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プロローグ

 季節は冬。

 冷たい風が吹くごくありふれた都会。

 俺は売れない小説家、西坂悟。

 売れないというかほとんど趣味みたいなものだが、小説を書いてネットのサイトにあげたりしていた。

 鳴かず飛ばずだったのでなんか虚しくなったけど。


 そんな俺は今、長年通ったアルバイトの喫茶店のマスターにリストラされようとしていた。


「ああ悟君か、今までありがとう。君が来てくれて毎日が楽しかったよ。でももうそろそろ終わりだ」


 店に入るなり、マスターにそう言われた。


「え?どういうことですか?」


 マスターの言っていることが理解できなかった。確かにここの喫茶店はいつも開店休業状態で、まともに経営できているとは思っていなかったが。


「明日から別の仕事を探しなさい、いいね?」


「まさか、店自体をたたむつもりなんですか?」


「そうだね、そういうことだよ。君のアパートの家賃も出せなくなる」


「そんな!」


 俺は抗議する。


「気持ちはよく分かるし、私も心苦しいんだ、しかし現実はそうもいっていられない。君もいい大人だ、分かってくれ。」


「……分かりました。」


 曲がりなりにも数年間お世話になった喫茶店だったので少々寂しいし、何より自分の生活がかかっていたが、止める訳にもいかなかったので渋々店を出た。


「今までありがとうございました!」


 俺は店を出ると振り返って店に一礼する。

 そして、今度は振り返らず歩き始めた。


         ☆


 昔から俺はバッドエンドというものが好きではなくて、周りからはハッピーエンド厨とか、現実を見ろとか散々言われ続けた。


 そんなことを胸に秘めつつも、俺はどちらかと言えば陰キャな青春をおくっていたので、中学、高校といじめられたりもした。


 小学校の時は、自信家っぽい性格で周りに、


「いつか大きなことをして、楽しく一生を過ごすんだ!」

 

 なんて馬鹿みたいなことを言っていた。

 まあ、それは子供の頃ならよくある話だろう。

 しかし、現実というものはそううまく行くようにはできてはいない。


 大きなことってどういうことだろう?楽しく過ごすにはどうしたらいいんだろう?

 ずーっと長年考えていたが、そんなことを考えているうちに大人になった。

 中学、高校でもときおりそんなことをかんがえていたが暗い青春をおくった俺はもう既にそんなことを考えている余裕はなかった。


 小説を書き始めたのはちょうど暗い青春時代の真っ只中で、現実逃避の手段として書いていた。

 他にも理由はあった、偶然だが、図書館の本にファンタジーのジャンルがあってその本に触発されたのも一つではある。


 自分もこんなファンタジー世界で生きられたらどんなに楽しかったかと、読書に熱中して、自分でも世界を作ってみたくなった。

 ただそれだけだった。


 それから小説の作り方や、キャラ、世界観の作り方を面白半分で調べて、ネット小説も参考に読みながら出来上がったのが、次元最強の名を冠する主人公だった。


          ☆


 さて、現実に戻ろう。

 喫茶店のアルバイトがやれないとなると俺の収入源がなくなったということだ。

 これはマズイ、非常にマズイ。


 実は俺は高校生活に耐えられず、高校を中退している。

 あの喫茶店には高校中退でも未経験でも雇用してくれるという条件と、住み込み可能という破格の条件で就職した。

 住み込みといっても、店から少し離れたアパートの一室だったが、当時の俺からすればかなりありがたかった。


 なぜかと言うと、俺は暗い青春をおくりながらも、家族ともあまり良好といえる関係ではなかった。

 アルコール中毒の父親に、仕事が忙しくて家族に無関心な母親、兄弟は居なかった。

 これでどう良好な関係を築けというのか。


 高校中退するとき、両親は俺がどんな学校生活をしていたのか知らないので、大喧嘩した。

 そして家出して、その折にあのマスターに拾われたのだ。

 後から聞いたが、両親はあんな子供など知らないと、高校中退の同意書にサインしたらしい。


 そんな俺が今更どうしたらいいのか、分からなくなっていた。

 冷や汗が頬を伝う。


 あれ?ホントにどうしたらいいんだ?


