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第百十七話 樹神国の状況

 現状を知った限り、相当マズイ状態なのはわかった。

 会議が終わると、俺は即座に最前線へと向かおうとしたがエルベット村の村長であるツーイットに止められた。


「君がとんでもない力を持っていることは分かっています。

 しかし、相手が相手だ。

 万が一君に何かあったら、私達ではあの怪物を止められないでしょう。

 まず各村との連絡網を安定させることに手を貸してくれないでしょうか?

 巨大幼虫がどのような行動を取るか、まだ分かってはいないのだし、慎重に行きましょう」


「ん。まあ、村長さんがそう言うなら、そっちに手を貸します」


 確かにツーイットの言う通りで俺は考えなしに突っ込んでいく事が多い。

 今まではそれでなんとかなっていたから気にしてなかったが、相手は未知の巨大幼虫だ。

 備え過ぎるってことはないのだし、ツーイットの言う通り、地盤固めをした方がいいかもしれない。


「でも、俺ができることは限られてますよ?俺だって一人ですから東奔西走は厳しいかもしれませんし」


「そこは安心してください。ここにはミグノニア群島連合国の人間とマジェス魔道国の人間がおります。

 アトス殿だけに負担をかけることはありません」


「そうでしたね、できることはなんでもやります」


 ツーイットは頷く。

 俺ができることって規格外の力で戦況をひっくり返すことくらいだしね。

 それもおかしいが、イスターリンとの戦いを見るとそうは言えない。

 あの時は戦況をひっくり返すどころじゃなかったもんね!

