第百四十八話 連行される?
マリンホエール海賊王国にはすぐについた。
あの定期船の場所からそんなに離れていなかったらしい。
船を港に入港させるなり俺は船を降ろされ、この国の女王であるらしいマリンに連行されていた。
海賊王国はそんな大きな島ではみたいだが、保有する船の数もあって港がバカみたいにでかい。
なんなら島全体の海に面している場所全てが港なんじゃないかって感じだった。
そしてあの船団は極一部の戦力に過ぎないということを知った。
定期船に乗っていた時かなりの数が居たにも関わらず、動いていない船が港に所狭しと多数浮かんでいる。
港は普通の貿易船らしき帆船の数も多く、町の賑やかさもあってこの国に住んでいる人達はそれなりに楽しく暮らしていた。
「船ってことで気になったんだけど」
「なんだい?」
「魔法とかあるし、帆船だとマスト燃やされたら戦闘不能になりそうだけどどうなんだ?」
結構気になっていた。
現代世界においては帆船は相手が同じ帆船であるときしか戦闘が成立しない。
昔の大砲は一発一発確実に当たるわけではないし、帆を攻撃されて破壊された場合航行不能になる。
さらに木造船なので非常に燃えやすい。
航行不能になったら人力で動かしたりするんだと思うけど。
この世界では確実に魔法が当たるかどうかは分からないが大砲よりは当たる確率高いだろうし、帆を狙われたら一貫の終わりのような気がする。
何より木造船なので火魔法が命中したら一気に沈没する可能性すらある。
「普通はそう思うだろうさ。だが、あんたも定期船に乗ってきたならその謎は解けないかい?」
マリンがバカを相手にするような目でこちらを見てきたので、少しムカついた。
考えてやる。
定期船で変わったことと言えば、マジックウォールとかが張り巡らされていて被害が少ないってことだと思うけど。
あっ、なるほど。
言われて気づいたが、それが理由か?
俺が一人で納得しているとマリンはニヤッとして、カラクリを話し出した。
「その顔気づいたね。そう、大半の船はマジックウォールが船体を包むように張られていてそれが盾になっているのさ。
それも何層もね。
この技術はこの王国にしかない上に、あたいにしかできない構造にしているから他の国の船よりはしぶといのさ。
じゃけりゃ海賊王なんて呼ばれないよ」
独占技術ってやつか。
でもそれが他の国に流れたりしないんだろうか?
そんな船なら確かに海賊王と呼ばれるに相応しい力なのかもしれないけど。
「俺が真似てもできないかな?」
「どうだろうね。それは試して見ないと分からないが、あんたならなんでもできるんじゃないかい?」
「よく聞くよ、その俺ならできるみたいな話。
聞き飽きたレベルだよ」
面白くなさそうに言うとバカ笑いされた。
なんだよもう、こっちは真剣なんだぞ!
「ハッハッハ!あんた、自分が何を成し遂げてきたか分かってないのかい?」
「それもよく言われるよ。みんな好きだよな、そう言う話」
「なんだい?面白くなさそうな顔して、世界最強クラスと言われているってのに、不本意なのかい?」
「世界最強は間違いなくイスターリンとかアオイさんとかだし、俺はもう少し下じゃないかな?」
比べるのが間違ってるよ。
イスターリンの戦闘力を知らないんだろうか?
楽しそうに言っている辺り知らないんだろうな……。
あれは体験してみないと信じられない強さだしね。
「そうなのかい?あたいはイスターリンって奴の強さは噂でしか知らないけど、相当強いのかい、奴は?」
「めちゃくちゃ強いよ。あり得ない動きするし、さらにアーティファクトの影響もあって本当に最強の奴だと思う」
最近イスターリンのことばっかり話しているような気がするけど、あの戦闘力はそれほど衝撃的だったから仕方ない。
「アーティファクト、ね。でもあんたも使えるんだろう?」
思うところでもあるのか、マリンは何か含むように俺に聞いてきた。
「使えるけどさ。あれは俺の力と言ってもいいものなのか。
それよりなんでそんな何かありそうな言い方しているんだよ」
「あんたの力は知らないが、アーティファクトはあたいも持っているよ。
……使ったのは一度だけだったんだけどね」
最後の一言が何か悔いでもありそうな顔をしていたので不思議に思った。
浄化されたアーティファクトなら問題ないはずなんだけど、一度だけってことはなにかあったんだろうか?
