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第百三十六話 戦闘狂の生き方とは

 アーティファクトを取り出す作業はまだ終わらない。

 イスターリンは何が楽しいのか、俺の作業をずっと見ている。


「しっかし、てめーもよく折れねぇよな」


「何の話だよ、こっちは繊細な作業中なんだけど」


 突然そう言われたので聞き流し程度に返答をしながら右手をまた護り龍グリーンノアの背中に入れる。

 後で回復魔法をかければ問題なく治せるだろうからちょっとした荒療治だ。


「あんだけボコボコにされていながらよくまた立ち上がろうと思うもんだ。

 つーかよぉ、お前、確実に何回も仕留めたはずなのに何普通に復活してんだよ、こっちが恐ろしくなったじゃねーか。

 そのあとの時空神の加護と言い、ただ者じゃねーだろうけど」


「それは企業秘密だ。敵に種を明かすわけないだろ」


 するとイスターリンはおかしそうに片手を額に沿えて豪快に笑い出す。


「フハハハ、ハァーハッハッハ!いいぜ、面白いよお前。

 そうだよなぁ、敵に話すわけないねぇよな?

 じゃあその敵とのんきに会話しているお前はなんなんだよ」


「言われてみれば確かに」


 敵とのんびり会話している時点で何かおかしいもんな。

 めちゃくちゃ腹抱えて笑ってやがるよ、あいつ。


「天然か?!天然記念物なのか?!」


「チッ、もう好きに言ってくれ」


 天然とは失礼な、俺は真面目なのだ。

 この光景だけ見るととても敵対している関係には見えないがイスターリンが本気を出していないからこんな変な光景が成り立つのだ。


「おっ?怒ったのか?ハハハハ!ますます変な野郎だなてめーは」


 あんな奴が世界最強とかこの世界何か間違ってるよ、絶対。


「……楽しそうなことで」


「久々にバカ笑いしたぜ。ダークディメンションの奴らはこんなのんきな会話してくれねぇからな。

 帝国抜ければもう少し面白いかと思っていたんだが。

 自由に動けるのは利点だけどな」


 全く、変な奴はどっちなんだよ。

 不満はありそうだが、今の現状に満足してはいるらしい。


「いいのか、そんなこと話して」


「あん?構わねぇよ。聞かれたとして、てめーに何ができるってんだよ」


「ムカつく、いつか倒してやる」


「楽しみにしておいてやるよ。

 もっとも今はまだその時じゃねぇだろうがな」


 冗談を受け取る感じで軽く言われる。

 自分が負けるなんて全く思ってないみたいだ。


「この世界が崩壊の危機にあるって話は知っているが、実感ねぇな。

 いや俺達の組織、特にシルヴィアは魔神に心酔しているようだが俺は戦いをやりたいだけだしな。

 仮に今崩壊したとしても俺の生涯には満足している」


「なんだ、イスターリンって心からダークディメンション側って訳じゃないのか」


「知ったこっちゃねぇな。ダークディメンションが滅ぼうが世界が救われようが俺にとってはどうでもいいことだ。

 強ぇ奴と戦って美味い飯が食えれば俺は満足だからな。

 この先に死が待っていようが戦いの中で死ねるなら本望だ」


 イスターリンは敵だが、自分の欲望に従って素直に生きているらしい。

 よく悩む俺とは別の生き方をしているんだろうな。


「お前もやり遂げたい事があるなら死んでもやりきれ、そうしたら満足して死ねるぜ?

