第百一話 終結後、戦いの爪痕
目が覚めた。
どうやら俺は自分の家に寝かされていたようだ。
相変わらず体の痛い寝心地だが、疲労はすっかり取れていた。
「あれからどれくらい寝ていたんだろう」
体を起こすなり俺はそう呟く。
今回は家に誰もいないので、完全に一人言だった。
精神力が底を尽きた気絶ではなかったので数日ってことはないはずだ。
みんなのことが心配になった俺は家の外に出てみる。
太陽は丁度お昼くらいの位置だった。
教国との戦いは朝方に近い時間帯なので、ほんの数時間ってところだろう。
周りを見てみるが誰もいない。
気絶した人が大半なので多分家にでも寝かされているのだろうか?
少し歩いてみることにした。
他の家の窓から少し中を覗いてみると床に寝かされている人が目に入った。
この状況ということはあれから少しの時間しか経っていないんだろう。
精神力はさほど消費していない。
あれはただの疲労だったという証拠だ。
無論多少は消費していたが、クロノを顕現させたほどの消費はなかった。
だから数時間で回復できた。
しばらく歩いていつもの広場まで来るとセブルスがいた。
「おっ、セブルスがいるじゃないか」
俺の声に気づくとセブルスはこちらを向いて嬉しそうな顔する。
「おお、アトス殿ではないですか!目が覚めたのですね!」
「セブルスも気絶していたけど、もう目が覚めたのか?」
あの平原でセブルスはイスターリンがアーティファクトを使った時、耐えられず倒れた光景を覚えている。
「ええ、私は気絶こそしましたが、皆より早く目が覚めたのですよ」
さすが、伊達に警備隊の隊長やってない。
あの倒れ方は命の危機があったような倒れ方だったが、どうやらセブルスは警備隊の中でも体や精神が強いのだろう。
「みんなは?今歩きながら家の中を見て来たが、床に寝かされていたけど」
「ええ、私も気絶している時にルシェル殿に回復魔法をかけてもらったとカイ殿から聞きました。
カイ殿やルシェル殿、セレスティ殿や教国の教皇と神官の者はまだ救援活動を続けています」
ということは、今はまだ活動中なのか。
俺も気絶していたから感謝するしかないな。
「アトス殿はカイ殿とセレスティ殿に両肩を持たれながら家に運ばれたそうですが」
カイは戦闘が終わって一番最初に回復させたので、普通に動けたのだろう。
「今は家を回りながら皆の様子を見ています」
「そっか、ありがとう。セブルスも回復して間もないんだろう?無理はするなよ」
セブルスの手が土で汚れているところを見たので、回復してすぐに救援活動をしてくれていたのだろう。
よくすぐ動けるものだ。
「私は丈夫ですから大丈夫ですとも!それよりもあの五人にお礼を言われると良いですぞ!」
そう言ってセブルスはまだやることがあるとのことで俺と別れた。
他のみんなは大丈夫なのだろうか?
まあ、聖女やら神官やらがいるので大丈夫だと思うけどね。
そういえば、教国との戦闘前に現れたあの精霊達はなんだったんだろうか?
明らかにこっちを援護していたようだったけど。
ひとまず活動を続けているみんなを探すことにした。
☆
広場から離れて教国と戦った平原へと足を運ぶ。
戦いの傷跡が生々しい。
地面とか所々割れてるし、俺が吹っ飛んだ辺りは転がった衝撃がよくわかるように最初の地面が削れていて、その次に若干の距離を置いてまた削れ、その後次々と地面が削れていた。
陸上で石の水切りでもしたらこんな光景になるんじゃないか?
陸上で水切りするとかわけわからんけどね!
この場合、石は俺自身だったわけだが。
「うわぁ……えげつない」
よく生きているもんだ。
とはいえ、また何回も死んだのは間違いない。
何回も死んだのに生きているとかブラックジョークすぎるけどね。
あの時イスターリンと戦おうと思った俺はどうかしている。
しかし平原を見てみると、気絶したみんなは町の方へと何事もなく運ばれたようで戦闘の傷跡以外は何も残ってないようだ。
ここには誰もいないだろう。
そう思って引き返そうと踵を返すとルシェルが歩いてきていた。
「あっ、アトス様!お目覚めになられたのですね!嬉しいです!」
とめちゃくちゃ喜んで俺を見ている。
そして俺の近くまで来ると戦いの傷跡を見て一言。
「うわぁ、まるで古戦場のようですねぇ」
古戦場ってな。
どうみても傷跡は風化していないし、古戦場とは違う気がする。
「ねえ、古戦場ってもっと傷跡劣化とかしている戦場じゃないんですか?」
「うーん、確かにそうかもしれませんね。私、たまにズレた発言をするみたいでみんなに不思議そうな顔をされます」
だってその通りだしね!
天然記念物ランクの人間なのではないだろうか?
「私はそんなつもりないんです。これでも真面目に考えて発言しているんですよ!」
少し面白くなさそうに唇を尖らせるルシェル。
彼女の本意ではないらしい。
「でも、それがルシェルさんの個性なんでしょうね」
「そう言ってくださると私、嬉しいです!時空神様に感謝を」
初めて出会った時のように両手を胸の前で組んで祈るように言う。
俺は別にそこまで喜ばせようとは思ってなかったのだが。
「それで、何でここに?」
「えーっと、他に残っている人がいないか確認しに来たんです」
どうやら救援活動の途中らしい。
「そうなんですか。ありがとう、ルシェルさん」
「はい、どういたしまして、です!」
俺にそう言われるとルシェルはまた嬉しそうに言葉を返してくる。
「そういえば、教国との戦いの前に現れた精霊ってなんだったんですかね?
ルシェルさんはどこかで見ていたんですよね?
何か分かります?」
「ああ、あれは私の魔法ですよ。聞いたかもしれませんけど、パンを食べながら地面に魔法陣を書くんですよ。
パンを食べながらじゃないと必ず失敗してしまうので、ちょっと恥ずかしいですけど」
あれルシェルの魔法だったのか。
精霊召喚って神級に匹敵するランクなんじゃないのか?
というかパンを食べながらってネタかな?
「あの、ちょっと良いですか?」
唐突にルシェルが顔をしかめて俺にそう言ってくる。
「なんです?」
「私にとってアトス様は救世主様なのでその方に敬語を使われるとなんだが、神様に申し訳ないような気がしてしまうので、普通に話して下さいませんか?」
「え、良いんですか?」
俺は聖女には敬語を使った方が良いのではと思っていたからこうして話しているわけだけど、どうやらルシェルは気に入らないというか、使われたくないらしい。
「はい!私、ただの聖女なので気にしないで下さい」
ただのって。
聖女は聖女だよね!?
ルシェルは自分の立場が相当上だという自覚がないらしい。
でもルシェルがそう言うならそうしたほうがいいかな。
「コホン……分かった。じゃあ普通に話すよ」
「はい!よろしくお願いしますね!」
ルシェルはものすごく嬉しそうに跳びはねてそう言う。
なんかかなり嬉しいらしい。
「さて、それじゃあ俺も救援活動に加わるよ」
「アトス様は休んでいても良いのですよ?」
「俺がやりたいからやるだけだよ」
「そうですか。では私が口を出すことではありませんね。では行きましょうか」
ルシェルと共に町に戻る。
そういえば町にはまだ名前がない。
国ならあの町は首都となる町だろうが、ただ町と言い続けると不便な気がする。
町の名前考えてみようかな?