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第百四十一話 定期船にある美味しい料理?

 バイゼルハーツ公国から定期船に乗って1日が経過した。

 あと2日かかるんだよな?


 目が覚めたので甲板に出てみると本日は雨だった。

 というか嵐だった。

 船は魔法石の力なのか、船全体を薄い膜が覆っていて甲板に雨が落ちてくることはなかった。

 しかも転覆しないようになっているのか、荒れている海が膜の外にあるのを見たが、この船は一切揺れない。

 気になって船の端から真下の海を見ると波立ってない。

 船の動きで静かな波が起こるくらいだった。


「ファンタジーだなー、これどう考えても船が転覆するような嵐に近いと思うんだけど」


 それというのも膜の外では高波が起こっていて膜がなければ船を巻き込むくらいの高さの波が起こっているのだ。

 膜に当たるなり、まるで岩にでも当たったかのように波が割れる。


「む?アトス殿は船に乗るのは初めてなのでござるか?」


 昨日に続きまたしても後ろから話しかけられる。

 振り返るとジングウジ族の若様だったらしいレイがいた。


「そうだね。船に乗るのは初めてかな」


 現代世界でも船に乗ったことはなかったので本当に初なんだけど、まさかファンタジー要素極盛りの船が初になるなんて思わなかった。


「ならばこの光景に驚いたでござるか?」


「そういうこと、そう聞くってことはレイは乗ったことあるのか?」


「この間まで拙者も船なぞ乗ったことはなかったのでござるが、里を後にしてから別の大陸に行く方が安全だと拙者を守っておった者が言っていたでござる。

 故に船に乗ったのでござる。

 その者は拙者を逃がすなり殿を務めて、いまや生死不明でござるが……」


「そうだったのか。でも今回はついてくるんだな」


 レイの実力を考えると一緒にフォクトライト自由連合国に行かせた方が良かったんだと思うんだけど、レイは何がなんでもついてくるということだったのでこうして一緒に船に乗っている。


「拙者の目的、聞いたでござろう?アトス殿が動くならばこれを好機と捉えずなんとするでござるか」


 レイの目的。

 それはミグノニア群島連合国が腐敗したときに国を正すという話だったが、確かに今はチャンスなのかもしれない。


「でも無理しなくていいんだぞ?俺が国を助けたあと改めてってこともできたと思うんだけど」


「ここで動かなかったら何が国を正す目的か笑止千万!でござるよ。

 改めてとなれば拙者が国を正すと言っても信頼度はないのでござる」


「よく考えているんだな」


「拙者は一族の復興も考えねばならぬからいろいろ考えないといけないのでござる。

 一族の復興はまだまだ道のりは遠そうでござるが」


 真面目だなー。

 もう少し肩の力抜いた方がいいと思うんだけど、そういう訳にも行かないのかな。

 そんな話をしていると俺とレイの腹の虫が騒いだ。

 そういえば腹減ったな。


「腹が減ったでござるな……ひとまず船の食堂に向かうとするでござるか」


「おう、そうだな、行こう行こう」


 二人してそう言って船の階段を降りて船室が並ぶ廊下を抜ける。

 アオイはもっと早く目が覚めているはずだが姿は見かけない。

 船の上ということもあり他の乗船客の迷惑になるからと朝の鍛練はしないことにしている。

 しかし、剣の素振りくらいはできるのでどこかで素振りでもしているのかもしれない。


 廊下を抜けると食堂が付随しているロビー兼ラウンジに出る。

 定期船ということで商人やら冒険者やらの姿をちらほら見かけた。


「今日も人がそこそこいるでござるな」


「確かに。さて、テーブル確保しないとな」


 この食堂は船専属の料理人を雇っているようでメニューに並ぶ料理は彼らが作るらしい。

 俺はレイと空いているテーブルを探す。

 それというのも今は丁度朝食の時間帯なので人が結構居て、座って思い思いの朝食を取っているからだ。

 探していると、烏帽子を被ったこの船内においては非常に目立つ服装をしたハクリュウが既に来ていたらしく、手招きをしている。


「おーい、ここ、ここー。席は空いているからおいでよー」


 どうやら一足先にここに来ていたようだ。

 レイと一緒にその席に向かう。


「ハクリュウ殿も朝食を食べるのでござるな」


「式神といえどー、私の体はほとんど普通の人間と変わらないのでー。

 ちゃんとご飯食べないといけないんですよー。

 それに朝食はー、頭の回転を早くする効果があるのでー、食べた方がいいんですよー」


「式神も食事するんだな」


 そう言いながらレイと隣り合って席に座る。

 何を食べようかな?

