第十八話 進化する能力
あの鉱山での戦闘が終わった直後、俺は国境警備隊の隊長に重傷者が収容されている診療所へと案内を頼んだ。
診療所は戦場で、重傷者の包帯を変えたり、傷薬を塗る看護士の姿があってとても忙しそうだった。
俺が考えたのはあの魔力に満ちたフォクトリア湖の水の効果で治せないかという安直な考えだった。
カイもあの水を飲んでそんなことを言っていたし。
この村にはあの湖から水が送られているはずなので確証はないので賭けではあったが。
「アトス君といったね?来たのはいいのだが何をするつもりなんだ?」
隣にいる隊長は不思議そうな顔をした。
俺は診療所の水が入った桶からその水を空間袋から出したパールに入れ、少し飲んでみる。
うん、フォクトリア湖の水で間違いはない。
そして、いきなりベッドに寝かされた重傷者の所に行き、腕にかけてみた。
看護士の人は驚いて慌てて声をかけてくる。
「何をしているんですか!?」
もしこれで直らないのであれば俺が悪いということにしようとその重傷者をみていたのだが、その重傷者の腕はみるみる治りキレイな元の腕になった。
次に全身に水をぶっかける。
するとその重傷者は目を覚まし、完全に傷が治ったのを確認した。
看護士は驚いて、
「え?どうやったんですか!?」
と驚きの声を出す。
「えっと、あの水をかけただけです」
俺は診療所の水が入った桶を指差す。
「多分、誰にでも効果があるので試してみてください」
看護士は疑惑の顔をしながら、水をくみ、重傷者の傷にかける。
するとこれまたキレイに治る。
これは普通の人がやっても同じ結果になるはずなので、あのフォクトリア湖の水は本当に効果があるということを証明できた。
「すごい!フォクトリア湖の水はこんな効果があったのですか!?」
隊長は目の前の光景を信じられないという表情をして俺を見る。
まあ、俺が改造しちゃったようなものだけど。
「ここに来る途中、この湖にはすごい回復効果があるのを知りまして、もしかしたらと思ったんです」
と、嘘をついておく。
別にわざわざ俺がやりましたなんて言う必要ないしな。
「水をくむ手伝いします」
「そうとわかったら私も手伝わなくては!」
隊長と俺は診療所の近くの水路から水を桶いっぱいにして診療所を往復する。
あ、そうだいちいち往復するのもあれだし魔法使ってみようかな?
そう思った俺は馬車を止めた魔法の応用で鉄のパイプをいくつか作り、それぞれ火の魔法で連結させていく。
水路の方には重力魔法の応用で水路からこのパイプに一部の水流が向くように、魔法刻印をする。
そして、もう片方の診療所の方は水流が任意で止められるような、スイッチ式の重力魔法の刻印を入れる。
その光景を見ていた隊長は何をしているんだろうか?と不思議そうな顔をしていた。
診療所の外で試験運用した結果、問題なく動作をしてくれたのでなんとなく嬉しくなった。
それはまた隊長を驚かせ、看護士も驚きの表情をしていた。
これは現代世界で言えば水道のような形式になるだろう。
「看護士さん、ここに手を当ててみてください」
診療所内にいた看護士にそう声をかける。
「え、ええわかったわ」
外に出てきた看護士がスイッチに指を置くと水が蛇口から出てくる。
「じゃあ離してみてください」
言われた通りに看護士が行動すると水が止まる。
「これは驚いたな!話に聞いたメクリエンス帝国の技術だろうか?」
隊長は驚きの表情をしてそんなことを言ってくる。
「すごい。これでいちいち水路に行かなくてもいいのね、驚いたわ」
そんなこともあって重傷者達は高速で完全に治っていく。
なんか俺がやっていることって完全にもう隠そうとしてないよね!?
やってしまったあとだが、鉄のパイプを連結させるときに火の魔法で溶接までしちゃったし、どう思われるんだろう。
とはいえ、人の役に立てるというのはそれなりにやりがいはあった。
何よりいろいろできるのは楽しい。
生前の俺ではこんなことはできなかったしな。
そう思いながら、診療所の様子を眺めていたのだが、奥の方に運ばれていた警備隊の兵士はこの診療所の中でも一番深手を負っていたのか、顔に布が乗せられていた。
周りには家族と思われる女性と女の子が泣きながらそこにいた。
「あの警備隊の人、亡くなってしまったのですか?」
「ええ、あなたが見せてくれた水がもう少し早くわかっていれば大丈夫だったかもしれないけど、もう手の施しようがなくて、あなたが来る少し前に亡くなったのよ」
ということは、一歩遅かったか……
俺は少し落ち込んだ。
もう少し早くここに来れていれば、あの男性は助かったかもしれない。
そして、その亡くなった男性のもとへ歩き、男性の手に触れる。
すると突然、俺の心が弾けた感覚があった。
診療所がまぶしい光に包まれる。
「?!なんだ?どうしたんだ?」
このいきなりの出来事に俺は驚く。
光が収まると亡くなったはずの男性は体の傷が完全に治り、目を覚ましたのだった。
「ここ、は?俺はどうなったんだ?ベッドに寝かされた自分の体を空中からみていたような気がするが」
目を覚ました男性は周りを見る。
泣いていた女性と女の子はいきなりの出来事に動揺する。
「あな、た?生きているの?」
「え?ああ生きているらしい」
「お父さぁぁぁん!うわぁぁぁぁん!」
女の子は男性に泣きながら抱きつく。
どうなっているんだこれは?
