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第百五十八話 海賊王国の系譜

「あたいは元々捨て子の赤子だった。

 あたいは自分の出身地がどこなのか、全く分からない。

 ともかく先代の王の妻に拾われてこのスノーパレット城で世話を焼かれることになった」


 開始早々に衝撃的な話をしてきた。

 マリンってこの国の人間ではなかったのか。

 背中の羽がそれを証明しているのは間違いないけど、実際に聞くと驚いた。


「私はまだ生まれてないんだよね、その頃」


 ティータが少し面白くなさそうに両手で自分の顔を挟み込む。

 マリンとティータは確か二個離れていると言っていたから知らないのも仕方ない。


「そうさねー。あたいもまだ記憶があやふやな頃さ。

 先代の王。あたいにとってはお父様って奴だね。

 お父様は自分になかなか世継ぎが生まれないことを焦っていた頃さ

 その妻、いや、お母様は捨てられていたあたいを拾ってお父様に自分達の子にしないかと猛烈にアピールしたのさ。

 二人とも普通の人間だったから当時の城は大騒ぎだったそうだよ」


 マリンが赤子の頃ってことはもう随分昔の話か。

 それにしても突然自分達とは種族の違う捨て子を自分の子にしないかと言うなんてお母様って凄い人なんだな。


「会議は一週間続いた。

 しびれを切らしたお母様は“許可しないのならこの城を出ていきます!”って言ったそうだよ。

 お父様はお母様にベタ惚れだったから大慌て、お母様にすがり付いて“それだけはやめてくれ”って引き留めたらしいけど。

 でもお母様も本心から言っていた訳じゃないみたいで、会議に参加していた船団の人達はその夫婦喧嘩を楽しげに見ていたとか」


 なんか、今のマリンと船員達の関係に似ている気がする。

 マリンは楽しそうに話す。

 それを聞いてティータが肩をすくめた。


「えぇ……お父様弱いね」


「惚れた弱みって奴かもしれないね。

 そんなこともあったけど、あたいは無事に家族として迎えられることになった。

 海賊の国だからね、世継ぎの話なんて真面目に考えてなかったのさ。

 だってお父様は世継ぎができなかったら国中の船員達を競わせてあらゆる面で優秀な船員に海賊王の座を譲るって考えてらしいからね」


 海賊の国って無法地帯かよ。

 まあ、ここまでに出会った船員も悪い人間じゃなかったし、仮にそうなったとしてもうまく回るんだろうな。


「そして、2年後。

 お母様がティータを身籠ると、また会議が開かれ、生まれた子供がどのような子供なのかでどうするか決める、ということにした。

 でも、いざ生まれて見ると、体が弱くて病気になりやすい体質の子供であることが分かってしまう」


「私、最初から病弱だったって聞いたからねー」


 ティータは別に何も思ってないそうでただマリンの話をのんびり聞いている。

 2年後ってことは、マリンはまだ2歳だ。


「あたいはこの体のせいか、自我が芽生えるのが早くてね、その次の年だったかねぇ、その頃にはもうあたいには自我があった。

 後継問題でバタバタしていた頃、あたいはすっかりお父様とお母様の子になっていたから、ティータが世継ぎになるならあたいはそれを全力で支えようと思えるくらいの心は出来上がっていた。

 でもお父様は病弱な娘に激務である王を勤めさせることはできないと言った。

 そこであたいにこの話が回ってきたのさ」


 そんなことがあったのか。

 先代の王もこんなはずではなかったと思っていたかもしれない。


「え?でも両親が健在なら他の可能性もあったんじゃないのか?」


「アトスさん、それ、もしかして……イヤらしい意味で?」


 しまった。

 ついうっかり、口を滑らせてしまった。

 ティータが少し頬を赤くしてそっぽを向く。

 純粋か!?


「あ、いやその、だって世継ぎって大事だと思うし」


 世継ぎって大事だよね?

 誰かそうだと言ってくれ!

 恥ずかしくてゼーダ連山に頭から光速で突っ込みたくなるから。


「ハッハッハ!あんた、変な奴だね、ホントに。

 それだけの力を持ちながらほんわかするような発言するなんてね!」


 めちゃくちゃ笑われました。

 俺は微塵もそんなつもりないんだけどね。

 まあ、楽しんでもらえているうちはこれでいいか。


「あんた、ホントに面白いよ。

 ……でも、アトスの言う通りさ。

 それは当然ティータが生まれた後の会議にも上がった。

 お父様も納得してその時の会議は終わったけどね」


 そう話終えるとマリンは唇を噛み締める。

 どうしたんだろう?

 そのあとに何かあったのだろうか?


「その後もちょこちょこ後継者問題の会議はしていたみたいだけど、結論は出なかった。

 そんなことをしているうちに3年後。……あたいの両親は死んだ」


「え?」


「そうなんだよね。私も覚えている」


 両親の年齢は分からないが死ぬような年齢ではないはずなのになんで死んだんだろう。


「あんた、アーティファクト、知っているだろう?」


「それは知っているけど」


 この流れは何か嫌な気配がする。

 アーティファクトという話が出ると大抵ろくな話にはならない。


「アーティファクトの実験中に突如として暴走したアーティファクトの光に飲み込まれてお父様とお母様、それに何人かの幹部の船員達が姿を消した。

 理由は今も分かっていない。

 辛うじて逃げられた人もいたが、そいつはこの国から居なくなってどこにいるのか今も分からない」


「暴走って……そのアーティファクトはどうなったんだ?」


「そいつはこの国の地下に厳重に封印してあるよ。

 もっとも、厳重に封印したのはもっと後だったけどね」


 事故が起きたアーティファクトをしばらく放置していたのだろうか?

