第百二十七話 食糧輸送しながら剣士と話すよ!
南の村には何の障害もなく普通に到着してしまった。
解放しやすい場所らしいからあんまり魔物も居ないんだろう。
村に入ると警備をしていたエルフがこちらを見つけ近づいてきた。
「もしや、エルベット村からの?」
「そうだよー」
俺が答える前にハクリュウが答える。
先手を取られたな。
「ようやく来てくれましたか!我々もエルベット村へと続く道へ何回か出撃したのですが、道の番人の魔物に歯が立たず泣く泣く撤退していました。
これでエルベット村との連絡を回復させられる!」
「こっちの村は何か障害とか起きてますか?食糧不足とか」
東のイースティア村ではそんな話だったので、ツーイットが言ってないにしても気になった。
エルフは少し考える。
「今は特にないですね。我々の村、ノベリス村は自給自足ができる村なので」
「そうなんですね。では魔物の確認なのですが、封鎖していた魔物って巨人のような魔物で豚の顔をした魔物で間違いないですか?」
これで違うとなればあの魔物はノベリス村のエルフ達が戦った魔物とは別物ということになってしまうけど。
そうなったら周辺を調べないと行けないかもしれない。
「ええ、間違いないですが、空にもいた魔物は見てないですか?」
「それは初めて聞いたよー?」
「……ということはあの空からやって来た魔物は神樹様の麓からやって来たのでしょうか」
俺とハクリュウは空を飛ぶ魔物なんて見てないので、話に食い違いがある。
どんな姿だったのか気になったので聞くことにする。
そもそも、魔物掃討が目的なわけだし。
「どんな姿をしていました?」
「ええっと、蝶のような形をしていて羽ばたく度に鱗粉が落ちる大きな魔物です
あの鱗粉には毒があり、ノベリスでも何人か毒にやられたエルフが居ます。
幸いにも解毒剤は効果があるので事なきを得ましたが」
「なるほど。それは俺達が見てない魔物ですね、帰りに少し調査しながら戻ることにします」
「お願いします!」
ある程度ノベリス村の状況を確認したあと俺とハクリュウはエルベット村へと引き返した。
☆
俺は樹海の上空へと再度飛んで帰り道を警戒しながら行く。
しかし、ノベリスで聞いたような魔物は一切見当たらず空振りなままエルベット村へと戻って来てしまった。
地面に着地するなりハクリュウが話しかけてくる。
「なにも居ませんでしたねー」
「確かに、なんか不穏な感じがするな」
麓から来たなら元の場所に戻って行ったんだろうけど、体が大きいなら俺の目が捉えるはずだ。
なのに見えないってことは地面に着地して待機状態なのかもしれない。
エルベット村では食糧輸送の準備が終わっているのか、俺が帰ってくるなり他に手伝っていたサグナやアオイ、レイとミュリンがこっちに気づいてサグナを先頭にやって来る。
「アトス様!無事なのですね。南の村はどんな感じでしたか?」
「封鎖はされていたみたいだけど、イースティアよりはまだ余裕があったみたいで、問題らしい問題は起きてなかったよ」
「それならば重畳じゃ。して、食糧輸送の準備はできておるのじゃが、行くとしようかのう?」
見ると食糧を満載した荷車があり、いつでも出発可能な状態だった。
「そうしようか。みんなは来るか?」
「私はついていきますけど」
サグナはついてくるんだろうなって思っていたけど。
「妾はそもそもアトス殿と一緒のパーティーじゃし無論行くのじゃが」
「私は北の方向へ向かったシャーリー様が気になるのでそちらへ援護に行こうと思っていますけど」
「なら、私も追従しましょうかねー。レイはどうしますー?」
ミュリンとハクリュウは北へ向かうらしい。
ハクリュウに問われたレイはどうしようかと考え込む。
「拙者は足手まといになりそうな気がするでござるが、ミュリン殿とハクリュウ殿と一度組になったでござるからそちらについていくでござるよ」
「わかった。レイ、無理するなよ?お前には大きい夢があるんだからゆっくりでいい、着実に実力をつけていけ」
俺がそう言うと、レイは驚いたような顔をして俺を見る。
「感謝するでござる。アトス殿はいい人間なのでござるな」
「そう思ってくれたら嬉しいが、ともかくみんなまた無事にここに集まろう」
それぞれ頷き、別れる。
そんなわけで俺達三人はイースティア村のエルフ達と共に食糧を届けに行く。
出発した後、警戒しながら歩く俺に背後からアオイが話しかけてきた。
サグナは荷車を挟んで反対側にいる。
さすがに重要な任務となると冒険者としての顔が出てくるらしく、必要以上に俺に引っ付いては来なかった。
「お主、お人好しじゃな」
「なんだよ突然」
「レイの事じゃよ」
レイの事?
