第十四話 朝市にでかけよう!
宿屋の窓に入ってくる光はとてもまぶしく、その朝の光で目が覚めた俺は、あのサフィーネという天使の話を思い返していた。
「なんか、とてつもなく大きすぎる話を聞いちゃったなー」
カイはまだ眠っているようで俺の言葉は独り言のようなものだった。
異世界生活二日目の始まりである。
とりあえず俺は二度寝する気も起きなかったので、起きることにした。
そういえば、着替えなんてものは持ってないし、なにより昨日は疲れていたのでそのままの服装で寝ていた。
そうだな、服を買うのもいいかもしれない。
ベットから起きて部屋にあった鏡を見てみる。
て言うか、この世界は一応鏡なんてあったのか。
黒い髪、黒い目、黒い服装。
間違いなくカイ・ライトニングの姿だった。
別に疑ったわけではないが、やはりいきなりの異世界だったので起きたら別の姿になっていないか、少しだけ不安ではあった。
まあ、そんなことが起こるわけもなかったので俺の心配性が出ただけだ。
確認も終わったので、とりあえず部屋を出て一階に降りていく。
宿屋の主人はこんな朝早くからカウンターにいた。
そして俺の姿を見つけると声をかけてくる。
「おはようございます、アトス様。
昨日はよく眠れましたか?」
「うん、まあ寝たことは寝たな」
正直天使と夢で会っていたので、いまいち寝たような気はしなかったのだが、消費した精神力と頭の記憶の整理はちゃんとできているようで、すっきりしていた。
「それはなによりです。
そう言えば、アトス様はこれからどちらに?」
「どちらにというわけでもないけど、しばらくこの村に留まるつもりだったから散歩でもしようかなっと」
「そうでしたか。
ということはしばらくこの宿屋にいるつもりなのでしょうか?」
「そのつもりだけど、ああ、ゴールドはちゃんと毎日一日分払うから」
「私は構いませんが、何日いる予定なのですか?」
そういえば、いつまでいるとか決めてなかったな。
後でカイとリコリスの2人と話し合いをしないとならないかな?
「すまん、決めてなかったから後で教えるよ」
「承知しました。どうせなら滞在する日数分のゴールドをまとめて払っていただければお客様の負担も減るかと考えましたので」
なるほど、たしかにまとめて数日分を払えばいちいち、カウンターに来なくてもいいのだろうし、そうした方がいいのかもしれない。
「そうだね、その方がいいかもしれない。
その話は後でするとして、ちょっと宿屋の周辺歩いてみるよ」
「わかりました、お気をつけて、もし興味がおありでしたら朝市ものぞいてみるとよいかもしれないです」
「私も……一緒に行く」
出ようとしたところにノルンが現れた。
「おお、ノルン、おはよう。一緒に行くってここ数年外に出てないのに大丈夫かい?」
「うん、アトスが良ければだけど」
とノルンは期待の眼差しでこちらを見てくる。
「構わないよ、でもノルンは大丈夫なのか?」
昨日は運命の人とか言っていたけど、俺と二人きりというのはハードル高くないのだろうか?
「私は……少し怖いけど、アトスが一緒なら、たぶん……大丈夫」
「そうか、私としては少々心配だが、ノルンがそう言うなら。アトス様、ご迷惑でなければよろしくお願いします」
「迷惑だなんて、そんなことはないよ。じゃあ行ってくる」
宿屋の主人の一礼をみてから俺とノルンは宿屋の外に出る。
外に出ると朝にも関わらずそれなりの人が歩いている。
「朝からにぎやかなんだな、この村は」
「外、久しぶりに……出た」
ノルンは太陽の光がまぶしいのか手で光をさえぎっている。
目の前を荷物を積んだ馬車が通りすぎていく。
あの方向は王都方面にでもいくのかな?
