第百三十八話 樹神国の異変、終結
グリーンノアと共にイースティア村の上空に来ると、グリーンノアの体は光輝き姿を変えた。
「なんだ?」
眩しかったので目を閉じる。
光が収まったのを閉じた目で感じながら目を開けると俺は、ドラゴンの翼が生えた老人のような人物に抱えられて地上へと降りていく。
腰にエメラルドのような宝石を純金でできた紐で吊るして着けている。
これだけ見ると大富豪に見えるけど。
「だれ?」
「誰とはご挨拶だな。グリーンノア、儂だ」
「……姿変わりすぎ!あとお姫様抱っこはやめろ!」
「これこれ、暴れるな」
なんかもういろいろ訳が分からない。
ドラゴニアってあんな姿なのかな?
あの巨体から人間サイズとかおかしい。
などなど頭を駆け巡る。
それよりも、だ。
男の俺からすればどうにかしないといけない問題がある。
「俺は男だ!お姫様抱っこされるような立場の人間じゃないの!」
「そう言うな。せっかく護り龍と呼ばれる儂に抱っこされているのだ、少しは楽しむがいい」
「だぁぁぁーおーろーせー!」
「そうか、残念じゃ。それじゃあ、ホイッと」
いきなり両腕を離される。
俺の体が地面に向かって落ちていく。
「あぁぁぁぁ!おーちーるー!」
というのは冗談で俺は即座に風魔法の補助を使う。
何事もなく地面に着地すると俺のすぐ近くに悠々と着地する老人が一人。
「フフフ、久々に楽しかったわ!」
両腕を腰に当て得意気に笑っている。
絶対ろくな死に方しないぞ、グリーンノア。
この光景を見ていた住民のエルフ達がグリーンノアの姿を見るなり慌て始める。
さらに、村に到着したばかりと思われるシャーリーを始めとしてヤマト、レイ、ミュリン、ツーイット、ハクリュウがこちらを見ていた。
そして、村に待機していたサグナと先に帰ってきていたアオイもいる。
「あれは!あの腰の宝石はグリーンノア様だわ!お目覚めになられたのね!」
「ああ、私初めて見るの!グリーンノア様のお姿は!」
あんな登場の仕方をしたのに護り龍という話があるのでエルフ達は英雄の帰還を喜ぶ民のそれだった。
アーティファクトで脅威になりかけていたとか信じないんだろうなー、あのエルフ達。
それを尻目にシャーリー達を見るとシャーリーが震えながらこちらに歩いてくる。
「あ、あんた!昨日ここで合流したあとに行動しようって言っていたじゃない!
さっき偵察のエルフの人から異変は解決したみたいですよって言われてなんか虚しくなったわ!
どうしてくれるのよ!」
「待って待って!俺は今回のほとんどなにもできてないよ」
仁王立ちになり胸の前で腕を組んで少し赤い頬をした顔を横にツンっと向けて片目でこちらを睨む。
「ふん!どうだか!……で、でも無事なのね?」
いつものツンデレかと思っていたら今度は両手の人差し指をくっつけて離したりを繰り返しながらチラチラこちらを上目遣いで見てくる。
「心配してくれてたのか?」
「べ、別に?!あんたに死なれたら他の女の子達になんて言えば良いのかなんて思ってないわよ?!それに、し、心配なんてしてないんだからね!」
顔を真っ赤にしながらまた腕を組んで横に向かれてしまった。
素直じゃないんだからもう。
でも心配してくれていたらしい。
「大丈夫。この通り、元気だよ。ありがとうなシャーリー」
「な、ななな、なによ!なんでお礼なの?なんでそんなニヤニヤしながら言うの?!」
今度は両腕を自分の後ろに伸ばして、前屈みにして俺の顔を真っ正面から見て叫ぶ。
忙しいな。
それはそれで可愛いんだけどさ。
「まさかメクリエンス帝国が動くとはのう。妾も驚いたのじゃ」
アオイが割り込んできた。
「なんか飛行艇みたいな音が聞こえていたからもしかしてって思っていたけど、噂のレッドバスターズ飛行軍でも動かしたのかしら?
アトス!帝国の飛行艇って赤い色だった?」
今の話を聞いてシャーリーがなにやら楽しそうな顔をして聞いてきた。
有名なのかな?あの軍団。
俺にとっては突然現れた援軍だったのでそこまで考えなかったけど。
「え?うん。赤い飛行艇と黒い飛行艇の混合部隊だったけど、もしかして有名なのか?」
「黒い飛行艇?!それって確か帝国皇帝の直属の精鋭部隊よ!
有名なんてもんじゃないわよ?
皇帝自ら人選を行って完全な実力主義で構成された、帝国最高の軍団よ!」
シャーリーがここまで楽しそうってことは世界中で有名な軍団なんだろう。
「そんな部隊だったのか。なんかハイゼ直々にここに来ていたみたいだけど。
俺に会いに来たって言っていたよ」
「あんた、ハイゼって、ドライハイゼルのこと?!」
「そうだよ?会いに来たついでかは分からないけど俺と手を組みたいって言ってきたから承諾した」
すると、この話を聞いていた仲間や他の村のエルフも含めて一様に驚かれた。
そんなに変なこと言っていないと思うんだけど。
「帝国ってドライハイゼルに帝位が変わってから他の国と同盟を作るなんて今までやらなかったわよ?
