表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天の神様の言う通り

作者: マグロ

 それは『不幸な事故』だった。


 1990年に施行されたトラック業界の規制緩和。中抜き業者。さらには企業同士の涙ぐましい努力のおかげで賃金は減少の一途をたどり、寝る間を惜しんでトラックを走らせようが、この狂った現状を打開する手段にはなり得ない。

 そんなことは誰だって分かっていた。全ての努力が自分の首を絞めることにしかならないことは。


 しかし、下っ端の俺は、死ぬ気で働いて、できるだけ給料を上げることしかできなかった。俺一人なら転職することもできただろうが、妻も子供も俺にはいた。転職したところでこれ以上の待遇になる可能性が薄い以上、確実ではない以上、その手段は取れなかった。


 そして。俺は人を轢き殺した。


 夜。豪雨。全身覆った黒のコート。睡魔。積載量ギリギリまで積んだ10トントラック。あらゆる要素が悪い方に傾いた結果、俺は一人の人間を轢き殺した。

 しかし、それは避けられる事故ではなかった。もちろん、前方不注意という理由はあった。が、こちらが青信号だというのに横断歩道を渡る、前後不覚も良いところのボケ老人がいるなんて誰が想像できるだろうか。




 結局、俺は会社をクビになった。会社の誰もが俺は悪くないと理解はしていたが、世間体って奴に歯向かう気概を見せる人間は一人もおらず、免許すらも剥奪された俺を再度雇ってくれるような心優しい企業は存在しなかった。


 それからというのも、テレビで連日俺の事件が報道され、そしてそこで俺が轢き殺したのはボケ老人ではなく未来明るい男子高校生だったと知った。

 どうやら、自分の身を挺してボケ老人を救ったらしい。されども、連日押し寄せる報道陣や、近所からの犯罪者でも見るような視線、学校でいじめられる娘の、そのどれもが彼のお節介によって激化されていることを考えると恨まずにはいられなかった。


 ニュース番組では、彼のような優しい心が社会には必要だのと報道され、彼の行動はもはや神格化されていた。それによって苦しめられる人間がいることも考えず、いや、知らないのだろう。あいつらはいつだって傲慢だ。自分が正義だと信じてやまない。それが社会の為になると本気で信じているのだ。


 とはいえ、ボケ老人を助けるために自らの命を捨てた、なんてニュースも二週間もすればテレビからいなくなり、人々の関心もなくなった。詰めかける報道陣もなくなり、俺はまた普通の生活に戻れると信じていた。ほっと一息がつけるものだと思っていた。


 だが、現実はそう甘くはない。隣近所、娘の学校でのイジメは消えることはなかった。一度過ちを犯せば人間関係が崩れるのは簡単で、もとに戻ることはほとんど不可能だということなのだろう。俺が矢面に立って事態を収めればよかったのだが、仕事をしなければ生きていけない以上それはできなかった。己の無力さと同時に、恨みも強まったけれども、取れる手段は限られていた。

 そして、俺を含め、一家はその場を離れた。


 しかしながら、どこへ行っても噂は流れるもので、その現状は変わらずにいた。連日当たり前のように行われるイジメ。しかし、俺の働き場所と言えば、特段履歴書なんかを出す必要もない日雇いの建設現場ばかり。お金にはいつだって困っていた。心は貧しくなるばかりだった。


 そして限界は、訪れる。


 朝方、やっとのことで現場から家に帰った時のことだ。いつもはいるはずの嫁、娘がいないのだ。声をかけても返事は聞こえない。探すところも大してない家だが、それでも探し回り、やっとのことで俺は一つの置手紙を見つけた。ハンコの押された離婚届と一緒に。


 そして、吉良(きら)成朗(せいろう) の一生は幕を閉じた。アイツさえいなければという憎しみを抱いて。




「人生お疲れ様でした。楽しかったですか?」


 辺り一面真っ白の世界で俺は目覚めた。目の前にはやたら神々しい格好をした女性が俺の顔を覗いている。


「すまない。もう一度聞いてくれないか。頭がまだぼんやりしているんだ」

「人生は楽しかったですか?」

「『人生は楽しかったですか?』だと?お前は何様のつもりだ?」

「神様のつもりですよ?そうでなければ死んだあなたをここに連れてきてるわけないじゃないですか」

「神様ね。なら俺の答えは分かってるんじゃないか?」

「勿論。だけどあなたの口から答えを聞きたいんですよ。それぐらいのご褒美があってもいいじゃないですか」


 ご褒美ね。しかしまあこの目の前の人物が神様なのはそうなのかもしれない。神様って奴はいつも自分がってなものらしいし。少なくとも首をつって死んだ以上、この目の前の人物がこの世の存在ではないのは確かだ。死ぬ間際に見ている妄想でもなければ、だが。


「じゃ、答えはNOだ。これで満足か?」

「ええ、満足ですよ」

「その割には、冷めた感じだが?」

「あら、リアクションをお望みですか?まああなたにもそれぐらいのご褒美があってもいいですからね。神様のリアクションを見られるなんて全く果報者ですね」

「いや、そんなのは望んでいない」

「あら、そうでしたか。神様に誤解させるなんて全く罪な男ですね。まあそうでないと興味も抱かないんですけど」

「……」


 話にならない。


「もうちょっと会話をしてくれてもいいんじゃないか?神様ならもう少し人間に寄り添うとかあるんじゃないのか?」

「なんでそんなことをしなくてはいけないのですか?私は神様ですよ?」

「だから……」


 そう言ってるんじゃないか、と言おうとしたところで俺はやめた。

 なるほど。俺ら人間が抱いている神様幻想と、神様の現実はここまで乖離しているのか。そうなると泣けてくるな。大して人間に興味がないのにも関わらず、自分は助けてくれると願って神社にお参りに行くのだから。