馬車は東へと進んでいた。
あの先は確か王都があるはず、このヴァレッタ村は真西の位置にあるため東へ向かおうとする馬車は王都に向かうはずだ。
もちろん俺は王都の途中にある町とか村とか知らないので完全に推測なんだけどな。
さて、外に出たはいいが別に行くところもなかったので、宿屋の主人が言っていた朝市にでも行ってみるか。
とは思ったものの、場所を知らなかったのでノルンに聞いてみる。
「そういえば、朝市って場所は分かるか、ノルン?」
「うん、前にお父さんに……連れていってもらったことがある」
「じゃあ、案内頼めるかな?」
「いいよ……でもはぐれたら大変だから、手、つないでもいい?」
ノルンは少し顔を赤くしてそう言ってくる。
ここで断る理由もないし、まあいいか。
「いいよ、はい」
俺が手を差し出すとノルンは恐る恐る自分の手を俺の手に重ねる。
大丈夫なのだろうか?
男性恐怖症は簡単に治ることはないと思うけど。
「ありが、とう」
そうしてノルンと歩きだした。
市場は宿屋から出て、村の中心近くでやっているらしい。
俺達がいた宿屋は西側のあの城門に近いところにあるため、村の中心はまだ見たことがなかった。
あの城門からまっすぐに直線で反対側の村の出口まで道が続いていたのは昨日見た。
ここは大通りのようなものでリヒテリンス共和国へ向かう馬車と王都に向かう馬車がすれ違うのをよくみかける。
「本当に村って言うより町の感じだよな」
俺は横で顔を赤くしうつむきながら歩いているノルンに話しかける。
「うん……私もそう思う。私が知っている頃からいつも、こんなににぎやかなの」
まあ、ここは共和国と王国の中間点だろうし、他の町を通るわけではないはずなので発展せざるをえないのだろうな。
しばらく歩くとノルンが手をつないでいないほうの手で指を差す。
「あそこが朝市の……場所」
その方向を見てみると、かなりのにぎわいの市場があった。
すごく活気があってそれぞれの露天では商人が大声で自分の店の商品を紹介していた。
俺はこういう市場は初めてだったのでワクワクしてきたのだった。
とりあえず食べ物とか見てみようかな?
忘れていたけど、昨日は結局なにも食べていなかったなーと思った。
口にしたものと言えば水くらいだったな。
実は俺は腹が減っていた。腹持ちがいいのか、昨日は全く腹が減ったという感覚はなかったので気にしてなかったけど。
「そういえば、ノルンはおなか空いてないか?」
「私、は……朝は食べない人間だから」
よくある話だな。
俺は生前は朝、パンとか食べていたけど。
忙しい日なんかはやっぱり朝食べなかったしな。
「そうなのか。じゃあノルンのオススメの食べ物とかあるか?」
ノルンは市場を見ながら何がいいか考えているようで沈黙してしまった。
「いや、無理に考えなくてもいいけど」
俺の言葉に慌てて首を振るノルンだった。
「アトスには……私の好きなもの、知ってもらいたい」
「そっか。じゃあ歩きながら考えていいよ。手は離さないようにするから」
ノルンは頷くと一緒に歩きだした。
「さあ、安いよ安いよー!王国から直送で新品の布だ、ぜひ見ていってくれ!」
「うちはアルデイト王国の人間もびっくりの効き目の薬を売ってるよ!旅のお供にどうだい!」
などなど、それぞれ自分の店の商品を宣伝している。
それを聞き流しながら、市場の様子を見る。
市場は、生前にみた祭りの出店の並びだが、両脇の店の間隔が広く、本来人が通る場所に車道が通っていて、その車道の脇に歩道があるような姿だった。
もちろんガードレールなんてものは存在せず、安全面どうなのって感じはしたが歩く人々は馬車が通りすぎると左右を見て、反対の店の歩道がある場所へと歩く。
うーん、俺が気にしても仕方ないのだけど、危なそう。
とはいえ左右確認しているので気を付けていれば問題ないのだろう。