 それにしても魔神や邪神の介入はそのとき起きていたんだろうか?

 謎は多いが今はマリンの話を聞くことにした。


「そのあとこのマリンホエール海賊王国は君主というか頭領というか、とにかくしばらく王が不在の日々が続いた。

 あたいは当時6歳だったけど、普通の人間よりも数段早く知識が身に付いていたから、ほとんどその時からあたいが国のことをいろいろやっていた」


 マリンはドラゴニアか、それに近い種族だから成長も早いのかもしれない。

 ドラゴニアって確か生涯共に駆けたドラゴンライダーを体に取り込んで人化するようなことを聞いたが、マリンはそれの子孫か何かなんだろうか?


「それから15歳になったときにあたいは正式にこの海賊王の象徴であるこの海賊帽を受け継いで女王になった」


 あの海賊帽が大切に使われている理由がよくわかった。

 マリンの太ももにあるあの海賊帽は、いわば王冠のようなものなんだろう。


「6歳の頃から支えてくれていた船員達も先代の王の子のお姉ちゃんなら安心してその座を譲れるって言ってね、ちょっとお祭りみたいな感じだったんだよね」


「9年の間、国王不在でよく国が持ったね」


 それだけ間が空いているなら他国から侵略されそうになったりしなかったのだろうか?

 他にも経済とか。


「その間はね、この国と貿易で繋がっていたリヒテリンス共和国を参考にしばらく議会制だったんだよ。

 でも私達の国ってあんまり議会に向いているような人柄の人が少なかったからいつもお姉ちゃんが最後にまとめていたんだけどね」


 それはなんとなく分かる。

 この国の人達ってさっぱりした性格で、体を動かすことが好きな人が多そうだからね。

 まとまらない議会の光景が簡単に想像できてしまうくらいには納得してしまう。

 でも、よく9年も国が存続したもんだ。

 マリンは見た目より優秀なのかもしれない。


「そして女王になってから3年後にあたいとティータはアーティファクトから取り込まれた両親や他の人達を助けることができないかと、この国の悪夢の象徴であるあのアーティファクトに近づいてしまった」


「放棄しようとは考えなかったのか?」


「まだ確実に死んだと決まった訳じゃないからね、あたい達もまだアーティファクトについての知識はほとんどなかったから、そんな夢を抱いてしまったのさ。

 ……でも悪夢は再び起こってしまった。

 今から10年前って言えばアトスには分かるだろう?」


 つまりそのアーティファクトが原因でティータは人間不信と姉依存という症状を発症した、ということになるのか。


「ごめん、悪く言うつもりは全くないけど、もっと危険性を考えるべきだったんじゃないかな」


 ハッキリ言ってしまえば自業自得だけど、両親がまだ生きている可能性があるなら探してみたいという気持ちも分からなくはない。

 俺はあんまり親の話はしたくないけどね。

 でも何の変哲もない普通の家庭だったなら俺も親を大切にできたんだろうか?

 人によって普通の定義は異なるだろうけどね。


「アハハ。あんたの言う通りだよ。返す言葉もないね。

 アーティファクトに触れたとき、一瞬青く光ったのはなんだったんだろうね?

 あの時、何か大きな存在の声を聞いたような気がするんだけど」


「あっ、それなら私も聞いた。なんだったかな?

 いまでもハッキリ思い出せるくらいの記憶なんだけど、確か、ビクトリーホエールって名前が聞こえたような。

 あと、クジラの鳴く声。

 それから“まだ契約の時ではない”って老人みたいな声が聞こえたような」


 ティータの状態異常の画面で文字化けしていた名前はどうやらビクトリーホエールという名称のようだ。

 勝利クジラ?

 凄そうな名前だけど老人みたいな声か。

 考えているとティータが上半身をベッドに預けて横になってしまった。

 ベッドに横になったティータの顔を見てみると、明らかに調子が悪そうな青白い顔をしていた。


「ごめん、私、まだ本調子じゃないみたい。

 なんか疲れちゃった」


「もう夜も遅いもんな。

 マリン、今日のところは引き上げようか?」


「あたいはティータと一緒にいるよ」


 マリンは不安そうな表情をしている自覚がないまま、青白い顔をしたティータの左手を両手で握る。


「このベッド広いからね。お姉ちゃん、今日は一緒に寝てくれる?」


 弱々しく囁くティータにうんうん頷くマリン。


 ――どうやら俺は邪魔者のようだ。

 さっさと部屋に戻るとするか。


「アトスさんも一緒に寝てもいいんだよ?」


「大変光栄だけど、久しぶりの姉妹の邪魔はしなさたくないし、俺が寝れなくなるから気持ちだけ受け取っておくよ。

 じゃあ、マリン、ティータ、おやすみ」


 そして俺は自分にあてがわれた部屋に戻って寝たのだった。




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