第百四十五話 一方その頃、自由連合国 その二
ゼオルネ竜王国のドラゴン騎士団をほとんど敗走させたあと追撃をペガサス達と国境警備隊の魔法使い達に任せて別動隊を捜索していた、俺ことカイ・ライトニングはそれを見つけた。
魔物と共闘する日が来るとは思わなかったぜ。
見つけたのはいいんだが、それよりも俺は久しぶりに会うことになった存在を見つけるのと同時に疑問符が頭に浮かんでいた。
何を言っているのかって?
目の前には血を吸われて倒れた大量のドラゴンとドラゴンライダーの姿。
そして脇にはツーっと片方の口元に吸った血が流れている漆黒のゴスロリの服に身を包んだ少女のような外見の女性が立っていた。
日が眩しいのか、日傘を持っている。
金髪碧眼で頭にホワイトブリム。
見ているだけなら超絶美少女なんだけど、会いたくなかったぜ……
普段怖いもの無しの俺だが、怖いものがひとつだけある。
この感じ、別動隊はあいつに全滅させられたな。
「ふぅ、この世界に来てから数日。
さっきまで魔力が足りなくて大変だったの……」
上品にハンカチで口の血を拭う。
俺の怖いもの。
それは目の前のあいつだ。
「はぁ、どうしてこの世界にいるんだよ」
その姿を見て俺はため息をついてしまった。
その少女を俺は知っている。
だが、この世界にいるはずがないのも確かだった。
「あっ!カイなの!んー?髪の色変えたなの?」
「お前なぁ……二回目だけどどうしてこの世界にいるんだよ」
俺がため息をつくのは珍しいって?
そりゃあため息もつきたくなる。
あいつは俺を追いかけるストーカーなのだ。
次元跳躍をしてまで追いかけてくるとか流石すぎて引くしかないぜ。
「質問に答えるのー!ここに来るのスッゴく大変だったの!」
「そいつはご苦労さん。で、何の用なんだよ、マキナ」
あっやば、ミスったぜ。
何をミスったかって?
まあ見ているといいぜ。
マキナは話なんてそっちのけで名前を呼ばれたことを異常なまでに喜ぶ。
聞けよ、俺の話を。
「名前を呼ばれたの!やっぱりマキナのこと覚えててくれてたなの!嬉しいの!」
な、ため息もつきたくなるだろ?
というか同情してくれ!
誰に言っているのかカイさん分からないけどな!
彼女は別の次元のヴァンパイアの一族で、兄さんと二人で族長をやっているマキナ・セルク・シュトロハイムって名前のヴァンパイアだ。
以前アトスが転生前の世界で書いていたと言っていた小説にももしかしたら度々出てきているかもしれないな。
なぜならことあるごとにどの次元にでも引っ付いてきて、俺の邪魔をしているからだ。
具体例としては俺に好意を向けてくる女性達を片っ端から排除して俺を狙うのを諦めさせることとかだ。
そして執拗に俺に粘着してくる。
粘着系吸血鬼っていうのかもしれないな。
「話を!聞けって!言ったよな!?」
俺は彼女の肩を掴んで大声で言う。
「うー、離すのー。わかったのー。それで何を話してくれるの?」
「三回目だが、なんでこの世界にいるんだよ」
「つまんない話なのー!お兄様に毎日ねだってやっとここに次元跳躍できたの!
目的なの?カイを探しに来ただけなの!
ここまで追ってくるマキナを誉めてほしいの」
で今度はモジモジ顔を赤くしながら俺にそう言ってくる。
「お前なぁ……ことあるごとに邪魔してきたことは忘れないぜ?」
「マキナの好意に気づいて欲しいの!」
「愛が重いの、お前は!」
ここでマキナのやって来たことの一部を紹介しようと思う。
あるときは仲間だった女性の香水を俺の元に持ってきて、
「浮気は許さないの!」
といって俺ですら知らなかった好意を向けていた女性を匂いのひどい沼に突き落として仲間から離脱させたり。
またあるときは俺を監禁してしばらく出さないで、
「マキナから提供するご飯以外食べちゃダメなの!」
といって黒ずみになったモンスターの料理を何日間も食べさせたり。
さらには男性の仲間で気のいい奴がマキナに好意を抱くと無理矢理そいつの目の前で俺にキスして精神的ショックを与え、男色家に鞍替えさせたり。
思い出すだけでも黒歴史だ!