 テーブルにはメニューが書かれた羊皮紙が置いてある。

 やっぱり俺の知っている紙はこの世界にはまだ普及してないようだ。


「拙者は海鮮丼でも頼むでござる」


「おおー、いいですねー。海鮮丼はこの船で航行中に海から魚を釣る乗組員がいてー、メニューに出るのは結構不定期なんだそうですよー」


 メニューを見てみると確かに、“本日限定”と赤字で書かれている。

 航行中に釣りする乗組員がいるとか少し笑ってしまう。

 新鮮さは折り紙つきなんだろうけど。


「へえ、俺は何にしようかな」


 ちなみに、字が読めないなんてことがアルデイト王国のヴァレッタ村であったけど、前にゴブレ達を普通に話せるようにする魔法“ネイティブランゲージ”はどうやらこの世界の字を読めるようにする効果もあるみたいで、それを知った俺は自分に使ったのだ。


 するとどうしたことか、あんなに読めなかったこの世界の活字が完全に読めるようになったのだった。

 それ以来、ネイティブランゲージを常時発動させていつでも読めるようにしている。


 次元中を旅するカイには必須の魔法だっていうのが身に沁みてわかった。


「俺も海鮮丼食べようかな」


「一緒でござるか?」


「だって限定だろ?こうしている間に売り切れたらどうするんだよ。行くぞ」


 日本人は“限定”とか言われるとついつい買ってしまうという話をどこかで聞いたことがあるが、本当らしい。

 というわけで、食堂の料理人のいるカウンターに行き、海鮮丼を頼む。


「海鮮丼二つ、あるかな?」


「それ、拙者も言いたかったでござる!まあ、頼めればよいでござるか……」


「あいよ!お兄さん達、運がいいね!あと残り二つだけだったんだよ。

 席で座って待っていな!」


 清々しい程の爽やかスマイルでその料理人は海鮮丼を作り始める。

 俺とレイはハクリュウのいる席に戻り座る。


「残り二つだけだったってよ。あと少し遅かったら売り切れだったかもな」


「運がいいんだねー。ホントに売り切れ間近じゃないですかー」


「危なかったでござる。拙者、まだ新鮮な魚というものを口にしたことがないのでござるよ」


「レイは一族が滅ぼされる前はずっと山奥で生活していたって話だし、そんなこともあるか。

 ところで、レイとかハクリュウって生魚食べることを変に思ったりはしないのか?」


 現代世界では海外に行くと刺身やら寿司やらに使われるような生魚を食べる習慣はないとか。

 この世界のことは分からないが、そこのところどうなんだろう?


「変なんてー、そんなこと思いませんよー?私はー結構食べますからー。何よりアオイ様がよく魚を食べているのでー」


「アオイ殿はよく食べるのでござるか?

 拙者は山奥の生まれでござるが、里の者達は生魚を食べる習慣があったから、変には思わないでござるよ?

 アトス殿がそう聞いてくるってことはアトス殿は普通に食べるでござるか?」


 群島連合国ってやっぱり日本みたいな文化なんだろうな、これを聞くと。

 リコリスとかノルンは生魚を食べたりしないような気がするけど。

 内陸の国の国民だし。

 でも交易の中心地となれば生魚もあったりするのかな?

 シルキーはなんでも食べそうだけどな、生きることに貪欲な獣人だし。


「俺か?俺は普通に食べるぞ?」


「群島連合国の生まれでござるか?」


「違うよ、俺は別の国の人間」


「そうなのでござるか?生魚は群島連合国の人間しか口にしないと里の者から聞いていたでござるが」


 この流れはマズイ。

 久しぶりに地雷踏んでる気がする。

 だが、空気を読んだかのように注文したものができたとカウンターで料理人の人が言っていたので俺はその場から逃げるようにカウンターに料理を取りに行く。


「待つでござる!拙者も行くでござる!」


 そんなわけでレイと一緒にまたカウンターに向かって料理を受け取る。


「あいよー!今日の限定料理はこれで売り切れだ!毎度あり!

 他のお客さんもごゆっくり!」


 大声で食堂全体にそう言う。

 この船に乗り慣れた常連客と思われる人達が反応して声を上げたりしていた。

 何回も乗っているから顔見知りなのかもしれない。

 うむ、これがこの船のスタイルなんだろう。

 さて、海鮮丼だが色とりどりの魚の切り身が鮮やかに大きな茶碗を彩っていてなかなか綺麗な料理となっていた。

 すごく高級感ある。


「おお!これはなんというか海の宝石のようでござるな!」


 レイは海鮮丼を眺めるなり目を輝かせている。

 気持ちはすごくわかるぞ、めちゃくちゃ美味しそうだもんな!


 それでテーブルに戻って座るなり食べ始める。


「はー、美味いでござるなー」


「ホントだよねー」


 二人して目を細めて海の幸を味わう。

 それもわさびのような鼻を抜ける爽やかな辛み、醤油のような丁度いいしょっぱさの液体もあってまさに海鮮丼といえる美味さだった。


「いいなー、凄く美味しそうな顔をしているねー二人とも」


 ハクリュウは少し羨ましそうな顔をしていたが、俺とレイは目の前の海の幸で固められた海鮮丼を夢中で食べる。


 そんな朝食を食べた朝だった。

 惜しいところといえば日本のような米の美味しさには届いていない米。

 多分群島連合国の主食と言われているコーツなんだと思う。

 もちろん美味しかったことに変わりはないので別に気にしないけど。

 でも、この世界の定期船の料理はバカにできないものだね。




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