 俺は混乱していた。

 アパートの家賃が出せなくなるということはこれからは自分一人で払わないといけなくなる、早急に仕事を見つけないとならないのか。


 いや、理屈では学歴不問とか、未経験可能のアルバイトとか探せば良いと思うし、ハローワークに行けば良いとか頭では分かっている。

 だが、自分は高校中退という傍から見れば継続することができないという仕事をする上では最悪のレッテルを貼られているはずだと思い込んでいたため、今までなんとなく生きてきてしまった。

 そもそも、店を出る前にマスターに聞けばいろいろ解決しただろうが長年世話になっている上に、さらにそんな相談をするのは申し訳ない。


 自分の家に帰るか?


 いや、それはあり得ない。

 あんな場所に今更どの面下げていけばいいのだ。

 もうあんな場所には帰りたくない。

 喧嘩別れして以来両親とは一度も連絡を取っていない。今の俺は26歳で、家出したのが17歳の時だったが、この9年間両親からもなんの音沙汰もない。


 マスターにはいろいろお世話になった。

 聞いたところによると、どういうやり取りがあったのか定かではないが、マスターは俺の後見人になっていたそうで、成人の日には祝ってくれた。

 両親は特に反対するでもなく、許可したらしい、本当にふざけた両親だった。

 なぜ自分が生まれたのかすら疑問に思ってしまう。


 などと、頭の中で愚痴を言いながら昼間の歩道を歩いた。

 そして、信号で止まる。


 俺の人生は一体どこからおかしくなったのか、中学校でいじめを受けた時からだろうか?

 高校デビューに失敗したときだろうか?

 家出をした時だろうか?

 俺だってこんな人生にするつもりは毛頭なかったし、変えるために生きようと思った。


 小説のあの主人公ならどんな困難にあっても余裕で問題を解決する人物だった。

 だが俺はそんな風にはなれなかった。

 現実世界は厳しいのだ。

 ファンタジー世界のようなご都合主義など存在しない。


 堂々巡りの考えをしながら信号が変わるのを待つ。

 歩行者信号が赤から青に変わる。

 人が歩き始める。

 俺の後ろでは親子が笑顔で話している。

 これからの道筋が全く見えない俺は、ふらふらしながら歩く。


 が、次の瞬間周りがにわかに騒がしくなってることに気づいた。


「おい、あれヤバくないか?」

 

 周りの誰かが言う。

 みんなが、同じ方向を見ていたので俺もつられてその方向を見る。


――トラックがいくつもの車に衝突しながら交差点に侵入してこようとしていた


 その非現実的な光景を驚きながら見ていると先程見かけた母親とおぼしき人物がキョロキョロとしていた。


「――ちゃん、どこにいるの?!」


 どうやら子供を見失ったらしい。

 そんな言葉が聞こえたので俺は迷子になっている子供を探そうとしていた。

 それはすぐに見つかった。


「おかーさん、どこぉ!?」


 という泣き声がどこからか聞こえてきた。

 声のする方を見ると逃げ遅れたのか、横断歩道の真ん中にいて明らかにトラックと衝突する位置に立っていた。


 俺はなりふり構わずそこに走り出す。

 偽善者かもしれないが、あの子を失った母親の顔など見たくもない。


 俺はバッドエンドが嫌いなんだ。


 トラックは間近まで迫っていた。

 俺は子供の手を引っ張る。

 すると力が強すぎたのか、その子がトラックと衝突するはずだった位置と自分の位置が入れ替わった。


「あ―――」


 もう避けられるような位置ではなかった。

 俺はトラックに正面衝突する。


 体が空中を舞う。




 あ、ヤバいこれ死ぬやつだ。




 記憶が高速で流れる。

 走馬灯か。

 走馬灯とは記憶の中から生き残る方法を探すときに起こるとどこかで聞いた。

 だが、そんな方法などはなく、俺は薄れ行く思考の中で記憶を思い返していた。


 楽しい記憶なんてマスターのところで生きていた頃だけだったな。

 あとは小説のネタを考えていた時。

 しかし、この状況を見るに俺の人生なんて死を先延ばしにしていただけの人生だったかもしれない。


 あの小説の主人公ならこの程度で死ぬ人物じゃなかったな。

 もし来世があるならハッピーエンドを迎えられるような世界がいいな。

 そこまで思考し、あとは何もかんがえられなくなった。


 そして俺がこの世界で最期に聞いたのは助けた子供の泣き声だった―――

初投稿です!プロローグめちゃくちゃ暗いですけど、この後は基本的に面白くするようにしています!


「面白そう!」


「続きが読みたい!」


と思ったら


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