そんな奴に追いかけられているんだ、カイさんは。
当のマキナは愛が重いと言うと、反論してきた。
「そうなの?そんなこと知らないの!マキナはカイを追いかけているだけなの!観念してマキナの物になるの!」
「俺は自由でいたいの」
「マキナと夜を共にした時のカイは嘘だったの?」
「あれはお前が料理にどんな奴でも抵抗できない超強力な媚薬を混入させたからだろ!」
思い出したくもない。
料理を食べたあとの記憶がすっぽり抜け落ちていて、次の日の朝、目が覚めるとキングサイズのベッドに寝ていて俺の横で寝息を立てる裸のマキナの姿があったとか。
ちなみに副作用なのか数日間ベッドで寝たきりの生活になった。
「意識がない状態で手を出すとかお前はヤバイ奴じゃないか!」
「情熱的だったのー、思い出すだけで体が熱くなってくるの」
マキナは片方の頬に日傘を持っていない方の手を添えて頬を赤くしてうっとりしている。
「知らない!俺は何も知らないからな!」
本当に俺はこいつに手を出したんだろうか?
記憶が抜け落ちているので真実は全くわからない。
しかし、状況証拠的には間違いなくクロだろうなぁ……。
「あのー、カイさん?そちらの方は?」
現実に戻った。
この光景を見ていたリコリスが割り込んでもいいのかという微妙な顔で話しかけてきた。
他の女性達も逃げる途中だったのかリコリスの他にもノルン、シルキー、セレスティ、アルシェと従者、ルシェル、それにエルネスの妻のアイーシャが一緒にいた。
「え?ああなんだリコリスか。こいつか?こいつは変人だ」
「ひどいのひどいの!マキナのことをそんな風に言うなんて信じられないの!」
マキナはめちゃくちゃプンプン怒る。
こいつと一緒になった方が被害が少ないのだろうか?
これまで散々いろいろやられたのでそうした方が周りのためになるのもしれないが、お断りだ。
監禁とかされたくないしな。
「えっと、マキナさんですか?」
「そうなの!マキナはマキナ・セルク・シュトロハイムって名前なの!
あなたは?カイの恋人?」
マキナの眼光が少し鋭くなる。
リコリスはアトスが好きだから心配はないと思うが迂闊な答えを言わないかと、少し心配になった。
「違いますよ。私は別の人が好きなので」
リコリスは少し恥ずかしそうにそう言った。
マキナはリコリスの言葉が嘘ではないと見抜いたようで敵意を持っていた青い瞳を大人しくさせた。
こんなヒヤヒヤ嫌だ!
俺は何者にも縛られず自由に生きたいぜ!
「後ろの人達もそうなの?」
するとアルシェとアイーシャ以外はみんな頷く。
その様子を見てアイーシャが話し出す。
「私は今ここには居ない人ですけどエルネスって人と夫婦なので、気にしなくて大丈夫よ」
アイーシャに先手を取られたアルシェも入ってくる。
「ワタクシは私用でこの国にいるだけですので、気にしなくていいですわよ」
マキナは二人の言葉を聞いて敵ではないと知ったのか、普通に楽しそうな表情に顔を変えた。
出た、マキナの猫かぶり。
基本的に敵対しない人にはマキナは年相応の少女のように振る舞う。
これに騙された男が酷い結末を迎えたのはさっきも言ったよな?
「よかったの!カイが浮気していたらどうしようかと夜も眠れなかったの」
ヴァンパイアは夜寝ないだろ!
ちょっとしたギャグに少し心の中で笑ってしまったぜ。
出会いたくない奴と会合してしまったわけだが、ひとまず今回の竜王国の攻撃は防げた。
だが、竜王国の王ナグレムは諦めの悪い男だ。
次は本格的に侵攻してくるかもしれない。
それまでアトスがここに戻って来ることを願うしかない。
最近暑いですから、熱中症などには気をつけて頑張りましょう!
この話で別視点は終わりです。
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