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第九十九話 第三勢力対決、終結

「守護神が時空神アトロパテネス様だって?!」


 殺気に満ちていた空気が塗り替えられ、聖なる空気が広がる戦場で恐怖の表情を浮かべていて、動けなかったセレスティは恐怖が消し去られ、元通りの表情へと変わっていた。

 元に戻るなり俺の守護神となっているらしい神の名前を言いながらこちらを見ている。


「なんかそうらしい。アトロパテネスのような気配のする謎の存在が今の俺なら使えるはずだって言っていた」


「ダーリンはどこまでも僕を楽しませてくれるんだね」


 さっきまで殺気に気圧されていた死神が一転して楽しそうな表情をする。

 気分屋がすぎる。


 イスターリンは地面に倒れているが、大の字で大笑いをする。


「フハハハ!楽しいなぁ!俺がここまで怪我をしたのはいつ以来だったか。参った、今日の所は完敗としておいてやらぁ」


 頭のネジふっとびすぎじゃないか、イスターリン。

 笑っているのだが、どうみても重症の姿なので起き上がりはしない。

 多分立ち上がる余力というか立ち上がれるレベルのケガじゃないんだろう。


 観戦していた二人の女性はまさかという顔をしていて、黒い羽のシルヴィアは現実なのかと目を何度も擦ってこの光景を見ていた。


 正直俺もここまで書いたことが実際に起こるなんて信じられなかったので、俺自身も驚いていた。


 そこへ無数の蝶が舞い降りてきて、あの仮面のブラボーが姿を現す。


「おや?これはこれは予想外でした。まさかイスターリン程の人間が全身傷だらけで地面に倒れているなど」


 あいつ、もしかしてイスターリン達の仲間なのか?

 でなければなぜ、イスターリンの名前を知っているのかということになるしな。

 目を何度も擦っていたシルヴィアはブラボーの方へと声をかける。


「ちょっと、アーティファクトの防衛は?」


「いやはや、私には手に負えない強さでしたのでこうしておめおめとこちらへやって来たのですが」


 するとシルヴィアはまたしても頭をワシャワシャする。

 どうもダークディメンションは勝手に行動する者が多い組織のようだ。


「あー、もう!撤退よ撤退!イスターリンもいつまでも倒れていないで立ちなさい!」


「やれやれ、もう少しこの状況を楽しみたかったんだが?」


 全身傷だらけのイスターリンは何事もなかったかのように腹に力を込めてバネのように飛び起きた。

 動けたのか!?


 あれほどの傷はイスターリンにとってはないのと同じものなのかもしれない。


「どうして、どうしてみんな勝手なの……」


 シルヴィアは寂しそうに地面にのの字を書きながらしゃがんでしまった。

 背中にズーンって効果文字でもついていそうだ。


「シルヴィア、ファイト」


 しゃがんでしまったシルヴィアの背中にビーカーを持っている女性が手を置き慰める。

 なんか、こっちが申し訳なくなる。


 だが、俺が何回も殺されたのもまた事実なので良い気味だって気もする。


「ブラボー・ナイト!お前、敵だったのか?!」


「おやぁ?あなたは誰でしょう?全く分かりませんね!」


 嘘つけ。

 わざとらしい動作で肩をすくめやがって。

 ブラボーは何かバレたくない理由でもあるんだろうか?

 それならば詮索はしないでおいてやろう。

 ビーカーの女性が空間魔法を使って空間に亀裂が出現して入り口みたいな形になった。

 イスターリンが先に空間魔法で姿を消そうとする。

 両手にバスタードソードを持ちながら、また顔だけこちらに向けてニヤッとする。


「今日は俺の負けだが今度は俺も本気で戦う。

 覚悟しておけ、お前は必ず俺が倒す」


 殺気の込められた視線にヒヤヒヤするがそのままイスターリンは姿を消した。

 そういえば、今度アーティファクトを使って戦っても俺の力は効果があるんだろうか?

 戦闘を司る神とか言っていたし、もしかしたら効果がないかもしれない。

 シルヴィアは何も言わず、空間の裂け目に姿を消し、ビーカーの女性は何か興味津々な顔でこちらを一度だけ見ると、姿を消した。


 あのビーカーの女性は科学者か何かなんだろうか?

