第十六話 やらかしてしまった!
「お前、本当に羨ましいな!」
部屋に戻った俺にカイが絡んでくる。
つい先程までリコリスとノルンの口ケンカを間近で聞いていた身としては羨ましくもなんともないんだけど。
ケンカといっても別にモノを壊したりなんてことはなく、どっちが俺にふさわしいかというしょうもない議論をしていただけだ。
当の俺はそのしょうもない議論を聞くしかなくて、逃げようとすると二人に肩をつかまれ、イスに引き戻されるなんてことをされてました、はい。
宿屋の主人は少しニヤニヤしながらその光景を眺めていた。
自分の娘のことなのに、ずいぶんと気楽なもんだ。
「そう言うなって、大変だったんだぜ?」
どう決着がついたのかといえば別にどっちってこともなく、これから一緒に旅していく中で俺がどちらかに決めろという結論に終わった。
その口ケンカでリコリスとノルンは意気投合して仲良くなってしまうのだった。
とはいえ、俺のこととなると二人とも火花を散らしてお互いを牽制しあうという仲が良いのか悪いのかわからない関係になった。
そんなことをしていたら時間はあっという間でもうそろそろ夕方に近い。
体感的には午後四時ってところだろう。
「俺も昔旅をしていたとき、似たようなことを経験したし、お前は俺よりすごい武勇伝作りそうだよな!」
「ええい、黙れぃ。俺は頭が痛いよ」
そもそも俺は誰かと付き合うとかそんなこと生前の人生でも一度も経験したことがなかったし、何よりなんであの二人が俺を好きになったのか、心当たりはないのである。
リコリスは、圧倒的な力で助けた姿をみたからっていうのはなんとなく想像はつくけど、ノルンの方は本当にわからない。
「まあ、楽しくていいじゃねーか。にぎやかなのは大事だぜ?」
「それはそうなんだけど、実際その立場になってみるとなんとも言えない感じが」
確かにネット小説とか、主人公の立場は羨ましかったし誰選ぶのかなーなんて気楽に考えられたけど。
実際は本当に楽しくない。
死活問題だ。
もちろん、にぎやかなのは結構ではあるけど、その矛先が俺に向くのはノーサンキューだ。
いや、でもこれはこれで異世界生活を楽しんでいると言えなくもないんだけど、特に小説家だった俺からすれば楽しい展開ではある。
だが、今の俺は小説家ではない、当事者なのだ。
「その気持ちはよくわかる。経験者は語るってやつだな!」
カイは俺の姿を見て楽しんでいるようだ。
「よーし、カイさんがアドバイスをしてあげよう!ずばり、夜這いでもするんだな!」
俺は光速で走って無言でカイに連続パンチする。
「グホァ!ゴホッゴホッ、やるなアトス」
「聞いた俺がバカだったよ」
連続パンチを受けて気絶しなかったのはすごいが、話が飛躍しすぎだ。
「だってよー、正直相性だろ、こんなもん」
「そうだけど、あり得んな」
「またまたー、さてはお主童貞だな!」
「うるさい」
もう一発パンチをする。今度はかわされた、やるなカイ!
「まあ、お前の好きなようにするといいさ。俺は草葉の陰からねっとりと見守っているから」
なにその、やな感じ。ねっとり見んな。
「丁重にお断りするよ」
「カイさんは寂しいぞ!」
「一人で寂しがっててくれ、俺はちょっとこの宿の風呂に行ってくるよ」
そう言って俺は部屋を後にした。
風呂に行こうなんて思わなかったけど、見てみるくらいはいいかもしれない。
そういえば、この宿の風呂って洗濯なんてできるのかな?
この世界の洗濯とはどういう形式なのか、まだ生活の姿を間近で見たわけではないので興味はあった。
洗濯で思いついたが、もしかして魔法でできたりするのだろうか?
そうだったら見てみたい光景ではある。
風を起こしながら火の魔法と組み合わせて温風にしたりするのだろうか?
そもそもこの世界では複合魔法なんて存在するものなのか疑わしかったが、それを聞こうにも今はカイのところに戻りたくはないな。
うん、またからかわれそうだ。
なんて考えていたのだけど、考えに夢中で風呂の男女を間違えるという今時あんまり見ないどこの主人公だってことをやらかしてしまった。
「え?!アトスさん!?」
「えっ……」
あれ?部屋間違えた?
目の前には、リコリスとノルンがいて、それぞれ脱ぎかけの服に手をかけながらこちらをみる二人がいたのだった。
ふーん、リコリスの胸ってノルンよりもやっぱり大きいんだなー、なんて現実逃避をしようとしたが、慌てて手で目を隠す。
「す、すまん、入る場所間違えた!」
「きゃあああああああ!」
「変態……アトスの変態!」
と二人はシンクロしているのかというほどの息ピッタリの片足キックをそれぞれしてきて、手で目を隠していた俺は反応が遅れてしまいクリティカルヒット。
俺は風呂の女性脱衣所から外に蹴り出される。
で、俺はというと気絶する訳がなかったので壁に激突しても全く問題なかった。
「やっちまったなー」
さすがにあのあられもない格好で出てくる訳がないので俺は壁に背を預け、後でどう謝ろうか考えていた。
「やりますねぇ!」
と、廊下の端でカイがめちゃくちゃ笑いながら言う。
「うるさい、こういうとき気絶するのがテンプレだろ!?」
「テンプレってのがどんなものか知らんが、俺の体はそんなもんで気絶するわけないだろう?」
カイはこちらに向かって歩きながら言う。
「ちくしょう、この体不便だな!」
「まあ、いいもの見たんだし、良かったんじゃね?」
「カイは見てないだろ?ていうかいいものってな」
カイのセリフはたぶん現代だったらセクハラなんだろうな!
