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第百五十六話 女王の妹、目覚める

 昼を過ぎてから俺は他にやることもないのでマリンに客室で使われている部屋を貸してもらい、妹のティータの目が覚めるまでの間少し寝させてもらうことにした。


 そして、日が沈み始めた頃にマリンに起こされた。


「もうこんな時間か、結構寝ちゃったな」


 指で目を擦りながら目の前で腰に手を当てて仁王立ちしているマリンを見る。


「……目が覚めたみたいだよ、ティータ」


「どんな感じだった?」


 それを知っているということはマリンは昼を食べ終わった後、恐らくティータに付きっきりだったんだろうか。


「10年かね?それくらい本当に久しぶりにティータとまともに会話できたよ。

 見たところ元気そうだけど、あんたが完全に保証するまであたいは安心できない。

 今、部屋で待っててもらってるよ」


 マリンは明らかに嬉しさを隠しきれてない緩んだ顔でそう言った。

 10年って、その間ずっとあの状態だったのか。

 むしろよく生きていたよね、ホントに。

 寿命制限とかもあったからもっと最近の話だったのかと思ってた。

 それだけの年月が経っていたならマリンがあそこまで嬉しそうなのもわかる。

 だって10年前といえばマリンはまだ17歳だ。

 ティータなんか15歳だし。


「わかった、じゃあ行くとするか」


 俺はベッドから立ち上がり頷くマリンを先頭にその背中にくっついていく形で歩く。

 やはり前にはあまり来てほしくないらしい。


 ティータの部屋に来るとベッドで上半身だけを起こしているティータが扉を開けるなりこちらをみる。


「お姉ちゃん、そっちの方がアトスさん?」


 長年床に伏せっていた部屋の主の第一声はそれだった。

 この部屋は夕方の弱々しい光しか入っていなかったため、ファイアボールの刻印を魔力石に記した魔法石が部屋の片隅で光っていた。

 俺はその光に照らされる部屋の主の方へと顔を向ける。

 黒い髪に茶色の瞳。

 昼前にみたティータの姿と合致するので間違いなくティータだろう。

 でもあの魔法を使う前と比べて穏やかに微笑んでいる。


「そうさ」


 俺はマリンについていき、ティータの近くに立つ。


「こんばんは?でいいかな。初めましてアトス・ライトニングだ」


 するとティータは体にかけていた毛布を両手で掴んで顔の下辺りに持っていき、恥ずかしそうに目を背けた。


「は、初めましてじゃ、ない。今日のお昼前に会っているよ。

 あの、ごめんなさい。突然襲うような真似をしてしまって」


 あの記憶、覚えているんだ。

 ということは今までの苦しんだ記憶も覚えているんだろうね。


「いや、あのときは状況的に仕方ないと思うけど。

 それよりティータさん、具合はどう?苦しくない?」


「さんなんて、つけなくていいよ。年はあまり私と変わらないってお姉ちゃんが言ってたし。

 具合は悪くない……ううん、今までで一番元気みたい。

 お姉ちゃんから聞いたけど、あなたが私のことを助けてくれたって」


 確かティータはマリンよりも2個下って船員から聞いたから25歳のはず。

 でも10年も寝たきりだったなら浦島太郎みたいなものじゃないだろうか?


「そうだけど、大丈夫か?10年くらいずっとあの状態だったなら世界が変わっている感じしないか?」


 俺の心配をよそにティータは笑う。


「フフフ。それは大丈夫、私ずっと寝たきりだったわけじゃないし、ずっと意識がなかったわけじゃないから。

 ……あの薬を飲んでいるときは私もある程度動けていたから」


 なんと表現したらいいのかわからない表情でティータは話す。

 天国と地獄を両方味わっているようなものだしね、あの薬は。

 地獄を引きずっていても一瞬の天国が同居しているから記憶も持続的なものらしい。


「じゃあアトス、もう一回状態を見てくれるかい?」


「そのために来たんだからもちろんやるよ」


「私はそのままでいいの?」


「そのままでいいよ。じゃあ少し検査するね」


 俺は手をティータに向けて状態異常だけを見れるアナライズを使う。

 さて、回復してくれているといいけど。


――――――――――――――――――――――――


 状態異常


 契約の光(―ク―リーホ―ール、協力者)

