第三十五話 100年酒場だって!
ようやく山猫亭についた。
「はあ、長かったー」
目の前の山猫亭らしき建物は大通りにあってあんまり治安が悪そうな場所ではなかった。
あのアナライズの道案内はどうやら裏路地も含めての最短距離を表示していたのだろう。
あれって死王国との戦いで使った条件設定とか使えるのかな?
たぶん使えるんだろうけど。
「アトスの目的地はここなのだ?」
もちろん一緒についてきたシルキーは山猫亭を一緒に見ていた。
「ああ、一応そうだよ」
「王様ってどんな人なのだ?」
「ん?そうだなーフレンドリーとでも言うのかな。とにかく堅苦しいことが嫌いなイメージだな」
「オイラの国の王様とは違うのだ」
「そう言えば獣王国の王ってどんな?」
「えっと、毛むくじゃらなのだ。まるでライオルをそのまま人の形にしたような姿なのだ」
ライオル?初めて聞く名前だな。
どんな動物なんだろう?
「ライオルってもしかして百獣の王って呼ばれていたりする動物だったり?」
なんとなくイメージ的にライオンのような動物かなと思った。
字が似ているし。
「?そうだぞ?地上の動物の王って呼ばれているのだ!」
まんまだった!異世界、意外!
ていうことは、毛むくじゃらはそのままライオンの顔をしていて、本当に動物をそのまま擬人化したような姿なんだろうな。
「いつも大きな声で話すからうるさいのだ!王様は先祖返りらしくて、オイラ達とは力も姿も全然違うのだ。でも優しいからみんな好きなのだ!」
この世界ってあんまり悪い王様の話を聞かないけど。
俺が聞いてないだけなのかな?
「そうなんだ」
「そうなのだ!」
こんな会話をしていても仕方ないので、山猫亭に入ることにする。
店に入ると、冒険者や、非番と思われる騎士達が楽しそうに酒を飲みながら話している光景が目に入った。
「うわー、すごい盛り上がりなのだ!」
シルキーは酒場の光景を楽しそうに見ていた。
「シルキー、とりあえず離れるなよ」
「りょーかいなのだ!」
俺に笑顔で軽く敬礼をするシルキー。
その敬礼どこで習ったんだ。
可愛いから気にしないけど。
酒場の客達は俺達が入ってきてもこちらを見ずに楽しそうに話を続けている。
別に気にしてないようだ。
というわけで俺達はこの山猫亭のマスターと思われる人物のいるカウンターへと歩いていき、イスに一緒に座る。
あの、シルキーさん?
なんで俺の膝に座るのかな?
もふもふのしっぽは嬉しいけど、今はいらないんだよな。
「シルキー、別に俺の上に乗らなくてもいいだろう?」
「アトスが離れるなと言ったのだ!なら離れるわけにはいかないのだ!」
「そういう意味じゃねーよ!いいから横のイスに座りなさい!」
俺はシルキーの巫女服の後ろの襟をつかみ、そのまま隣のイスに座らせる。
「むう、アトスの膝の上がいいのだ!」
「周りの視線が痛いの!わかれ!」
「ひどいのだ!オイラはそんなこと気にしないのだ!」
周りが酒で酔った赤い顔をニヤニヤしながらこちらを見ていた。
あの人たち、一体俺達をなんだと思ってるんだろう。
兄弟には見えないし、親子にも見えないし。
そこにマスターが来る。
「いらっしゃい、ここは初めてだね?見ない顔だ」
「え、はい。そうですね」
マスターはエルフだった。
エルフって森の中にしかいないイメージあったんだけど、なんで王都で酒場のマスターしているんだろう。
「そっちの獣人のお嬢さんはまだ成年じゃないね、ならオレンジジュースでも用意しよう」
「あ、ありがとうなのだ!」
シルキーはマスターの姿を見ると少し大人しくなった。
「君はどうする?」
「あ、俺はここに用があって来ただけなので」
「用とはもしかしてあの席のお客さんにかな?」
マスターは視線を店の中に向けていたのでその方向を見ると、帽子とメガネで変装しているが、どうみてもバクラ王だった。
なにやってんですかね、あの王様。
「ええ、はい、でもなんで分かったんだ?」
「朝から王宮が騒がしいって非番の騎士達から聞いてね。それに君はアトス・ライトニングだろう?王宮に呼ばれる程の人物がこの酒場に来る用なんてそれくらいじゃないかと思ってね」
このマスターなかなかすごいな。
洞察力が恐ろしい。
エルフだから思っている以上に長生きなのかもしれないし、エルフなら狩人としての勘もあるのかもしれないけど。
「参ったぜ。マスターさんすごいな。その通りだよ」
「伊達に100年以上この酒場はやってないからね」
100年以上なのか!?
