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第百三十二話 弱点探っている場合じゃない!

 イースティアからさらに東へと向かっていると歩いている道の先に多数の巨大魔物がいることが分かった。

 一緒に来ていたアオイもそれに気づいたようだ。


「多いのう」


「めちゃくちゃのんきに言っているけど、アオイさん、桜花流剣術って大軍に使える剣術なんてあるのか?」


 するとアオイは歩きながら口元に手を添えて少し笑った。

 何がおかしいんだろう。

 変なこと言ったかな?


「アトス殿よ。サグナが言っていたことを忘れたのかのう?

 極めれば大陸切断できるような剣術じゃぞ?」


「大陸切断って比喩かなんかかと思ってた。

 ホントにそんなことまでできるのか?」


「冗談かと思うておったのか?それくらいできるのじゃ」


「マジか。恐ろしい人も居たもんだ。

 大陸切断できるならあれくらいの大軍一人でも倒せそうだけど」


 俺が思う剣術というのはほとんど個人対個人で使うようなイメージがあった。

 日本の昔の剣術の流派でも一人で多数を相手にするような剣術もあったと聞くがやはり数は少ない。


「じゃなけりゃついてこないか」


「そうじゃのう。しかし数は多い。妾一人では手が足りなそうじゃ」


「いざとなれば俺がなんとかするから別に良いけど、無理はするなよ?」


 最後の切り札だけどね。

 アーティファクトを使うのは。

 でもあれくらいの大軍なら一瞬で消滅させられるんだろうな、あの能力。

 殲滅じゃなく消滅なのは書き込んだらきっと跡形もなく消すこともできると考えたからだ。

 それでなくとも複合魔法を使えばなんとかなるとは思う。


「誰に言っておるのじゃ。妾とてそこまで弱くはないわい」


 侮られていると感じたのか少し面白くなさそうにほっぺを膨らませていた。

 朝の手合わせでアオイの実力とかは十分分かっているし、なんなら手合わせの間アオイは桜花流剣術の技を何一つとして使っていなかった。

 エルベットからイースティアへ向かうときに少し戦闘を見ただけだが、まだまだアオイは自分の実力を完全に出していない。


「それは分かっているけど、巨大な魔物がいっぱいいると少し心配にもなるよ」


「ほう、お主はおなごと見ると誰にでもそんなことを言っておるのか?」


「そんなわけない。と思ったけど結構そんなことを言っているような」


 アオイが頭を抱えてしまった。

 なんでだよ。


「天然か?天然なのじゃろうか、あやつは」


 小声で言っても俺には聞こえるので反応に困る。

 聞こえすぎるのも考えものだね。


「それで?あのくらいの数は倒せるのか?」


 アオイの独り言は聞き流して遠くにいる巨大魔物の方を向いて聞いてみる。


「そうじゃのう。簡単といえばそうなのじゃが」


 含みのある言い方が気になる。

 なにか条件とかあるんだろうか。

 俺みたいにアーティファクトを使うとしばらく動けなくなるのと似たような現象が。

 俺の考えは外れた。

 アオイが空を見ながら言っていたので気になって視線の先を追いかける。


「……あれはどう戦えば良いのじゃろうな?」


 空には茶色が広がっていた。

 それが飛んでいる虫の体だとようやく分かったのは体の隙間から青の色、つまり空の色が途切れ途切れで目に入ってきたからだ。

 しかも一体とかそんな数ではなく、数十でも収まらない程の数だ。


「うわー、怪獣だー」


 棒読みだった。

 それというのも南のノベリスで聞いた蝶のような形で巨大な魔物が何十体も飛んでいたから、あんまり驚きがなかったせいだ。

 あれって大きい蛾だよな、絶対。

 間違っても蝶ではないね!


「妾の対空奥義なぞ、それこそ剣閃を飛ばすか、一の太刀くらいじゃし」


「え?対空できないのか?」


「できんことはないのじゃが、あれだけの数となると全てに対抗はできんじゃろうな」


「アオイさんって魔法は使わないのか?」


「もしや魔法を使えと言っておるのか?いやじゃ、あれは制御ができんではないか!」


 地団駄を踏む剣士がそこにはいた。

 この流れってもしかして……

 思い当たることがあったので聞いてみよう。


「参考に聞くんだけど、アオイさん、魔法使えるよね?」


 聞かれたアオイは俺の目から自分の目を横にそらして答える。


「で、できるのじゃ。それくらい妾にとっては、か、簡単なことなのじゃ」


 ……絶対嘘だ。

 顔を横に逸らしているし目も泳いでいるんですが。


「へえ、じゃあちょっと初級魔法のファイアーボール。使ってみてよ」


「な、ななな、なぜそのようなことをせねばならぬのじゃ。

 そのような魔法を使わずとも妾の剣術で十分じゃろう?」


 明らかに動揺しているよ、あの人。


「正直に話してくれ。アオイさん、魔法不得意な人間なんじゃないのか?」


「……だ、誰にも言わぬか?」


 顔を横にしながらアオイは俺をチラチラ恥ずかしそうに見ていた。


「人の欠点を他の誰かに話すの、俺は好きじゃないしね」


 アオイはそれを聞くと顔を俺の正面に戻し一旦沈黙。

 次にものすごい早口で話し始めた。


「分かったのじゃ。正直に言うぞ?……妾は魔法が不得意なのじゃ!魔法が不得意じゃから剣術一辺倒になったなど口が裂けても言えぬのじゃ!」


 最後の部分言わなくても良かったのでは?

