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第百九話 過去の人間達、そして……

 酒場の夜は続いていた。

 外はすっかり暗くなり、酒場の盛り上がりはまだまだ始まったばかりだった。

 アングリフはバイゼルハーツ公国の200年前の彼らのことを話す。


「歴史を知っておくと面白そう、か。うむ、アトス君の言う通りじゃな。

 科学も同じことじゃし、わしの知っている限りの話を教えよう」


「うん、よろしく」


「では、誰から話そうかのう?」


 少し考えた後、アングリフはまず、貴族連合の盟主、デオグレス・アヴァリムのことを話し始めた。


「この革命で最も有名な盟主デオグレスは革命以降はバイゼルハーツ公国の王となった。

 彼に対抗しようとする公国の貴族達や住民はいなかったそうじゃ。

 なぜか?

 当時の革命前の公国は酷いなんてものではないほど荒れておったそうじゃが、それを終わらせてくれた者だったからじゃ」


 それはよく知っている。

 革命前の公国はもはや人の道を外れた人間達が治めていたからね。


「デオグレスは王になる前の商会だった力を使って、たった一代でバイゼルハーツ公国を建て直した偉大なる王として今も語り継がれておるらしいぞい。

 彼は生涯を国に捧げ、死ぬ間際に初代大公の言葉を大事にするようにして亡くなったそうじゃ。

 元は一介の商会の会長に過ぎぬ男だったそうじゃが、彼がどうしてそこまでして国を建て直したのかは今も議論されておるそうじゃよ」


 それは簡単だ。

 デオグレスはビスタリオに生涯を国に捧げることを誓った男だ。

 有言実行ほど、それを示す手段はない。


「デオグレスか。その商会の設立に関しては何かないのか?」


 アヴァリム商会は確かビスタリオが設立した商会だったはずだが。


「おかしなことを聞く。デオグレス以外にアヴァリム商会を設立した人物はおらんぞ?」


 これも歴史の弊害か。

 ビスタリオのビの字も出てこなかった。


「そうなんだ。じゃあ次の話でいいよ」


 不思議そうな顔をされたがあの時代に行った人物は俺だけのはずなので、真相を知らなくても仕方がない。

 アングリフは次にビスタリオのことを話し始める。


「その次に有名な人物はやはりビスタリオ卿であろうな。

 彼は公国の革命を裏から支援した人物として有名じゃな。

 彼は辺境伯で今の公国の基盤を作り上げた偉大な貴族らしいぞい。

 公国の港町ナフスブルクは今や世界中に名前の轟く世界最大の大きさを誇る港町となっておるのじゃ」


 ナフスブルク、あれからまた発展したんだろうな。

 今のナフスブルクも見てみたいものだ。


「彼は革命直前に他の地方の貴族達にも出陣するよう要請し、要請する際に初代大公の言葉と共に書状を送ったそうじゃ。

 方々の貴族達はそれに乗っかり出陣しようと準備していたが、革命には間に合わず、革命軍は圧倒的な兵力差で公国軍と戦うことになってしまったらしい」


 それは知らないな。

 革命の本当に直前に姿を消していたのはそれが理由だったのだろうか?

 今となっては分からないがあのビスタリオのことだ、アングリフの話は間違いないんだろう。


「よくそんな戦いに勝ったな」


 まあ、本当はそれどころじゃなくて俺が魔王と戦うことになったんだけどね!


「うむ、ともかく勝利した後、彼はメイドと結婚し、貴族を辞めて王国と公国をつなぐ道の途中に森の喫茶店を始めたと聞く。

 貴族としての権力は衰えておらず、貴族を辞めても地方貴族からの人望は厚かったそうじゃ。

 デオグレスを生涯に渡って裏から支えたそうじゃが、デオグレスもそんなビスタリオとは仲が良かったと言う話じゃ。

 歴史学者によればビスタリオが公国の王となっていたらデオグレスと同様に偉大な王と呼ばれていたかもしれないと言われておるそうじゃが」


 実際はデオグレスが家来でビスタリオが主なんだけどな。

 でも周りから見ればそう見えるのだろう。


「ビスタリオ卿の葬儀には公国中から貴族やら住民やらが集まり盛大に執り行われたそうじゃ。

 デオグレスとビスタリオは先に亡くなったのはデオグレスだったのじゃ。

 晩年、デオグレスの後継者を推薦してその者が次代の王となったそうじゃ。

 このそれぞれの人間の生涯は全てビスタリオ卿が書き残して行った文献らしいのじゃ、葬儀や晩年の話はビスタリオの子供が書いたものらしい」


 ということはデオグレスの話もマッキンリーの話も全てビスタリオが書いたものなのか。


「彼は公国の革命に関わった者達の中で一番長生きした人物らしいが。

 亡くなる直前、後で話す謎の仮面の男にもう一度会いたかったと言って亡くなったそうじゃ。

 彼の持つ光輝く愛剣シャムシールは子孫に引き継がれ今はシスティナという王国女性騎士団の人間が持っておるそうじゃよ」


 くそっ、最期の最期に何てことを言い残しているんだ。

 俺は目頭が熱くなって来るのを感じたが泣いては不審に思われると思って必死に堪えた。


「?どうしたのじゃ?そんなに顔を赤くして」


「いや、何でもない、話、続けてくれるか?」


 平静を装って何とかそう言う。


「うむ、では謎の仮面の男について話すとしようか。

 彼は革命の少し前に突然ビスタリオ卿の前に現れ、ビスタリオ卿と意気投合し、革命に手を貸してくれた謎の多い人物じゃ。

 今もなお正体は分かっておらぬが、クールな印象を受けたとビスタリオ卿の文献には記されている。

 しかし、理由は分からないが彼は本来の話し方ではなくあえてそう話している雰囲気だったそうじゃ、さらに名前も不明でビスタリオ卿は何か理由があったのだろうと作中で独白しておる」


 ハッハッハ、なんだバレてるじゃないか!

