民が危ないかもしれない。

 なんせ、精神力をすべて吸われたらその人物は廃人になってしまうからだ。

 回復するまで数年かかるかもしれない。


 それは俺の小説で使われていた設定だが精神力という概念があるならば設定のままの現象が起こるだろう。


 そんな危険と隣の合わせで魔法というものは存在しているはずだ。

 だが、無意識に精神力を使われるなら対処のしようがない。


 俺はここに来る前にマジックウォールなどを使っていたので自分から流れる魔力は少なめですんでいる。


「シルキー、じゃあ王宮に行こう」


「わかったのだ!」


 だが、王宮はここから少し遠い。

 なのでシルキーをお姫様抱っこして風魔法で空を飛んで王宮へと向かう。

 シルキーは少し恥ずかしそうに顔を赤くしてお姫様抱っこをされる。


「わー、すごいのだ!オイラ空飛んでるのだ!」


 シルキーは恥ずかしさを隠すようにわざとはしゃぐ。

 お姫様抱っこされるのは恥ずかしいんかい!

 ならその恥じらいをもう少し助けた時と宿屋のときに出そうよ!


 アトスさん、びっくりだよ。


「こら、暴れるんじゃないの。落っこちたらどうするんだよ?」


「でも、オイラこんなに女の子扱いされるのは初めてなのだ!」


「そうなのか?あんなに積極的に迫ってくるから慣れてるのかと思ってたよ」


「オイラ達獣人にとっては子供を作って子孫を増やしていくのは常識なのだ。だからオイラみたいな歳でもう誰と一緒になるか早い獣人は既に決めてるのだ」


 普通の人間と獣人の常識は違うんだろうな。

 俺達人間からすれば子供がなにいってんのって感じだけど、シルキーは真面目にそう話すのだ。


 いや、俺の体も普通の人間ではないけどな!


