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第百六話 料理の上手かった魔法使い様

 研究棟まで連行された俺は研究棟に付随しているらしい食堂にいた。


「水でも飲んで待っていなさい。今料理してくるから」


 シャーリーはグラスに水を入れられる装置なのか、そこから水を持ってきて、テーブルに置き、そのまま厨房へ行ってしまった。

 そう簡単に終わるものではないと思うんだけど、料理って。

 席に座らされた俺は暇なので食堂を見てみる。

 現代世界でいえば、大衆食堂って言うのかな。

 長方形のテーブルが等間隔で何個か並べられ、それぞれのテーブルに何個もイスが置かれている。

 研究棟にどれくらいの人がいるのか分からないけど、この食堂は相当広い。


 ちなみに、他に人が何人か居てシャーリーと俺のやり取りを楽しそうにニヤニヤ見ていた。

 この感じ、研究棟の連中にもあの話は広がっているんだろう。

 食堂にはおばさんと呼べる人間がエプロンと三角巾を着けてそれぞれの人の料理を作っているようだ。

 そのおばさんも一人ではなく、他に二、三人同じことをしている人がいる。


 ひとしきり眺めていると、食堂にいた白衣に紫と緑の髪が頭の左右で分けられている衝撃的な姿のおじいさんみたいな人が俺の隣にやって来て話しかけてきた。


「やあ、君はアトス君だね。話は聞いておるぞい。

 魔法都市は気に入ったくれたかのう?」


 よく見てみると、左手の肘から下が義手だ。

 金属を加工したみたいで、光を反射して少し眩しい。


「えっと、あなたは?」


「わしはアングリフ。アングリフ・ブラインじゃよ。

 この研究棟でシャーリーちゃんとは別の研究をしておる者じゃ

 そこの部署の研究者のリーダーをやっておるぞい」


 国主をちゃん付けで呼ぶのか。

 外見完全におじいさんだからあんまり気になるようなことでもないけど。

 シャーリーとはどんな関係なのかな?


「研究ってなんの研究をしているんだ?」


「シャーリーちゃんは主に魔法の真理を研究しておるが、わしらは魔法と帝国の科学の融合を試しておる者たちじゃよ」


 俺の他にもそんなことを考える人達がいたんだ。

 やっぱりマジェス魔道国、半端ねぇ……


「もしかして、アングリフさんの左手もそうなのか?」


「そうじゃよ。この腕は昔魔法の暴走で吹き飛んだのじゃが、これはわしの試作第一号じゃよ」


 腕が吹っ飛んだことを楽しそうに話すんじゃない、マッドサイエンティストかよ。

 少年のように目を輝かせて、義手を俺に見せてカシャカシャする。

 その義手は動くごとに青い光を放って、肘から下の義手全体をゆらゆら駆け巡る。

 構造的にはマナを魔力に変換した結果、あんな感じになっているのだろう。


「魔力は流体になると青くなったりするようでのう。

 魔法を使うと属性ごとに赤くなったり黄色くなったりするがな。

 これは流体魔法金属で作った物じゃ」


 流体魔法金属ってすごいな。

 イスターリンが使っていたあの武器に通じる物を感じたが、あれは確かダグルドという元帝国の科学者が作った物だそうだが。


「魔法科学ヤバい」


 思わずそう何も考えないで言ってしまった。

 アングリフはそれを満足げに眺めて笑った。


「アトス君はイスターリンと戦ったと聞いたが奴が使っていた武器。

 少し教えくれんか?

 気になることがあるのじゃよ」


「え?イスターリンの武器?