 恋の病(初期、対象者、ひ☆み☆つ)

 姉甘やかし(永続)

 世話焼き(永続)


――――――――――――――――――――――――


 見てみると昼前にアナライズかけた時とは違っていろいろ状態異常らしき項目が表示されていた。

 それはいいんだけどやっぱりバグってるよね、これ。

 契約の光ってなんだろう?

 協力者っていうのも謎だし。

 でも見た感じバッドステータスは完全に消滅しているらしい。


 いや、待て。

 恋の病ってなんだよ。

 しかも初期とかどういうこと?

 ひ☆み☆つじゃないんだよな……しかも間に星挟んでるし、なんなんだよ。

 誰だ、こんなステータス画面作ったのは。

 この世界はゲームじゃないんだぞ。

 あと姉甘やかしとか世話焼きとかもはや性格だよね!?


 俺が内心そんな葛藤と戦っているのを知らないティータが不思議そうな顔をする。


「どうしたの?なんかすごく不満がありそうな顔をしているけど。

 やっぱり治ってない?」


「……い、いや変な病気とかはなにもないよ。健康健康!

 完全回復で間違いないよ」


 少し動揺したが、勢いで誤魔化した。

 どう考えても状態異常ではない項目が追加されているけどね。


「ホントかい?!やったね、ティータ!ようやく普通の状態になれたね!」


 嬉しさのあまりマリンがティータに抱きつく。

 ティータはそれに応えながら片手でマリンの頭を撫でる。


「く、苦しいよ、お姉ちゃん。でも今まで私を助けてくれてありがとう。

 私のために自分の気持ちすら誤魔化して、辛かったよね、ごめんね、本当にありがとう」


 ティータの言葉を聞くなりマリンは泣き出してしまった。

 10年も一人で頑張っていたならいろいろなことを思い出したんだろう。


「ごめん、は、あたいのセリフさ。ずっと苦しめてしまってごめん。

 ホントに……ホントに、良かった」


「もう、泣きすぎだよ、お姉ちゃん。よしよし、今まで頑張ってくれてありがとう。

 お姉ちゃんのおかげで元気になれたよ」


 感動の再会とは違うのかもしれないけど、ようやく普通に会話できるようになって良かった。


 しばらくそのままの時間が過ぎて、二人とも落ち着いた。

 マリンはティータのベッドの端に座り込んで、俺は脇の棚に背を預ける形になっていた。


「あんたが来てからあたいは泣いてばかりだね」


「それを言うのか。俺は過去のマリンとか何も知らないし普通に会話していただけなんだけど」


「お姉ちゃん、一人で頑張りすぎだよ。どうせ今まで船員さん達にも何も話してなかったんでしょ?」


 ティータは姉であるマリンのことをよく知っているようで少し怒ってるかのような口調で話していた。


「アッハハ。ティータにはなんでもわかっちまうのかねー」


「当たり前だよ。何年姉妹していると思っているの?」


「ホントにその通りだねぇ。そうだ、アトス、報酬は何がいいんだい?

