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第百三十話 大陸の緋王との朝練

 食糧輸送を成功させた次の日。

 俺達は、イースティア村で一晩過ごした。

 イースティアもエルベット村と同じような構造で立体交差している空中に浮かぶ橋があって、男女に別れてそれぞれ家を手配してもらった。

 このイースティアは世界樹を見に行く観光客が必ず通る中継地点で、自給自足ができないのは土産などをつくるエルフ達が多いかららしい。

 結構売れるらしく、その収入でこの村のエルフ達は他のエルフの村との食糧の取引をしていると聞いた。


「なるほどね、それで食糧生産には向かない土地だったのか」


 そう言うのも、この村は巨大な樹木に囲まれておりそのツタやら根が地面を覆っており畑を作るのには不向きな土地だった。


 ともすればここがエルフィリン樹神国の村の中で一番エルフっぽい村に見えた。

 朝早く目が覚めた俺は家を出て村の中を歩いていた。

 歩いていて気づいたのだが、異変が起こってなければいろいろな商品を売るであろう場所に市場らしき形の場所があった。


「おや?アトス殿は早起きなのじゃな」


 後ろから声をかけられたので振り返るとそこには後ろで透き通るような青髪を一纏めにした長いポニーテールのアオイがいた。


「ん?いつもの髪型じゃないんだな」


「妾は朝の素振りをするときだけこの姿なのじゃ、気にするでない」


 そう言われても気になるのは仕方ない。

 出会ってまだ一日だが、あの髪型で印象が固まってしまっていたせいだ。


「素振りってことはアオイはもっと早く起きているのか?」


 今は間違いなく朝だが、アオイは一体いつ起きたんだろう?


「うむ、妾は日が出る前に起きるのじゃ。師匠の元で修行をしていた頃からずっと同じ時間帯に起きておるでのう、もはや習慣じゃよ」


 それって未明とか明朝の時間帯なのではないだろうか。

 随分早く起きるんだな。


「え?じゃあもしかしてついさっきまで素振りしていたってこと?」


「そうじゃが?毎朝軽く1000回はやるのじゃ」


 それもう軽くというレベルじゃないと思うんだが。

 あの腕実はかなり筋力あるんじゃないか?

