第二十二話 死王国動乱序章
カイと戦った次の日。
それは突然訪れた。
死王国が動き始めたという衝撃の話が村中を駆け巡ったのだ。
「本当に動き始めたのか」
俺は今日は非番だという警備隊の隊長に連れ出されて朝から酒場に来ていた。
酒場ということで、外見が16歳に見える俺はそれとなく隊長に大丈夫かと聞いてみたらこの世界は15歳で成人とされると隊長に聞いた。
マジかよ。
そんなことを酒場に来る道中に聞いていたが店のイスに座ったと思ったら、警備兵が酒場に慌てて入ってきたのだった。
兵士は敬礼をすると、
「た、隊長!こちらにいましたか!
リヒテリンス死王国の軍勢と思われる集団がフォクトリア大平原をまっすぐ東に進んできていると空から魔法で平原をパトロールしていた魔道士より報告があがりました!」
と報告を送ってきたのだった。
確かにカイの記憶にも今いる場所から遠くを偵察できる魔法があると記憶されている。
「ついに動き出したのか。何かは起こると思っていたが」
隊長はここに来てすぐだったので酒を飲んでいなかった。
イスから立ち上がり俺の方を向く。
「アトス殿、今日は非番でしたがのんびりしてもいられなくなったようです。
誘っておいて申し訳ないが、私は兵舎に戻ることにします」
やはり何かしら起こったか。
ならば俺もその話を詳しく聞きたかった。
「俺はただの旅人ですが、何か役に立てるかもしれません。一緒に連れていってください!」
これが内乱だったらこんなことにはならなかったのだろうが、相手は国の名前を死王国としていたので不吉ではあった。
そもそも死王国なんてまず名前の響きが危なすぎるしな。
「しかし、いくらアトス殿がそう言ってもこれは国の問題ですからアトス殿に関わらせることは難しいのです」
確かに隊長の言い分はもっともだ。
ただの旅人を軍の会議に参加させるわけにはいかないのだろう。
「でも俺もその情報を知りたいです。相手は恐らく普通の人間ではない可能性が高いですから」
仮に国同士の戦争となればそれは国同士の問題だし、ただの旅人には関係のないことだ。
しかし相手は多人数で構成されていたはずの議会を一人で掌握した人物なので、何か危ない気配がした。
「……わかりました。本来一般人を軍の会議に参加などさせるわけにはいかないですが、アトス殿はこの村を救った人物だ。少しの融通は利くでしょう」
「すみません、隊長さんにわがままを言ってしまって」
「いいや、なに、これくらいはお安いご用だ。アトス殿がいなければ今のこの村の平和はないのですから」
かなり無理を言ってしまって申し訳なかったが、俺はその死王国の軍とやらが気がかりだった。
噂によると共和国の軍はなにも関与していないと思われる。あの話ではたった一人でと言っていたし。
隊長についていき兵舎に到着する。
この兵舎はそこそこ大きく、警備隊本部と言えるくらいの大きさはあった。
中の会議室へと向かい部屋に入ると、それぞれの担当者と思われる数名がテーブルを挟んでイスに座り隊長を待っていた。
「その方はアトス様ではないですか!?良いのですか、軍の会議に参加させても」
「相変わらず無茶なことをしますな、隊長殿。しかしアトス殿が来てくれたのならばこれ程心強いものはない」
あのゴーレムの一件以来警備隊の中でも俺の名前は広まっていたようだ。
それぞれの人物は驚きながら俺をみているが、大体は好意的のようだ。
ひとまず安心した。
俺は少し照れて、挨拶をしながら空いていたイスに座る。
隊長も座り、会議が始まる。
「非番なのにすみませんな、隊長殿」
隊長の近くに座っている人物がそう言う。恐らく副隊長くらいの人物なのだろう。
「それはいい。それで早速だが死王国の軍団とはどういったものなのだ。共和国の兵士なのだろうか?」
隊長がそう聞くと、魔道士のローブを来ているおじいさんのような姿をした人物が報告を始める。
「先ほど見たところによるとな、どうも人間の軍団ではないようなのじゃ」
先ほどの平原を偵察していた魔道士というのはこの人物なのだろう。
「人間の軍団ではないとはどういうことだ?」
「死王の名の通り軍団のほとんどがアンデッドじゃ。ゾンビやらスケルトンやらまるで死者の国の軍団のようじゃ」
ということは死王とはネクロマンサーでほぼ間違いないだろう。
ていうか、ゾンビとかスケルトンって存在するんだな!さすが異世界。
楽しんでる場合じゃないんだけどな!
「不死者か、では人間ではないのだな?」
「その通りじゃな。じゃが、本当に驚いたのはここからの話でのう。
魔物ランク神級に相当するドラゴンゾンビとスカルドラゴンの存在も確認された。ワシも信じられなかったのじゃが、何度確認しても二匹いるのじゃよ」
その魔道士の報告を聞いた隊長は非常に驚いた表情を浮かべる。
神話通り越して、神級だと!なんてものを使っているんだ。
というかネクロマンサーはそんなものも使役できるというのか?
