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第百十八話 桜花流剣術と不意打ち

 俺達はアルデイト王国のある西からここに来たので、西以外の場所の各村へと向かうことになった。

 というわけで、方々に向かうメンバーが分けられた。


 俺は世界樹に近い東、つまり今一番前線に近い村へと向かうことになる。

 件の食糧不足になりつつある村がある場所だ。

 サグナはやはり俺から離れないらしくて断固として俺と離れないことを宣言したので、サグナは俺と共に来ることになった。

 村長の家で大々的に宣言した時、シャーリーにジト目で見られたが、それよりもあの場で大々的に宣言された俺が恥ずかしかった。

 恐ろしい女性も居たもんだ。

 二回目だな、これ考えるの。


 俺と一緒に来る他の人物はアオイだ。

 式神のハクリュウは離れていても独立行動ができるらしいので他のメンバーに分けられた。


「なんで、私がレイ様と行かなくてははならないのですか……」


 残念そうというかうんざりした顔でそう言うのはミュリンだ。


「ワッハッハ!よろしく頼むでござるよ、ミュリン殿!」


「はぁ……何者かの意思を感じます」


「まあ、そう言うなって。ハクリュウも一緒だし、二人きりって訳じゃないだろ?」


 南に向かうメンバーはミュリンとハクリュウ、それからレイだ。

 村長の話を聞いてレイは、


「これも武者修行でござる」


 と言ってメンバーへと志願したのだった。

 レイの最終目的は群島連合国の解放という大きなものなので、早急に実力をつけたいのだろう。

 あんまり生き急ぐと大変なことになりそうなので俺としては心配なところだ。

 若々しい外見も相まって。

 レイは俺と違って至って普通の人間だから死んだらおしまいだしね。


「何が気にくわないのかー、私にはわかりませんけどー、問題ないですよー、私はー」


「心労で倒れそうです。

 しかし樹神国のためにそんなことは気にしている暇はありませんね」


 確かに、構成メンバーを見るとハクリュウがどれ程強いのか分からないから戦力的に心配になることも分かる。

 村長曰く、最も魔物を掃討しやすいルートらしい。


 北に向かうメンバーはシャーリーとヤマト、そして村長自ら向かうとのことだ。

 北の方向は東程ではないにしろ、南より手強い魔物がいるとの話なので、村長の判断は妥当と言ったところだろう。


「シャーリー様は言わずと知れた世界最高の魔法使い様なので、信頼しております」


「そ、そう。そこまで言われたら頑張るしかないわね!

 何よりミュリンの故郷だし、手は抜かないわ。

 それよりアトス、もし死んだら地獄まで追いかけてやるから、覚悟しなさい!」


「むちゃくちゃ言うな。というか怖いわ!

 シャーリーも気を付けてな、村長さんも」


 村長とシャーリーにそう声をかけた。

 シャーリーは頬を赤くして頷く。

 多分嬉しいんだろうな。


 こうして、俺達はそれぞれの村へと向かっていった。


           ☆


「アトス殿は強いと聞くのじゃが、大丈夫かの?」


 東の村へと向かう途中、アオイにそう言われた。

 聞いた話によればアオイ達は本来フォクトリア大平原に向かうつもりだったが、方向音痴もあって反対側の樹神国に来たと言っていた。

 あの死王国の偵察というか調査をしに派遣されてきたそうだ。

 彼女達は俺の戦いを知らないので気になるのも仕方ないと言える。


「まあ、この連絡網を確保する依頼の中で見せる機会は飽きるほどあるだろうから、その時に直接見てくれ」


「確かに、そうじゃのう」


「それよりもそれは俺が聞きたいことにもなるけど、アオイさんって群島最強って話だけど、武器はやっぱりその刀?」


 巫女服で歩くアオイの腰に装着されている鞘に目を落として言う。


「うむ、妾は桜花流剣術という型を使うのじゃ」


 するとついてきていたサグナが驚きの声を上げる。

 どうやら有名な剣術らしい。


「桜花流剣術?!確か、群島連合国においては最高峰の剣術で習得を終えたら大陸でさえも切断できると聞きましたけど」


 大陸を切断するってマジかよ。

 ともすれば俺よりすごいのでは?


「そうじゃな。達人ともなればそれくらい簡単にできるのじゃ。

 故に完全習得するには心技体全て並々ならぬ修行が必要なのじゃ」


「でも、難易度が高すぎて完全習得するまでの間にほぼ全ての人が脱落すると聞きましたけど」


 サグナの話は200年前の話だから、おかしいことを聞かれているような気がすることもありそうだけど、アオイはどう返すんだろう。


「妾が桜花流剣術を極める前にはそう言った話もあったのじゃ。

 それも10年前まではのう」


 そんな話をしているけど、アオイって何歳なのかな?

