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第百五十三話 病気と治療、神の奇跡?

 部屋に入るとマリンの妹、ティータの姿が目に飛び込んできた。

 マリンと同じ黒い髪、背はマリンより少し低く、マリンと違うところと言えばどちらの目にも眼帯をしていない茶色の瞳。

 だけかと思ったが、背中にマリンみたいな羽がない。

 なんでだろう?

 姉妹なんだよな?


 膝まで隠れる白いワンピース。

 なのだが、白いワンピースには血と思われるものが数滴くっついている。

 まだ新しい服のようなので、さっき付いたものなんだろう。


 それ以上に狂っているのが、破れたシーツやら羽が飛び出ている枕があることだった。

 さらに窓のカーテン生地がズタズタに引き裂かれていて、まるで幽霊屋敷のような惨状だった。


「うぅ?お姉、ちゃん?」


 地面に両膝をくっつけて虚ろな瞳でこちらを見る。

 その虚ろな瞳でマリンを見つけると口角の端を不自然なまでに吊り上げ気味の悪い笑みを浮かべる。


「お姉ちゃん、お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん、薬ぃ、薬ちょうだい」


 そのまま地面を這うように横ばいになって怖い笑みを浮かべて這いずってくる。

 マリンにすがりついたかと思えばゆっくりと顔色の悪い顔が俺の方を見る。

 大分具合悪そうだ。


「あれぇ?そこの人だあれ?私の敵?敵敵敵?

 ねぇお姉ちゃん、殺していい?

 苦しくてどうにかなっちゃいそうなんだぁ!

 あの人引き裂いたら少しは楽になるかなぁ?」


 虚ろな瞳も合わさってものすごく怖い。

 しかも引き裂くとか言っているし。

 マリンは冷や汗を浮かべてこっちを見て済まなそうに笑う。


「すまない、アトス。大人しくさせてやってくれるかい?」


「まあいいけど、いいのか?」


「構わないよ」


 マリンから許可を得る前にティータはこっちに飛び付いてきた。

 だが、そんなに素早い訳でも精度が高い攻撃でもなかったので軽く回避。

 ティータはそのまま地面に激突する。


「いったぁーい。私をイライラさせないでよ!ねえ!大人しくしてよ!

 あぁぁ、苦しい、苦しいよぉ!」


 こちらに敵意をむき出しにしながらティータは自分の頭をガリガリかきむしる。

 どうしていいかわからない程の苦しみがティータの体を覆っているのだろう。


「大人しくしてもらうよ!」


 俺はその姿を見かねてティータの首に鋭く手刀を入れる。

 元々そんなマトモな動きでもなかったので手刀は簡単に直撃した。


「あぅ……」


 そのままティータは気絶した。

 地面に倒れそうになっていたので抱き寄せる。

 そして、抱っこしたままベッドへと運んで寝かせる。


「すまないね。普段は大人しいんだが、今日は本当に危険な日だったみたいだ」


「俺だったから何事もなく気絶させられたけど、あの状態じゃ確かに怪我人出るよな」


 半狂乱で突撃してくるティータを相手にした船員も戸惑っているうちに重傷を負ったんだろう。

 なんせ相手は姐さんと慕う女王の妹なのだから。

 マリンに近い分だけ動揺の度合いも強くなるんだろうしね。

 マリンも一人で解決しようとするわけだ。


「そういうことさ。それで、今から治療できるかどうか試すんだろう、大丈夫なのかい?」


「一旦魔法で深く眠らせる」


 俺はティータに片手を向けて魔法を唱える。


 イメージ。

 疲れた者に安息の時間を。

 深き眠りは疲れが無くならない限り目覚めることはない。


「スリープマジック」


 片手からティータの体全体を紫の色の光が覆う。

 光が収まるとティータは静かな寝息を立て始めた。


「次に状態を見てみる」


 アナライズをこの世界の人に使いたくはなかったが、緊急性が高いのでそうも言ってられない。

 そうか、条件追加してみるか。


「アナライズ・バッドステータスオンリー」


 まあつまりは、異常状態だけを見るってことだ。

 俺の頭の中にティータが持っている異常状態の情報が流れてくる。


――――――――――――――――――


 状態異常


 人間不信(永続、ビKう――Ahオ―ール)

 姉依存(永続、―クとrI―ホ―――)

 神経麻痺(永続)

 毒(永続)

 薬物中毒(永続)

 一時的快楽(1日)

 幻影発現(永続)

 血流悪化(永続)

 自我喪失(永続)

 寿命制限(残65日)

 微自動回復(2日)

 睡眠(6時間)

―――――――――――――――――――


 なんだ?バグってんのか?

 この世界に文字化けなんて存在するのだろうか?

