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第十五話 意外!少女の好きなもの

 ノルンのところへ戻ると、先程の光景を見ていたのか彼女は顔を赤くしていた。


「アトス、すごい……あんな速度で走れたんだ」


 そういえば、ノルンは俺がどういう人間なのかまだ見たことはないのだったな。

 もしかしたら人外に見えたかもしれないので嫌われただろうか?

 いやそもそもこの体はまず完全に人間ではないし、ドラゴンの能力も持っているわけで普通の人間とはかけ離れた存在のはず。

 ともかく、ノルンを置き去りにしたのは事実なので、


「すまない、置き去りにしてしまった」


 と謝っておくことにした。

 数年ぶりに外に出たノルンを置き去りにしてしまった俺は、彼女は怒っているのだろうかと心配したがそんなことはなかった。


「それは……別にいいの」


 ではなぜ顔を赤くしているのだろう。


「助けられて、よかったね」


「まあ、そうだな、何事もなくてよかったよ」


「私、アトスみたいな人……初めて見た。

 やっぱりアトスは……運命の人」


 なぜそうなるのか、小一時間ほど問い詰めたいところだったが、俺ノルンに殺されたりしないよね?

 彼女の言動を聞いているとヤンデレっぽいようなゾクゾクする気配を感じる。


「どうしたら、少し会っただけで運命の人になるんだよ!」


「それは、秘密……教えない」


 むうう、意外と頑固なんだなノルンは。


「俺、ノルンに刺されたりしないよね?」


 俺は冷や汗をかきながら、ノルンにそう言う。


「え?」


 ノルンは何を言っているんだろうこの人はって顔をして、その次にいきなり焦って、


「そんなこと……するわけない!」


 と周囲もびっくりの大声で言う。

 出会ってからこんなに大きな声を聞いたのは初めてだったので、俺も驚いた。


「わ、わかった。わかったから落ち着こうな?」


「!……アトスの、バカ……」


 そう言いながら、周りの光景を目にしたノルンは顔を恥ずかしさで真っ赤にして俺の背中に隠れる。


「悪い。ノルンはそんなことしないよな」


「当たり前……殺したら一緒に生きて行けない」


 ノルンの脳内はどうなっているのだろうか?

 言動を考えるに、俺と田舎の家の廊下で一緒にお茶でも飲んでいる光景が浮かんでいるのだろうか?


 俺はすっかり忘れていたのだけど、ノルンと生きても結局は寿命に限りがあるので俺より先にノルンが亡くなってしまうのは明白だ。

 俺はほとんど永久に生きるような寿命があるから。

 それを思い出して若干落ち込んだが、気にしないことにした。

 今を楽しめればしばらくはそれでいいだろう。

 その後の事はそのときにまた考える。


「さて、ノルン。市場巡りを再開しようか」


 そう言って俺は背中に隠れているノルンに手を差し出す。


「うん、よろしくね」


 ノルンは再び俺の手を取る。

 恥ずかしさは収まったようで、俺の隣に顔を出す。


「それで、さっきも聞いたけど、改めて聞くよ。ノルンのオススメはどんな食べ物?」


「えっと、あの店の串焼き……苦いやつ」


 ノルンが指をさした場所には俺の知識で言えば焼き鳥の店に非常に似ている店があった。

 ところで苦いやつってレバーとか言う名前の黒いあれだろうか?

 とりあえず、その店の前にノルンと行き、店のおじさんに頼むことにした。

 のだが、俺はどれがノルンの言っていたやつなのかわからなかった。

 それと言うのも、名前が聞きなじみのない名前だったからだ。


「えっと、ノルン。俺はこういう店初めてだからどれがノルンの好きなものなのかわからない」


「そう、なんだ。えっと……じゃあ私が注文するね」


「頼んだ」


 と、頼んだ訳なのだけどノルンは果たして大丈夫なのだろうか?