 涙が引っ込んだぞ、どうしてくれる。

 口調とかどうでもいい情報残すんじゃないよ、ビスタリオ!


「歴史学者の間にも様々な憶測が飛び交っているそうじゃが、天界の遣いだったという説が有力じゃな。

 ビスタリオ卿の文献曰く、背後に天使ような者を浮かせた人物だったそうじゃな」


 やっぱり見えているじゃねーか!

 我ながら喜怒哀楽激しいことこの上ない。


「その彼じゃが、彼の助力なしでは公国はおろか世界の危機だったと言われておる。

 革命の詳細はビスタリオ卿は頑として話さず墓まで持っていってしまったので何があったかは分からぬ。

 だが、文献とは別の、先祖で革命軍だった者の言い伝えでは目にするのもおぞましい怪物と仮面の男が死闘を繰り広げたという話がある。


 ビスタリオ卿は話す必要がないと言っておったそうじゃが、恐らくビスタリオ卿は、革命を終えたばかりの公国に余計な恐怖を与えたくなかったからこの話を伏せたのではないかという憶測がある」


 あの怪物の話はあまり信じられていないんだろう。

 話すアングリフもその話を信用しているわけではないようだった。


「デオグレスも彼がいなければ革命は絶対に成功しなかったと言っておる。

 公国の首都ライデンリッヒの広場にはその仮面の男の銅像が立っておるぞ。

 何でもビスタリオ卿とデオグレスが是が非でも立てると言って聞かなかったとか。

 それ故に歴史学者の間ではビスタリオ卿とデオグレスよりも偉大な人物だったのではと言われておるが」


 像が立っているとか笑ってしまうな。

 どんだけ持ち上げてんだよ。

 仮面をつけているとはいえ自分の像が立っているとか恥ずかしすぎる。


「その者の消息はその後なにも分からず、服装の特徴が一致する者が居たそうじゃが、その者と話してみるとあの仮面の男とはまるで違う性格で、ビスタリオ卿は自分が会いたい仮面の男とは違うと思ったそうじゃ。

 しかし、あまりに外見がそっくりだったため彼に銅像のモデルになってもらったそうじゃが。

 仮面の部分はビスタリオ卿が自ら彫ったそうじゃ」


 それってカイだよな。

 そういえば前に公国を訪れたときに革命があったことしか知らないとしか言ってなかったもんな。

 しっかり歴史に刻まれてるじゃん、カイ。


「これで主要な人物の話は終わりじゃな。

 他にも様々な人間の話を書き残しておるが革命に関わった者で有名な者はこれで全部じゃよ」


「ありがとう、アングリフさん。様々な人間の中にサグナって名前の人はいないか?」


 するとアングリフは驚いた顔をする。

 まあ、突然そんな有名じゃない人間の名前を出されて符合する人物がいたとしたらそうなるよな。


「アトス君は一体どこでその名前を聞いたのじゃろう?

 確かに書き残した文献の中にサグナという者は存在するが」


「まあ、ちょっとどこかで聞いた人間だったから気になってな」


「そうじゃったか。

 サグナはビスタリオ卿のメイドの一人だったそうじゃが革命以降、ビスタリオ卿が貴族を辞めたのでサグナはビスタリオ卿に仕えていた他の者達と冒険者となったそうじゃ。

 彼女は隠していたが、仮面の男のことが好きだったそうじゃな。

 革命後姿を消した仮面の男にいつかまた会えることを楽しみに日々生きておったそうじゃ。

 森の喫茶店に度々立ち寄りビスタリオ卿に旅の話を楽しそうにしていたそうじゃが、いつまで経っても仮面の男とは会えなかったそうじゃ」


 俺は過去からこの世界に帰った後だし会えることはなかっただろう。


「その彼女は天涯孤独で一生を過ごし、日に日に悲しそうな顔になっていたと書かれておる。

 ビスタリオ卿自身も見ていられないほどだったそうじゃ。

 最期には彼女は自ら海に飛び込み自殺したと言う話じゃ、それも公国の革命からまだ二年も経たない内に。

 今の公国に生きている女性達にはそこまでして一途に仮面の男を想い続けたサグナと言う女性の精神は、公国の女性の理想として語り継がれ、密かに人気らしいぞい」


 俺はグラスを地面に落としそうになった。

 自殺?

 自殺したって言ったのか、あのサグナが!?


 ――何てことをしてしまったんだ俺は。


 俺の頭の中には楽しそうに笑うあのサグナの記憶が繰り返し繰り返し流れ続け、突然そんな笑顔にひびが入ったようだった。


「お、お主、一体どうしたのじゃ?!顔が真っ青じゃぞ!具合でも悪いのか?」


 俺の顔は真っ青になっているらしく、アングリフが心配そうに声をかけてきた。


「すまない、ちょっと悪酔いしたみたいだ、ゴールドはここに置いておくから俺は先に帰るよ、アングリフさん、話ありがとう、楽しかった」


「あ、ああ」


 そう言って俺は動揺しているアングリフを酒場に残したまま外に出た。

 そのまま、誰もいない場所へ走っていた。




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