 ないと思いたいが。

 マリンが言っていた呪いの状態異常だと思うんだけど二つの状態異常がおかしい表示になっている。


 それよりも気になる状態異常があった。

 冗談じゃないよ。

 寿命制限ってもしかして65日後に必ず死ぬってことかよ。

 かなり危ない状態じゃないか。

 その他にも随分バッドステータス入れられてるな。

 あの薬一体何が入っているんだよ。

 薬の効果もそれなりにはあるらしいが、効果に比べて払う代償が大きすぎる。

 特に微自動回復ってところがそれなんだけど、払う代償に効果が釣り合わない。

 というか永続のバッドステータスだけ残して、マトモな回復効果が日数制限とかそりゃあどんどん悪化するわけだよ。


「どうだい?」


「これは酷いなんてもんじゃない。よくこんな状態で生きていられるな」


 気が狂っていつ自殺してもおかしくないぞ、これ。

 なんてもの飲ませているんだよ、ミグノニア群島連合国。

 どんなものかと思ったら黒すぎる結果が出てきてしまった。


「かなり危ない状態なのかい?」


「そうだね。マリンは知らない方がいい。知ったらマリンが正気でいられるとは思えない」


 妹のためと思ってやっていたことが最悪な結果を出し続けているなんて知ったら、これまで自分なりに頑張ってきたマリンが可哀想だ。

 そんなこと、俺はしたくない。


「え?どういうことだい?」


 マリンが俺の背後から声をかける。

 マリンならこんな状態になった理由を聞いても、良くない薬だったことはなんとなく知っているだろうから大丈夫だと思うけど。

 これは俺が話したくないだけだ。


「いい、気にするな。これから治療できるかやってみるから」


 あのステータスを見る限り、ティータは遠からず確実に死ぬ。

 群島連合国がもしそこまで考えて今回の行動を起こしているってことになったら、いよいよ怒る所だ。

 マリンを苦しめただけでは飽き足らず、大事なものを奪おうと考えていたなら群島連合国を許してはおけない。

 マリンは俺の言葉を聞いて首を傾げる。


「?よくわからないが頼むよ」


 そう、マリンはそんなこと知らなくていい。

 これから俺が助けてやるからそんなこと知る必要はない。

 できるかどうかはまだわからないけど。


 カイの記憶の魔道書を探す。

 完璧に直せるような魔法はあるだろうか。

 ないと困るんだけど。


「あった」


 魔道書の記憶に神級ランクの異常回復魔法が存在するらしい。

 なんでも、あらゆる状態をクリアにして体の欠損すらも治せるような魔法らしい。

 その魔道書を書いたと思われる世界最古の伝説の魔法使いジオグラードも、成功するときとしないときがあったと魔道書の中に記載していた。

 かなり難しい魔法なんだな。


 前にカイと対決したときに慌てて使ったゴッドヒールも似たようなものだったらしいからなんとかなるだろう。


 ティータに両手を向けてイメージを始める。


 イメージ。

 魔法において最上位の回復の奇跡を。

 全ての病は聖なる光によって消え去る、神に届く奇跡。

 それは創生の神の祝福。


「ゴッドブレス・ジェネシス」


 部屋のマナが純粋な魔力へと変換されていく。

 両手から虹色に輝く光が現れティータの体を覆う。


「こいつは、なんだい?虹色の光を発する魔法なんて見たことないよ?!あんた、本当に何者なんだい?」


 俺も虹色は初めて見るんだけどね。

 魔法が終わるとティータは安らかな顔で先程までの苦しんでいた寝息が嘘のように静かな寝息を立てていた。

 俺は振り返ってマリンに向かって笑いかける。

 何者かと聞かれれば俺の答えはこうだ。


「――ただの人間だよ」


 マリンは顔を真っ赤にして俺を見ていた。

 現在俺の背後からは日の光が柔らかく差し込んでいるのでもしかしたらマリンには神の遣いか、もしくは倍カッコよく見えているのかも。

 なんてね。

 そんなわけはないと思うけど。


「あ、あんた、カッコいいじゃないか」


 マリンは海賊帽を目の真下辺りに慌てて持っていって真っ赤になった顔を半分隠しながらチラチラこっちを見ていた。


「そんなことない。俺はやれることやっているだけだし」


 ティータの方を向いて、再度アナライズをかけると、先程のバッドステータスらしきものは全て消滅していて、一旦全て無になったのか何も表示されなかった。

 マリンが呪いと言っていた人間不信や姉依存も残ってなかった。

 これ大丈夫かな?

 無理矢理性格を変えるような消滅の仕方な気がする。


 ひとまずこれで大丈夫だと思うけど、時間を置いて再度アナライズをかけてみるか。

 正気に戻ったティータがどんな人物なのかも気になるし。

 マリンに回復したティータの性格が変わってないかも聞きたいところだ。

 あとは群島連合国をなんとかしないといけないよな。

 どこから手をつけようか?




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