「そりゃあ、もちろん見るわけないだろ、今来たばかりなんだから」
「俺が蹴り出されるところを目撃しただけか」
近くまできたカイを見てみると、風呂の道具とか持っていて、これから入浴する気満々だった。
「その風呂の道具、どこから持ってきたんだ?」
「これか?宿屋の主人がもし風呂にいかれるのでしたらって渡してくれたんだ」
「そうなのか」
俺がカウンターを通った時は宿屋の主人は一時席をはずしていて、姿がみえなかった。
「さて、アトス。それじゃあ風呂、入るか?」
「うん、こうしていても仕方ないしな」
俺は立ち上がり、今度はしっかり男性の脱衣所に入る。
「風呂の脱衣所はこうなっているのか」
棚があり、それぞれにカゴがあり、そこに服を入れるのだろう。
これは生前の世界の方でも見た銭湯そのものだった。
「そういえば、着替えとかどうするんだ?」
「ん?風呂に入っている間に魔法石でできた洗濯するための装置に入れるんだ」
そう言ってカイは近くにある、丸い形の謎の装置に手をおく。
「ここを開けるだろ?この中に入れるんだよ」
見た目はドラム式のあの洗濯機なので、なんとなくそこを開けるのかなーとは思ってた。
「これ仕組みどうなってんだ?複合魔法とかなのか?」
「複合魔法?なんだそりゃ。この装置はまず水で洗って、風で乾かしているだけだぞ?」
よく見てみるとその洗濯をする装置は上に二つ魔法石が乗っており、それぞれ水と風の刻印が入っている。
「同時に使うんじゃないのか?」
「同時に使ったら爆発するぞ?これは水の魔法石で洗い終わったあと、風の魔法石にモードが切り替わるようになっているんだ」
この世界は複合魔法なんてのは存在しないらしい。カイが不思議そうな顔をしたので本当にないようだ。
おかしいな、俺が考えているような複合魔法はもっと普通に存在していると思っていた。
なによりあの小説では複合魔法も普通に練習すれば誰でも使えるようになるはずだけど、やっぱりあの天使が言ったように空想でしかないのだろうな。
「そうなのか、じゃあちょっと試してみる」
「何を試すんだ?」
「いろいろ」
そう言って俺は上の服を脱ぎ、空中に服を入れられるほどの水球を浮かせ、その中に服を放り込む。
そして汚れを隅々まで洗い流すイメージをして水球を回転させ、ある程度したら水球を消し、風で服を浮かせながら火の魔法を風の魔法と合体させる。
すると温風になって、服がみるみる乾いていく。
手元に戻った上の服は太陽で乾かしたようなさわやかなにおいがして、汚れがなくなってキレイになったのを確認する。
その光景にカイは驚き、口をポカーンと開けていた。
「アトス、今のどうやったんだ?」
「え?」
「あんな魔法初めて見たぞ?」
「カイの記憶の魔法を合体させただけだよ。それ以外は別になにも」
「さっき言ってた複合魔法っていうやつか、やろうとすると両方の魔力操作ができなくて失敗するんだけどな、普通は」
確かに魔力操作はちょいとレベルが高いが、時魔法を使ったときに比べれば全然簡単だった。
「そんなに難しいものなのか?」
「ああ、あの伝説のジオグラードも複合魔法は難しいと言っていたしな、まるで魔法を創造しているようだ」
先ほどカイは不思議そうな顔をしていたが、複合魔法という名前は存在しているらしい。
それを聞いて俺はもしかしたら俺の能力らしい創造の力でも働いているのだろうか?と思った。
だとしたらあんまり見せない方がいいかもしれない。なんせ世界初の魔法かもしれないのだから。
「やっぱりお前おかしいよ」
「いや、カイに言われるとなんか受け入れたくない」
「確かに、俺も最強とか言っていたけど、アトスは俺以上の力がある。最強の名はアトスに譲らないといけないな!これは」
カイは驚きながらも嬉しそうに俺を褒める。
「でもあんまり見せない方がいいと思うんだけど、どう思う?」
「その考えは合っているかもな。こんなとんでもない魔法があったら世界中から刺客が送られて来るかもしれないしな。
アトスの力は世界にとっては脅威以外の何者でもない」
「やっぱりそう思うか?なら切り札にでもしておこう」
「そうだな、そうするといいぜ!俺はお前の活躍を間近で見れて嬉しいけどな」
世界にとっての脅威。
俺はアーティファクト集めもしないといけないのに、なかなか大変そうだ。
でも、俺自身がどこまでの力を持っているのか楽しみになってきた。
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