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第百十三話 異国の少年

 その少年は曇りない瞳で、矢筒から矢を取り出し、弓に添えながらこちらを睨む。

 突然の出来事で気づかなかったが、後ろで髪をまとめているのか、ポニーテールだった。

 少年だと分かったのは声だ。

 声が女の子ではなくて男の子の声だった。


「悪い、サグナ。離れてくれるか?」


「は、はい」


 状況がわからないが、俺の言われるまま、サグナは俺の腕から離れて俺の後ろに下がる。


「あ、あなた、誰?!」


 その光景をみたシャーリーが少年を見て言う。


「お前は魔道国の!貴様も手を出すなでござる!」


 語尾、それで合っているのか?

 明らかに違和感あるけど。

 木の上にいた少年は木から地面にブレないで着地する。

 どうやら筋力と体幹はかなり良いらしい。


「な、なんかよくわからないけど、アトス、あんたなんかやらかしたりしてないでしょうね!?」


「いや、俺には何も思い当たらないな」


 これまでの中で何かあの少年と関わる事があっただろうか?

 思い返してみても、そんな心当たりはなかった。


「アトスという名前の武士、貴様で間違いないでござるか?」


 もののふってな。

 どこの時代の人だよ。


「え?確かに名前に間違いはないけど、武士ではない」


 服装は軽装だが動きやすそうな和服で、昔時代劇でみた仕事で運動をするような人達と同じ格好をしている。

 腰には刀で脇差のような形状の鞘、長さからすると間違いなく太刀に近いものだと思う。


「拙者と戦うでござる!」


 言い終わる前に矢を次々飛ばしてくる。


「クッ、不意打ちとは卑怯な!」


「不意打ち上等でござる!さあ、戦うでござるよ!」


 あれ、武士って不意打ちするんだっけ?

 辻斬りならいざ知らず名乗りを終える前に仕掛けてくるとか。

 矢が二、三発迫って来ていたが回避する必要もなく、魔法障壁に阻まれていた。


「クッ、卑怯なのはどちらでござるか?!常時発動など」


 なんだこれ、全然弱いぞ?

 イスターリンと戦ってからこっち、相手の強さがなんとなく分かるようになってしまった。

 あの殺気は尋常じゃなかったから、そのせいかもしれない。


 俺はただただその場に立っているだけで魔法障壁を貫通する気配はない。

 あの少年、戦場に出たら真っ先に死にそうだ。


「なぜじゃ!なぜ効かぬのでござるか?!」


 そのうちに矢が尽きて、今度は腰の太刀を鞘から引き抜き刃を上向きに顔の右横に構える。

 柄の後ろに左手、右手を柄の中側に持つ。

 あれってなんか構えの名前あったかな?

 見た感じ、あの構えって突きを主体に使いそうなイメージのような。


 そんなことを考えていると、その少年は左手が柄を下に下げると、いきなり上段から刀の刃が迫ってきた。

 あんな使い方するんだ。

 あの構えからのイメージは消さなくてはならない。


 あんな速度で刀の切り口が自由自在に変わるのか。


「へぇ、面白いな、古流剣術ってやつかな?」


「貴様、真面目に戦うでござる!」


 そんなこと言われても、どう考えても俺が動いたら一瞬で勝負つくぞ?

 魔法障壁にカンカンと音を出しながら何回も切り込んで来るが、貫通しない。

 それに剣術のことは分からないが、どうもまだまだ未熟って動きのような気がした。

 動きに無駄が多いというか、もう少し動作が正確で達人と呼ばれる人が居たとしたらこんな無駄な動きはしないはずだ。


「どうしてそこまでして俺と戦いたいんだよ?」


 理由を尋ねてみる。


「それは、言うわけにはいかないのでござる!いいから勝負するでござる!」


「仕方ない、俺の一撃に耐えられたら戦ってやるよ」


 俺はそう言って少年に光速で近づく。

 一瞬で目の前に来た俺を見てその少年は防御すらままならず、俺の一撃を受ける。

 やっぱりまだ成長途中なんだろうな。

 俺の一撃が何かというと、ただの頭突きだ。

 魔法で少々頭を固くしたが。


 ゴッツン!


