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第二十話 怪しい雲行き

「リコさんの父親?」


 俺はリコリスから聞いて目の前の鎧姿の男性を見る。


「ああ、アルデイト王国調査団と一緒にこの村へ来たのだが、店で買い物をしている娘を見つけて嬉しさのあまり話しかけて少し話したら、アトスという人物に助けられたと聞いてな」


 そのリコリスの父親らしい人物は嬉しそうに語る。

 すっごく親バカっぽいイメージを受けた。


 ていうか調査団?初耳だけど。


「なんの調査をするんですか?」 


「ん?ああ、なんでも山を崩して、完璧に元に戻したという人物がいるらしいとの話で王様が興味を持ってこうしてその人物を探しに来たわけだ。

 まあ、私は謹慎中で調査団とはなんの関係もないのだがな!」


 山を崩した人物?

 あ、それ俺です。

 すいません。


「き、謹慎ですか……また職務放棄ですか?!」


 その話を聞いたリコリスは頭を抱える。

 またということは初めてではないのだろう。


「いや、王にリコリスを探しに行かせてもらおうとしたら出すぎたことを言った罰として謹慎処分を言い渡されたのだ!

 王に笑いながら絶対にヴァレッタ村へ行ってはならんぞと言われたのでな、これは行くしかないと!」


 この父親いろいろ大丈夫なのだろうか?ていうか王様も変わった人だな。

 それってつまり謹慎は建前で、本心はここに行ってこいってことだろう!?


「うちの娘の命の恩人に礼の一つくらい言わないと失礼だと思ったのでな!」


 それでここに来たという訳か。

 大胆というか律儀というか。


「そ、そうですか」


 そしてなぜか俺はその父親に引っ張られ宿屋の隅まで連行される。

 なんなんだろう?


「ところでアトス君、うちの娘は可愛いだろう?」


「え?いや、はい、そうですね」


 なんでそんなに顔を寄せて来るんだろう?


「君のような人の妻になれる人物は幸福なのだろうなぁ」


 えっと、これって娘を嫁に貰わないかという?そういう圧力?!


「えっと、そんなことないですよ、ははは……」


 とりあえず笑ってごまかす。


「リコリスも嫌ではなさそうだし、私としては早く孫の顔を見たいのだが」


 おいおい、少年に言うようなセリフではないぞ?

 確かに俺は元々26だし、結婚していてもおかしくない年ではあるが、今は16歳の外見なんですよ?

 そこのところわかっているのだろうか?


「私も長女のリコリスができたときは君くらいの歳のことだ」


 ちょっと待て、この世界貞操観念どうなっているんだ?!


 で、そんな俺との会話を聞いていた宿屋の主人がすごい顔でこっちに歩いてくる。


「それはうちのノルンの役目だ!」


「ほう、ノルンとはあの物静かなお嬢さんかな?」


 二人の父親は火花を散らす。


 あーあ、めんどくさいなぁ、これ。

 当事者としてはもう解決しているというか問題の先延ばしなんだけど、終わってる話だったのでこの二人の父親はすごくから回っているような気がする。


 俺を置いてきぼりにして、父親の会話は白熱し始めたので、俺は気づかれないようにその場を抜ける。


「た、大変ですね、アトスさん」


「お父さんの……あんな顔初めてみた」


「いや、ほんと勘弁してくれ」


 リコリスとノルンは話の内容がまさか自分達のことだとは思っていないようで普通に話しかけてくる。

 俺は頭が痛そうに額に手を当てる。


「それはそうと村の旅人からアトスさんの噂とは別に不穏な話を聞きました」


「不穏な話?」


 それは聞いておかないといけないな。

 この村に来てからなかなか時間がとれなくて情報収集ができていなかったし。


「うん……リヒテリンス共和国で……数日前、クーデターが起きたって」


「え?リヒテリンス共和国って平和なイメージがあったんだけど」


 なかなか不穏な話だった。

 でもそれがどう関係してくるかわからなかったが、クーデターとはただ事ではない。


「でも共和国って議会制なんだろ?」


 共和国とは君主を持たない国家にあたる。

 主に民主主義国家に多い。

 ということは議会制とかのはずだが、議員全員を拘束するのは一人でできることではないはず。


「ええ、そうなんですが、どうも一人で議会を掌握したとか」


 軍部のクーデターはよくある話のはずだが、個人で掌握?どうしたらそんなことができるのだろうか?