 完璧な剣士かと思っていたけど、アオイの唯一の弱点を発見した。


「意外だ。なんでもできるかと思ったけどそういうわけでもないのか」


「妾とて弱点の一つくらいあるのじゃ」


 その話を終えた直後。

 空を飛んでいる蛾のような魔物がこちらを捉え、地上も含む魔物全体に連絡されたのか、地上の巨大魔物もこちらに進軍してきた。


「悠長に話しておる場合ではなさそうじゃのう。

 アトス殿、空の方を頼んでも良いか?」


「対空苦手ならそうするよ。じゃあ戦闘開始と行くか!」


 アオイと二人で頷き合い、俺は空、アオイは地上ということになった。

 魔剣を抜き、風魔法を補助に割り当てる。


 イメージ。

 体の動きに合わせて風の加護と風の道を。

 思考と同調。


「ウィンドームーブ・オート!」


 俺の視界に風の方向が矢印表示される。

 思考を別の方向に持っていくと、矢印もその方向へと勝手に動いた。

 背中から風が吹いている。

 空中に足を出すと、踏み出す直前に空気の足場ができる。


「真面目にイメージして使うの初めてだからどうかと思っていたけど、なんとなるか」


 ウォーミングアップをする感じで光速で空へと昇っていく。


 よし、ちゃんとできるみたいだ。


 進路にいる蛾を軽く切り落としながらさらに上空に抜けて眼下を見てみると森は見えない。

 なぜなら大規模な茶色の空の軍団が森を覆っているからだ。


「これは骨が折れそうだ」


 しかしそれよりも世界樹の幹に張り付く3000mほどの白い繭が目に入ってしまった。

 そして感じる景色の違和感。

 なんか変だな、空にいる蛾の魔物とは別の茶色がちらほら混ざっているような。

 でもマグレナの話は本当の事のようだ。

 しかも繭に少し亀裂が入り始めていた。


 あれって、孵化する直前なのでは?!


 ともかくまず眼下の大量の蛾を殲滅しよう。

 俺は空で光速の動きをしながら魔剣で斬り込んで一気に数十匹の魔物を倒していく。

 蛾の鱗粉のせいなのか、眼下の森の木々から葉が落ち始めている。


「こりゃマズイな。早く殲滅しないと森が枯れ果ててしまいそうだ」


 空の魔物を斬るのに忙しいため、アオイの様子を見ている余裕はない。

 というか、蛾が邪魔で全く地上が見えん。


 そこで景色の違和感の正体に気づいた。


 なんか変だなと思っていたけど、空中にたくさんの茶色の葉がひらひら風に乗って舞っている。

 しかもかなり大きい葉が。


 ふと世界樹を見てみる。


 ――大量の葉っぱが世界樹から落ちてきていた。


 エルベット村の村長ツーイットが言っていたがどうもそれよりも多くの葉が落ちているようだ。

 空気中のマナも心なしか薄くなっている。


「空の魔物を倒している場合じゃないぞ、これ。あれどう見ても枯れる直前なんだけど!」


 世界樹に辛うじてくっついている葉っぱも緑から茶色へと変わった葉っぱがそこそこの数出てきている。

 さらに世界樹の木の幹の色が緑を含んだ目に優しい色から急速に灰色になってきていた。


 だが、空中の魔物はどこから沸いてくるのか数が減っている気がしない。

 俺と戦闘中の蛾も戦闘態勢に移行したのか、謎の紫の液体を口から俺に飛ばしてくる。

 空中で横に避けてその液体の行く先を見てみると、液体の直撃を受けた木が跡形もなく溶けた。


「じょ、冗談だよな?」


 あれ、酸性の液体じゃん!

 怖い。

 直撃したらただじゃ済まないぞ?!

 あんなのとエルフ達が立ち向かうなんて無理ゲーだろ、どう考えても。


 どうやら空でも苦戦は必至のようだ。


 悪いことは続くもので、それを苦笑いで眺めていると大気が振動する。

 振動を起こしたと思われる方向に目を向けると、世界樹の幹から空気を裂いてバキバキと破れる大きな音を放つ繭があった。


 その繭から見るのも恐ろしい物が姿を現した。

 漆黒の巨大な羽、触角のついた虫によく見られる顔。

 口からは触手のようなものが無数に蠢いていた。

 6本の鱗で覆われた足。

 背中には謎の切れ目。


「嘘、だろ」


 幼虫で3000mあったのに、あれはさらに大きく、4000mくらいの今叩き落としている蛾なんか比較にならない大きさの化け物がそこに出現した。

 その大きさに圧倒されていると、背中にあった謎の切れ目から森を覆っている蛾の数よりも多くさらに大きい蛾が空を埋め尽くした。


「あれは、移動要塞なのか?」


 その光景は澄み渡る空の一角が絵の具の茶色と黒で塗りつぶされたような光景だった。


 その化け物が一回羽ばたくと羽から剥がれ落ちた大量の鱗粉の影響で地上の森の一部が一瞬で枯れる。


「しょ、正真正銘化け物じゃないか、あれ。いやもはや怪獣か」


 虫なのに怪獣とはと少し思ったがあれは怪虫とかいう次元の存在じゃない。

 蛾を斬りながらそれを見ていたが勝てる気が全然しない。

 現実感無さすぎるだろ、あの怪獣は。


 俺はあれと戦わなくてはならないらしい。




明日は休載になります!

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