別に俺は変なことを言ったわけではないはずだったが、アオイから見るとお節介に見えるのかもしれない。
さっきレイに言った言葉を思い出しながらそう思う。
「レイって一族滅ぼされたって聞いたと思うけど、一刻も早く強くなりたいって感じだし。
なんか見ていて不安になるんだよ」
「ジングウジ族と言ったかのう?」
エルベット村のツーイットの家で会議していたときにそれぞれ自己紹介していたときの話だ。
レイの一族、ジングウジの名前はアオイとヤマトは知っていたらしく、なぜこんな場所にって話になってレイは俺と出会った時に話したあの話をしたのだった。
「ジングウジ族は我々と同じく上層部に反戦の意見を渡せるだけの発言力はあったと聞くのじゃが、何の前触れもなく滅ぼされた理由と何か関係があるのかもしれんのう」
「それは初めて聞くな。あの場でわざわざ話さなかった理由ってなんかあるのか?」
それを知っていたならレイにそれを話してもいいと思うんだけど。
「妾とて全能ではないのじゃ。故に無闇に考え込ませるような話はしない方が良いと判断したまでじゃ。
レイは真っ直ぐ過ぎるのじゃ。
このような話をしたらあやつは恐らく相当考え込むぞ、仮にそうなったら実力をつけるという考えを邪魔してしまうと思ってのう」
「確かに。レイって真面目っていうかそんな感じだもんな。
ああ、そうか、それで気になるのか」
俺にはレイに構いたい理由があったようだ。
アオイはそんな俺の話を理解できないようで首を傾げてしまった。
「どうゆうことなのじゃ?」
「あいつ、俺と似ているんだよ、多分」
「?どこが似ているのじゃ?」
「精神的なものだと思う。俺も責任感が強い方だし、レイと同じ状況になったら同じことすると思う」
あのフォクトライト自由連合国が滅んだら、俺も復讐しようとか考えそうだし。
一時は落ち込むだろうけどな、俺の場合は。
サグナの時はまさにそんな感じだった。
でもサグナの件は復讐する相手なんて居ないのでそこまでじゃないだろうけど。
レイの目標が大きいのは俺の夢が大きいことと似ているし。
一族が滅んだ理由とか考え出すと引きずりそうだもんな、レイは。
それに合わせてみると俺も確かに国が滅んだ理由とかは引きずるだろうし。
「そうなのかのう?それでレイに構うのか?」
「そうなんじゃないかなーってところだ」
というか、戦力差が明らかな戦いに挑む辺りめちゃくちゃ似ているけどね。
イスターリンに俺が挑むようなものだし、レイが俺に挑んで来たこととかは。
そう考えるとやはりいろいろ似ている部分はありそうだ。
まあ、俺とレイは人間なので細かな違いは一杯あるだろうけど。
「ふむ、お主も変わった人間なのじゃな」
「いや、普通の人間だと思うけどな」
体はもはや人間とは違うものになっていると思うけど。
「それは良いのじゃが。アトス殿はなぜそんな年長者のような視点なのじゃ?
外見はどう見ても少年なのじゃが」
やばっ!
変なスイッチ踏んでしまった。
アオイとかヤマトには俺の秘密については全く話してないので、どう話したものかと少し沈黙する。
「それは秘密で」
「むむむ、気になるのう気になるのう」
アオイが突然興味津々な視線を送ってくるので困った。
そんなつもりなかったんだが。
「お主、何か妾達に隠してることがあるな?
みすてりあすというのじゃったか、こういう謎多き人間のことは」
なんでミステリアスの発音がフワッとしているんですかね!?
いや、日本みたいな文化なら外国語の発音が怪しいこともあるか?
「い、いや、ナニモカクシテナイヨ?」
「むー?なんで片言なのじゃ?気になるのう気になるのう。
お主に興味が湧いてきおったのじゃ」
知らない一面を見た気がした。
気になるのうとか二回言われると何か可愛いんだけど。
「別に興味持たなくていいからね?」
「妾の目は釘付けじゃ!はよう話せい。気になって夜眠れなくなったら責任取ってくれるのかのう?」
「いや、普通に寝てください。あと責任は取りませんからね?」
「がーどが固いのう?夜這いでも仕掛けようかのう?色仕掛けで篭絡、面白そうじゃのう」
怖いこと言っているよ、あの人。
どういう人生送ったらあんな人間になるんだよ。
一人で想像しているのかアオイは楽しそうだ。
「やめてください。俺には大切な人達が居ますので」
視線を横に流しながらアオイにそう言う。
「それは残念じゃ。潔く諦めるとするかのう」
「もしかしなくてもからかってるよな?」
「フフフ、バレたか。しかし気になるのは本当じゃ」
そう言ってアオイは隊列へと下がっていった。
気を付けよう。
別に今更バレてもさして問題じゃないとは思うけど。
あの人、本当に何歳なんだよ。
こっちが気になるぞ。
なんてことない会話をした後、のんびり警戒をしながら歩く。
何事もなくイースティア村についたので拍子抜けだったが。
明日は休載になるかもしれません。
通常通り投稿できればこの時間帯に投稿します!
読んで頂いている皆様には感謝してもし足りないくらいです!
本当にありがとうございます!