いや、何かあったんだろうな、あの感じだと。
「マリンもアーティファクト持っているのか。
でも使ったのが一度だけって?」
「あんた、さっき会ったばかりの人間によくそんなこと気軽に聞けるね」
「まあ、別に言いたくないならこれ以上聞かないよ」
俺は深く入り込むような質問をしたつもりはないんだけど、マリンは少し面白くなさそうな顔をしていたのであまり聞かれたくないような感じだった。
だったら話さないで欲しい。
気になってしまうから。
「変わった奴だね、あんた。
普通聞き流したりしないのかい?」
「どうかな。俺の耳はかなり遠くの小さな音まで聞こえるから迂闊に聞き流したりはできないんだよ」
言い訳をしているような気がするけど、これは事実だし、聞こえてしまったら気になる。
歩きながらマリンは何か自分の振る舞いに思うところがあるらしく、軽く笑いだしてしまった。
「これじゃあどっちが年上なのかわからないね。
あんた、実はあたいより年上なのかい?」
お前の年齢知らないんだけどな、俺!
マリンは見た目は全然まだ若いのでそんなに年上って感じではないんだけど。
「どうだか。そもそもマリンの年知らないしな、俺は」
「おや?そうだったかい?あたいは27だよ。
あんたは16か7あたりに見えるけど、違うのかい?」
じゃあ正真正銘俺より年上だ。
俺は26だし。
でも十代ではないのは確かだ。
しかしそれを口にしたとして、果たしてマリンが食いつかないなんてことあるだろうか?
「違うよ。こんな外見だからよく間違われるけど、26だ」
あっ、しまった。
話の流れで自然に答えてしまった。
大丈夫か?変に思われたりしないかな?
そう思ってマリンの方をチラチラ見る。
うっかり本来の年齢を晒してしまったが、マリンは特に気にするようなこともなく、普通に驚いていた。
「こいつはたまげたね。あんた、あたいより一個しか違わないじゃないか。
伝説のドラゴンスレイヤーだったりするのかい?
いや、これまでの話を考えるとそうじゃないと外見と離れている年齢と事件解決なんてできないか」
ドラゴンスレイヤーってかなり有名なのかな?
これまでにも有名っぽい感じの話はあったし、そうなのかもしれない。
俺がドラゴンを倒した訳じゃないんだけどね。
俺がドラゴンと関わったことといえばエルフィン樹神国の守護竜グリーンノアくらいなものだし。
「あんまり不審には思わないんだな」
「なんでさ?」
「この外見だと少年とよく間違われるし、年齢もあんまり明かさないように気を付けているんだよ。
なのにマリンは気にする感じじゃないし、こっちが気になったんだ」
「なんだ、そんなことかい?あたいは人を見る目は良いからね。
隠し事を暴くなんて簡単なことなのさ。
海賊だからね、宝の在り処を探すようなものさ。
あんたも他に大きな隠し事がありそうだが、そいつは聞かなくてもあたいの目的には関係ないのさ」
あらら、そこまで分かっちゃう?
マリン、侮れんな。
「出会ったときから言っている目的ってなんなんだよ?」
「いいから黙ってついてきな!」
まだ隠すのか。
俺にさせたいことってなんかあるのかな?
あるからこうして連行されている訳なんだけど、気になる。
ともかくそうして俺はマリンと共に居城に向かっていった。