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第二十三話 死王国動乱 その一

 宿屋に向かう途中声を大きくする魔法なのか、レスリの声が村中に響く。


「異常事態発生!村人、旅人、商人。この村にいる全ての者は大聖堂へと避難するのじゃ!死王国の軍勢が侵攻してきている、みな落ち着いて行動するのじゃ!」


 その声を聞くと道を歩いていた村人やこの村に滞在していると思われる人物達が慌て行動しているのを見かけた。

 その光景を横目に宿屋に帰ってきた。


 宿屋に帰ってみると、慌てている宿屋の主人に話しかけられる。


「アトス様!今の声を聞かれましたか?!」


「ああ、聞いた。会議にも参加させてもらえたよ。ノルンと一緒に早く避難するといい」


 仲間ではあるが、父親がいるなら一緒にいたほうがいいだろう。


「そうですね。そうしたほうがいいかもしれません」


 そこへ、カイとリコリスとノルンが階段を降りてロビーまできた。


「ついに来たか」


 カイはそれほど動じているようではない。

 まあ、1000年も旅していればこれくらいは経験しているのだろうけど。


「アトスさん、私たちも避難するのですか?」


「いや、俺は警備隊と一緒に戦うつもりだ。会議にも参加させてもらったけど、どうやら想像以上に大事になってたみたいだ」


 あの話をどう伝えたものか。

 そう考えているところにノルンが話しかけてくる。


「アトスが……戦うなら私も一緒に、行きたい」


「ノルンは父親と一緒に避難したほうがいいと思うけど?」


「私は……アトスの仲間じゃ、ないの?」


 すごくノルンが寂しそうな顔をしたのでこれまたどうしようかと思ったが、宿屋の主人が


「ノルンがそう言うなら、アトス様ご迷惑かもしれませんがどうか一緒に行かせてやってください。

 それにアトス様の近くにいたほうが逆に安全かもしれません」


 と言った。

 確かに俺の近くに居るほうが安全なのは納得はできる。

 すごく過大評価されているような気がしないでもなかったが。


「わかった、俺が守ります。だからノルンのお父さんは早く避難してくれ!」


「分かりました。では私は避難します。ノルンをよろしくお願いします!」


 そう言うと宿屋の主人は避難していった。


「それで?どんな感じだった?」


 カイは主人を見送った後改めて俺に聞いてきた。


「いや、どこから説明すればいいのか。ひとまず人間の軍団ではない」


「まあ、死王国なんて名前ならアンデッド、つまり不死者と言ったところだろうとは俺も思っていた」


 やはりカイはなんとなく予想はついていたらしい。もしかしたら、クーデターの真相も大体予想がついていたりするのかも。


 ネクロマンサーが一人で議会を制圧したということはつまり召喚したアンデッドを兵士のように使ったということだろう。

 それなら人数の違いなど大した問題ではなくなる。


「でも、それだけじゃないんですよね?」


 リコリスは俺が真剣な顔をしていたので他にも何かあると思ったらしい。


「よくわかったな。アンデッドの軍団だったらまだいくらでも対応できたが、軍団の中に神級ランクに近い魔物が二匹いる。

 ドラゴンゾンビとスカルドラゴンだ」


 その話を聞くと三人は今までで一番の驚きの表情をした。

 そうもなるよな、俺も驚いたし。


「この村の……戦力じゃ、対抗できない。それに……もしかしたら、世界の危機かも……しれない」


 世界の危機か。

 なんかまたとんでもない規模の話になってきたなぁ!


「警備隊でもそんなことを言っていたな。

 さすがに世界の危機とまでは言ってなかったけど」


「どうしたらそんなことができるのでしょうか?これまでそんな話、伝説の中でしか聞いたことがありません」


 伝説くらいの話になるなら本当に危ないかもしれない。


「もしかしたら、なんだが。アーティファクトが関係していたりするのかもしれない」


 カイに言われて妙に納得してしまった。

 この三人のアーティファクトの能力や、カイとの戦闘を見る限りアーティファクトならそんなことができてもおかしくないだろう。


「アーティファクトと合体したときに神級解放とかどこからともなく、聞こえてきたし。ありえない話じゃないな」


 でもそれなら時間制限があるはずなのにどういうことなのだろう?

