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第百四十九話 襲撃と共に現れたストーカー

「えっ?!ゼオルネ竜王国が攻撃してきた!?」


 マリンホエール海賊王国のマリンの居城、スノーパレット城に到着するなり俺は、レスリからの魔法通信があることに気づいて、マリンに断って城の庭で魔法通信を開いていた。

 そこでレスリからゼオルネ竜王国が襲撃してきたことを知らされていた。

 通信画面に映る仙人のような長さの髭のおじいさんの姿をしているレスリが、その髭を撫でながらこちらに問う。


「うむ、そうなのじゃ。アトス殿、今からすぐに帰ってくることは可能かのう?」


 魔法通信越しにレスリは口の下に生えている長い髭を撫でながらこちらを見ていた。


「うーん、すまない、いろいろあってまだ帰れないかもしれない。

 みんなは無事か?」


「それは大丈夫なのじゃが、カイ殿やセブルス殿が指揮する魔法使い達が防いでくれたのでのう。

 しかし、それと共に怪しげな人物がこの国に来ておる」


「怪しげな人物?」


 怪しげな、とか聞いてうっかりブラボーを思い浮かべてしまったが、ブラボーならあの姿でバレない訳はない。

 仮に変装していたら分からないかもしれないが、彼は不用意にバレるような行動を起こす人でもない。


「うむ、そうなのじゃ」


 レスリがそう言っている時に画面外から声が聞こえてきた。


「もうカイってば!逃げないで欲しいの!」


「逃げる権利くらい俺にだってあるってば!さっさと元の次元に帰りやがれ!」


「それは承知できないの!マキナからは逃げられないから観念するなの!」


 マキナ?

 うーん、どこかで見たような、聞いたような。

 それもこの世界ではない別のどこかで。


 レスリの背後からカイが顔を出す。


「おいアトス、なんとかして早く帰ってこいよ。次は本格的に攻めてくるぞ、竜王国は」


「難しい話をしないで欲しいの!って、あっ!あれってカイじゃないの?

 なんでカイが二人居るの?混乱しそうなの」


 カイの脇から顔を出したその女性は金髪碧眼のゴスロリの少女だった。

 それに無邪気そうなアニメ声を響かせるあの少女の姿、やはり見たことがある。

 いや、違うな。

 見たことあるじゃなくて書いたことあるの間違いだ。

 そこまで考えてパズルのピースが噛み合った。


 ――思い出した!


 あれは確か、カイのストーカーで名前をマキナ・セルク・シュトロハイムという別の次元の存在でその次元ではヴァンパイアと呼ばれる種族の少女だ。


 生前の小説においてはカイの旅路に必ずと言っていいほど登場した合法ロリ吸血鬼とかいう、


「属性詰め込みすぎじゃね?」


 っていうくらいのトラブルメーカーというか邪魔者というか。

 とにかくそんな感じの立ち位置にも関わらずカイの事がものすごく好きで、遥か昔に監禁事件を起こしたこともある愛が重い奴だ。


 ――彼女は間違いなく俺の生前の小説に登場した人物だった。


「むむ?カイ殿が二人?何を言っておられるのじゃ、マキナ殿。

 あちらはこの国の主のアトス殿じゃ」


「マキナがおかしいの?カイってあっちが本来の――ンググー、ンーンー!」


 カイが慌ててマキナの口を塞ぐ。

 これは要注意人物なのでは?