 アオイの言い方だと10年前に彼女が桜花流剣術を極めたということになるんだろうけど。

 見た目はまだ若いからそこまでの歳ではないのだろうけど。


「へぇー、そうなんですね!ということはアオイ様が初の完全習得者なんでしょうか?」


「そういうことじゃな。今は亡くなったが、師匠に“お前ならば桜花流剣術の真髄を極める事ができそうじゃな”と言われておった。

 師匠は完全習得に至れなかったらしいのじゃが、妾には剣の才能があると最期まで妾に教えていたのじゃ。

 妾の口調は師匠の口調が移ったのじゃよ」


 サグナと楽しそうに話ながらアオイも歩く。

 アオイは思い出深そうに遠い目をしながらそう話していた。


「師匠は“これでお主は初の完全習得者となるのじゃ”と言って、妾が桜花流剣術を習得し終わった三年後に亡くなった」


 習得が終わって三年後ってことは師匠が亡くなったのは七年前かな?

 別に知ったところで意味はないのだが、アオイという人物を知るっていうことなら聞いておいてもいいだろう。


「そうなんですね……でも師匠っていう方も完全習得者が出現して満足だったのではないでしょうか?」


「であるのじゃろうな、満足そうな顔をしておったからな、師匠は」


「そりゃあ、ずっとそんな人物いなかったんだから満足だろうな。

 でもそれなら最初にその剣術を教え始めた人物って何者だったんだろう?」


 遥か昔の話だと思うので記録が埋没していても仕方ないだろうが、小説を書いていた人間としてはやはりその辺りがどうしても気になってしまう。

 設定ではないが、最初に物事を始めた人物は伝説となることが多いと思う。

 なんせ、その人物がアオイの剣術の始祖だから当然完全習得者だろうし、その人物が存在しなければ桜花流剣術という剣術の存在もないということになるはずだし。


「ふむ、記録として残っておる名前は確かオウカ・トオノ、という名前じゃ。

 名前の発音で推測するしかないのじゃが恐らく女性じゃろう。

 しかし、お主、妙なことに興味を持つものじゃのう」


 オウカ・トオノ。

 日本的な並びにするとトオノ・オウカとなるが、どうしてミグノニア群島連合国の人達は日本人のような名前をしているんだろう。

 当て字にすると遠野桜花ってところなんだろうか?

 アオイの名前も当て字を使うと波風葵となるが。

 といっても、完全に余計な情報だし記憶の海に沈めよう。


「アトス様はいろいろ変わっている方なので、気にしない方がいいと思いますよ?」


 確かに、変わっているといえばそうなのかもしれない。


「そうかのう?ともかく、桜花流剣術の桜花は彼女の名前から取ってつけたのじゃろう」


「なるほど、ありがとう、アオイさん」


 俺がそう言うとアオイは不思議そうな顔をしていたが、そのまま歩き続ける。

 しばらく歩いているが、平和にしか見えないぞ、この森。

 魔物が道を封鎖しているとか信じられん。


「静かですね。なんか変な感じがします」


「そうじゃのう。付近の気配を調べておるが、至って平和じゃな」


「気配を調べるとかできるのか?」


 それも剣術のおかげなのだろうか。


「うむ、妾に取っては赤子の手をひねるようなものじゃ。

 付近は動物の気配しか感じぬ。

 本当にこの方向で合っているのかのう?」


「それは大丈夫です!私、方向感覚は冒険者の中でもトップクラスなので、こっちで間違いないですよ」


「初めて聞いたけど」


 これまでそんな話してなかったと思うけど、サグナと再会してまだ数日しか経っていないことを考えるとまだまだ知らないことが多そうだ。


「話す機会がなかったですから、知らなくても仕方ないですよ。

 まだ私も夢を見ているような気分ですから」


 俺とサグナがそう話しているとアオイが片手で俺達を止める。


「お主達、何やら事情がありそうな気配じゃが、どうやら魔物がいるようじゃ」


「本当だ。魔物がいるな近くに」


 感覚を研ぎ澄ますと微量な殺気を発する何者かが近くにいることを感じた。

 こんなことができるようになるとはイスターリン、自分の手で俺を成長させたな。

 あの殺気を受けてしまった身としては不本意だが、使えるものは使っておこう。


 戦闘態勢を取り始めた俺達だったが、予想に反して木の上から忍者のような人間達が数名、頭上から小刀を振り下ろしてきた。


「クッ、なんじゃお主達は!」


「……」


 その忍者達は何も話さずひたすらにこっちを狙ってきていた。

 なんだ?何が起きているんだ?


 回避したものの、どう見ても人間なので俺は呆然としながら魔剣をロングソードに変えたのだった。




すみません、明日は投稿できないかもしれないのでお知らせしておきます

いつも読んで頂いてありがとうございます!

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