マジェス魔道国でもそんな話したことないわ」
「そうなんだ」
ドライハイゼル曰く、転生者仲間を探していたみたいなことを言っていたからその影響かもしれない。
じゃなければ同盟を作るなんてことしなさそうだよね?
この話はバレないようにしないといけない。
ドライハイゼルはまだ俺以外の人間に転生のことを話していないって言っていたし。
「アトス殿、今回はお世話になりました。帝国に手柄を盗られたと思っているようですが、あなたが居なければいまだに村の解放などできなかったでしょう。
それに、さっき聞きましたがアトス殿が居なければ帝国の援軍も来なかったかもしれません」
ツーイットが深々と礼をしてきたので俺は少し困ってしまった。
「そんなこと。別に気にしないでくれ。
というかホントにこれで終わりでいいんだよな?」
今回の異変はほとんど俺はなにもしていないので若干物足りない気もしたけど、異変が解決するなら別に構わない。
バッドエンドでもないし、これはこれでいいよね。
「なに言っているのよ?私の偵察魔法にも異常はもうないみたいだし、安心していいわよ?」
シャーリーは世界最強の魔法使いなのでその辺りに間違いはないだろうし、確証も得られたので解決したってことにする。
「じゃあ、次はミグノニア群島連合国に行かないと行けないかな」
「アトス殿は忙しいのですね。樹神国の復興が終わった後に連絡しますのでまたここに来てください。
今度は国を挙げて盛大な宴でも開催しましょう!」
「それは楽しそうだ。是非参加させてくれ。
その前にまずは国のエルフ達の回復と森の後始末、頼んだよ」
当分そんな余裕はないだろうが、一つの楽しみだな、これは。
「分かっています。しばらくは私達エルフィリン樹神国のエルフに任せてください!
グリーンノア様もお目覚めになられた今、樹神国はもう大丈夫でしょう」
ツーイットが自信満々に胸を叩いて言う。
そのグリーンノアは操られそうになっていたが大丈夫なんだろうか?
その不安げな視線を受け取ったのかグリーンノアは俺の前に出てくる。
「任せるがいい。儂とて守護龍。目覚めたあとはあのような不覚を取ることはない。
アトスがこの国を離れた後は儂が守ってやろう」
なら心配はないかな。
さて、それじゃあミグノニア群島連合国にはどうやって向かおうか。
シャーリーにはもう既に国を動かしてもらったからこれ以上頼るのは申し訳ない。
と、そんなことを考えていたらドライハイゼルが乗っている飛行艇が空を飛んできた。
飛行艇の側面から小型の飛行艇らしき物体が出てくる。
構造的に一人用みたいだけど。
立体交差する橋を潜り抜けて降りてきた。
皇帝の飛行艇はかなり大きいからここに直接着陸することは無理なんだろう。
少し集中して見てみるとそれに乗っているのはドライハイゼルだった。
着地するとドライハイゼルが降りてくる。
エルフ達や仲間達が両脇に行って道を開ける。
近くまで来るとドライハイゼルは空間袋に手を入れて手に持った10個のアーティファクトを俺に差し出してきた。
「……アトス。あの怪獣から回収したアーティファクトだが、お前に預けておく」
「良いのか?」
俺がそう聞くとドライハイゼルは俺の耳元に手を当て小声で話す。
「……うむ、我々帝国も50近くのアーティファクトを所持している。……浄化はしておいた。……同盟を作るに当たってこれをまずその証としたい」
約50ものアーティファクトを持っているとか、本当にアーティファクトはいくつあるんだろう。
俺の仲間に預けているアーティファクトを含めて現在の所持数は21。
さらに今渡されたドライハイゼルの分を含めると一気に31。
帝国の所持数が50程。
アトロパテネス教国の所持数が確認した限りでは25。
この時点で既に総数106だ。
多すぎるだろ。
時空神アトロパテネスは一体どれくらい大きい存在なのか、全然分からない。
アーティファクトは一つ一つが小さい水晶なのでもしかしたら実は集めたのはごく一部で、認識していないアーティファクトはそれこそ星の数程あったりするんだろうか?
それは勘弁して欲しいね!
クロノが気絶させた教国の先遣隊は6人だったと教国との戦いが終わった後に聞いたけど、その6人もアーティファクトを持っていた。
また俺の能力封じのアーティファクトは3個だったらしい。
クロノが先遣隊のアーティファクトを回収したいと言っていたけど、教国の教皇ジーベルの帰り道の護衛の話を出すと、
「仕方ありませぬな」
と言って諦めて合流するまで先遣隊の神官を護衛してくれたらしい。
「分かった。貰っておくよ。それとミグノニア群島連合国なんだけど、近々帝国に戦争を仕掛けるかもしれないって話があった。
気を付けてくれ」
「……ふむ、覚えておこう。……帝国でもそのような話はあった。
……情報感謝する。
……ではさらばだ、また会おう」
それだけ言うと俺に背を向けて彼は早々に去ってしまっていった。
皇帝の飛行艇に続き万を越える軍団が空を飛んでいった。
「これは壮観でござるなー」
「ホントよね、帝国はかなりの軍事力があるって群島連合国で諜報をしていたときに少し聞いていたけど、想像以上だわ!」
レイとヤマトが空を眺めながらしみじみそう言う。
群島連合国は恐らくかなり和風なので帝国の技術力は珍しいのかもしれない。
こうしてエルフィリン樹神国の異変は帝国の援軍もあり、驚くほど早く終わってしまった。
あの怪獣が本格的に動く前に解決できたので安心した。
今度はミグノニア群島連合国。
忙しいな。