第一話 目覚めたら草原だった
「そっか、君死んじゃったんだね」
謎の声が聞こえた。
一体誰なのだろう?
姿は見えなかった。
「ごめんね、僕には死者を生き返らせる能力はないんだ。
でも君の能力をこの先の世界で覚醒させることはできる。
転生する気はあるかい?」
その声は俺に問いかけているらしかった。
(転生?)
意識だけの俺の声は思念のようだった。
しかし、いきなり転生とか言われても何かの冗談かと思ってしまう。これはあれか?
よくある転生モノの始まりってやつか?
「そう、転生。もちろん、このまま天界に行って次の人生を待つのもありだけど」
はあ、天界?
天界なんて本当に存在しているのか?にわかには信じられない。
というか、天界とかいっているこの声の主は天使みたいなものなのだろうか?
(俺の体には戻れないんだよな?)
「そうだね、即死だったみたい」
さらっと即死とか言ってくるあたり信じがたいが、そうなんだろう、なんせ体験したのだ。
あの全身の骨が折れる感覚。
内臓が破裂する感覚を。
正直思い出したくもない。
(転生したら何かいいことあるのか?)
転生するメリットとはどんなものだろう?少し興味が湧いた。
「いいこと、かどうかはわからないけど、君の能力は転生した先の世界できっと必要とされる。それだけの価値がある。
それにアドバイザーもつけてあげよう、きっと楽しい事が待っているよ!」
なんだかよくわからないが、謎の声は楽しそうだった。
もし天使だとしたらあんまり信じたくはないし、なぜ俺だけ転生させるのか、謎の声の主になんのメリットはあるのかとは思った。
だがその謎の声のあまりの楽しさにつられて、
(……信じがたいが、信じてみよう。天界で次の人生を待つより、楽しそうな人生をおくってみたい)
と思ってしまった。
その思念を受け取った謎の声の主は話し出す。
「うん、わかった。でも転生したあとは君次第だ、苦しい道を歩くか、楽しい道を歩くか。
最後に一つだけ、どうか世界を救って欲しい」
(ちょ、まっ―――)
世界を救う?どういうことだ?
そう聞きたかったが、思念を発する前に謎の声の力なのか、暖かいベールに包まれたような感覚がした。
ここで、一度俺の意識は沈黙する。
☆
風の音がした。
日光の暖かさを感じた。
日光の眩しさに目を開けると青空が広がっていた。
俺はちょうど仰向けの体勢で寝そべっていたらしい。
とりあえず、体を起こす。
目の前を見てみると、草原が広がっていて俺は少し悩んだ。
ついさっきまで、なんか変な夢をみていたような?
記憶が曖昧だった。
それに少し前まで俺は交差点にいたはずだし、トラックと正面衝突して即死していたはずだ。
もしかして、ここは天国なのか?
天国というのは草原が広がっているものなのだろうか?
訳がわからない。
試しに自分の頬を引っ張ってみる。
痛い。
どうやら夢というわけではないらしい。
というか、なんか手がゴツゴツしているし、背も前の俺より低いような?
(おや?やっと起きたのか)
頭の中で声が聞こえる、気のせいだろうか?
(気のせいってことはないぜ!)
やたら明るくて、少年のような声だった。
この声は知らないが、こんなイメージのキャラクターを俺は知ってる。
――自分の小説の主人公、カイ・ライトニング
その主人公のイメージにガッチリ当てはまる特徴だった。
「どういうことなの?ていうか、お前はカイ・ライトニングであってるのか?」
声を出して気づいたが、俺の声は頭の中で話している声とよく似ていた。
(なんで名前知っているか謎だが、間違いなくカイ・ライトニングだぜ!
ハッハッハ、いきなり天使から君の体に別の意識が転生してくるから、よろしくね☆
なんて言われたからどうしたものかと思ったが、意外と普通の奴だな!)
「普通は余計だ」
思わず文句を言う。
傍から見れば一人で遊んでいるアブナイ人であるが、今の俺は正直いろいろ訳が分からなすぎて、そんなことに気をつかう余裕はない。
そして、ハッとする。
「天使?今、天使っていったのか?」
(ん?ああ、そうだが?)
