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第百三十七話 哲学?裏世界樹の可能性

 浄化したアーティファクトを空間袋に突っ込んでエルフィリン樹神国の守り龍グリーンノアの背中から降りて顔と思われる場所の目の前に立つ。

 竜の瞳は赤い色だった所から薄緑色に戻っていた。

 どうやらちゃんと正気に戻れたようだ。


「すまぬ、お主が居なければこの国の全てを滅ぼすだけに留まらず、世界にとっての脅威となっていたかもしれない。

 ……礼を言わせてくれ」


 グリーンノアは細長い顔を地面に向けて下げる。


「大したことしてないさ。だが無事で何よりだ」


 グリーンノアが顔を上げると薄緑の瞳でジーッとこちらを見られる。

 どうかしたんだろうか?


「お主、名はなんと言う?」


「名前?アトス・ライトニングだけど」


「ふむ、アトス・ライトニングというのか。

 儂はこの国で守護龍と呼ばれているグリーンノアだ」


「話には聞いていたよ」


 するとグリーンノアは少し目を細めて薄く笑う。


「話には聞いておったか、しかし、儂は守護龍と今でこそ呼ばれているようだが起きてみるとこの様なのでな。

 眠って居たところに謎の女が現れた。

 その謎の女に不気味なオーラを放つ物体を無理矢理埋め込まれて、2000年ぶりに叩き起こされた」


 2000年ってどんだけ昔の存在なんだよ。

 現実にそんな神様見たいな奴がいるとかこの世界やっぱりいろいろすごいな。

 2000年って年月はセレスティが最初に思い浮かぶが、グリーンノアは存在感がありすぎる大きさなのでそれくらい行ってないと逆に違和感が出てくる。

 俺がその途方もない話を聞いてポカンとしていると俺の顔を見てグリーンノアは不思議そうな顔をしている。


「どうしたのだ?そんな顔をして。儂は何かおかしなことを言ったのか?」


「いや、俺は普通の人間だし、2000年とか聞いたら誰でも驚く」


 グリーンノアは俺の話を聞くと、顔の脇の二本の髭をジグザグの形にしながらしまったという顔をしていた。


「……普通の人間とはここ何百年も会話をしたことがないから、感覚がズレていたようだ。

 うむ、普通の人間ならば驚いて呆けるのも無理はなかったか」


「ともかく、助けられたんだし俺はイースティアに戻るよ。

 また支配されないように気を付けてくれ」


 これ以上ここにいても対してやることはないので俺はグリーンノアから離れようとする。


「待て、せっかく2000年からの眠りから目覚めたのだ、少し話し相手にならぬか?

 それにお主、アトスは儂の姿を見ても驚いていないと見えるのだが、気のせいか?」


「十分驚いているんですが」


 でも怪獣とか巨大魔物を相手にしていたらまた巨大な奴かよって思ってしまった。

 感覚麻痺も良いところだよね。

 この国に来てから俺は普通サイズの大きさの魔物なんて見かけなかったし。


「本当か?」


「そりゃあもちろん。ちょっと大きすぎるような敵と散々戦ったから飽きているだけだ」


「それは世界樹の麓に出現した巨大な怪物のことか?」


「グリーンノアはなんでその事が分かるんだ?」


 仮にも守り龍なのでこんな話し方で良いのかと思いもしたが、今更でもある。

 別に何か言われない限りはこのまま続けることにする。


「儂の感覚は樹神国全体で起こるどんなことも分かるような感覚だ。

 それがどれ程小さなことでもな。

 今回の騒動も眠りながら頭には流れてきていた。

 しかし、儂らのような龍は一度眠ると数千年は起きん、今回は叩き起こされたのだがな」


 伝説の龍ってそんなに眠るのかよ。

 驚いた。


「あまりに世界樹が危なそうなら何がなんでも起きるつもりではあったが」


「あの、その世界樹枯れかけなんたけど」


「案ずるな、元凶さえ倒してしまえば世界樹は復活する。

 アトスよ、お主は世界樹についてどれ程知っている?」


 なんでそんなことを聞いてくるんだろう。

 グリーンノアは真剣な顔で言うので何かあるんだろうけど。


「世界樹?マナを作っているこの世界の根幹とも言える木ってことくらいしか知らないけど」


「ふむ、大部分はそれで合っている。

 しかし、それは表面的な話に過ぎぬ。

 世界樹は人の純粋な善の心の塊で構成されておる。

 故に一見枯れかけや枯れ木に見えたとしても必ず復活する。

 人が絶滅しない限りは世界樹も滅ばん」


「善の心?」


 なんか哲学的な話になっていないか、これ。


「見たところアトスは時空神アトロパテネス様の加護を受けている者であるから、教えておこう。

 ――世界樹は善なる心や願いが形を成したもの。

 この世界にはもうひとつ世界樹が生まれたようだが、それはお主の善なる心が形を成したもので間違いない」


 もしかしてグリーンノアって世界中の出来事をこの場所に居ながら知ることができるんだろうか?

