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第百二十八話 え?食べ物作れんの?!

 エルフィリン樹神国東のイースティア村への第一回食糧輸送は何事もなく終えたが、しばらく食糧輸送を続けないと衰弱したエルフ達の回復は見込めないという話だ。

 村を荷車から食糧を降ろし栄養不足になっているエルフ達が収容されている場所に運び込む。


 その場所を見てみると衰弱しているのはまだ小さなエルフの子供が多かった。


「小さなエルフ達が多いんだな」


「そのようじゃな。エルフは子供の頃が一番死亡率が高いと聞いたことがあったが本当のようじゃ」


「そうですね。成人するまで100年かかるそうですから大変ですよね」


 マジか。

 エルフって成人するの100歳なのかよ。

 人間の感覚とは違いすぎて逆に面白いけどね。

 でも100年生きるまで体が小さいとかそんなことはあるんだろうか。


「もっとも30年生存できたらほとんど大人と同じ体格になるそうですけど」


「ほう、サグナ殿は博識なのじゃな。感心感心」


「いえ、私はたまたまその話を冒険しているときに冒険者になったエルフの人に聞いたことがあったので、それで知っているだけですよ」


 冒険者のエルフなんて概念があるのか。

 エルフって森から離れないイメージがあったから意外だった。

 この世界のエルフは俺の知っているエルフとは生態が違うんだろう。


「冒険者か、楽しそうじゃのう」


「アオイ様は最初は調査でこちらに来たそうですが、何で旅をしているんですか?」


「妾は修行を終えるまでは住み処の森からは出なかったのじゃが、師匠に修行を終えたら世界を見に行けと言われたのでのう」


 師匠は何を思ってそんなことを言ったのかは分からないが、武者修行と考えれば不思議なことでもないか。

 全国行脚みたいな感じなのかな?

 まあ、行脚って元は確か仏教用語だったと思うけど。


「そうなんですね。でも群島連合からは離れなかったみたいですけど」


「ソウゴ殿が言っておったじゃろう?妾は戦争抑止をするために動いておったと」


「そういえばそうだったな。

 さて、それは良いとしてあの子供のエルフ達には回復魔法は効くのか?」


 食糧を荷車から降ろして運ぶのを繰り返し行いながら俺は一緒に手伝っていた二人に聞いてみる。

 回復魔法は万能な気もするが、何か悪影響が出るって話があったりしないのだろうか。

 これまで散々回復魔法を使って今更何言ってんのって感じもするが。


「多分効果はあると思いますけど、栄養に関しては食糧を食べさせないと回復できないと思います」


「回復魔法が治せるのは傷やら病気じゃからある程度の効果はあるのじゃろうが、何も食べずに回復はせんじゃろう。

 いくら魔法とて食べ物を生成することはできないと思うんじゃが」


「でもアトス様ならそんなことできるんじゃないですか?」


 魔法で食べ物を作れたら食品売場なんてないと思うんですが。

 仮にそんなことができるなら誰も農家なんてやらないぞ、きっと。


「まさか。そんなことできたら旅人だって酒場とか市場で食べ物を買ったりはしないだろう?」


「お主ならできそうな気がするのじゃが」


 二人してそんなむちゃくちゃ言うんじゃないよ。

 アオイとサグナの話を聞いていたエルフ達が俺に変な期待の視線を送ってくるじゃないか。


「物は試しにと言うじゃろう?挑戦してみても良いと思うのじゃが」


「はいはい、食糧の配達終わったらやってみるよ」


 俺はその場を収めるために話を流した。

 できるか、そんなもん。


          ☆


 食糧の搬入が終わって少し暇になった俺にアオイとサグナからさっきの話を試してみてとオモチャで遊ぶようにしつこく言われたのでやってみることにした。

 特にアオイだ。

 興味津々の目で見ていたので引くに引けなくなってしまった。


「やってみるけど、一回だけだからな?」


「構わん構わん。失敗したら諦めるのじゃ」


 楽しそうだな、ちくしょう。


 さて、カイの記憶によれば魔法食品を作り出す魔法が記された魔道書が存在するそうだが、ほとんど存在を知られていない魔法であり、実践してみようとするとなぜか失敗している記憶があった。

 カイの記憶を分析する限り食品のイメージ不足か何かなんだと思う。


 右手を出し、俺は目を閉じる。

 どうせなら日本人の主食であるあの食べ物でもイメージしてみるか。


 イメージ。

 白く輝く純白の粒。

 水をそれに浸透させ加熱したその食べ物を。

 三角に形作り、塩を軽く混ぜてできる食べ物を。


「クリエイト・ライス!」


 マナと精神力がさほど消費されず、手に暖かい白米が出現した。

 途端に手のひらから伝わる熱い温度。

 反射的に左手へと移動させ、また右手に移動させることを繰り返す。


「熱っ、熱いってこれ!」


 確かにそうイメージしたけどさ!