実在していたのか、天使!
と一人でテンション上げてるバカがいた。
……俺だった。
「いや、天使っていたのか?」
(いや、普通いるだろ、天使くらい)
「ごめん、何を言ってるのかわからない」
天使が存在することが普通?どういう世界なんだ。
いや、それ以上に俺はどうやら転生してしまったらしいということは、理解した。
頬を引っ張っても痛いし、夢ってことではないらしい。
おぼろげながらも、ほんのさっきまで見ていたような気がする夢を思い出した。
あれはもしかして本物の天使だったのか?
「ちょっと待って、今いろいろパンク中だから」
(構わんよ、ゆっくり考えるといい、若人よ!)
カイってこんなキャラクターだったかな?とか思いもしたが、よくよく考えるとこんないつも陽気で、さまざまな困難を笑いながら解決していった人物だったのは間違いない。
しかし、俺はそれよりも本当にカイという主人公に転生?あるいは憑依したのか?
ということを確かめたかった。
「質問だが、この近くに川とか湖なんてあるか?」
(ああ、あるぜ、今俺の記憶をお前に送るから)
は?記憶を送る?
だが、そんな疑問はすぐにぶっ飛んだ。
俺の知らない他人の記憶が流れ込んでくる。近くに湖があるらしい。
「今の、なに?」
(記憶の共有だが?魔法使えばこれくらいたやすいだろ?)
ま、ほ、う?
もしかしてゲームとかファンタジーによくででくるあの魔法のことをいっているのだろうか?
「いや、魔法ってないない」
(ところがあるんだな、これが)
「マジすか?」
俺はアホ面でそう呟いた。
どうやら魔法という概念がある世界らしい。
「まあ、うん、いいや、とりあえず湖に行く」
(ああ、そうかい)
「ウン、オレ、ミズウミ、イク」
もう考えるのもバカバカしくなってきたので、ひとまず湖を目指す。
混乱しすぎて逆に冷静になるってことないか?
今の俺はまさにその状態で、いろいろ考えを放棄して、周りの景色を見てみると、まず目にはいるのは、緑色の草原。
カイにまた記憶の共有をしてもらったが、ここはフォクトリア大平原という大きな村から少し離れた場所らしい。
そして、視線を少しあげるとその先には山が連なっている。
あの山はゼーダ連山という名前で、どこの標高も高い。
生前に聞いたことがあるエベレストは確か8800mとか信じられない高さであるらしいが、ゼーダ連山は大体8000mはありそうだ。
連なった山頂は万年雪が降っているのか真っ白だった。
これから向かう湖は、フォクトリア湖という名前で、先程の大きな村に水を送っているらしい。
(一休みしていたら体を乗っ取られましたってか?)
カイは終始この調子で、意識体になったことをまるで気にしていないようだった。
「俺が言うのもアレだけど、もうちょい焦らないのか?」
(焦る?ご冗談を、俺は意外と楽しいぞ!)
そして、豪快に笑い出す。
サイコパスなんじゃないだろうか、こいつ。
自分で創造したはずのキャラクターだが、ここまで豪放磊落な人物だとは。
こいつなんて言っちゃってるが、俺もこの奇妙な体験を楽しんでいた。
「ところで、意識体だけっていうのは不便じゃないのか?自分の体を動かせないというのは。」
(うーん、まあ不便と言えば不便だが、やろうと思えば器を用意して魂だけそれに移すなんてことも可能だし、あんまり気にしてない)
「はい?今なんとおっしゃいました?器を用意して、魂だけそれに移す?ご冗談を」
さっきカイが言った言葉を真似てみる。
どこの錬金術だよ、もし現実世界にあったら世界中から注文が殺到するだろう。
(いいや、冗談じゃないぜ?今ここでやってやるか?)
「見てみたいかも。それにこう意識だけで話していると俺自身がアブナイ人に見えそうだし」
(じゃあ、見せてあげよう、特別だぞ!)
そう言うとカイが、俺の体から何かを取り出していく感覚がした。
(迸る生命よ、汝の生命は、魔力の本流による体へと移り変わり、新たな生命として生誕する)
いきなりなんかの詠唱が始まった。
(誕生せよ!バースノルジカ!)