 あんたには返しても返しきれないくらいの恩を受けちまったからね」


 マリンは感慨深そうに部屋の天井を眺めながら俺に聞いてくる。

 まあ、確かに普通の人には治せないような病気を完璧に治してしまったのだからそうなるのもわかるんだけど。


「別になにもないよ。そもそも俺は無理矢理連れてこられただけだし」


 報酬って言われても何も思い浮かばない。

 どうしようかと考えていると、ティータが不思議そうに質問をしてきた。


「ねえ、アトスさんって毎回見返りなく人助けしているの?」


「考えてみれば大体そうかもしれないね」


 助けられるなら、助けたいもんね。

 考えなしに人助けをしているから、アオイや、マリンに心配されてるんだろうけど。

 おまけに、回復したばかりのティータにも。


「えー、本当?なら私かお姉ちゃんを嫁にするのは?」


「ん?はい?なんて?」


 この妹、復活して早々に突然何を言い出すんだ。

 マリンも不意打ちだったのか、ベッドからいきなり立ち上がり真っ赤な顔でティータの方を向く。


「ティ、ティティティ、ティータ!あんたいきなり何を言い出すんだい?!」


「だって私達が返せるものなんてそれくらいしか思い浮かばなくて……」


 言い出した本人だというのにティータも恥ずかしそうにしてしまった。

 真面目に考えて口に出してしまった分余計に恥ずかしいのかもしれない。


「でもティータ。俺にはもうそんな存在、いるんだけど」


「そ、そうだよ!ティータ、アトスはね、フォクトライト自由連合国にハーレム作っているんだよ。

 それにティータはまだ安静にしていないといけないんじゃないかい?」


「ハーレムの話はさっきお姉ちゃんにも聞いたけど、私、もう本当に元気なんだよ?

 でも私達にできるのってそれくらいだと思うよ?」


 手強いぞ、ティータ。

 ともかく、なんとかそれは避けなければ。

 リコリス辺りにまたジト目で見られるぞ。

 サグナの件もあることだし。

 国に帰るのが怖いよ。


「これくらい気にしなくていいよ。俺が助けたいと思っただけだし。

 それにマリンはこの国の女王だし、国を離れるわけにはいかないだろ?」


「それは確かに。

 じゃあ私?でも私、病弱だからアトスさんに迷惑をかけちゃうかな?

 あっ、でも慰み者とかどうかな?」


 おいおい。

 何を言っているんだろう、あの子は。

 回復してすぐにそんなことを言うのはどうかと思うぞ。

 ティータは人差し指を頬にくっつけて疑問符でも浮かんでいそうな顔で言う。

 ティータからすれば、なんということはないと言うのか?!


 ……ティータ、恐ろしい子!


「やめようよ、こんな話。ティータも軽々しくそんな話題出さないの。わかった?」


「うん、それはいいんだけど。やっぱり病弱だから魅力ないかな」


 病弱って雰囲気は微塵もないんだよな、今のティータは。

 確かに外見は寝ている時間の方が多かったせいか、筋力はないように見えるけど。

 ティータの瞳は、初めて会ったあの状態の時より明るい輝きを取り戻して、希望を取り戻したような瞳をしていたから、余計にだ。

 なので、魅力がないかと言われればそんなことは全然ないと思う。


 マリンはそんなティータを苦笑いをして、ため息をつきながらも、嬉しそうにティータを見ていた。


「全く、回復したと思ったらこれかい?元気になったね、ホントに」


「うん、あとは運動とかいっぱいしてお姉ちゃんみたいに動けるようになりたいな」


 ティータはこれから筋力とかを付けてもっと元気になりたいらしい。

 もう寝たきり生活じゃないから前向きでとてもいいと思う。

 あまりの元気よさに俺は少し苦笑いをして、その光景を見ていた。


「何はともあれ、報酬はいらないけど、ミグノニア群島連合国の情報を聞きたいところだ」


「群島連合国のこと?それは私よりお姉ちゃんの方が詳しいよね?」


「連れてきておいて今更なんだけど、あんたなんで群島連合国に向かっていたんだい?」


「戦争を止めに来たってところかな」


 俺の本来の目的はメクリエンス帝国とミグノニア群島連合国の戦争が起こるのを止めるためだ。

 なのでまずはできる限りの話を聞いておきたい。




……えっと、お久しぶりです

エターナルしていた作者です

皆様、元気でしたでしょうか?

エタり気味ですが、この小説を忘れてはいません

この小説をここまで読んでくれたあなたに感謝を


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