俺は目の前の光景を呆然とみていた。
死者を生き返らせる魔法は禁忌とされていて、カイの記憶にも魔法の記憶自体はあるが使用した記憶はない。
そもそも、俺はそんな魔法を使ったわけではない。
じゃあ創造の力か?いやこれはなにか別の力の存在の気がした。
これは創造しているわけではないし、確かに命を創造していると言えなくもないが、その場合記憶はリセットされるはずだ。
とはいえそんな大それたこと俺がしていいことなのか?
と考えたが明らかに創造とは違う感覚があった。直前に何か変な感覚があったし。
何が起こったか俺自身も分からなかったが、とりあえずこの家族のバッドエンドは回避されたようなので、複雑だが喜んでおこう。
隊長と看護士は俺を神か何かと思っているようで尊敬の視線を送ってくる。
☆
こうして診療所の話は終わった。
ゴーレム討伐と診療所のことがあって宿屋に帰ったのは夕日が見えなくなり始めた頃だった。
もう暗くていろいろ疲れた俺は部屋に戻るとすぐに寝た。
カイはそんな俺を不思議そうにみていたが、特に何を言ってくるわけでもなく俺は夢の中に落ちていった。
……
………
…………
「驚いたな、君はすでにこれ以上ないくらい完成されていたのにまだ成長するんだ、これは楽しみだな」
夢の世界だった。
目の前にはあの少年のような少女のような天使が居て、楽しそうにそう言っていた。
「なあ、聞いてもいいか?」
俺はあの謎の力の答えをサフィーネに聞こうとした。
「あの力のこと?」
「ああ、頼む、正直何が起こったのかまるでわからない」
今は天使でもなんでもいいから情報が知りたかった。
力をうまく使うには力の正体を知らなければならない。
「あれは創造と破壊の力の進化系。
あえて名をつけるとするなら、運命を操る力だ
でも小説家ならそんな力もあるよね?登場人物の生死を操れるんだから」
運命を操る力?なんだそれは。
確かに小説家とはキャラクターの命運を握っているという側面もあるけど。
「でも俺は完成されているって言ってたじゃないか」
「そうだね、確かにそう言った。
でも君はやはりこれまでの適性者とは違う。
僕も驚いているんだ」
「運命を操る力ってどういう力なんだ?」
「まあ、簡単に言えば存在の因果を変えるってことだね。
君が生き返らせたと言っていいのかわからないけど、あの男性は死ぬ運命だった。でも君がその運命を変えたんだ」
「恐ろしい力だな。それはつまり生きる運命も死ぬ運命も俺の考えで変わってしまうということか?」
最強を通り越してなんか別の何かにでもなってそうだ。
運命を操るなんて神でもないとできないのではないだろうか?
「そういうことだね。正直想像以上だ。
今の君は神でさえも簡単に殺せてしまうだろう」
これ以上のチートが存在するのだろうか?なんか普通の人間とあまりに離れすぎている。
これは化け物と言われても仕方ないだろうな。
「でも、この能力は限定的で君が本当にそう思って直接対象に触れない限りは発動しないようになっているみたいだ。
もちろん何らかの方法で君が命の危機に陥った場合は無条件で君の運命を変えるだろうけど」
「そうか、無差別に発動するのは俺も困る所だったからな」
冗談でこの人死なないかなと思ったら本当に死にましたなんて質の悪い冗談すぎる。
そんなシリアスギャグは俺としても嬉しくない。
ダークすぎる。
「ありがとう、スッキリした」
天使にお礼なんて言う日が来るなど思いもしなかったが、謎を謎のままにしておくよりはずっといい。
問題はそんなあまりに恐ろしい力を持った俺がその力をうまく使えるかどうかだ。
「君を転生させた天使としては退屈しなくていいけどね!うまくその力を使うといいよ」
そういってサフィーネは背中の羽はバサバサさせながら笑う。
この天使は相変わらず楽しそうだな!
俺の不安をあざ笑っているようで少々面白くない。
「大丈夫!君はあの世界を存分に楽しむといいよ!」
「全く、本当に天使は勝手なんだな」
難しく考えるのがバカバカしくなったのでそんなことを言いながら俺は少し笑う。
「天使と神は自分勝手だからね!そういう存在だ」
そうなんだろうなー。
どうみても真面目に世界を救おうとか考えてなさそうだもんな!
「さあ、もうそろそろ夜明けだ。
また疑問が出てきたら僕が勝手に君の夢の中に来るよ」
そう言って、サフィーネは姿を消す。
あの天使、このためにだけにここに来たんだろうか?
そう思いながら俺の意識はだんだん落ちていった。
かなり駆け足でストーリーが進んでいるような気がする……
「面白い!」
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