 一人で掌握ということはそれはもう独裁者の誕生に等しい。


「そんなこと、できるのか?」


「詳しくは……わからない。

 でも、リヒテリンス共和国は……名前をリヒテリンス死王国としたって、旅人さんが……話してた。死は、死ぬの死」


 死王国?なんだそれは。

 俺の生前の記憶ではそんなおかしな国の名前をした国はなかった。

 カイの方を見ると難しそうな顔をしていた。


「死王国、もしかしたらネクロマンサーか?」


 カイがそう言う。

 ネクロマンサーとは死体や死霊を自分の手足として使う魔術師のことだ。

 ファンタジーとしてはおなじみの職業ではある。

 主に悪役に多い気がしないでもない。

 だが、その通りだとしたらネクロマンサーが王となっているということだろうか?


「ね、ネクロマンサーですか?……た、確かに死王と呼ばれるほどの能力を持ってる人物というとそうかもしれないですが」


「でも……一人で、議会を掌握するなんて」


 何事も起きなければ良いのだけど。

 だが、クーデターともなると確実に何かは起きることになるかもしれない。


「なかなか雲行きが怪しくなってきたな」


 そして、その気配を感じ取った俺は先程のカイのアーティファクト運用試験を早急にリコリスとノルンでも試して、制限時間くらいは知っておかないとマズイような気がしたので二人にその事を話す。


「ええ、それは構いませんが」


「アトスの役に……立てるなら」


 二人は疑うこともなく同意した。


 二人で試験運用をした結果、個人差はないということがわかって大体40分の時間だと言うことを確認した。

 あの澄んだ声によるとリコリスは、


「精神力拡張、完了。魔力変換効率、神級、限定解放。魔法障壁、神級、限定解放」


 ということで恐らくあの森で少ししか見れなかったあの魔法障壁、防御魔法の使い手だろうということがわかった。

 同様にノルンは、


「視覚強化、完了。観察眼、鑑定眼、神級、限定解放」


 と澄んだ声で言われていた。

 ノルンは恐らくアーティファクトを鑑定したあの知識とそれがどんなものなのか遠方からでも識別できる能力ではないかと仮定できた。


 こうなるとあと一つくらいアーティファクトがあった方が良かったかもしれないと思ったがないものは仕方ない。

 アーティファクトの機能が知れただけでも収穫としておかねば。


 クーデターの話はなにも今すぐにアクションが起こる訳ではないと思いたいので、保留としておこう。


 三人ともそれぞれ俺ができなそうなことができるのかもしれない。

 カイは正直どこまで戦闘力が上がっているのかはわからないし、いざというときは俺が代わりに戦えばなんとかなるはず。


「あんな話をしたあとですが、アトスさんこれから予定はありますか?」


「いや、今日はいろいろ疲れたから宿屋でゆっくりしようかなって。

 今は宿から外に出ると人に囲まれるだろうし」


 あの村の娘達の輪に自分からは絶対に入っていけない。

 俺は人に囲まれるのが苦手だしな。


「では、アトスさんの部屋で常時発動の話でもしようかと思っていたのですが」


「なら……私も一緒に、聞いていい?」


 そういえば村に入る前にリコリスとそんな話をしたような記憶がある。

 それにこうして無駄に外から視線を集めて疲れているよりは有意義だろうし。


「さんせーい、カイさんも参加するぞ!」


 ということで、俺とカイの部屋にリコリスとノルンも来ることになった。

 リコリスが若干面白くなさそうな顔をしていたが仕方ない。

 ちなみにあの二人の父親はいまだに言い争いをしているので放っておくことにした。


 部屋に着く。

 スイートルームは確か四人部屋と言っていたが今はちょうど四人で、テーブルの東西南北にそれぞれ座る。

 リコリスが講義を始める。

 リコリス先生の誕生である。


「さて常時発動ですが、仕組みはアトスさん達が持っている空間袋の使い方と似ています」


 そうなのか、ということは簡単な構造なのかな?