と思って見ていたのだが、車道に子供が飛び出す。
さらに馬車が間近まで迫っていた。
おいおい、冗談じゃないぞ。
この光景俺が最後にあの世界でみたトラックと子供の光景に非常によくにていた。
馬車の御者はこれに気づいていなかった。
「ノルン、すまん」
「えっ?」
俺はノルンの手を離すとあの速度のおかしい走り方をして、子供の元に向かう。
そして馬車を背に子供を抱きかかえながら片手を馬車に向ける。
馬車を止めるためにカイの記憶にある魔法のイメージを始める。
二層の壁、こちらにある一層は硬く、何者も通さない鉄壁の壁。
向こうへあるもう一層は車のエアバッグのような柔らかさと耐久性。
「ガードプロテクション!」
するとこちら側には鉄でできたような壁が立ちはだかり、ここからは見えないが向こうはプシューと周りにも聞こえるような空気が抜ける音と共に馬車がぶつかる音が聞こえてきた。
「大丈夫か?」
俺に守られる形となった子供は目の前の出来事を信じられないという驚きの表情をしながら俺を見ていた。
「う、うん、ありがとうお兄さん」
魔法の効果が切れると壁がなくなり、馬車が先程の鉄の壁の厚さ分だけ離れた位置に止まっていた。
御者はあまりの出来事に馬車を止め、降りてくる。
「こ、これは、危ないところだった」
御者は顔を青くして俺達を見ながらこちらに歩いてくる。
周りの人は今の出来事をボーッと眺めて理解するまで動かなかった。
「す、すまない、きづかなかった、大丈夫ですか?」
「俺達は大丈夫」
「お兄さんが守ってくれたから」
腕の中の子供は少し怯えながら御者に言う。
「あなたが馬車を止めてくださった方ですか?」
御者は俺を見ながら申し訳なさそうに言う。
「ああ、そうだ。危ないところだったな」
「止めてくれてありがとうございます。あなたがいなければ、私は人殺しになるところだった」
「次からはもっと気をつけるようにしてくれ。今回は俺がいたから良かったけど」
俺がこの市場に来なければ確実に子供は助からなかったし、御者の人も罪を問われることになっただろう。
「ええ、本当に反省します」
「じゃあもう行っていいぞ」
御者の馬車の後ろには何台もの馬車が立ち往生していたのでそろそろ動かさないとマズイだろう。
そう思った俺は子供と一緒に歩道へと歩く。
うん、やっぱりこの道路は危険だ。
御者はこちらに一礼すると馬車に乗り、走らせ始める。
これでいいのだろうか?
俺はこの国のルールなんて知らないので、あんなやり取りでいいのかわからないがこの場は落ち着きを取り戻し始めたようなのでよしとする。
「お前も親のところに戻っていいぞ」
反対側の歩道から父と思われる人物が顔を青くしてこちらに急いで来ているのが目に入っていた。
「おーい、大丈夫か!」
父と思われる人物は子供に大声で声をかける。
そして俺の近くに来ると、子供を抱き締める。
「本当にありがとうございます!私にとっては最高の宝物なのでもし失っていたらと思うと」
そこまで言って父は男泣きを始める。
いい大人がそんなに泣くんじゃないぜ。
「ああ、別にいいけどこれからは子供から目を離さないようにな」
「はい、絶対に離しません!」
「じゃあ俺は行くけど」
俺は振り返ってノルンのいるはずの場所へと歩き始めるが父親から声をかけられる。
「あ、あなたのお名前は?」
さて、ここでなんと答えればいいのか?
名乗るほどの者じゃないとか言えばいいのかな!
とはいえ、聞かれて答えないのもなんか失礼な気もする。
俺は真面目なのだ。
「アトス・ライトニング。この村の西側にある宿屋にしばらくいるつもりの旅人だ」
そういって俺は振り向かないまま歩き、その親子がいる場所に片手を振る。
そしてノルンの元へと歩いていくのだった。
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