さすがエルフ。
長生きだな。
「シルキーちょっと待ってて」
「わかったのだ!オレンジジュースでも飲んで待っているのだ」
この酒場は別に警戒しなくても大丈夫そうなので、ひとまず王様のいるところに行く。
「あの王様?」
声をかけるとすごい勢いで首に腕を回される。
「ワシのことはバークと呼べい。バレるではないか!」
いや、この国の人なら誰でもわかりますから。
だが、王はスゴく冷や汗をかいていたので、バークと呼ぶことにする。
と、同席していた顔の下半分を布で隠した男性に話しかけられる。
そう言えばこの人は誰なんだろう?
「アトス様、どうかここではバークと呼んで下さい」
目元が鋭い眼光だったので、もしかしたらエミリアの言っていた最強の諜報部の人かな?
「それはいいけど、あんたは誰なんだ?」
「私はバーク様の護衛のような者で、名をライネットと言います」
「王都で聞いたけどもしかして諜報部の?」
ライネットはうなずく。
確かにオーラが普通の人物とは違う。
「こやつはワシが命令しなくても勝手についてくるのでのう」
「私はバーク様以外の命令は聞きません」
なにか深い理由でもありそうな感じだったが、別に気にしないで話を続ける。
「それで?バークは一体ここで何を?」
「ちょっと人と会う約束をしておってな」
「え?誰と会うんだ?それに王様なら王宮に呼べばいいんじゃないのか?」
俺は周りに聞こえないように小声で言う。
うかつに王様なんて聞かせられないしな。
「普通ならそうなのだが、あまり王が会うのは感心されん奴でな」
と言うことは裏の世界の人間だろうか?
だが、そうだとしてもなぜそんな人間と関わっているのだろう。
「私も詳しくは聞いてないのですが、今、この王都は大きな犯罪組織が存在していて、しっぽをあまり掴ませてくれない組織でして。恐らくそれに関係することだとは想像できるのですが」
ライネットは会う人物を知らないらしい。
「この王都って結構平和な印象だったんだけど。あのカウンターに座っている獣人の子も危うく売り飛ばされそうだったみたいだし、そうでもないのかな?」
「そうであったのか。アトスにあまり知られたくはなかったが、礼を言おう」
王は頭を下げる。
「俺なんかに頭を下げなくていいけど。それに、ただの通りすがりだったから偶然だったしな」
それにしても犯罪組織なんてのが本当に存在しているならば王都も平和とは言いがたいんだろうな。
「お主があの娘を助けた場所はどこだ?」
「えーっと、なんか貧民街っていうのかな。王都の発展具合からしたら少し信じられなかったけど」
「ああ、あの場所か」
王は思い当たる場所があるそうで苦い顔をする。
「あの場所は王都でも手がつけられてない場所でな。ワシも、何度も解決しようと手を回しているのだが、あの地域の住民が猛反対しているのだ」
「なんで反対しているんだ?」
王がわざわざ解決しようと努力しているのに住民が反対するってどういうことなんだろう。
「あそこに住んでおる者達は孤児や密売された奴隷がその売られた家から追い出されたりした者が多く、それを保護してこなかった先代の王に恨みを持つものが多い。
中には先代の王に恨みを持ったまま亡くなった者もおる。
その者は本来ワシらがやらなければならなかった子供達の保護を行った人物でな。
ワシも何度か直接その場所に行こうとしたが周りの大臣に反対されてのう」
先代の王はあまりいい政治を行っていなかったらしい。
その先代の印象のままだから王が変わっても信じられないのだろう。
「私がついていれば何の心配もないはずなのですが、大臣の一部には貧民を犯罪者と差別するものも少なからずいます」
なんかスゴく複雑な状態なんだな、王宮。
というか、それって嫌な大臣みたいなやつか。
王宮にはやはりそんな人物もいるのか。
「その大臣達は先代の王に仕えていた者でな。奴らはワシのことをよく思っておらぬ」
「全然そんな感じしなかったけど。バークも大変なんだな」
俺は正直そんな話を聞いてもやはり自分にはあまり関係ないのでどこか他人事のように聞いていた。
そんな所に慌てた様子の旅人が来る。
「た、大変だ!西のアルデイト魔法学校が謎の魔法障壁に包まれた!」
酒場の客とマスター、それに王も驚きの表情を浮かべていた。