「バ、バカな。そのようなランクの魔物を使役できるわけないだろう!」
隊長すらも混乱するほどの出来事らしい。
そりゃあそうだろう。
なんせ、この世界においては普通は超級ですらあまり出会うことはないらしいのだから。
なのに遥かに強大な神級が二匹もいるとなれば誰だってそう思う。
俺もまだ神級のランクの魔物とは戦闘したことはない。
というかしたくはない。
「しかし、現に存在しているのじゃ。ワシとて信じたくはないのじゃが現実なのじゃよ」
「ここに配属されている警備隊だけではどう考えても太刀打ちできない!王都に援軍要請をするべきだ!」
会議を聞いていたさっきの副隊長と思われる人物が顔を青くしながら立ち上がりそう言う。
「落ち着け。私も今そう思っていたところだ。それより王都からの援軍が来るまで耐えられるか、それが一番の問題だ」
隊長は汗をかきながら、立ち上がった人物にそう言う。
それはいい。神級ランクの魔物が二匹いるのは分かった。
しかし、召喚したネクロマンサー自体が強いという可能性はないのだろうか?
神級を召喚?したということになればそのネクロマンサーも相当に強いってことにならないか?
「あの、ネクロマンサーはどれだけ強いのでしょうか?」
俺は迷走し始めた会議室にそう言う。
すると会議室の全員は俺の方を一斉に向き、忘れていたという顔した。
かと思ったら隊長も含め全員が顔を青くする。
「……住民に避難指示を出さなくてはならないだろう。援軍が来るまで耐えられるかすら分からないこの状況ではそうするしかない。
会議は終わりにしよう。まずは王都への援軍要請と住民の避難指示を出そう」
隊長は頭を抱えながらそう言う。
「死王国の軍勢はまだ平原のはるか遠方じゃからまずはそのほうがよいかもしれぬな」
この老人の魔道士、落ち着いている。やはり年を取ってるだけあるのだろうか?
「レスリ。どれだけの時間の余裕があるのだ?」
あの老人はレスリという名前らしい。
「そうじゃな。フォクトリア大平原に侵入してからまだ一時間も立っておらぬ。
リヒテリンス共和国から侵入した場合、仮に朝から行動した時とするのじゃが、このヴァレッタへ到達するには馬車の場合は半日。歩いた場合は通常一回夜を越える必要がある」
それを聞いた隊長は時間のおおよその目安がついたようで、
「相手を死者とするなら、休むという行動はしないはずだ。
ならば大体明日の日が昇る少し前くらいには村の付近に到達するか」
と言うと、レスリはうなずく。
夜通し休まずに歩くならばそうなるだろう。
不死者と言うのは夜に活動するイメージしかないが、今も移動中となれば昼も夜も関係が無さそうだ。
「避難場所はこの村の大聖堂にすると良いかと思います。あそこには教国から派遣されている聖魔道士がおるので、対不死者ならばそうそう守りが抜かれることはないはずじゃ」
レスリの言葉に隊長は首を縦に振る。
ほう、教国なんて国があるのか。
ていうか、大聖堂とか村に来たときは見かけなかったけど。
もしかして、俺がまだ見ていない東側にあるのだろうか?
と思ったのだが、ふと窓の外を見てみると空は不気味な暗さの雲が日の光を隠していた。
ん?おかしいな。
酒場にいたときは晴れていたはずだったんだけどな?
「そういえば空が暗くなってますけど、今日こんなに天気悪かったですかね?」
俺がそう言うと会議室の全員は空を見る。
「先ほどまで晴れていたはずじゃがのう。こんなにいきなり天候が変わるなど何かおかしい」
レスリも疑問に思ったらしく、あごのヒゲを手で撫でながらその空を見ていた。
「そういえば、クーデターが起こったあとに急いでこちらに逃げてきた商人の話なのですが、こちらに来る途中、共和国の国土全体の空がいきなり暗くなったと聞きました」
また別の人物がそんなことを言う。
クーデターと同時にそんなことが起こるなど偶然とは思えない。
もしやネクロマンサーは不死者が活動しやすいように天候を操作したのだろうか?
だとしたら、ネクロマンサーは間違いなく神級の魔道士以上の能力があることになる。
天候操作など、簡単にできる魔法ではないはずだ。
「こうして話しているだけで時間の無駄だ。早速各自行動を起こしてくれ!我々とて国境を任される警備隊なのだ。
今はできることをしよう!」
隊長がそう言うと会議は終わり、それぞれの持ち場へと散らばっていった。
会議室を出るとレスリに話しかけられた。
「アトス殿、お仲間を連れて大聖堂へと避難されるとよいぞ。あそこなら安全なはずじゃ
尤もそれもいつまでも持つかは言えないのじゃが」
レスリは苦笑いをしながら頬をポリポリとかく。
「でも、俺が戦えば多少は役に立てるんじゃないですか?」
「そうなのじゃが、アトス殿は旅人。無理にとは言えまい」
まあ、正直俺とはなんの関係もないからレスリの言葉はその通りなのだけど。
「でも神級ランクの魔物二匹にネクロマンサーとかどう考えても耐えられるレベルじゃないですよね?」
「不甲斐ないが、その通りじゃな。それどころかアルデイト王国の存亡の危機かもしれん」
いやそれ大事だから!どう聞いても大事だから!
王国の存亡の危機とか平気な顔して言ってるけど!
「そんな話を聞いたら手を貸したくなるじゃないですか。これは俺の個人的な話ですけど、この王国、結構好きですよ。
それに避難なんて考えなかったです」
俺は苦笑いをしながらそう言う。仲間がどう言うか心配ではある。
転生して間もないが最初に訪れたこの国はみんなが明るく生活している印象があった。
俺はそんな王国のバッドエンドは見たくない。どうせならみんなで楽しく生きて居たいのだ。
「良いのですか?」
レスリは申し訳なさそうに俺の方を見る。
「気にしないでください、俺がやりたいだけですから」
レスリが礼を言うのを聞いた後、俺は仲間が待つ宿屋へ向かうのだった。
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