 そういえば俺はこの世界に来てから修行らしきものはしてないな。

 いや、レベルカンストで転生したようなものだしそんなことをしている状況じゃなかったんだけど、混乱しまくったし。


「お主は鍛練はせんのか?」


「あー、してないな。何を訓練したらいいのかわからないし」


 素振りくらいはしても良いかもしれないな。

 するとアオイは俺に一つ提案をしてきた。


「妾とこれから毎朝軽く手合わせでもしないかのう?お主には興味がある。

 どうじゃ?」


「断る必要もないし、いいよ。やろう。お願いします」


 朝することもないし、そんなことを組み込んでもさして問題ないしね。

 アオイにとってもいい訓練とか鍛練になるだろうし。

 というかそれが目的なんだと思うけど。


「では、村から出て少しついて参れ」


「了解」


 そんなわけでやって参りました、エルフの森。

 アオイは魔物掃討やら輸送の時とかに場所を探していたんだろう。

 迷うこともなく歩いていた。


「お主の剣は魔剣とロングソードがあるようじゃが、戦う相手によって使い分けておるのか?」


「そうだな。基本的に俺は人間相手ならこっち、魔物相手ならこっちって感じだ」


 言いながら俺は交互に腰に着けている剣に手を置きながら話をする。


「もしやと思っていたのじゃが、アトス殿は人を斬ったことはないのではないかのう?」


「俺は人を斬るのはあんまり好きじゃないから、不殺でやっているよ。

 怪我はさせるけど、殺しはしない」


「この世界でそのような芸当ができるのはお主だけだと思うのじゃが、しかしこの世界で生きて来たにしては甘い考えじゃのう」


 そもそも俺はこの世界の人間じゃないからな。

 なんで人を殺さないのかと聞かれれば日本人だからだろうな。

 世界大戦くらいの時の日本人はそんなこと思ってないと思うけどね。

 戦争だし、それは良いとか悪いとかの話じゃないと思う。

 国の存亡がかかっていた戦争な訳だし。


「よく言われるよ。まあ、倒さないと行けないような人間がいたらそれはまた別の話だけどな」


 例えば戦闘力を奪っても仲間とか国に危害を加えるような人間が居たとしたら、守るために手を汚す。

 それくらいはやらないと何も守れない。

 現実世界とは違ってここは異世界だし、話し合いではどうしても解決しないような人間とか絶対いるはずだ。

 この世界では当たり前のように人が殺されているのだから。

 セブルスとかも恋人を盗賊に殺されたって話していたし。


「ふむ、別に迷っている訳ではないのじゃな」


「例に出して言えば、仲間を殺すような人間が何回もそれを行うようだったら手加減しないと思う。

 盗賊とかな。

 あんまりそんなことはしたくないけど」


「そこはしっかりしておるのじゃな。

 それならば何も言うことはないのじゃ、さてそれでは手合わせ、よろしくなのじゃ」


 言動を見ている限りアオイは人を斬ったことがあるんだろうな。

 アオイがあの淡い桜色の光を放つ剣を抜く。

 俺は対人なのでロングソードを抜いて構える。


「では妾から行くぞ!」


 魔物との戦いで一歩も動かないアオイだったが、俺の力を知っているからか、最初から動いた。

 早い。

 カイと戦ったときも似たような感じだったが、アオイは強い。

 真っ直ぐに斬り込んできたので俺は剣で受け止める。


「さすがにこれくらいはついてこれるのじゃな!良いぞ、楽しくなってきおったわ」


 俺の剣を弾き後方に下がる。

 手の内を簡単に見せてこない辺り達人って感じがした。

 俺も光速で動き始める。


 この速度にはついてこれるだろうか?

 イスターリンは俺と同じ速度で移動したが、どうなのだろう。

 そう思っていたが、当たり前のように俺の速度についてきた。


 最初から早いと思っていたが、まさかの俺と同じ速度で平行に並んで走っていた。


「アトス殿は恐ろしく早いのじゃな!」


「じょーだん。アオイさんこそ、よくそんな速度で走れるな!」


「フフフ、桜花流剣術のおかげじゃな。これくらい初歩じゃよ」


 思っていたより凄いんじゃないか、桜花流剣術って。

 あれで初歩って化け物なのかよ、完全習得者って。

 今度は俺から仕掛ける。


 刀と剣のつばぜり合いで火花が散る。

 アオイと同じように刀を弾き、体勢を立て直す。


「アトス殿の剣、一撃が重いのう。怪力じゃ」


 柄を握っていた片手をプラプラ振りながらそう言われた。


「アオイさんこそ、さっき剣を受けたけど、その刀、かなり使い込んでいるのを感じたよ。

 無理な力を加えず、流れるような動き。

 その刀の特性を分かってないとできない動きだ」


 一回受けただけでそこまで分かることにまず驚いたけど、動きに無駄がない。

 これならイスターリンに匹敵する力があるって言われても納得する。

 俺の言葉に驚いたのか、アオイは目を丸くしていた。


「さっきの一回だけでそこまで分析できてしまうとは、やるのう」


 そう言いながら、アオイは俺にまた斬り込んでくる。

 今度は俺の頭の上から刀が振り下ろされる、かと思ったらそれはフェイントで目にも止まらぬ早さで横から刀が飛んできた。


 マジかよ!


 視力のいいはずの目でも今の動きは見えなかった。

 何とか直前に剣で受け止めたけど、内心衝撃を受けていた。


「フッ、止められたか」


「ヒヤッとした」


 横からの刀を剣で止めたまま、そんな会話をする。

 手合わせだから体に斬り込む直前に止めるんだと思うけど、並みの人間だったら下半身とお別れしていたことだろう。


「この動きについてくるとはのう。これを受け止めたのはお主が初めてじゃ」


 どうみても必殺の一撃だったけどな、今の。


「それは光栄だ」


 手合わせなのだが、その後も何回も受け止めたり攻めたりしてみたが、決着は付かず引き分けということになった。


「まさかここまで勝負が付かないなんて思ってなかった」


 地面に倒れて、俺は大の字になる。

 アオイは刀を鞘に納め髪を解いて、いつものツーサイドアップの髪型にする。

 何気に咥えゴムで片方の髪を結んでいたのでそれに見惚れたのは秘密だ。


「アトス殿も、ここまで手応えのある手合わせは初めてじゃ。

 よい経験をしたのじゃ。

 それにしても修行もせずにあれだけ動けるとはお主一体何者なのじゃ?

 気になるのう気になるのう」


 あれはアオイの口癖なのだろうか?

 気になるものを見つけるとつい出てしまうみたいな。

 体の動きは最初こそカイからの記憶だが、実戦をかなり経験してからなんかあんまりカイの記憶に頼らなくなったな。

 最近は直感で相手がどう動くのか分かるようになってきた。

 少しは成長しているんだろうか?


「俺もいい訓練になったよ。朝の手合わせこれからもよろしくな」


「うむ、時間の許す限り朝の手合わせをしようではないか、よろしく頼むのじゃ」


 この異変が終わったらアオイとこうして手合わせしている時間もなくなってしまうかもしれない。


 ともかく、今日はウディット村を救援することになるから、忙しくなりそうだ。




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