「空間袋の仕組みは空間魔法に魔力のパスをつないでいつでも使えるように構成されています。

 常時発動は空間袋の仕組みの基礎にあたりますので、その名前の通り魔法を常時発動し続けるということになります」


「それって精神力尽きたりしないのか?」


 常時発動し続けるということは常に魔力生成をしていないといけないのではないだろうか?

 全く知識のない俺はそこが疑問だった。


「いえ、常時発動は一度魔法を構築すればあとは勝手に空気中からマナを魔力に変換しつづけるので、使用者は精神力を最初だけ消費して発動すればいいんです」


 ということは現代世界で言えば手動モーターのようなものなのだろう。

 手動モーターは稼働させるために人間の力が必要だが、動けばモーターを止めるまで稼働する仕組みのはずだ。

 これと同じで最初に精神力で魔法を発動させたあとは止めるまで稼働しつづけるということになる。


「へえ、ならやっぱり魔法が苦手な人間でも使えるんだな」


 仕組みとしてはとてもシンプルなのでどんな人でも使えるんだろうな。


「やってみるのがいいかもな」


 カイがそう言う。

 確かに考えるよりやってみた方がいいかもしれない。


「私も……やってみる。常時、発動はまだやったこと……ないから」


 ノルンは常時発動をしたことがないらしい。

 まあ、使う場面なかっただろうしな。


「じゃあ、一緒にやってみるか!」


 ということで、俺とノルンはイスから立って常時発動をやってみることにした。

 リコリスは先生なので教えようと立ち上がる。

 カイは座りながらこちらの様子を見ることにしたようだ。


「基本的には普通の魔法を使う感覚と変わらないので、アトスさんは魔法名だけでいいと思います。

 ただ、魔法名のあとにはオートをつけてください。

 とりあえず、基本の魔法障壁、マジックウォールを試して見ましょう。私がまず手本を見せますので」


 そう言うとリコリスは魔法の詠唱を始める。


「其は壁。あらゆる厄災より我を守る障壁なり。

 マジックウォール・オート!」


 詠唱が終わるとリコリスの体全体を円形に紫の膜のようなものが包む。

 それは一瞬で透明になり、魔法障壁を張っているなどわからない状態になった。


「こんな感じです。こうすれば不意打ちなどにも対応できるようになります。触れてみてください」


 そう言われたので俺はリコリスに手を伸ばす。

 すると空中で何かにぶつかり、手はそれ以上リコリスの方へと伸ばせなかった。


「すごいな、これじゃあ障壁張られてるか全くわからないな」


「ホントだ……」


 ノルンも手を伸ばしたが俺と同様にあるところから手が進まない。


「ではやってみてください」


 俺とノルンは同時にマジックウォールを使う。

 俺はいつも通り詠唱なしで魔法名だけで発動させ、ノルンはリコリスのマネをして詠唱し発動させた。

 簡単な魔法なのでノルンも失敗せずに発動できた。

 しかし俺はなぜか魔法障壁が何層にも重ねられた状態になっていた。


「意外と簡単なんだな」


「ええ、常時発動はそう難しい方法ではないですから」


「それにしたって、相変わらずアトスの能力はおかしいな。

 あの魔法障壁何層構造だよ。並みの攻撃何も通らないぞ、あれ」


「やっぱり、アトス……すごい」


 相変わらず俺の魔法だけおかしい状態になるなー。

 能力のせいだけど。

 なんかリコリスを一瞬で追い越してしまったような気がしたので残念だ。

 もう少し生徒気分を味わいたかった。


「アトスさんは本当にすごい才能を持っているんですね!先生としては嬉しいです!」


 リコリスはそんなことを全く気にしていないようで嬉しそうに笑う。

 まあ、先生が喜んでくれるならこの能力も悪いものではないか。

 それに構造を教えてもらわなければ使えなかったので間違いなく先生だろう。


 いろいろあったが、俺は無事魔法の常時発動を習得した。


投稿速度と執筆速度が違いすぎているので、第一章が終わったあとくらいからできる限り、毎日一話投稿に切り替えます。


「面白い!」


「続きが読みたい!」


と思ったら


下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!


またブックマークも何卒よろしくお願いします!本当に執筆のモチベーションになっています!

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