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第三十三話 コンコン、狐だよ!

 俺が王都で道に迷っている頃。


 エミリアの通っている魔法学校の先生専用の研究室にはテーブルに乗せている白い欠片、アーティファクトを眺めている人物がいた。

 まだ俺が手に取ってないので、欠片のままだ。


「これがアーティファクトか」


 その人物は青年のような若い男性の先生だった。

 メガネをかけ、緑の髪をオールバックにしていて、見た目怖そうというイメージがくる。


 彼はこの魔法学校の中等部の先生で、生徒からはヤンキー先生なんてあだ名をつけられて親しまれている。

 見た目は怖そうだが、生徒の相談によく付き合っていて見た目に反して、優しい先生なので人気はあった。


「あの本の通りならばこれで僕の願いが叶う」


 その先生はある願いを持っていた。


「でも、まだ使う時じゃないな」


 これから学校が始まるので、先生としての職務を放棄するわけにも行かない。

 今日は午前授業だけなので、昼頃に使ってみよう。


 そう思って先生はアーティファクトをテーブルの引き出しに入れようとした。


 だが、アーティファクトを手に取った瞬間、謎の声が聞こえてきた。


「貴様の願い、叶えてやろう」


 重々しく響いてくるその声はとても聖なる声とは思えず、邪悪な声に聞こえた。

 先生は周りを見渡すが個人の研究室なので誰もいるはずはない。


「だ、誰だ!」


「私か?私は、神だ」


「か、神だと!?なぜそんな存在が僕に話しかけてくるんだ」


 慌てた先生はアーティファクトを手から落としてしまう。

 しかし、声は止まらない。


「貴様の願いに興味を持ったからだ。昼頃など遅い。今から始めよう」


 アーティファクトを見ていた先生は突然、アーティファクトが気になって仕方なくなった。


「なんだ、なんだこの感覚は!?」


 その衝動が抑えられず、アーティファクトに手を振れてしまった。

 すると、どす黒い感情が流れてきて、アーティファクトは黒く変色する。


「や、やめろ、僕の中に入ってくるなぁ!クッ、うおおおおおお!」


 そして、先生の願いは謎の悪意にねじ曲げられた。

 この時、俺はそんなことなど知るわけもなかった。


         ☆


 俺はアナライズの指示の通りに進んでいたのだが、どうも治安の悪そうな場所だ。


 道の脇にどうみても何かの薬物のせいで座り込んでいる虚ろな目の男性がいたり、関わったらヤバそうな人達がバカ笑いしている声なども聞こえた。

 さらにはボロボロの服を着ている痩せた少年がいたりした。


 まあ、これだけ王都が広いならばこんな場所も少しはあると思っていたが、この辺りには騎士団の詰所などが見当たらなかったので恐らく警備がなかなか行き届かない所なのだろう。