 そもそもグリーンノア自身が俺の国に生まれた世界樹のことを知っているからこの場所から世界の動きを見れるんだろう。

 守護龍とか半端ないな!


「そんな話すぐに信じられるとでも?」


「フフフ、大抵の人の子はそんなわけないと言うだろうが、これはこの世界の真理だ」


 得意気に笑うグリーンノア。

 しかしそうすると気になることがある。

 善なる心。

 それはつまり概念で例えるなら光だ。

 だとするならもうひとつ、なくてはならないものがあるはずだ。


「待てよ?善なる心や願いが具現化するってことはその逆の心や願いはどこに流れているんだ?」


「気づいたか、そう。

 善には対となるように悪が存在する」


 そうなのだ。

 光があれば闇もまた同時に存在するもの。

 善には悪が対となって出現するはずだ。

 でもこれまでの中にそんな話なかったはずなんだけど。


「儂は表の世界しか分からぬから、対となるはずの悪を具現化した存在は何処か。

 それは儂には検討もつかん」


「悪の世界樹とか存在するんだろうか?あるとしたらどのような姿なんだろう」


 これが本当に存在するなら、なんて世界なんだろうと思ってしまう。

 仮に悪の世界樹なんてものが存在するなら俺の知っている世界樹の概念とは完全に別の話になる。

 生前のあの世界でそんなアイデアを取り込んだ小説なんてあっただろうか。

 今の俺にはもはやそれを知る術はないのだけど。

 俺が独り言のように呟くとグリーンノアは目を丸くしてこちらを見ていた。


「悪の世界樹、お主、面白い発想をするな。

 なるほど、あり得るやもしれん」


「え?存在する可能性があるのか?」


「ないとは言い切れまい。

 悪の世界樹、樹神国に存在する世界樹が表だとするなら裏世界樹という存在があっても不思議ではない」


「でも所在地が分からないんじゃ確認しようもないか」


 俺とグリーンノアが話しているのはあくまで仮定しての話なので証明はできない。


「でも世界樹のことを教えて貰って助かるよ。

 マナを作っているくらいしか知らないんじゃ面白くないし」


 それは建前で本音を言えば小説家としての血が騒ぐのだ。

 世界の構造を知るには設定を知るのが一番の近道だし、その方が小説家だった俺としては分かりやすい。


「面白くない、か。アトスは探求心や冒険心が強いのだろうな」


「まあ裏世界樹の話は荒唐無稽な話でしかないから頭の隅にでも置いておくよ」


 気にはなるがそれはアーティファクトを集めることとは接点がない。

 今はそれよりもアーティファクト集めを優先したいしね。


「さて、せっかく目覚めたのだから、エルベットにでも向かうとしようか」


 グリーンノアは四本の足を立て、起き上がった。

 翼を広げ始める。


「いきなり行って大丈夫なのか?もしまとめ役と話したいならイースティアに向かった方がいい。

 今回の異変でイースティアが拠点になっているから」


「おおそうなのか。ではついでだ。儂の背中に乗せてやろう」


「いいのか、護り龍の背中に乗るなんて」


「構わん。儂を助けてくれた礼と思え」


 強引に片方の前足に腹をガシッと掴まれ、俺は有無も言わさず背中に乗せられてしまった。


「ちょっ。ったくいきなりは無しだよ、驚いた」


「儂の角にでも掴まっておれ。良いか?飛ぶぞ!」


「うわー、待てってばー!」


 空に飛び上がると同時に俺は慌ててグリーンノアの頭の二本の角に掴まる。


 危なっ!

 落ちる所だった。


 世界樹の近くにいた怪獣はもはやピクリとも動かず、どうやら完全に仕留められたようだ。

 なぜそれが分かるのかと言うと、仕留めたと確信したらしいメクリエンス帝国の軍団の飛行艇数十隻が着陸して兵士と思われる人達が、あの怪獣の近くを調べているのが目に入ったからだ。

 そこにはドライハイゼルやロイの姿もあったのでそう思ったのだ。


 皇帝が直接怪獣の近くに行くなんて危険すぎるし、仕留めたことを確信でもしない限りは皇帝を誰かが止めるはずだ。

 もっともドライハイゼルは自ら率先して動くタイプだろうから、俺の推測が間違っている可能性はあるけどね。


「心配なのか?大丈夫だ。あれはもう死んでいる」


 背中に俺を乗せ空を飛ぶグリーンノアはおかしそうに笑いながらそう言う。

 グリーンノアがそういうなら大丈夫かな?

 その光景を横目に俺はグリーンノアの共にイースティアへと向かう。




あと二話で第五章完結します!

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