 あの噂から二日だが、クーデター自体は数日前の話だったはずだし、仮にアンデッドを使役していたとしてもアーティファクトの時間制限があるから、ここまで急に行動は起こせないはず。


 ていうか、これって転生した時にはすでにクーデターあったってことだよね!?

 うむむ、天使の策略を感じる。

 天使許せねぇ。


 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。


「この戦いは恐らく今までの戦いよりかなりの危険がある。俺としては三人に避難してほしいが」


「またまたー、仲間だろ?水くさいこと言うなよ。リコリスもノルンも避難するなんて考えてないだろう?」


 カイはニヤニヤしながら俺の肩に手を回す。

 リコリスとノルンはうなづく。


「私ではあまり役に立てないかもしれないですけど、この国の危機と聞いては避難なんてしていられません!

 ……それにアトスさんの活躍が間近で見られないのは悲しいですし」


 最後の方は小声なのだけど、しっかり聞こえてるんだよなー。

 聞かなかったことにしよう。


「私は……アトスのそばに居たいだけ、だから」


 なにこの女子ズ。

 めちゃくちゃグイグイくる。

 怖い。


「そう言うわけだ、俺達も一緒に戦うぜ!カイさんはアーティファクトの力を使いたいだけだけどな!」


 もう片方の親指を立てて俺にそう言う。


「全く、カイは相変わらず楽しそうだな」


「俺のアイデンティティーだからな!」


 こんなときに困った仲間達ではあったが、俺も一緒に笑っていた。

 こんな風景楽しくないわけがなかった。

 生前、小さい頃の俺はこんな風に楽しく生きる光景を夢見ていた。

 それが今、目の前の現実に広がっていた。


         ☆


 宿屋で俺達が決意を固めていたその頃。

 数日前に起きたリヒテリンス共和国のたった一人のクーデターの話は海を渡り、空を駆け、世界中に知れ渡っていた。

 メクリエンス帝国、マジェス魔道国。

 さらにはこの世界の極東の辺境の島国である、ミグノニア群島連合国にまで届いていた。


 各国は、数日のうちにフォクトリア大平原へと偵察部隊を派遣。


 帝国は風魔法で空を飛びながら映像記録ができる小さなキカイを、


 マジェス魔道国は遠方より偵察ができるあの魔法をさらに強化したような魔法でフォクトリア大平原を国に居ながらリアルタイムで映像が見れる魔法で、


 ミグノニア群島連合国は忍者のような集団で構成された隠密機動部隊の中でも、伝説と呼ばれる隊長一人と、群島最強の剣士を一人派遣し、


 それぞれアルデイト王国の出方を見極めようとしていた。

 その他にも実に多数の勢力がこのリヒテリンス死王国とアルデイト王国の対決がどう終わるのかと、関心を集めていた。

 なんせここで王国が滅ぶようなことがあれば死王国の矛先が自分達の国にも向くかもしれないのだ。

 そりゃあ偵察もしたくなるというものだ。


 そんな世界の動きなどこの時の俺は知るよしもなかった。


         ☆


 そして、次の日。


 まだ日が昇らない夜の世界で俺達四人は村からフォクトリア大平原に出ていた。


「うわぁ、すごい数だよ、アレ」


 俺は夜も昼と同じくらい見える驚きの視力でまだ遠くにいるアンデッドの軍団を見ていた。


 ちなみに、国境警備隊はアンデッド軍団が目前に迫る前にヴァレッタ村の近くの平原一帯に、たいまつを置いた。

 そのため、ある程度はカイを除く二人もその光景を見ることができた。

 そして、俺達のいる場所より前に国境警備隊が布陣した。

 そこには村に来たばかりの調査団も参戦している。


 数えたくないほどの量のアンデッドが隊列を組んでこちらへ迫ってくる。

 隊列を組むということはやはりネクロマンサーが召喚し、指示を出しているということになる。

 なぜならアンデッドは召喚した主が死んだ場合、あんな隊列を組めなくなるからだそうだ。

 ちなみに、おなじみのカイの知識だ。


「すごい数ですね……一緒に戦うと言いましたけど、あの数は少し心が折れそうです」


 リコリスはすごく不安そうな顔をしていた。


「本当……だね。あの数は少し怖い」


 ノルンはリコリスの言葉に同意し、そう言う。

 俺もあまりの数に圧倒されていた。カイはというとのんきに口笛を吹いてる。

 このくらいの軍団とは1000年の間に戦ったことあるんだろうな!