 何か忘れているような。

 考えているうちに店のおじさんに話しかけられた。


「おう、そこの少年はここは初めてかい?」


「はい、なにぶん共和国から来たばかりでして」


「そうかそうか!共和国にはこんな串焼きの店なんてないもんな!そっちの嬢ちゃんはこの村の人だね!」


 共和国には串焼きの店はないらしい。

 とりあえず適当に言ってみたけど、違和感はなかったようでホッとした。


「……は、い」


 思い出した。

 ノルンが男性恐怖症だったことを忘れていた。

 ノルンは店のおじさんに話しかけられると俺の背に隠れるようにして恐る恐る話している。


「ノルン、俺が注文するから名前を教えてくれ」


「ごめん……アトスに迷惑かけちゃった」


「気にすんな、そもそもノルンが男性苦手なのを忘れていた俺が悪いんだ。だから食べたいものを言ってくれ」


「わかっ、た。……リィーバーがいい」


 ほう、リィーバーという串焼きがレバーみたいなやつか。


「えっとリィーバーを二つお願いします」


「リィーバーか、珍しい串焼きを頼むんだな。味にクセがあって好き嫌いがハッキリ分かれる味だけど、大丈夫なのかい?」


「はい、大丈夫です」


 おじさんとそう会話したあとゴールドを渡し、リィーバーと呼ばれる串焼きが焼かれ二本俺に手渡される。


「まいど!またよってくれよ!」


 俺はとりあえずどこか落ち着けるところはないかと周りをみると、ベンチみたいな長椅子があって人もいないようだったのでそこへ向かい、座る。


「ありが、とう」


 隣に座ったノルンは俺から串焼きを手に取る。

 うん、見てみると本当にレバーっぽい。

 というか、ノルンはこの味が好きと言っていたけど大丈夫なのだろうか?


「本当にこれでいいのか?無理してないか?」


「ううん、大丈夫……私、この味好きだから」


 苦いものが好きとは変わってるな。

 俺はというと別に苦手なわけでもないので好きでも嫌いでもない。


「リィーバーは……疲労回復効果とかがあってあとは……」


 言いかけて、ノルンは顔を赤くする。

 今度はなんだ?

 レバーと同じ効果があるなら疲労回復とあとは……

 あっ、ノルンの考えていることがなんとなくわかってしまって、俺も若干顔を赤くする。


 確かレバーとは精力増強にもいいとか聞いたことあるぞ!

 なんてものが好きなんだ、この娘は!


「あの……えっと」


 ノルンはこの変な雰囲気を察して顔を赤くしながら慌てている。


「い、いや、その気にすることないんじゃないかな!」


 俺もなんとかこの空気を変えようとそう言う。

 しかも苦いものが好きとか、俺変な妄想しちゃったぞ!


 二人してお互いの顔を見ないように真反対の方向を向いてリィーバーを食べる。


「う、うまいな」


「そう、だね」


 ノルンも食べているようでそう返ってきた。

 なにこれすごく恥ずかしいんですけど!


「私、いやらしい女の子じゃ……ないから!」


 反対を向きながらノルンは少し大きな声で主張する。


「わ、分かってるよ。そもそも男性恐怖症なんだからそんなわけないだろう」


「わ、分かってるならいいの」


 急いでリィーバーを食べていたので俺はむせてしまった。


「ゴホッゴホッ。急いで、食べ過ぎた!」


「だ、大丈夫?」


 むせた勢いで串についていたタレが顔にくっついていてしまった。


「あっ……フフ、アハハ……アトス、鼻にタレがついちゃってる」


 こっちを見たノルンは顔を赤くしながら笑う。


「笑わないでください」


 俺は少し不機嫌そうに敬語で言ったあと鼻のタレを指ですくい取り、口に入れる。


「アトスも咳き込んだり……するんだね」


「そりゃあそうだろう、人間なんだから」


 まあ、こういうところは普通の人となにも変わらないな。普通の人とはかなり違う体ではあるけど。

 そんなことをしていたらさっきの変な雰囲気はどこかへ吹き飛んで普通の空気に戻ってきた。


「さて、もう少し見て回るとするか!」


「そう、だね……また手をつないでもいい?」


「そりゃあもちろん、ノルンを一人にさせるわけにいかないしな」


「でもさっきは……一人にさせた」


 そう言われると何にも言えないけど。

 ノルンが楽しそうに笑いながら言うので本心からはそんなこと思ってないのだろうけど。


「じゃあ、エスコートさせていただきます、お姫様」


 俺はなんとなく悪ノリで腕を折り曲げ、執事のような一礼をする。

 そして一礼を終えると、手を差し出す。


「あっ……よろしく、お願いします」


 ノルンはそんな姿をみて頬を赤くしながら手を取る。


「なんてな、悪ノリしちゃったよ」


 手を取り合いながら俺とノルンはまた歩き出す。


「アトス……いい人なんだね。さっき子供を助けた姿……カッコよかったよ」


「いい人かどうかはわからないけどな」


 山を崩したり、湖を荒野にしたりしたし!

 やっていることを考えるといい人ではないし、どう考えても危険人物だろうな。

 まあ、ノルンはそんなこと知っているわけないし。


 こうして俺たちはしばらく朝市巡りをし、俺はこの世界の食べ物であるパンみたいなものや食べても大丈夫なのかと思う魔物の焼き肉とかを食べた。

 意外と美味しかったので驚いた。


 宿屋に帰ったら、リコリスとノルンの修羅場がまたあった訳なのだけど、それは別の話だ。



読んでいただきありがとうございます!


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