「うーん、あの王様ならこんな場所放置しなさそうなんたけどな。どうしてだろう?」


 つい俺はそんなことを言ってしまう。

 もちろん、独り言だ。

 そんな風景を眺めながら歩いていたのだが、なにやら声が聞こえてきた。


「やめるのだ!オイラは獣王国に帰るのだ!」


「うるせー、静かにしやがれ、お前は商品なんだよ!」


 明らかに嫌がっている声と怒鳴る声が俺の耳に届く。


「それにしても、お前連れてくるときにも思ったけど、いい体してるよな。なあ、相棒、少しくらい楽しんでもいいよな?」


「ヘヘッ、いーんじゃねーの?どうせ売られた先でも同じことされるんだろうから、俺も混ぜろ!」


 すごく気持ちの悪い笑い声が聞こえてきたので、俺はイライラしてきた。

 急いでその声が聞こえてくる場所に行くと、三人の男が獣耳の生えた奴隷服の少女を地面に押さえつけ、今にもコトに及ぼうとしていた。


「は、離すのだ!いやなのだ!」


 獣耳の少女は抵抗しているが、両手両足を押さえられていて、振り払えそうになかった。


「……おい、お前らなにしてんだ?」


 俺は冷えきった声で三人の男に声をかける。


「ああ?なんだてめー。騎士団か?」


「ギャハハ、なんだこいつ、まだ子供じゃねーか!」


「子供はうち帰ってママにでもすがってな!」


 イラッ。

 なんだこいつら、ファンタジーにありがちな典型的な悪者じゃないか。

 やっぱりこの世界にもいるんだな。


「離せよそいつ。嫌がってるじゃないか!」


「こいつは商品だ。手放すわけないだろう?それとも俺達にケンカでも売ろうってか?」


 少女に馬乗りになっていた男は立ち上がり俺を見てくる。


「その商品、ちゃんとそこの家の柱にでも繋いでおけ」


 そう男が言うと、他の二人は少女を無理やり立たせて、手錠で柱に固定する。


「そこの少年、俺達の楽しみを邪魔した覚悟はできているか?」


「あん?俺に言っているのか?最低な奴らと話すようなヒマはないな」


 俺のその言葉に目の前の男達は顔を赤くしながら腰に持っていた短剣とか剣を抜く。


「てめー、なめてんのか!俺達にかなうとでも思っているのか?!ガキが!」


 やれやれ、本当に典型的な悪者だな。


「こいよ、お前らごときに剣を使うまでもない。ウィンドカッター!」


 イメージもしないまま、乱暴に風魔法の刃を飛ばす。

 するとちょうどリーダー格と思われる男の頬を通りかすり傷がついた。

 その男の頬からツーっと血が流れる。

 さらに背後の空き家と思われる家があったが、そこに直撃してその家は崩れてしまった。


「え?」


 さっきまで赤い顔をしていたリーダー格の男は一転して背後の崩れた家をみて、こちらに向き直す。

 その顔は真っ青だった。


「バ、バカな、ウィンドカッターごときで家を崩せる訳がない」


「おい、こいつヤバイ奴じゃないのか!」


「待てよ?黒い髪に黒い服装、それにあの童顔。もしかして、先日の死王国との戦いを一人で終わらせたとかいう頭のおかしい奴じゃないか?!」


 へえ、あいつらみたいな奴らにも先日の話が伝わっているのか。

 でも正しくは仲間と警備隊と調査団もいたので一人ではない。


「そんなこと、あるわけが……大体なんでこんな所にそんな危ない奴がいるんだよ!」


「おいお前、名前、アトスとか言わないか!?」


 先程の死王国の話をしていた男が顔を青くしながら俺に聞いてくる。


「あー、そんな名前だったかもな!」


 俺は言いながら苛立ちと共にファイヤーボールを飛ばして、背後の崩れた空き家を燃やす。

 近くには他の家はなく空き地だったので脅しのつもりで燃やした。


「あんな奴に勝てるわけない!俺は逃げるぞ!」


 そう言って逃げ出す男の進路に土魔法で作った壁を地面から生やして、道を塞ぐ。

 T字の路地になっていたのでもう片方も同様にして、俺の近くを通り抜けないと逃げられないようにした。


「逃がすわけないよな。お前ら悪そうな奴らだし」


 俺はニヤーと邪悪な笑顔を浮かべるとそう言う。


「す、すみません!すみません!命だけはお助けを!」


 真っ先に逃げようとした男が両膝を地面につけ、祈るように両手を組む。

 他の二人の男は顔を真っ青にしながら呆然と立ち尽くす。


 俺はまず、祈るようにしている男の首に手刀を光速で移動して食らわせ気絶させる。


「なんだ?!なんだあの速度は!」


 その光景を見ていた、リーダーじゃない方の男は余りの出来事に漏らして失神した。


 うわ、汚いな!


「お、お前、一体何者……グッ!」


 リーダーはあっという間に制圧された二人をみてそう言うが、言い終わる前に俺のパンチをみぞおちに直撃させてこれまた気絶する。


 それを遠目から見ていたこの地域の住人がいたので、その人物に金貨を一枚投げて渡して、騎士団に連絡するように言う。

 金貨を渡された人物は夢を見ているのかという顔をしていたがすぐさま走っていった。


「大丈夫か?」


 その俺の行動はたぶん一分もたってないので、獣人と思われる少女は驚きながらこちらを見ていた。

 俺は魔剣を抜き、手錠を切って、剣を収める。


「あ、ありがとうなのだ。助かったのだ!危うくこんな汚い路地裏で嫌いな奴に初めてを奪われる所だったのだ」


 なんだろう、全然危機感というものがないんだけど、この獣耳娘。

 いや、目の前の衝撃の光景を見て動揺しているだけかもしれない。


「女の子が初めてを奪われるとか言わないの。恥じらいを持ちなさい、恥じらいを!」


 なんで俺がそんな恥ずかしいことを言わないとならないんだ!


 さて、その少女だが現代世界で言えば狐耳がありオレンジ色の髪で青い瞳、狐耳の少し後ろでそれなりに長い髪の一部を左右2つに細く結び、さらに後ろに短いポニーテールという髪をしている、狐のしっぽの奴隷姿だった。


 奴隷服は体のラインがよく見え、胸が膨らみかけだった。

 これでいい体とか言ってたあのろくでなしどもは、ロリコンなのか?

 しっぽは奴隷にされてから洗われてないのか、ふわふわには見えなかった。

 それどころか、言いたくはないが匂いがひどい。


 この王国って奴隷制度ないんじゃなかったかな?

 だとしたらたぶん、密売みたいな感じでグレーの組織が関わっているのかもしれない。


「助けてもらったから、これからオイラはお前と番になるのだ!」


 はい?なんの話してんの?ワンモアプリーズ。

 番ってたしか、雄と雌とかそんな話だよね?!


「いや、ちょっと待って、番ってどういうこと?」


「え?番って知らないのか?オイラと子作りをする役割をする奴のことだぞ?」


 いや、それはそうなんだろうけど。

 なんでこの狐耳の少女はバカなのコイツみたいに見ているんだろう。

 え?助けたの俺だよね!?

 さっきまで犯されそうになってたよね?!

 なぜそんな目で見られるんだろう。


「待って、お待ちください、狐耳の娘さん。助けただけなのに話が飛躍しすぎでは?名前も知らないのに」


「ビースサウス獣王国は国土の半分以上が荒野だから体の強い雄を探して子供を強くするんだぞ?」


 そんなことは聞いてないのだけど、ていうか獣王国ってほとんど荒野なのか!


「いや、知らないけれども。君、名前は?」


「オイラか?オイラはシルキー!シルキー・セブンザード。お前はさっきアトスと言われていたような気がするのだが、合っているのだ?もしそうなら体の強さは間違いないのだ!」


 シルキーと名乗った少女はしっぽをパタパタさせてこちらを見ている。

 嬉しいのかな?


「ええっと、うん、アトス・ライトニングであってるけど」


「オイラはここに連れてこられる前、獣王国でアトスの話、聞いたのだ!」


 この数日でもう他の国までその話が伝わっているのか。

 驚きだ。


 そこに騎士団と思われる二人の鎧の人物が来たので、この事件を話した。

 その後、シルキーを置いていくわけにも行かず、一緒に連れていくことにした。

 騎士団の二人に人身売買があることを伝えると対応するとの話だった。


 その騎士団の二人に怪しいものを見る目でにらまれながらシルキーと共にその場を後にした。


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