「オイラは絶対にアトスとの子供を作るのだ!」


「真面目に言わないの!」


 俺はシルキーみたいな歳の子はほほえましく眺めていたい方なんだけど。

 大人がはしゃぐ子供をみて和むような気分で。


「オイラは大真面目なのだ!荒野で生きているといつ死ぬか分からないから、急いで子孫を増やすのだ」


 ビースサウス獣王国ってどんだけ過酷な環境なんだよ。

 聞いた限り、大人になる前に死ぬこともあるみたいに聞こえるんだけど。


「弱肉強食なのか?」


「なのだ!獣王国はいろいろな凶暴な動物達がいるから子供が命を落とすことも珍しくないから、荒野のあちこちで襲撃を受けないように一定期間ごとに住みかを変えるのだ。

 それも、別々の集団でなのだ。

 だからあまり王様にも会わないのだ。

 普通の国とはたぶん全然違うぞ?」


 ということは、生前に聞いた遊牧民みたいな生活なんだろうな。

 でもひとつだけ不思議なことがあった。


「あれ?でもシルキーが連れ去られる時は買い物帰りって言ってたと思うけど、そんな生活しているならどこに買い物に行っていたんだ?」


「オイラ達の住みかには時々行商人が来るのだ。もちろんオイラ達は1ヶ所にはずっとはいないから、行商人がたまたまオイラ達の住みかを見つけていろいろ売りに来るのだ!」


 獣王国に行商しにくる商人達ってどうしてそんなめんどうなことをしているんだろう。

 どう考えても他の国に行った方が商売になりそうだけど。


「ちなみに、行商人ってなんでそんなことをしているんだ?」


「オイラ達の国では他の国では取れない珍しい動物の肉とか毛皮とかが狩りでいっぱい取れるんだけど、それが他の国ではかなりの高値で取引されるらしいのだ!」


 へえ、ということはその素材が行商人を国に来させているのか。


「それって行商人に騙されたりしてないのか?」


「してないのだ。オイラ達の国で取れた肉とか毛皮は、行商人が加工して売って、その利益の半分を獣王国に渡すのだ」


「え?それなら行商人が損するだけじゃないのか?」


 それだけ売れる物で、半分も利益を渡すってどう考えても行商人が苦労しそうだけど。


「行商人はオイラ達に物を売る時の儲けもあるからあんまり気にしてないみたいなのだ。

 そもそも珍しい動物の肉とか毛皮はオイラ達が狩りをしないと取ることができない素材で、並みの冒険者じゃ倒すのが難しい動物なのだ」


 それなら行商人がそこまで利益を渡すのも分かる。

 いくら売れると言っても冒険者、それも高いランクの冒険者を雇って倒す方が損が大きそうだ。

 ならば冒険者の人件費分を獣人がやることで利益を増やした方が効率が良さそうだもんな。

 その肉とか毛皮がどれだけ売れる物なのかは知らないが、理屈は分かった。


「でも利益を渡すって言っても転々としてる獣人達にどうやって渡しているんだ?」


「獣王国は海の町とアルデイト王国との国境に貿易管理をする場所があるのだ。

 そこに所属するには獣王国の厳しい試練を突破しないと行けないのだ。

 オイラ達は鳥を使って各地の集団と連絡を取り合っているから貿易管理をしている場所からそこ所属の獣人がゴールドを渡しに来るのだ」


 獣王国ってかなり特殊な形態の国なんだな。

 というか、話を聞く限り獣人って強そうだな。


 そんな話をしているうちに王宮に到着したので、着地。

 今日ここに来たときに仲間といた場所をみるが、誰もいなかった。

 それはそうだろう。

 別れる時に太陽が真ん中に来たときに集まろうと言っていたが、今はまだ真ん中までは来ていない。


「シルキーはここで銀髪の人とか、金髪、青髪の人が来るまで待っててくれるか?」


「その人達は誰なのだ?」


「俺の仲間だ」


「アトスって仲間がいたのだ!?」


「失礼な!俺にも仲間はいるからな!」


 この狐耳の娘は俺をどうみていたんだろう。

 寂しい一人者とでも思っていたのだろうか?


「そうなのだ?」


「そうなの!」


「寂しいけど、アトスはこれからあの場所に行くのだ?」


「まあ、気になるしな」


 あの現象はどう考えても異常事態だ。

 そう言えば、この王宮でも魔力が吸われる感覚は残ったままだった。

 俺はどこまでやっていいか少し悩んだが、王宮全体にあらゆる害から身を守れる魔法障壁を張ることにした。


 もちろん、悪意のない普通の人は外からここに入って来られるように。

 王宮の外側に両手を伸ばす。


 イメージ。

 精神に干渉するあらゆる悪意から精神を保護できる魔法の障壁を。

 悪意の無い者はこの加護を与えん。


「シンクロ、スピリットガードマジックウォール・オート!」


 構造としては精神防御と魔法防御の2層で構成される結界のようなものだろうな。


「アトス、すごいのだ!2種類の魔法を同時に使えるなんて、ほとんどの人ができないのだ!」


 そう言えばシルキーは俺が真面目に複合魔法を使う光景を見るのは初めてだったか。


「この王国の王とか、仲間は知っていることだから、シルキーも俺がおかしい奴だって思ってくれ」


 自分で言っておいてなんか残念な気持ちになったけど、おかしいというのはあってるんだろうな。

 だが、シルキーはスゴく純粋にキラキラした目を見ていた。

 しかも耳としっぽがピョコピョコ動いていてなんか可愛かった。


 ああ、あの視線はヤバい。

 純粋すぎて眩しいぜ!


「アトス、やっぱりカッコいいのだ!絶対にオイラの夫にするのだ!」


「はいはい、じゃあ俺はちょっとあの魔法障壁がある場所に行ってくるよ」


「むう、オイラは真面目に言っているのだ!話を聞くのだー!」


 俺はそんな言葉を聞き流しながらシルキーを王宮に置いて外に出る。


 さて、今回の異変の正体はなんだろうな?


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