第二十九話 俺の夢、それは
王宮の中は、しっかりとした土台の柱が何本も並んでおり、そうそう壊れることはなさそうな造りになっていた。
俺達が王宮に入ると、中で門番をしていた兵士に敬礼される。
どうやら俺達が来ることは知らされていたようで、応接室へと案内された。
四人でイスに座りながら謁見の許可が下りるまで少し待つ。
「そういえば、俺は王様にあったことないんだけど、挨拶とかなんかあるのか?」
王に会うなど現代を生きていた俺からすれば本当に空想の世界だけだ。
現代にそんな機会はそうそう訪れないからな。
「ええっと、まず、左膝を立てて右膝を地面につけます。
次に左のひじを曲げて胸の前にグーの手を作って頭を下げるんです。これはほとんどの国でも使われていて偉い人と会うときにも使えます」
リコリスは応接室でその格好をしてみせる。
スカートが膝辺りまでしかないので、俺はその姿を見て少しドキドキする。
でも中が見えるなんてことはなく、スカートは左膝を中心に、扇状に広がり、もう片方の地についている足は隠れていた。
「なるほど、ありがとう」
というか、他の国から来たとしても世界の礼儀くらいは知っているとは思わなかったんだろうか?
リコリスは気にしていないようなので、自分から話題を出すことはやめておこう。
そんなことを考えていたが、そんなに待たずに謁見の許可が下りた。
謁見の間は玉座があり、その玉座に続く道は赤い絨毯が敷かれていた。
これはあれだ、現代のテレビでチラッとみたアカデミー賞授賞式の入り口の光景だ。
まあ、テレビでしかみたことないから、内部がどうなっているか知らないけど。
ということで、玉座の前で作法通りの格好をする。
「アルデイト王国国王、バクラ・シュザール・アルデイト様、ご入場!」
玉座から少し遠い場所で、アルデイト王国の旗を持った兵士がそう言う。
そういえば、名前を聞いていなかったが王はバクラ・シュザール・アルデイトというらしい。
王都の名前はアルデシュザールというのでもしかしらアルデイトと、中間のシュザールを合わせた名前なのかもしれない。
王が玉座に座る。
宰相も玉座の近くに立つ。
「顔を上げよ」
王がそう言うので俺は顔を上げる。
「うむ、よくぞこの王都へと来てくれた!アトス・ライトニングとその仲間達も遠路はるばるご苦労だった。
本日呼んだのはほかでもない、あのフォクトリア大平原でのアトスの活躍を讃えようと呼んだのだ」
それだけのために呼んだのだろうか?
「発言を許可する。王がお聞きになりたいことがあるそうだ」
「なんでしょうか?」
俺がそう聞くと、王は目をキラキラと光輝かせて俺に質問をしてきた。
「先日のゼーダ連山の土砂崩れとそれを完璧に直してみせたのはお主で間違いないな?」
どう答えればいいかな?
俺が答えに迷っていると王は、
「隠さなくてもよい。先日ヴァレッタへ送った調査団の報告からみてもお主以外考えられぬ」
と言ってきた。
そういえば、調査団もあの戦いに参戦していたから俺の力を見ているはず。
そう考えればここで無理に嘘を言うことはないだろう。
「はい、私で間違いありません」
相手は王なので、とりあえず俺とは言わず私と言った。
すると王は俺の口調を聞いて笑っていた。
「フハハハ!ワシが王だからと変にかしこまる必要はないぞ。いつも通りに話せ、ワシが許す」
王にタメ口とか、普通は死刑ものでは?!
というか、想像通りかなりフレンドリーだな!
大丈夫なのか、この国は。
俺が内心そんなことを思って宰相の方を見ると宰相は頭が痛そうにしていたので、いつもこんな感じなんだろうなと思った。
「しかし、私はただの旅人、この国の王に対してそのような言葉で話すわけには」
俺は慌てて、そう言う。
「よい、ワシが許すと言ったのだから誰にも文句は言わせん」
「わ、わかりました。では普通に話させていただきます」
そうは言ったがさすがに失礼な気がした。
だが、ここで意地になったらそれこそ失礼なのかもしれない。
ということで、少しビビりながら話す。
「先日のゼーダ連山の話は本当だ。俺がやった」
いきなりこんな口調で大丈夫なのだろうか?
「やはりか!そうではないかと思っておったのだ!先日のリヒテリンス死王国の働きは遠目ながら見ておったからのう!」
王は玉座から立ち上がり、俺の口調なんてまるで気にしてない顔で楽しそうに話す。
「見られていたのか」
「ワシが直々に援軍でヴァレッタへ行ったからのう」
王様にも見られていたのか。
確かに警備隊の隊長からそんな書き置きがあったと後から聞いたけど。
「それで、あの死王国との戦いの最大の功績者のお主になにか褒美を与えようと思っていたのだ」
どうやら、これが本題らしい。
褒美か、何がもらえるのかな?
