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第百十六話 世界樹異変の原因と群島の人達

 長老が帰ってきたと報告してきたのは俺達が休んでいる家の通路から、軽々遥か下の地面に向かって飛び降りたあのエルフの男だった。

 彼は下に降りて長老達が帰ってくるのを待っていたらしい。

 俺達は彼に案内されるまま通路を下へと降りて行き長老の家へと案内された。


「てっきり長老の家は遥か上にあるもんだと思っていたから驚いたよ」


 イメージ的に長老の家は上層にありそうなものだが、予想に反して通路の入り口のすぐ近くにその家はあった。

 立体交差している吊り橋とか見ていると勝手にそんなことを考えてしまったがなぜ地面に近い場所にあるんだろう?


 俺の疑問にはシャーリーが答えてくれた。


「エルフィリン樹神国って、他の国との外交が盛んだから偉い人は下に住んでいた方が効率がいいでしょ?

 そういうことよ」


「あー、まあ外交に来たのに遥か上層に長老の家があるといろいろ大変ってことか」


「察しが良いわね、シャーリー様があんたに花丸あげるわ!感謝しなさいよね!」


「いりません、謹んでご遠慮させていただきます」


「ちょ、ちょっと!わざわざ丁寧に遠慮しなくてもいいじゃない!」


 シャーリーは少しへこんだ顔で恨めしそうに俺を見ている。

 だが、意外にも楽しいらしくて、そんな顔をしたあとに少し笑った。


「まあいいわ、アトスもバカじゃないのね」


「お前、俺をどんな目で見ているんだよ」


「フフッ、精神が弱くても理想を目指そうとする偽善者さんかしら?」


 クッ、間違いないから何も言い返せん。

 ええい、腹立たしい。


 そんなことを思いながらもどこか嬉しく思っている俺がいた。


「シャーリー様、アトス様をいじめるのも大概にしてください」


「あーら怖いわねー」


 微塵もそんなこと思ってないだろ、シャーリー。

 どこか楽しそうにサグナの話を聞き流していた。

 話をしながら通路を降りているとエルフの男性が立ち止まった。

 どうやら長老の家に着いたらしい。


「こちらになります、一緒に偵察に出ていた者達も一緒におります。

 では、私はこの辺で」


 エルフの男性は案内を終えると、警備に戻って行った。

 さて、長老の家だがいたって普通の家だった。

 木をくりぬいた訳でもなく、森の木を加工して作った家のようだ。

 エルフって自分から木を切るなんてことしないと思うんだけど、違うのかな?


 ミュリンが家のドアをノックすると中から若い男性のような声が聞こえてきた。


「入っていいぞ」


 中に入ってみると、木の切り株のテーブルを囲むように地面に座っている四人の姿があった。


 一番奥に座っているのが長老だよな?


 なんで疑問なのかというと、その長老だと思う人物は想像していたような老人ではなく、青年から少しだけ年を取ったようなまだ若い男性だったからだ。

 しかし、耳の先はしっかり尖っていたので、エルフなのは疑いようもない。


 他の三人を見てみる。

 キラキラ輝く青色のツインテールを変形させたような髪型――ツーサイドアップだったかな?――の巫女服で腰に太刀の鞘がある女性がいる。

 もう一人は漆黒の色をした長いポニーテールをしたきわどい格好をした忍者のような女性。

 そして、烏帽子を被りどこかの公家か?っていう感じの少年がいた。


「お待たせしてしまったようで申し訳ない。私はこのエルベット村の村長をしております、ツーイットという者です」


 ツーイットと名乗ったそのエルフは緑の髪をしている。


「お久しぶりです、お父様」


 ミュリンがツーイットに向かって一礼する。

 ツーイットってミュリンの父親なのか!?

 兄弟って言われても変に思わんぞ、あの二人。

 年齢不詳って怖いな。

 というか、父親何歳なんだよ?


「元気だったか?森から出ると言ったときは驚いたものだが、こうして再び来てくれるとは神樹様に感謝せねばな」


「嫌ですわ、お父様。シャーリー様と度々ここに来ていたではありませんか」


「ハッハッハ。確かにミュリンの言う通りだったな。

 そちらの黒髪の少年がかの有名なアトス殿かな?」


 一通り話終えると、ミュリンから視線を外してこちらに視線を移す。

 俺は一礼して挨拶する。


「はい、ミュリンさんに頼まれて援軍に来ました」


「よくぞ来てくれた!さあ、シャーリー様も、側にいる方もどうぞ好きな場所に座ってくれ」


 そう言われたので俺達は各々座る。


「さて、何から話そうか」


 話すことが多いのか、ツーイットはアゴを撫でながら少し考える。


「あの、お父様?まず、そちらの三人のことを紹介してくださいませんか?」


「おお、そうであった。

 こちら、ミグノニア群島連合国のアオイ殿とヤマト殿とハクリュウ殿です」


 ツーイットは一人一人に手を伸ばして紹介する。


「お主がアトスとやらかの?妾はアオイ・ナミガセと申すのじゃ」


「やっと出会えたわ!まさかこんな場所で出会うとは思ってなかったわね、私はヤマト・リュウホウインよ、よろしくね、可愛い少年君?」


「やれやれ、ホント、なんでフォクトリア大平原とは真反対の樹神国に向かってしまったのか……アオイ様の勘とやらがポンコツなのは今に始まったことじゃないですけどねー、あっ、私ハクリュウと言いますーよろしくー」