 でなければあんなにのんきに過ごせるわけがない。


「ホントすごい数だよなー、昔戦争していた頃のことを思い出すぜ」


 一体どれだけ昔の話なのだろうか?ていうかやっぱり戦争参加したことあるのかよ!


 とカイの余裕の態度をみて、なんか落ち着いた。カイって旅人じゃなけりゃどっかの国の軍団長やってそう。


「ノルン、アーティファクトを使ってみてくれるか?もしネクロマンサーがアーティファクトを使っているなら放ってはおけないからな」


 アーティファクト集めはしないといけないが、それ以上にフォクトリア大平原の近くの森でリコリスを助けた時に戦ったトレント。

 あの強さ以上のネクロマンサーであるならば被害はもっと大きくなるだろうし。

 それは止めたいところだ。


 いや、情報を整理すれば確実にアーティファクトを持っている。

 でなければあの数のアンデッドと、神級魔物二匹など使えるはずがない。


「うん……わかった」


 ノルンは俺からアーティファクトを受け取ると合体をする。

 最初に使った時はよく見ていなかったが、ノルンの両目は通常の金眼からそれぞれ色が違って髪で隠れている左目は金眼にさらに光を足したような輝く眼で、右目は碧眼のオッドアイになっていた。


 あの澄んだ声によれば観察眼、鑑定眼をそれぞれ解放するらしいので、その両方の眼に能力が付与されているのだろう。


「視覚強化、完了。観察眼、鑑定眼、神級、解放」


 と澄んだ声が聞こえた。

 ノルンはアンデッドがいる方向を向き、観察、鑑定してその情報を俺に伝えてくる。


「あの軍団の……一番奥に強い魔力反応が、ある。それに、これは……間違いなく私と合体しているアーティファクトから出ている神の力と……同じ反応がある」


 ということはやはりネクロマンサーはアーティファクトを使っている。

 さらにノルンは続ける。


「でも、神の力が……歪んでいるのがわかる。あれは人の欲望の力?」


 本人もわからないという顔をして言う。

 アーティファクトは人の欲望の力で神の力が歪むということが起こるのだろうか?

 それならば今後もこのようなことが起きるということになるだろう。

 人の欲望は止められないからな。


「そうか、ありがとうノルン。アーティファクトの反応は俺には分からないから助かるよ」


 俺はノルンに礼を言う。

 あの森で俺はアーティファクトの力を何も感じることができなかった。

 天使のサフィーネに言わせれば恐らく俺が完成された能力を獲得しているからだろうと言うだろう。

 カイは神聖な力を感じるとか言っていたけど。


「待って……この反応はもしかして、形状が変わっている?」


 なんだろう?


 ノルンが驚いた顔をしながらそう言う。

 さらに言葉を続ける。


「ネクロマンサーが……持っている杖。あれがアーティファクト……みたい」


 俺もネクロマンサーがいると思われるノルンの視線の先を見てみると、そこには。


 どうみても()()()()()()()()()()()()()()――


 え?ネクロマンサーって人間じゃないのか!?

 どうみても骨ですけど!


 そのネクロマンサーと思われる者はローブこそ着ているものの、完全にガイコツの姿をしていて片手に光を放つ杖を持っていた。


「分かりやすいな、非常に」


 一連のノルンの話を聞いていたカイも俺と同じくらいには視力があるらしく、俺と同じ方向を見てそう言う。


「ネクロマンサーを……見てて気づかなかったけど、あのアンデッド達……一体一体が上級ランクの強さがある」


「え?」


 何を言っているんだろうノルンは。

 あのとんでもない数のアンデッド一体一体が上級ランクだって?

 それじゃあ国境警備隊と調査団だけじゃどう考えても無理だぞ!?


 上級ランクの魔物とは冒険者ギルドの討伐依頼においてかなり上位のレベルの魔物である。

 並みの冒険者では太刀打ちできないとカイから四人でグダグダしていた時に聞き流していた話だったが。


 あの数全部が上級ランクの魔物だって!?冗談じゃないのか?


 ノルンの話は想像を越えていた。

 これはなかなか骨が折れそうだな。

 もはや戦争にすらならない圧倒的な戦力差に俺もさすがに困った。

 どーしようかな、これ。


この話が終わるくらいが第一章になります。


「面白い!」


「続きが読みたい!」


と思ったら


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