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第百十九話 群島連合の暗殺集団

 エルフィリン樹神国の東の村へと向かう途中、俺達は忍者の服装をした数人の人物に囲まれていた。


「……」 


 何も話さない。

 喋れはするのだろうが、俺達と話すつもりは毛頭ないらしい。


「その服装、隠密機動部隊の暗殺者で間違いないかの?

 話すことはしないのじゃろうが」


 返答の代わりにアオイにクナイが飛んできた。

 アオイはまだ刀すら抜いていなかった。

 クナイが当たるかと思った寸前、急にアオイの姿がブレて、いつの間にかクナイの射線からそれている場所に移動していた。


「やれやれ、無礼な忍者共じゃな」


 そのアオイは気だるそうに背後にあった木に刺さったクナイを見つめながらそう言う。

 あの剣士、マジで強そうだ。

 アオイの行動は普通の人間が見たら瞬間移動したように見えるだろうが、俺の目はその動きを捉えていた。

 クナイが当たる直前、アオイは一切無駄な動きをせずに両足を動かして回避していた。


 忍者の集団の後方にいた忍者のリーダーのような人間が舌打ちをする。

 どうやらあいつが投げたクナイだったらしい。


「サグナ、油断するなよ、あいつら精鋭部隊だ」


「は、はい」


 頭上から小刀を振り下ろしてきた忍者の動きを見て俺はそれを確信した。

 アオイ程ではないにしろ、普通の人間と比べるとあの忍者らしき集団は洗練された動きで、何の戦闘力もない人物相手ならまず負けるような忍者ではない。


 そういえばサグナの武器ってなんなんだろう?

 ふと思ってそちらを見るとサグナは小さな棒を取り出す。

 あれで戦えるのか?

 と思っていたら、いきなり折り畳まれていたらしい刃と柄が小さな棒の両端に伸びていく。

 しかも刃が三方向に枝分かれした。 


 槍のような形だが、普通の槍と違い両方の端が十字の刃になっていて、突きや斬り、両方できそうな武器だった。

 両刃槍か、変わった武器を使うもんだ。

 それとも俺が知らないだけで主流の武器なんだろうか?


「ジングウジ族の少年が居ないようだが、貴様も暗殺命令が出ている。

 ここでその命、貰い受ける」


 さっき舌打ちをしたリーダーがそう口を開いた。

 ジングウジ族の少年ってことはレイの追手だな。

 それにアオイの方を見て言うのでアオイにも暗殺の手が回ってきたということか。

 なんで暗殺命令が出ているのかは知らないが。


「生憎、それほど安い命ではないのでのう」


「そして、そこの二人も目撃者として殺させて貰おう」


 あいつら、俺の力を知らないんだろうか?

 でもアオイとヤマトの話では死王国の話やフォクトライト自由連合国の話は群島連合国には届いてないのだろう。

 でも隠密機動部隊がいるのになんで情報を知らないのか、それは分からない。


「せっかくアトス様と再会できたのに、私はここで死ぬわけには行きません!抵抗させて頂きます!」


「アトス?知らぬ名前だな。そこの少年のような姿をした人間のことか?

 ククク、これはおかしい。

 我々に敵うと思っているのか!」


 リーダーの忍者が不敵に笑いながらまたクナイを飛ばしてくる。

 いや、俺の名前知らないとか、どこの世界の人だよ。

 不本意だが、俺の名前は世界に広がっているはずなので知らないと言われるとなんか悔しい。

 群島連合国って謎が多いな。


 クナイが三個サグナに飛んでくるが、俺は光速で動き二つは地面に落とし、もうひとつは素手で掴んだ。

 遅いんだよな。

 残念ながら能力を封印されているわけではないので今の俺は絶好調だ。


「バ、バカな。クナイを素手で掴んで止めるだと!?