 カイの元の姿を知っているということは今のこの状況を揺るがす危険性がある。

 見た目はとんでもなく可愛いけど、騙されたら最後、地獄に突き落とされるのだ。

 小説通りの性格ならばかなり過激な性格をしているはずだしね。

 気を付けなければ。

 カイはマキナを引っ張って画面の外へと去っていった。


「なにやら事情がありそうじゃが、アトス殿、できる限り早めの帰還を。

 お待ちしているのじゃ」


 レスリが画面越しに一礼する。

 そこに今や懐かしいアルシェの姿が映る。

 画面に映る俺の姿を見るとこちらに歩いてきた。


「アトスさん、ワタクシ事でこの国に迷惑をおかけして申し訳ないですわ」


 頭を下げようとするアルシェに声をかける。


「そんなことしなくていいよ、元々俺が招いた結果だし、アルシェが謝ることじゃないよ。

 俺が勝手に決めて勝手にやろうとしていることだし、気にしないでくれ」


「でも、ワタクシのせいでアトスさんの理想の邪魔はしたくないんですの」


 アルシェもそんなこと本当に気にしなくていいんだけどな。


「理想っていうのは障害が必ず起こるものだし、今回の件も障害の一つだよ。

 これくらいは越えないと夢を叶えたとしても虚しくなるだけだし。

 ってこれは今、国にいない俺が言っても説得力はないけどね」


 努力しないで叶うならそれもまた一つの人生だろうけど、俺がこの世界で歩いている道は絶対に平坦なものではない。

 むしろ障害だらけな気もするが、決めた以上はやるつもりだ。

 アーティファクトがいくつあるのか分からないので若干憂鬱だけど。

 世界を救うなんてのはどこかの主人公にやらせておけとか言っていたあの頃が懐かしい。


 俺は世界のバッドエンドを見たくないだけだし、死にたくないだけだ。

 その仮定でこの世界がハッピーエンドを迎えられるなら最高だけどね。


「そうだアルシェ。エルフィリン樹神国でメクリエンス帝国が援軍に来たんだけど、心当たりはあるか?」


 俺が何の気なしにそう聞くと明らかに目線を逸らして恥ずかしそうにしているアルシェがいた。


「こ、心当たりですの?コホン、全くないですわね!」


「嘘だな、目線が泳いでる」


「うっ……その、お兄様に手紙を届けたのですわ。

 援軍を出すようにと」


 あの援軍はアルシェのおかげだったんだ。

 じゃければあの虫の大群と戦うことになっていたはずだ。

 本気を出す前に帝国の飛行艇が倒してしまったので、消化不良みたいな気分だったけど、それなら最初から本気出せよって話だ。


「そうなんだ。じゃあ、むしろ俺がアルシェにお礼を言わないといけないな。

 ありがとう、アルシェ。

 おかげでハイゼと同盟を結ぶことになったよ」


「あら?お兄様をその名前で呼ぶということはすっかり意気投合しているんですのね。

 その名前はホントに信頼する人間にしか呼ばせないんですのよ?

 しかも同盟までお祝いさせていただきますわ!」


「え?そうなんだ。それは嬉しいな」


 意気投合とは違うのかもしれない。

 どちらかといえば同じような境遇の仲間ってところだろうし、仲が良いかと言われればそれは違うと思う。

 一瞬会っただけみたいな感じだし。


「差し出がましいかと思いますが、自由連合国の北の浜辺、使ってもよろしくて?」


 いきなり何を言い出すんだろう。

 北の浜辺ってあのだだっ広い何もないあの場所か?

 過去の世界以来あそこには足を運んでいないんだけど、何をするつもりなんだろうか。


「北の浜辺?ああ、あの場所か?何をするか分からないけど、当分あっちで何かするなんてことはないし、好きに使っていいけど。

 何かするのか?」


「帝国との同盟の記念にワタクシからのプレゼントをお送りしますわ!

 国に帰ってくるのを楽しみにしていてくださいませ、アトスさん」


「えー、そこまで言って秘密なのかよ。まあいいや、楽しみに取っておくよ」


「よろしいのですかな、アトス殿?」


 脇で話を聞いていたレスリが画面の端から顔を出してこちらを見て聞いてくる。


「いいよ、別に。あそこ一応国の領土だけど使うつもりなかったし。

 それよりレスリさん、移民する人モーラ達以外来てないか?」


 忘れそうになっていたが、アルデイト王国から来たモーラ達、元貧民だった人達が来て以来、まだ他の人が来るのを見たことがない。


「唐突ですな。しかし、あれから数名が住みたいと言ってこの国に来ておるのじゃが、どうするのじゃ?」


「少ないけど来ているんだ。許可してあげていいよ。

 ……そうだ、レスリさん、入国管理お願いしても良いかな?

 こうしていちいち確認するのも手間だし、レスリさんなら年の功もあるから人の見分けとかできると思っているんだけど、どうかな?」


「その数名のことについては承知したのじゃ。

 しかしそう言ってもらえるのは嬉しいのじゃが、ワシは警備隊の人間じゃぞ、よいのか?」


 確かにレスリは国境警備隊の人間だ。

 でも、現状事務仕事が得意そうな人間というとレスリ程適任者がいないかもしれないというのも事実だ。


「もし王国から帰還命令とかでたら他の誰かに明け渡していいから、その間、お願いします」


「そこまでいうなら、あいわかった。

 任せておくとよいぞ。

 では今回の連絡は以上じゃ」


「負担かけてすまない。ありがとう、よろしく頼む」


「フフフ、そのようなこと。ワシも好きでやっておるのじゃ、気にするでないぞ」


 そう言って魔法通信で映し出された画面が消えた。


「あんた、随分楽しそうな国を作ってるじゃないか」


 通信が終わるなり、城の柱の影から顔を出してそう言ってきたのはマリンだった。

 こちらに歩いてくる。


「そうかな?というか盗み見はよくないんだぞ」


 聞かれていたことに少し面白くなさそうな顔で言ってみたが構わず話続けるマリン。


「あの魔法通信の人間達、みんな楽しそうな顔をしていたよ。

 あたいの国も負けちゃいないが、あんたの国、一度行ってみたいねぇ……」


 どこか遠くを見つめるような姿だった。

 何か思うことがあるんだろうか。


 ともかく、こうなったら早急に帰るように頑張らなくては。




すみません!明日は休載になります。

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