 その前に俺に刈り取られないように気を付けな」


「敵に対してよくそんなこと言えるよな、強者故か」


「さてな。てめーにはなぜか話してしまうらしいな。で、作業は順調か?」


 おかしいな、本来止めるはずの存在なのにイスターリンは全然止めようとしない。

 変な気分だ。

 明確な敵なのにのんきに会話しているとか。


「まだ」


「ゆっくりすぎねぇか?」


「お前に話しかけられているからだよ」


「そうかそうか、じゃあ暇潰し程度に黙って見ていてやるよ」


「止めないのかよ!?シルヴィアって奴の策略なんだろ、これ」


「うっせぇな。それがどうした。俺は楽しければなんでも良いんだよ」


 完璧な開き直りである。

 その姿に呆れる。

 相変わらず葉巻を口に咥えながら煙を吐き出してこっちを見ている。


 もうひとつのアーティファクトを手に取って引き抜く。

 そして浄化。


「俺のアーティファクトもそんな感じなんだが、そいつは浄化しないと悪影響を与える代物なのか?」


 俺が引き抜いて浄化してから白い水晶になったそれを興味深そうに眺めながら聞いてきた。


「知らないのか?アーティファクトは浄化しないと魔神の干渉を受けるんだ」


「ほう。魔神の干渉か。魔神って奴はどれくらい強いんだろうな」


「それは知らない。でも一度だけ魔神と戦った事がある」


 するとイスターリンが詰め寄ってくる。

 しかも目を少し輝かせて。


「聞かせろ。興味がある」


「魔神の力の一部だと思うが、人の悪意を具現化して魔王と言っていいか分からないけど、光速で動いて再生能力付きの厄介な奴だった」


「そんな存在がいるのか。再生能力自体はそう珍しいことじゃねぇが、人の悪意を具現化する存在ってこたぁ、かなり強いんだろうな。

 人は愛やら憎しみやらが張り積めるとバカみてぇな力を出す事があるからな、人間の中で一番強ぇ感情なんじゃねーか?」


 実戦経験豊富そうなイスターリンが過去の経験を思い出しながら言っているのか、少し遠くを見ながら口走る。

 イスターリンの言う通り、愛憎というのは時として狂気と共に普段では出せないような力を発揮する事がある。


 考えてみれば確かに人の悪意を具現化したらめちゃくちゃ強そうだ。


「戦ってみてぇな、そいつと」


「どこまでも戦闘好きなんだな」


「そりゃあ、俺の生き甲斐だからな、戦いは」


 そんな話をしながらアーティファクトをもうひとつ引き抜いて浄化をする。

 これで三個目だな。


「もう少しで終わりみてーだな、俺もいい暇潰しになったしそろそろ帰るか」


「何しに来たんだよ、ホントに」


「だーから言ってんだろ?退屈だったから来ただけだってよぉ」


「変な奴」


「ふん、てめーに言われたくねぇな。今回はただの暇潰しだが、戦闘中にそんなこと言ったらたたっ切るぞ」


 本当にそうしそうだから怖い。

 アーティファクトを使わなかったらイスターリンには対抗できなさそうだってあの戦いで分かったから、余計に怖い。


「じゃあな、またどこかで会ったら戦うか、暇潰しの会話にでも付き合ってくれや」


「会いたくない、絶対に」


「ハハハ、素直じゃねぇか。俺は気分が乗った時にしか動かねぇからしばらく会わねぇよ。

 寝過ぎるのも考えものだがな」


 そう言うとイスターリンは竜の背中から降りて去っていった。

 最後に言っていたことを考えるに、イスターリンはダークディメンションの拠点にいるときは寝てばっかりなんだろう。

 体に悪そう。

 敵の心配するとか俺も頭のおかしい人間なのかもしれないな。


「さて、あと二、三個ってところかな」


 その後、誰も来る気配はなく、俺は黙々とアーティファクトの回収作業を続ける。

 全て取り終えるとアーティファクトは全部で五個あった。

 背中に回復魔法をかけて傷跡を消そうとしたら、勝手に治っていってしまった。

 浄化したことで能力が戻ったんだと思う。

 これで完全に終わりかな?


 竜は暴れなくなっていた。


「背中に居るもの、礼を言わねばならんな。儂の顔の前に来てくれるか?」


「もう正気に戻れたか?」


 怒りの空気は既に消えて神聖なオーラが広がっていたので心配はないだろうが、念のためだ。


「うむ、おかげで何の異常もない」


「それはよかった。待ってくれ、今顔の前に行くから」


 俺は再度風魔法の補助を使って竜の背中を降りていく。

 これで解決すれば安心なんだけど。




明日はもしかしたら休載になるかもしれません

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