第百三十三話 帝国とは戦いたくないかな!
どう対応したらいいんだ?
そう考えたのはあの怪獣が出現してすぐのことだ。
明らかに大きすぎるため、アーティファクトを使って消滅させるようなことでもしないと討伐不可能じゃないだろうか?
「困ったな。ここの蛾の魔物の集団も放っているわけにもいかないし」
かなりの数は減らしたので眼下は開けてきていた。
アオイの姿を探す。
空の集団の隙間から青い髪が見えた。
巨大魔物が次々と倒されている。
鱗粉も飛んでいるが、アオイには効果はないらしい。
「あっちはまだあの怪獣には気づいてないか」
森の木が振動を防いでいるんだろう。
守護する存在が完全な成虫になったので魔物の集団も攻め込んで来るはずだ。
世界樹の麓の森は壊滅していた。
遠くにある世界樹の麓のウディット村から必死に逃げるエルフ達も見える。
それだけの底力はあるみたいで被害の大きい場所から離れ、周囲の偵察をしながら魔物の軍団がいる方向とは別の安全な場所へと避難しているのを見つけた。
よかった。
ウディット村への救援はどうやっても間に合わないところだったのでこれも俺の焦る理由の一つだった。
今、俺がこの場所から離れたらイースティア村へこの空の魔物の軍団がなだれ込む。
それだけは防ぎたい。
ウディット村がある場所とは別の麓を見る。
その麓にあった木は葉が全て落ち、大きかった木も根本から折れたりしている。
そしてウディット村から少し離れた場所に魔物の陣があるのを見つけた。
数多くの魔物が上空の怪獣に呼応するように動き出していた。
「この状況であんなバカげた数が来たらいくらアオイさんでも厳しいかもしれない」
巨大魔物なんか比じゃないくらいの軍団が動いているのだ。
その数を見てさすがに俺もさらに焦ってきた。
空と地上、両方の数を合わせたら50万くらい居てもおかしくない。
死王国の時より遥かに数が多い。
他の国の軍団でもあれほどの数に果たして対抗できるのか。
ゼオルネ竜王国でも3万だぞ?
ふざけているとしか思えない。
あれを一人でとかやっぱりアーティファクトを使うしかないのではないか?
相変わらず空の魔物を斬りながらそんなことを考え始めていた時、背後から魔法弾と思われる銃弾が無数に飛んできた。
銃弾だって?
銃を使うのってメクリエンス帝国くらいじゃなかったか?
飛んできた方向を振り返って見てみると、片方が全て赤で統一されている飛行艇と、黒で統一されている飛行艇で構成された軍団が見えた。
「あれって、帝国だったり?」
疑問系なのは帝国の飛行艇はアルシェの飛行艇しか見たことがないからだ。
それが4万、いやもっといる。
多分5万隻程だと思う。
正確な数はわからないが1万程度の数じゃない。
あんな数の軍事力を持つ国なんて帝国くらいじゃないか?
ボーッとそれを眺めていると、蛾なんか比較にならない速度で飛ぶ赤や黒の飛行艇が俺の脇をいくつも通り過ぎていく。
まるで戦闘機の速度のようだった。
飛行艇ってあんな速度で飛べるのかよ?
通り過ぎた方向へ顔を向けると次々と蛾が撃ち落とされていく。
しかも船底を上側にして反転し、また蛾を撃ち落としながら引き返してくる。
運動性が変だ。
戦闘機みたいな動きしている。
瞬く間に蛾が殲滅され、さらに遠くで進軍中の魔物の軍団へと近づく。
「あのまま近づいたら撃ち落とされたりしないのか?」
と思ったのも束の間。
枯れ果てた森を移動している魔物の上空から火の魔法が刻印された物体が地上にいくつも投下される。
次の瞬間、地面についた途端にその物体が弾け方々へファイアーボールが飛んでいき、魔物の軍団に空白地帯がかなりの数出来上がる。
さらに上空で3隻の飛行艇が風魔法を派生させ雷の刻印へと変化した魔法陣を青い煙で描く。
あれは魔法だ。
マジェス魔道国で研究者のアングリフが魔力を物体化させると青い色になると言ってたはずだ。
するとその刻印が光り黄色に変わる。
上空から巨大な雷が発生し、射程範囲内と思われる地上と空の魔物を一掃する。
「あれ?これってファンタジーの世界だよね?!」
その光景にツッコミをしてしまった。
もはやSFの世界なのでは?
いや、でも使ってるものはどれも魔法なのは間違いないし、ファンタジーと言えなくもないのか?