 何か形が変わる武器らしい。

 確か、開発したのはダグルドという帝国の科学者だって言っていたけど」


 するとアングリフは思い当たることがあるのか、アゴの長い髭を撫でて何か考え込んでしまった。

 そのうちにぶつぶつ言い始める。


「ダグルドか、奴ならあるいはそんな物を作れるか……いやしかし、形の変わる武器などこの世界では聞いたことがないのじゃが。

 帝国ではそのような技術があるなどわしがいた頃には聞かなかったはずじゃ、であればわしが帝国からここに来た後に開発されたのだろうか……」


 まだ独り言は続いているが、アングリフは誰に話すでもなく、ひたすらに自分の知識とすり合わせながらよくわかない話を始めたので聞くのをやめた。

 しばらくアングリフの独り言を聞き流していると、シャーリーができたらしい料理を持ってきてテーブルに並べる。


「泣いて喜びなさい!私が誰かに料理を出すなんてあんたが初めてなんだから!」


 肉を焼いた焼肉のようなもの、野菜炒め、サラダ、チャーハンらしきもの、スープなどもあった。

 なにこれ、めちゃくちゃ美味しそうじゃん。


「これ全部シャーリーが?」


 てっきり黒炭のようなものが出てくるものかと思っていたが、普通に料理上手すぎるだろ。


「な、なによ!?料理が上手で何か問題でもあるのかしら!?」


 シャーリーは驚く俺を見ながら顔を横に背けて言う。

 その頬は赤かった。

 マジか。

 テンプレ外し過ぎて狐につままれたようだった。

 持論を展開し終わったアングリフが我に返る。


「おっと、ついつい喋りすぎたようじゃ。

 相変わらずシャーリーちゃんは料理が上手いのじゃな」


 からかうようにニヤニヤしながらアングリフはシャーリーをおだてる。


「うるさいわね。アングリフ、いつ私が料理をしているところを見たのよ?」


「フフフ、研究で徹夜をしておるとな、つい食堂で軽食を作りたくなるのじゃよ」


「クッ、ということは毎晩見られていたの?!」


 悔しそうにテーブルに片手をつき、もう片方の手のひらを握りしめる。

 練習していたのか。


「安心せい、誰にも言っておらんよ。じゃが、ミュリンは知っておるようじゃぞ?」


「もうっ、アングリフと話すと調子狂うわ!」


 ほう、どうやらアングリフは俺とお仲間かもしれない。

 シャーリーからかうのめっちゃ楽しいもん。


「まあ、そう言うことじゃよ。アトス君、存分に堪能するとよいぞ」


「早くどっか行きなさいよ!ファイアーボール喰らわすわよ!?」


「おお、怖い怖い。では昼食も取り終えたことじゃし、わしはそろそろ退散するとしようかのう。

 あとは若い二人に任せるのじゃよー」


「こらー!」


 シャーリーが腕を振り上げるとその隙におじいさんなのに軽快にスキップしながら歩き去ってしまった。

 元気すぎねぇか、あの人。


「え、ええっと。アトス、あの科学者は無視して、食べましょうか」


 シャーリーは俺の対面に座る。

 小皿を持っている辺り一緒に食べるんだろう。


「う、うん。すごい元気な人なんだな、アングリフさんって」


「元気すぎるのよ……」


 魔道国にも変な人がいるようだ。

 それはそうと料理、食べるか。

 料理に手をつけようとしたところで再びアングリフが食堂出入口の壁の端から顔を出す。


「アトス君、後でわしの研究室に来てくれるかのう?

 お主の武器を見てみたい」


「え?ああ、分かった。研究室はシャーリーにでも聞くよ」


「頼むぞい!」


 そう言って完全にこの食堂から姿を消した。


「さて、それじゃあありがたく食べさせてもらうね」


 俺は料理の前で両手を合わせて頂きますを言う。

 シャーリーも自分の分を小皿に取り分ける。


「あ、あの、作りすぎたから二人で食べましょう?」


 頬を赤くしたまま、小皿に取った料理を一口ずつゆっくり食べながら言われた。

 恥ずかしいんだろうな、あれ。

 作りすぎたとか建前で、きっと俺と食べようと多く作ったんだろう。

 目の前の料理の大軍は一人で食べられるような量を越えている。


「了解。じゃあ俺も頂くよ」


 俺はまずチャーハンらしきものを食べる。

 ほどよい塩味に卵の絶妙な甘さ。

 ものすごく美味しかった。


「……驚いたな。めちゃくちゃ美味しいよ」


「ほ、本当?本当に美味しい?嘘を言ってたら許さないわよ?」


 少し上目遣いでこちらを恐る恐る見てくる。


「嘘なんか言うもんか。俺が食べた料理の中でも最高のレベルだよ」


 そう言いつつ、俺は次々とチャーハンを食べていく。

 手が止まらない程美味しすぎて困る。

 シャーリーは俺の言葉と次々と口に運んでいく姿を見てどこかニヤついていた。


「なんだよ?」


 怪訝そうな顔をしてシャーリーを見ると慌てて余所の方向を向く。


「べ、別に?何でもないわ、でもありがとう」


 恥ずかしさを隠すように小皿を余所の方向を向いた自分の前の方へ持っていき、またゆっくり食べる。

 手放しで誉められるのに慣れてないんだろうな。


 その後も程よく味付けのされた柔らかい焼肉や、相性のいいドレッシングのかけられたサラダ、鶏肉を煮込んだかのような味の濃いスープ等々。

 どれも料理店でも開いたら大人気になりそうな程美味しすぎる料理を食べまくった。

 気づくと目の前にあった料理の大軍はどれも皿だけしか残ってなかった。


「ずいぶん食べたな。これだけ食べたの初めてかも」


 若干食いすぎの気もするが、美味かったのだから仕方がない。

 シャーリーも自分の分はしっかり食べていたので見た目ほど全部食べたって訳ではないと思う。


「ふん!二度と料理ができないなんて言わせないんだから!」


 これはもうギャフンと言うしかないじゃないか。

 正直ここまで美味しすぎる料理を作れるなんて微塵も思ってなかった。


「すまんすまん、ごちそうさま、ありがとうな、めちゃくちゃ美味かったよ」


 俺に真っ正面から礼を言われたシャーリーはまた顔を赤くしながらも嬉しいそうだ。


「また、気が向いたら作ってあげる!」


「毎日でも食べたいくらいだよ」


 何を思うでもなく本心からそう言うとシャーリーは赤い顔をさらに赤くして、両手で顔を隠す。


「あんたね、そんなこと言っているといつか女に刺されるわよ?」


「そうなの?」


「そうなの!今言った言葉よく考えて見なさい」


 えーっと?

 毎日?


 ……ま、毎日!?


 深く考えてみるととてつもなく恥ずかしいセリフだったことを自覚して俺は焦る。


 毎日って、つまり朝昼晩毎日だよね!?

 それってプロポーズじゃん!


「ああ、えーっと。ハハハ。軽いノリだったから深く考えないでくれ。

 頼む、マジで」


「わ、私は気にしないけど、リコリスとかノルンから恨まれるわよ?あの二人、アトスと一緒にいた時間が一番長いから」


「おっしゃる通りでございます」


 そんなお昼の一コマだった。


 シャーリーの料理、恐るべし。

 参ったぜ……





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