 随分個性的な人達が居たもんだ。

 それはともかく、可愛い少年君って歳でもないぞ、俺は。


「これっ、式神の癖に余計なことを言うものではないのじゃ!」


「あいたっ、なんで私、アオイ様の式神なんですかねー、ふこうへいですー、おうぼうですー」


 アオイに軽く頭を叩かれたハクリュウは不本意そうな顔をしていた。

 ヤマトはポンポンと手を叩くと二人に声をかける。


「はいはい、そこまでにしときなさいよ?今はそんなやり取りしている暇ないでしょ?」


「私はそんなつもりなかったんですがねー」


「誰のせいじゃ、誰の」


 アオイは不服そうだったが、ヤマトの言葉を受け取って静かになった。

 ハクリュウはやれやれって感じで居住いを正す。


「このように、私も初めて会ったときは驚いたものですが、いやはや、慣れました」


 慣れちゃダメな気がするが、どうでもいいや。


「コホン、改めまして、樹神国の現状についてですが、思わしくありません。

 他の各村とも連携しているのですが、連絡に使う獣道を魔物が占領していて、連絡にも命懸けという状況です。

 そのため、徐々に各村の孤立化が強まっています。

 各村は魔物がいつ攻め込んでくるか警戒する日々を送っております。

 しかし不思議なことに孤立化をさせているものの魔物の軍団は神樹様の麓から動こうとしません」


 それはミュリンから事前に聞いていたが、道を封鎖して孤立させたのに村を滅ぼす行動はまだ起こしていないのはやはりおかしい。

 ツーイットは話を続ける。


「そこで我々は独自に神樹様の麓に駐屯する魔物の軍団に対して威力偵察を実行したのですが、彼らは防衛戦はしっかり行うようです。

 しかし一旦手を引いて退却してみると彼らは追撃を行わず陣地へと戻っていくのです。

 追撃をしてこないのはなぜなのか?

 精鋭のエルフ達に偵察をさせたところ、神樹の幹に見たことのない巨大な幼虫らしきものが張り付いていると確認されたとの偵察結果が届きました

 恐らく彼らは、その巨大な幼虫を守護しているものであると予測しました」


 なら、その巨大な幼虫とやらがこの事件の原因なのだろうか?

 話を聞いただけではよくわからないが、魔物が動かないのはそういった理由が存在するのかもしれない。

 見たことのない奴が存在しているとか、どう考えても不審だしな。


「そうなんですか。ちなみにその幼虫はどれ程の大きさなんですか?」


「偵察隊によれば、遠目から観測したが近くに行けば世界樹の高さの三分の一程の大きさなのは間違いないとか」


 三分の一って超大きいじゃん。

 世界樹はあのゼーダ連山よりも遥かに大きい。

 正確な世界樹の大きさは分からないが、ゼーダ連山は8000m程のはずで、それを軽々越えるあの世界樹の三分の一は大きすぎる。

 怪獣レベルじゃないか?


 仮に世界樹の高さが10000mだとすると、大体3300m。

 なんか、別の世界の話を聞いているみたいだ。

 だって距離をkmに直すと約3kmだぞ?


 そのくらいの大きさの幼虫とかにわかには信じられん。

 偵察隊が嘘を言っているんじゃないかという疑惑すら浮かぶ。


「世界樹の三分の一?!ホントなの!?」


 シャーリーが予想外の話を聞いたのか、ツーイットに聞き返す。

 やはり驚くものらしい。

 それにしても張り付いているってな。

 重力どうなってんだよ。

 ファンタジーすぎるだろ。


「残念ながら、真実です。

 想像の域を越えた怪物が神樹様の幹に張り付いて、栄養を奪い取っているのは紛れもない事実なのです。

 そして我々からすれば耐え難い出来事も起こり始めています。

 世界樹の数多くの葉が次々落葉し始めているのです」


 葉が落ち始めているということは、世界樹はもう少ししたら枯れてしまうという運命に出会うことになる。


 今回の事件は本当に世界の危機なのかもしれない。

 それよりも何よりも、そんな怪物を相手に世界樹を救うことができるのか、それが問題だ。

 しかし、やれることはやろう。




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