 あの目は面白い実験品見つけたみたいな顔をしていたけど。


 最後にブラボー・ナイトはこちらを向いて一度だけ丁寧な一礼をする。


「我々はダークディメンション。魔神様に世界滅亡をお届けする組織、以後お見知りおきを」


 一礼したまま少し空中に浮いてブラボーはこちらを向いたまま空間の裂け目に姿を消した。

 空間の裂け目が消える。


 戦場は静まり返った。

 アーティファクトの効果が切れ、背中の羽とノート、ペンが消え、最後に魔法障壁が消える。


 あまりの規格外のチート能力だったので俺は呆然とし、無闇にノートに字を書けなかった。

 ここで彼らの存在を消しておけばこの先の災厄はきっと防げるだろうし、行動しなかったことを悔やむ時が来るかもしれない。


 俺の甘さここに極まりだ。

 彼らは本気でこの世界を滅亡に向かわせようとこれから暗躍し始めるだろう。


 魔神。


 これまでの出来事を考える限り、闇落ちでもした俺自身だと思うが、彼がなぜこの世界ごと全次元を消滅させようとしているのかは分からない。

 一つ確実なのは、俺のせいで世界が危機を迎え、これから世界各地で事件が起こるであろうということだけだ。


 こちらにはクロノもいることだし、情報収集は問題ないと思うが、諜報部が人手不足であることは否めない。

 クロノとて神とはいえ一人なのだし、情報収集の手が回らないなんてことは起きそうだ。


「ダーリン、大丈夫?ありがとう、助けてくれて」


 セレスティが近寄ってくる。

 ともかく、今は教国の神官やこの国の人達を助けることにしよう。


「俺はやれることをやっているだけだよ。それにアトロパテネスの加護がなかったらイスターリンにやられていただろうし」


「それでも、その力はダーリンだけが使える力だよ。

 能力を見る限り、時空神様よりも強い力を持っているみたいだし」


 それは間違いないだろう。

 あの力は世界さえも簡単に作り替えることのできる能力があるだろうし。

 逆に考えるならば、救えなかった人間や魔物を救うことすらできる万能の力だが。


「まあ、そうだな。とりあえずみんなを救護しようか」


「うん!」


 今はできることをしていこう。

 立ち止まっている時間はない。

 正確に言えば、時間はあるだろうが、俺が余計なことを考えたくないだけだ。

 一人で解決するにはあまりにも大きすぎるからな、世界を救うってのは。


 そういえば、最後までルシェルの姿を見なかったが、どこにいるんだろう?

 考えていると走り去った神官とルシェルが一緒にこちらに歩いてきているのを見かけた。

 あの二人、どんな関係なんだろう?

 敵同士だったら一緒に歩くはずないよな?


「すでに終わっていたか。アトスに負けられると困るのはこちらだったから問題はないが」


「でも兄さんの動きがなかったら危なかったかもしれませんよ?」


 耳の良い俺は二人の会話を聞き取る。

 兄さんってことはあの神官はルシェルのお兄さんなのかな?

 確か、ルシェルと家で会話したときもお兄さんのことを話題に出していた気がする。

 それとも、兄さんと呼ばせる系の人か?

 だったら危ない奴だな。


「ルシェルさん、今までどこにいたんです?」


 近くまで来たルシェルに俺は話しかける。


「アトス様の支援を隠れてしていました。私のアーティファクトの力でアトロパテネス様に呼び掛けて、断片的にでも時空神様がアトス様の助けになるように祈っていました」


 あの夢のような世界はもしかしてルシェルのおかげで見れたものだったりするのだろうか?

 仮にそうだったら、この戦いの最大の功労者はルシェルだろう。


「そちらの方は?遠くから聞いていましたけど、もしかしてルシェルさんのお兄さんですか?」


「さすが、私の救世主様ですね!その通りです!」


 待って。

 今さらっと、“私の”って言ったよね!?

 ルシェルは気にしてないようでピカピカ光る目をこちらに向けてくる。

 眩しいからやめて、それ。


「こら、ルシェル。アトスが困っているじゃないか。仮にも聖女ならもう少しおしとやかになりなさい」


「あいたっ!」


 神官の彼に頭を軽くコツンとされて、目をバツ印にしながら叩かれた場所に両手を添える。

 ああうん、兄弟だな、これ。

 なんかそんな感じがした。


「うぅ、痛いです兄さん」


「そんなわけなかろう、今のは軽くだったはずだが?」


「それで、あなたの名前は?ルシェルさんのお兄さんですよね?」


「ああ、すまないな、うちの変態妹が。

 俺はアイソル・セイグリフ、この変態妹の兄だ」


「ひどいです兄さん!私、変態じゃないですから!」


 ルシェルがアイソルの方を向いて、怒っている顔をする。


「まあまあ。ところで、アイソルさんは教国の神官の一人ですよね?俺とかと戦わなくて良いんですか?

 なんか敵対する関係っぽいですけど」


 そう言ったところで、倒れていた教皇が目を覚まし、上半身を起こす。


「うん?ここは……くぅ、頭が痛い。今まで何か悪夢を見ていような気がするが」


 それをみたアイソルとルシェルは急いで教皇に駆け寄る。

 アイソルが教皇の上半身を支え、手を取る。


「教皇様!正気に戻られたのですね!」


 ルシェルはおどおどしながら話しかける。


「あの、教皇様?私のことを覚えておられますか?」


「お前達は、アイソルとルシェル?ワシは一体……ぐぅ、なにやら取り返しのつかないことをしていたような」


「良いのです。今はゆっくりお休み下さい!」


 ふむ、どうやら教皇はアーティファクトで魔神にでも操られていたのだろう。

 教皇の脇にアーティファクトが落ちている。


「……おぉーい……そろそろ俺も、回復させてくれぇ」


 遠くでカイがそう言っていた。

 あれだけ串刺しにされてよく生きているもんだ。

 と思いつつもどこか嬉しくなった俺はカイに近づいて回復魔法をかける。


 こうして教国の侵攻は第三の勢力ダークディメンション出現という新たな脅威を出しながら、終わったのだった。




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