詠唱が終わると俺の視界は真っ白な光によって埋め尽くされる。
光が収まると、目の前には俺の体と同じ身長で、黒い服だが髪の色が銀色の人物が出現した。
「はい、というわけで、俺だ!」
銀髪の少年は胸を張り、右手の親指を立てて、ニカッと笑う。
「……誰?」
「いや、だから、カイさんですよ、その体の主!」
先程までの親指をしまい、今度は人差し指で俺を指していた。
「わかったよ、カイがおかしい人物ってことは」
俺はもう適当に流すことにした。歩き出す。
「ねえ、待って、いや、待ってくださいよぉ」
半泣きになりながらカイは声をかけてくる、忙しい奴だな。
「もう少し驚こうよ、ねえったら!」
「はいはい、ワー、スゴイデスネー」
思いっきり棒読みだった。
「わー、すっごくバカにされてる気分だね☆ってコラー!」
ノリツッコミ乙、楽しかったよ。
心中そんなことを思いつつも、真面目に相手にすることにする。
「どうやったんだ?」
「いきなり真面目だな!って、これか?これはな、古代魔法ってやつで、魔法ランクで言えば、神話級?だったかな、その魔法」
魔法ランク?
どうやらこの世界には魔法にもランクが存在するらしい。詳しく聞いてみよう。
「その魔法ランク?ってのは何段階あるんだ?」
「えっとね、初級、中級、上級、超級、神話級、神級だったかな、この6個だね」
と、カイは両手の薬指、中指、人差し指を立てて説明してくる。
見た目が少年っぽいので、なんか可愛い。
いや、俺にそんな趣味はないのだが。
「ふーん、そうなのか、ありがとうなんとなくこの世界のことが少しわかった」
それはいいのだが、さっきの魔法は神話級と言っていたが、俺の書いた小説にはそんな設定はなかったはずだ。
それどころか、あの小説は未だに未完で執筆している途中だった。
故にこの世界の結末など考えたこともなかった。
もしかしたら、この世界は俺の創造したあの世界とは勝手が違うのかもしれない。
この考えは持っておこう。
小説と同じ世界と考えるのは早計だ。
「まあ、これくらいなら常識だし、知っておいて損ではないぜ?お前、この世界のこと何にも知らなそうだし」
「お前って言うな、俺には西坂悟って言う名前がある」
「ニシザカ、サトシ?変な名前だな」
「変か?いやうん、確かにこっちの世界ではこの名前の方がおかしいか」
カイ・ライトニングというのはどう考えても洋名だ。
ふと考えたが、サトシ・ニシザカなんてなんかカッコ悪いような。
というか、せっかく転生したんだから、違う名前にしてもいいのかもしれない。
思い出したくないが、両親の付けた名前を名乗りたくないという理由もある。
「ああ、すごく違和感がある、どうだ?改名してみないか?」
「ちょうど俺も同じことを考えていた」
「そうかそうか!見た目も似ているから、俺と兄弟って設定なんてどうだ?」
「まあいいけど、じゃあライトニングは決定か」
「いやなら、別にいいんだぜ?」
「嫌いではない。」
自分が作ったキャラクターの名前を嫌うはずもなく、ライトニング姓を名乗ることは決定した。
次に決めるべきは名前だろう。
「どんな名前がいいだろうか?」
何も浮かばなかった俺は、カイに聞いてみることにした。
「そうだなー」
カイはこちらの何かを見定めるように俺を見る。
何だろう、解析されてる気分だ。
「……なるほど、俺の想像以上の力を秘めていると見た。では、時空神のアトロパテネスからとって、アトスとかどうだろう?」
「時空神アトロパテネス?いいのか、そんな凄そうな神様から」
この時空神アトロパテネスという神も俺が作った記憶にはなかった。
それにカイの言う想像以上の力とは?謎はあったが、ひとまずおいておくことにした。
「いいと思うぜ?アトス・ライトニング」
「アトス・ライトニング……うん、良いかもしれない」
若干いまいちな気もしたが、せっかく時空神とかいう凄そうな神の名前からカイが考えてくれたので、そうすることにした。
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