 そんなことができる人間などいないはず!貴様、何者だ!」


「俺か?俺はアトス・ライトニング。ただの冒険者さ」


 本当は国の国主だが、この際、サグナと冒険しているってことにしておこう。

 サグナは俺の言葉を聞いて嬉しそうな顔をしていた。

 サグナにとって俺と冒険をする冒険者になるのは一番嬉しいことだろうしね。


 一方、クナイを素手で掴まれたリーダーは狼狽えていた。

 あの反応、本当に俺の名前を知らないらしい。


「ええい、忍者達よ!三人を皆殺しにするのだ!」


 周りにいた忍者達は俺の行動を見てから、目に見えて動揺していてリーダーの声に従わない。

 予想外の化け物に出くわしたようなそんな顔をしていて、目が泳いでいた。

 リーダーの動きが基準となるならあの忍者達はそこまで強くはない。

 自分で言うのも嫌なものだが、俺が強すぎるだけで、普通の人間だったらそうは言えない。


 だが、強さを見る限り、レイを殺すのには十分すぎるほどの強さをここにいる忍者達は持っている。

 レイがいる方向に行かなくて良かった。

 レイは悪い奴じゃない。

 むしろその逆で信頼してもいいと言うくらいの雰囲気を感じる。

 シャーリーとサグナはやらんが。


「どうした?来ないのか?」


 試しに狼狽える忍者達に近づくと忍者達は怯えた表情で一歩下がる。

 なにこれ、楽しい。

 ものすごく考えが歪んでいる気がするが、思わず少し笑ってしまった。


「き、貴様ら!命令が聞けないのか!あいつを討ち取れ!」


 後方にいたリーダーは後ろに下がる他の忍者に押されて一番前に出されてしまった。


「命令だけじゃなくて自分で来ようとは思わないのか?」


「クッ」


 リーダーはそう言われて返す言葉もないのか、何も言い返して来ない。

 代わりに背中から刀を出し、構える。


「お主、鬼畜か?見るのじゃ、忍者共が青い顔をしておるぞ」


 確かに一部の忍者は震えて俺を見ている。

 それに加えて前に出されたリーダーにすがるような期待を込めた視線を送っている。

 リーダーの忍者はそれくらい強い。

 そう、弱くはないのだ。

 あの忍者の集団で一番強いのは間違いなくあのリーダーだ。


「よし、来い!俺が相手する」


 リーダーも冷や汗をかいているのが見えるが忍者としてか男性としてのプライドなのか、そんな姿をしながらもそれなりの速度で俺に切りかかってきた。


「結構動けるものなんだな」


 俺はそれを軽く回避する。

 回避されたリーダーはまたも焦る。

 今の一撃はかなり強かった。

 恐らく、渾身の一撃に近い威力だったが、簡単に回避してしまった。

 比べる対象がイスターリンだからどうしても薄味に感じてしまう。

 比べちゃいけない強さだけどな、イスターリンは。

 イスターリンの殺気を思い出すだけで冷や汗が出てくる。

 世界は広い。

 上には上がいるってことを身をもって体感したからな、あれは。


「なぜだ!なぜ当たらぬ!」


 なおも攻撃を続行してくるが俺には一撃もヒットしない。

 しかも遊ばれていると思ったのか、攻撃の精度がどんどん落ちて乱雑な攻撃をし始めていた。


「私は、群島連合国の隠密機動部隊の中でも精鋭のはず!なぜだ!」


「興味があって聞くんだが、ヤマトとあんたどっちが強いんだ?」


「ヤ、ヤマトだと!?あのような化け物忍者と比べられたくはない!」


 なるほど、ヤマトは隠密機動部隊の中でもマジで最強の忍者なんだろう。

 いやそもそも仲間から化け物の称号を貰っているとか、別格の存在か。


「化け物忍者、ね。じゃあ俺はそれより強いと言ったらどうする?」


 ヤマトの強さはまだ知らないので変なことは言えないが、俺はイスターリンが相手だったりしない限りは負けないと思う。

 それくらいあいつは強かった。

 世界最強と言われるに相応しい存在だ。


「そのようなこと!あるはずが、ない。私は今、何を相手にしているのだ?!」


 さらに動揺したのか、リーダーはガクガクと震え始めた。

 膝が笑っているぞ、リーダー。


 部下の忍者達はリーダーでも敵わないと分かると戦意喪失を始めていた。

 相手が悪すぎたな。


「た、隊長……あれには敵いません!降伏しましょう!」


 部下の一人が白い顔で震えながらそう言う。


「バカ者!我々に降伏はあり得ん!」


「俺、戦っていいか?」


 これまで回避を続けていた俺はリーダーにそう言う。

 俺は人を殺すのは好きではない。

 だが、レイの身に危機が及ぶことになるなら無視もできない。


「ほ、本気ではないのか!」


「剣は持っているけど、俺、回避しかしてないよ?」


「バカな、これでは私がバカみたいではないか」


「それより、あんたら、今、世界が終わりそうになっているってことを分かっているのか」


 これまでの行動を見る限りそんなことは知っているはずはない。

 群島連合国の隠密機動部隊がなぜ世界の動きをこうも知らないのか、疑問はあったが巨大な幼虫が成虫になったとしたらどうなるか、想像もできない。


「……なんだと?」


 やはり知らないらしい。

 リーダーは不意を突かれたのか、間抜けな顔をしていた。


「降伏するなら教えるが、どうする?」


 俺の話し方や真剣な顔をみたリーダーは小刀を背中に収める。

 どうやら戦うつもりはなくなったらしい。


「我々は上層部の目的不明な任務を遂行してきて常々おかしいとは思っていた。

 世界の危機を知らなかったとあれば隠密機動部隊としてはお笑い草だ。

 話を聞こう。

 我々は降伏する」


 こうして、彼らはリーダーの宣言を受け入れ、全ての忍者が降伏に従った。




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