驚いていると後ろから膨大な魔力が生成されているのを感じる。
また振り返ると、黒くて所々金色の装飾が施された飛行艇の中でも突出して大きい飛行艇があった。
その飛行艇の先端にマナが集まっていく。
「……射線上にいるそこの黒い少年に告ぐ、避けろ」
「え?俺のことか?」
「……そうだ」
あの飛行艇から青年のような声が聞こえてきた。
なんとなくマナの流れ的に意図を察した俺は言われた通りにさらに上空へと昇る。
「……協力感謝する」
飛行艇の先端にキィンと甲高い音が響く。
すると白い光が出来上がっていく。
あれはチャージ動作だ。
そしてその時は訪れた。
轟音を響かせながら遠くにいるあの怪獣と蛾の集団へ光の巨大な槍が放たれる。
槍というのは比喩表現で、光線が正しいかもしれない。
直撃を受けた蛾は姿すら残らず消し飛んだ。
しかも光線は継続していて、飛行艇が射軸を変えるために右に少し旋回した。
その場から動かず向きだけ変える。
その旋回動作によって光線が右へと威力を落とさずに逸れていく。
それによって怪獣の取り巻きはほとんど全滅した。
なんて威力だよ、掃討すぎる。
「あれは光魔法、ホーリーバレットをアレンジした魔法だな。」
でもやはりファンタジーということか、あれは間違いなく魔法だ。
俺は使われた魔法の種類が分かるのでそれで済んだが、魔法に詳しくない人が見たらあれは未知の兵器に見えるだろう。
光線は射線上にいた怪獣にも当たった。
致命傷には至っていなかったが、片翼が光線によって千切られた。
俺が先程まで戦っていた蛾の集団は全て配下と思われる黒と赤が混在する飛行艇によって全滅していた。
「なんつー軍事力だよ……絶対帝国とは戦いたくない」
5万程で50万もいる魔物の集団が半分以下に減少していた。
こんな軍事力を持っている帝国に戦争仕掛けたゼオルネ竜王国とかバカなのか?
思わずそんなことを考えてしまった。
それはさておき地上で戦っていたアオイも異変に気づいた。
まあ、巨大な魔物が飛行艇に殲滅されていたらさすがに気づくか。
片翼を千切られた怪獣は態勢を崩し地面に落ちて行き動く気配がない。
飛行艇の集団が魔法弾やら投下した物体と同じものを怪獣にぶつけていく。
「あ、あれはなんなのじゃ?」
「メクリエンス帝国だよ、多分」
「先程の光。あれも帝国の所業なのじゃろうか?」
「多分。いやうん帝国とは間違っても戦っちゃいけないってことを深く実感したよ」
あんなファンタジーぶっ壊すような代物を扱う帝国に喧嘩売ったらこっちが滅ぶ。
「でも怪獣みたいな虫には対抗できないみたいだけど。
そうだ。アオイさん、空からの景色に興味ある?」
「む?空からの景色とな?しかしどのようにして空へと向かうのじゃ?先程も言ったが妾は魔法は苦手じゃぞ?
興味はあるが」
「どうってこうするんだ」
アオイをお姫様抱っこすると俺は空へと飛んでいく。
「こ、これは恥ずかしいのじゃ!降ろせ!降ろすのじゃー!」
「暴れるなって落ちるから」
腕の中でジタバタするのは勘弁してもらいたい。
アオイは頬を赤く染めていた。
「いーやーなーのーじゃー!」
「落ちるから!」
さすがに高い場所まで昇ってくるとアオイは暴れなくなった。
「くっ、不覚なのじゃ。このような辱しめを受けようとは。
覚えておれ」
「でも気になるんだろう?」
「それは、そうなのじゃが。お主、他に女が居るというのに妾に手を出そうとしておらぬか?」
「するわけないだろ。アオイさんが興味あるって言うからこうしているだけだし」
少し自重した方が良いのかな?
俺としてはアオイが言うようなことをしようとは全然思ってないのだけど。
「それより、こんな感じになっているみたいだよ、今」
「むむむ、そこまで言われると面白くないのじゃ。
まあよい、口車に乗せられてやるのじゃ」
アオイが腕の中から景色を見る。
視線の先にはいまだに飛行艇から攻撃を加えられている怪獣がいる。
「あれが、この異変の元凶なのじゃな?」
「うん、そうだね。このまま行けば俺の出番はないかな」
「それはそれで良いのではないのかのう?」
「確かにそうかもな」
なんか横から獲物を取られた気分だったけど、あれで対抗できるなら別にいいかな。
しかし、異変はこれで終わる訳がなかった。
「……なんじゃろう?なにやら変な気配がするのう」
あそこで攻撃を受けている怪獣とは別の気配がする。
「言われてみれば、なんだこの気配は」
空気に怒りが交ざっているような、そんな気がした。
どこから来ているんだ?
周りを見渡してみるが、姿は見えない。
「これはもうひと波乱ありそうじゃのう」
「随分のんきに言うんだな」
「ここまでしておいてそれを言うのか?妾は今動けんのじゃが、主に誰かのせいで」
ものすごく不服そうに俺を見ている。
確かに今はそうか。
気配がどこから来ているのか分からないが何者かの気配が広がり始めていた。
すみません、私、風邪引いてしまってかなり憔悴しているので二、三日休みます……
皆様も風邪にはお気をつけくださいね
いつも読んで頂いてありがとうございます