 ここまで確実に出現するとか誰が予想できるんだよ。

 出現したそれはイメージ通りに三角の形になっていて三角の頂点から湯気を放出させている。


「……お主、やはり変わり者じゃな。その食べ物は群島連合にあるコーツと似ておるが、食べ物を作り出せる魔法など存在しておったのか」


「凄いですね!アトス様はできないことなんて本当に無さそうです」


「いや、形はキレイだけど、味は分からんぞ」


 手を行ったり来たりさせていると少し冷めて両手で持てるようになったので通称おにぎりと呼ばれるそれを一口食べてみる。


「……驚いたな、普通に美味いわ、これ」


 具は入ってないので塩おにぎりなんだろうけど、自給自足できるとかもはや農家要らないじゃん。

 でも大量生産するってことならやはり農家は必要だと思うけど。


「魔法で作り出した未知の食べ物を簡単に食べるとは、アトス殿、もう少し警戒したほうが良いと思うのじゃ」


「でもこれ、本当に美味しいんだよ」


「大道芸なぞを行ったらさぞかし楽しい芸になるのじゃろうな」


 するつもりないからな?

 笑いどころどこだよそれ、謎過ぎんだろ。


「さて、ちょっと手を洗うか、ウォーターポンプ!」


 片手から水を出し、片手を洗うと水源を移動させてもう片方も洗う。

 少量でイメージしたので水浸しってことにはならない。


「アトス様、本当に大道芸人みたいです」


 サグナがその光景を見て少し笑った。


「楽しませて貰ったのじゃ」


「それはいいけど、あの食べ物、食べてみるか?」


「どんな味なのか気になります、私は頂いてもいいですよ?」


「妾も頂こうかのう」


 要望を承ったのでさっきのイメージに熱すぎないようなイメージを加えて再度おにぎりを二つ作る。

 これも成功して、丁度いい温度で作り出せた。

 それを二人に渡して食べさせてみると、両人とも美味しすぎたのか、一口食べた後は全然止まらず最後まで食べてしまった。


「ご馳走さまなのじゃ。群島連合のコーツはここまで美味くないと思うのじゃが、アトス殿はあの食べ物をどこで知ったのじゃ?

 気になるのう気になるのう」


「確かに、群島で食べたコーツとは味が全然違いますね!私、こんなにシンプルなのに美味しい食べ物初めて食べました」


 それぞれ俺の転生前の日本の味を気に入ってくれたらしい。

 それはそれでなんだか嬉しい。

 それを見ていたイースティア村のエルフ達にも食べてみたいと言われたので、低速度ながら俺はおにぎり生産マシーンと化したのだった。


 ちなみに作ったおにぎりは好評を博し、後で衰弱から回復した子供達にも食べさせたいとのことで、時魔法で劣化を防ぐ工作をしながら樹神国の葉っぱにおにぎりを包んだ。

 葉っぱに包むとか、昔の日本の姿に似ているような気がしてまた少し嬉しくなった。


 イースティア村は大丈夫だと思うのでついに俺達は世界樹の麓にあるというウディット村へと駒を進める。

 食品輸送やらおにぎりやら作っていたらもうすぐ夕暮れだった。

 同時に北の村へと続く道の封鎖を解除できたのか、シャーリーから魔法通信が送られてきた。


「北の村、デクレシアの解放終わったわ!私の実力からすれば当然よね!

 明日みんなとイースティア村に向かうからそこでまた会いましょう」


「さすがだな、シャーリー。もう暗くなってきたからゆっくり休んで明日の道中気を付けてな、おやすみシャーリー」


「ふ、ふん。別に誉められても嬉しくないんだから!

 アトスもしっかり休みなさいよ!」


 通信画面上で恥ずかしそうに横を向きながら通信を終える。

 相変わらずツンデレ娘だな。

 とにかく今日は方々駆け回ったので俺も少し疲れた。

 しっかり休むとしよう。

 それにしても世界樹の異変は世界の危機のはずだけど他の国は動いたりしないんだろうか?



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