 迫ってそのままの勢いで頭突きをする。

 めちゃくちゃ大丈夫そうじゃない音がした。


「クッ、クオオオオ、痛い!痛いでござる!」


 ぶつかられた少年は地面を転がり回り、頭突きをされてから刀を地面に落として額を両手で押さえる。


 ほらみろ、こうなる。


「それで、まだ俺と戦うつもりなのか?」


 涙目のまま、少年はこちらを向いて宣言する。


「きょ、今日のところは引き分けにしておいてやるのでござる!」


 どうみても俺の勝ちなんだが、どうしても負けたくないらしい。

 俺は魔法で強化したとはいえ、全く戦闘態勢じゃないんだが。


「仕方ない、それで終わらせてやるよ。

 大丈夫か?」


 俺は少年に近づいて倒している少年の側にしゃがむ。


「く、来るなでござる!情けは受けないのでござる!」


「ヒール」


 片手をかざして、少年の頭に回復魔法をかける。

 すると少年はものすごく悔しそうな顔をしてこちらを見ていた。


「い、痛みがない?回復魔法でござるか?」


「そうだよ、というか、お前魔法見たことないの?」


 転生者の俺がそんなことを言うことに内心笑ってしまった。


「いや、その。拙者は生憎、箱入り少年でござってな。魔法はあまり見たことはないのでござるよ」


 痛みの消えた少年は即座に立ち上がり刀を拾って鞘に収める。

 俺も立ち上がってそれを見る。

 シャーリーは一部始終を見て驚きながら少年に話しかける。


「ま、魔法が見たことないって、あんたどうやって生きてきたのよ?」


「む?拙者、山奥の生まれでござって、下界のことはあまり知らぬでござる」


 どこで生活してきたんだよ。

 そして、なんでこんな樹海にいるんだよ。

 疑問はいろいろあったが、まだ名前を聞いていない。

 答えるだろうか、あの少年?


「で、お前の名前は?」


「施しを受けてしまったのならば仕方ない、名を教えるでござる。

 拙者、レイ、レイ・ジングウジと申す者でござる」


 レイ・ジングウジ?

 それって日本名にするとジングウジ・レイってことだよな。

 ミグノニア群島連合国ってやっぱり日本に近いのかな?

 他の三人の女性達もそれを聞いていた。

 俺達もそれぞれ自己紹介をしていたが、サグナの番というところでシャーリーの話に遮られてしまう。


「ジングウジって確か、遥か昔、群島連合国を建国した初代国王じゃない?」


「ええ、歴史書にはそう書かれていたかと」


 シャーリーは彼の名字の語源的な者を知っているらしい。

 ミュリンもそれに頷いていたので、レイはその国王の子孫なのか?


「なるほど、歴史書なるものにも我が家の家名は轟いているようでござるな!」


 本とか知っているのかな、レイ。

 なんか、どことなく知らないような雰囲気を醸し出しているが。


「ジングウジって昔に建国して、初代国王が亡くなった後一族でどこかに隠れ住んでいるって冒険していたときに聞きましたけど。

 本当なんでしょうか?」


「うむ、本当でござるよ。拙者は次代の当主で皆には若殿や若様と呼ばれていたでござる」


 そうか、それならなんか世間知らずなことにも納得する。

 でもなんでこんなところにいるんだろう?

 従者も引き連れずにいるなんて、次代の当主ならそれくら居ても良さそうなものだが。


「あれ?呼ばれていたって、どういうことだ?」


 すると、レイは途端に怒りに燃えた瞳でありながらも悲しそうな顔をし始める。


「……拙者以外の者達は皆死んだでござるよ」


 それは衝撃的な話だった。




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