 何回死んだか分からない。

 無論、物理的に。

 ……ブラックジョークが過ぎるな。


 ともかくあの戦いで強者に怯えるなんてことはなくなった。

 立ち向かわなかったら俺はそれから先、永遠にイスターリンと戦おうとは思わなかっただろう。

 それはつまり死を座して待ち、イスターリンの影に怯え続ける選択をすることに他ならない。

 アーティファクトを集めるなら必ず一番の壁となる人間になるだろうから。


 ツーイットと話終えるとシャーリーが話しかけてきた。


「あんたね。自分の力、過小評価してるんじゃないの?」


「そんなわけあるまい。

 自分の力くらい理解しているぞ」


「ふぅん。アーティファクトを使ったら簡単に解決しそうなのに?」


 シャーリーはあまり興味無さそうに言っていたが、あれは興味ありの反応だろう。

 目が興味津々だったから。


「あれは最終兵器だ。

 代償として使用した後、俺はしばらく戦えなくなるから一人で使う時は使いどころを考えなくてはならない」


 まあ、制限付きとはいえ、40分も使えれば何もかも片付けられそうなものだが、効果対象をどこまで指定できるのかまだ分からない。

 一人一人にしか効果がないのか、それとも全体に効果があるのか。

 書きようによっては多分対象指定はできるとは思うんだが、試運転をまだまともに行えてない現状では本当に最後の手段にするしかない。

 うっかり世界を吹き飛ばしてしまう、なんて冗談みたいな事が起きてしまうかもしれないし。

 澄んだ声、もといアトロパテネスに確認されるからその辺は大丈夫だろうが、俺は自身の身を越えるようなトンデモ能力はまだ怖い。

 これは俺自身の問題なので解決しなくてはならない。


「便利なようで不便なのね」


「まあ、そういうこと」


 まともに試験できていないのをいきなり使おうとするのは事故の元だろう。

 この事件が終わったら少しいろいろ試験できる時間も作れるかもしれないが、今回はまだ最後の手段にしておく。

 俺は心配性なのだ。


「アトス殿はどのような戦いをするのじゃろうなぁ、妾は楽しみなのじゃ」


 ここまで俺とシャーリーの話を聞いていたらしいアオイが混ざり込んできた。


「私達、本来はフォクトリ大平原に向かうつもりだったのよね」


 自己紹介の時に言っていたが、なんで全然反対側にいるだよ、あんた達。

 あのハクリュウとかいう式神はアオイの勘がどうたら言っていたが。

 初対面でツッコミをするのはどうかと思うので、俺は無言でその話を聞いていた。

 するとサグナがその二人に疑問をぶつける。


「あれ?エルフィリン樹神国とフォクトリア大平原って全然方向違うと思うのですけど、一体何があったんでしょうか?」


「私達って群島では最強って呼ばれる部類の人達なんだけど、方向音痴がひどくてね……

 あの式神は全く案内してくれないし」


 ヤマトはハクリュウの方を向いて、ジトーッと視線を向ける。


「私、ただの式神なのでー」


 後ろ手に腕を組んで口笛を吹き始めて素知らぬ顔をする式神がそこにいた。


「それだったらー、ヤマト様の方こそ、忍者のくせして方向音痴とかー、どうなってんですかー、信じられませんー」


 語尾を伸ばすのはあのハクリュウの特徴なんだろう。

 妙にムカつく言い方なので、ヤマトの視線とか、アオイの残念なものを見るような目になんとなく納得した。


「私は、戦闘専門の忍者なの!対人ならほとんど誰にも負けないんだから!

 なんならクナイのサンドバッグにしてあげるわよ?」


 よく分からない理論をぶちかましながらヤマトはそう言った。

 スリットの入ったミニスカートような形の下半身の服の内側から両手の指と指の間にそれぞれ四本、合計八本を瞬間装着する。

 なんだあの速度、動きが見えなかったぞ?!


「わー、恐ろしいですねー、パワハラですかー?私、怖いですー」


 ところがハクリュウは全然怖がってなんかない感じでからかって楽しんでいる顔をしていた。

 歪んでいやがるぜ、あの野郎。

 ここまで黙っていたレイがその光景を見て衝撃を受けたような顔をしていた。

 きっと想像していた姿と違うからだろうな。


「信じられぬでござる。伝説とまで謳われた三人があのような者達でござったなど」


 レイは呆然としていたがツーイットがいがみ合うヤマトとハクリュウの間に入る。


「まあまあ、その辺で。さて、アトス殿。

 第一段階ですが、さっきも言った通りまず連絡網を回復させましょう。

 孤立化に晒されている村の中には食糧不足になり始めている村もあるようでして、緊急性の高い案件を先にお願いできますか?」


 ツーイットがなだめるとヤマトとハクリュウは正座の姿勢になる。

 話は真面目に聞くタイプのようだ。

 ヤマトはいつの間にかクナイをしまっていた。

 いつしまったんだよ、謎だなもう。


「食糧問題は重大ですね。

 分かりました、まずそこから始めましょう」


「不甲斐ない我らエルフをお許しください。本来、外界の人間の手はあまり借りたくないのですが、今回はそうも言っていられませんので」


「困ったときはお互い様です、気にしないでください」


 申し訳なさそうに礼をしようとしたツーイットを両手で制して言う。

 こんな状況下では種族やら外界の人間であるとかは関係ない。


「アトス殿が優しい方で良かったです。

 この事件が無事に解決したら我々エルベット村のエルフはアトス殿の傘下に入れさせて頂こうと思っております。

 私は樹神国の国主でもあるので、私が傘下に入ると宣言すれば、みなついてくるでしょう。

 何かあったときは無償で手を貸します!

 よろしいでしょうか?」


 ツーイットって国主の立場もあるのか。

 ということはミュリンは王女みたいな存在ってことだよね!?

 驚きつつも、ツーイットの提案に答える。


「それは願ってもないことだけど、傘下じゃなくて、同じ立場で同盟国となってくれないか?」


 正直、フォクトライト自由連合国とエルフィリン樹神国は距離が遠い。

 傘下ではなくて、その方がやり易いと思う。

 傘下ってことは樹神国の方にもいろいろ関わらないといけなくなるしね。

 距離的に行ったり来たりするのは大変そうだ。

 この世界には魔法通信って方法もあるが、俺は政治にそこまで詳しくはない。

 だから、傘下は遠慮したい。


 そんなつもりで言ったのだが、ツーイットは嬉しそうな顔をして立ち上がりしきりに頷きながら、俺に近づいてきて両手で俺の片手を握る。


「身に余る光栄です!アトス殿にそう言って頂けるとは」


「お父様、アトス様が困ってますよ」


「これは失礼しました」


 手を離してツーイットは慌てて俺から距離を置く。


「構わないです。それよりもまずはこの事件を解決しましょう」


「そうですね。これを解決しないとどうにもなりませんから」


 こうして俺はまず、周辺一帯の安定性を確立するために行動を始めたのだった。




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