王からの褒美のイメージは剣とか領地とか宝石だけど、俺は一応旅人のつもりなのでもし領地とかもらっても正直困るけど。
「お主、何か希望はないか?お主がいなければ国は滅んでおっただろう。本来なら、大量の領地等を与えても足りないくらいなのでな。困っておったのだ」
「え?そうなのか?」
確かに国の存亡の危機だったが、そこまで過大評価されるとなんかそこまで活躍していないような気がしてくる。
「当たり前だろう。お主がいなければ当の昔にアルデイトは滅んでおったわ。それで、何がよい?なんでも言ってみるがよい。
なんなら王の座を譲ってやってもよい」
何を言っているのだろうこの王は、そんな簡単に王座を譲るものではないと思うけど。
そんな俺のきょとんとした顔を見ながら王は笑う。
「ハハハ、まあ、それは冗談だが。本当になんでもよいぞ?」
「少し時間をくれ、今考えるから」
うなずきながら王は玉座に座る。
考えている俺の顔を見て王は楽しそうにニヤニヤする。
この人が王でこの国は大丈夫なのだろうかと宰相の方を見ると、なぜか同情の目を向けられた。
すごく申し訳なさそうに。
あの宰相さんもよくこの王の補佐をしようと思ったな。
今のやり取りが日常なのだとしたらあの宰相はかなり大変だろうな。
さて、そんなことは置いておいて、報酬か。
俺にはちょっとした願いがあった。
この世界の話を聞いて機会があればと思ったことだ。
それに他にもその願いに至った理由がある。
俺がこれから言うことはこの世界の常識をひっくり返すことになるだろう。
「……ではフォクトリア大平原に国を建てる許可をくれないだろうか?」
この俺の言葉に一緒にここに来たカイ、リコリス、ノルンは目を見開き、王は盛大に笑い出す。
「フハハハハハハハハ!面白い!お主面白いぞ!」
ひとしきり笑い転げた後、王は俺に質問を投げてくる。
「お主が言うからにはただの理由ではないな?理由を聞こう」
「人語を話せる敵対心のない魔物とこの世界に生きるすべての種族の垣根を越えて仲良く暮らせる国を作りたい」
以前カイから聞いた、あの人語を話せる魔物。
行き場を失ったただ静かに暮らしていたいだけの魔物。
そして、叶うならこの世界で生きるすべての種族がハッピーエンドを迎えてほしい。
俺はバッドエンドが嫌いだからな。
そんな俺の願いだ。
もちろん、アーティファクトの保管場所という理由もあったし、さっき領地を貰っても困ると思ったが、改めて考えると一番に来たのはその願いだった。
王は先程の楽しそうな顔を変え、王としての風格を備えた真剣な顔になる。
「その願いを叶えるには相当の努力が必要となる。この世界の常識を変えるとお主は言っているのだから。それを阻もうとする者達も少なからずいよう。
お主に世界を変える覚悟はあるか?」
王は今日見た中で、一番真剣な顔をしていた。
確かに王の言う通り、俺がやろうとしていることは生半可な覚悟ではできないことだと思う。
しかし、俺はこの世界を楽しむと決めた。
ここまでの出来事を見る限り俺は幸福と言っていいだろう。
ならば、この幸福を他の人達にもわけてやりたい。
そんな考えだった。
偽善者みたいなことを言っている自覚はある。
でも俺は俺自身と周りだけでなく、できるならばみんなに、いや、世界中がハッピーエンドを目指せる世界を作りたい。
生前、そんなことを言えばバカにされる状況だったし、大半の人はそんなことできるわけないと思うだろう。
「ああ、壁はとてつもなく高いと思う。だが、俺はその壁を越えて新たな地平へと向かいたい。この世界で生きるすべての者が幸せに生きてほしい。
だから、覚悟はある」
俺はハッキリと王にそう言う。
俺が目指そうとしている場所ははるかな高みだ。
そこに至るまでは本当に大変だろう。
「よいぞ、お主なら可能かもしれんな。フォクトリア大平原は好きに使うといい。
我が国が支援をしよう」
「王よ!よいのですか!」
宰相は慌ててそう言う。
「元々あの草原は使い道がないのだ。ならばあの戦いの功績者に分け与えても問題ないだろう。
それにヴァレッタ村の鉱山のゴーレムを倒したのもアトスだという。
アルデイト王国はアトスに返しきれない恩を受けている。この程度では足りぬよ。
それにワシもアトスの夢の先にどのような世界があるか気になるのだ」
ゴーレムの件も報告されていたのか。
あの場に警備隊もいたのだから、王都に報告されないわけがなかったな。
「……確かに王の言う通りですな、出すぎたことを申しました」
宰相は元の場所に戻る。
「気に入った!アトス・ライトニングよ、そなたの夢、ワシにも見届けさせてもらおう!」
俺は頭を下げる。
王はマントをなびかせながら、退席した。
こうして、フォクトリア大平原の広大な領土は俺の国の国土となる。