「別に私は人間に興味がないわけじゃないですよ?」


 心外。そんな言葉を顔にはらんでそう反論してきた。どうやら心が読めるらしい。まあ神様なら当たり前か。


「そうなるとあなたをここに読んだ辻褄が合わないでしょう?」

「確かに。それじゃあ何故俺をここに呼んだんだ?」

「そうですねぇ。気になりますか?」

「当たり前だ」

「ですよねぇ。そのまま教えてもいいんですが、それだと面白さに欠けますよねぇ。何かアイデアはありませんか?」

「いや、そこにエンターテイメントは要らないんだg」

「あ!思いつきました!」


 なら聞くな。そう言いたかったがすんでのところで押し戻す。何か言えば教えてもらえないかも知れないからだ。現状この素性の知れぬ知的生命体のことは何一つ把握できていない。


「三択クイズはいかがでしょうか?」

「なんでもいい。教えてくれるならな」


 多分これが正解だろう。無理に流れに逆らう必要はないのだ。


「それでは行きます!デデン!」


 効果音は自分の口で言うのか。神様なら用意できそうなものだが。


「1.あなたの事故は一人の身に余る大望によって引き起こされた 2.あなたが轢き殺した人間はまだ生きているから 3.あなたに彼の討伐をお願いしたいから さあこのうちのどれが正解でしょう?」

「……」

「あれ?分かりませんか?あなたならこれぐらいすぐ正解しそうなものですけどね」

「じゃあ聞かせてくれ。答えは一つだけか?」

「そんなこと一つも言ってませんよ?私は三択としか言ってませんからね。択一かどうかはわかりません」


 ならば。答えは一つだろう。


「答えはその全てだ」

「ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサー」

「ダラララララララララ……」


 ドラムロールまで口でするとは、中々エンターテイメント精神にあふれている神様らしい。


「正解です!おめでとうございます!流石神様が見込んだだけのことはありますね、お見事です!」


 ああ、そうだろうな。そうだろうと思っていた。そうでなければ神様がわざわざ俺のような一般人を気にかけるわけがない。


「あれ?喜びませんね。クイズはお気に召しませんでしたか?」

「いや、クイズは嫌いじゃない」

「では何故?」

「それを言う必要はないだろ?」

「それもそうですね。まあ私も人の心が分からないわけじゃないですからね。ことの次第ぐらいは説明しましょうか」

「ああ、頼む」


 そして、予想していた驚愕の事実を神様の口から聞くことになる。


「あなたが轢き殺した高校生。名前はどうでもいいので仮にAとしましょうか。A君は大望がありました。『それは異世界に転生して無双したい』というものでした。そして、何を思ったか目の前で轢かれかけていた老人を助けようとトラックの目の前に飛び込みました。本来ならばそこでおしまいって話なんですが、少しばかり興味が湧きまして、あなたと同じようにここに呼んだんですよ。そして所謂チート能力ってやつを与えて他の世界に送り込んだんです。こう見えても私は他の世界も管理しているんですよ?まあこの地球以上に面白い世界は存在しませんけどね。

 話を戻して、A君を送り込んだ世界は剣と魔法の世界、あなたの世界の言葉を借りればファンタジー世界というやつでしょうか。私には当たり前ですけどね。とまあそのA君の送り込んだ世界。仮にXと呼びましょう、そのXは魔法によって人々が満たされてましてね、面白くも何ともないんですよ。地球よりも長い人類史を持っていながらはっきり言って文明は全く進んでいません。科学なんて言う言葉もないぐらいです。全て魔法で何とかなりますからね。

 そんな滞った世界にはるかに進んだ文明で生きた人間を放り込んだら面白いことが起こるかもって思ってA君を転生させたんですが、私の期待外れでした。一般高校生に期待したのがそもそもの間違いだったんでしょう。彼はその借り物の力でハーレム生活を満喫していまして、ハッキリ言ってみるに堪えないんですよ。

 ここまで言えばもうお分かりでしょう?」


 高校を出てからこの業界に飛び込み、正直言って教養なんてほとんどない俺ではあるが、流石にここまで聞けば分かる。


「そのA君とやらのケツを叩いてほしいということだろう?もちろん引き受けよう」

「やけにすんなり了承しましたね」

「理由は言わんぞ?」

「別に構いませんよ。それでは何か欲しい能力はありませんか?流石にチート野郎に裸では勝てないでしょう?」

「そんなのは必要ない」


 憎しみを忘れてしまうからな。


「いいですね。実に私好みの答えです。それじゃあ転生させますよ?」

「ああ頼む」

「セイヤッ!」


 そして、俺はXの世界に転生した。

 魔族として。




 神様には聞かなかったが、どうやらこの世界には魔族というものが人間とは別に存在するらしい。どうせこれも神様が生み出した存在なのだろう。しかしながら、思うようにいかなかったので苦肉の策としてA君を転生させたのに違いない。


 その結論に至ったのはこの世に生を受けてから3年たった頃だった。魔族というのは個体数は少ないながらも、普通の人間の数十倍の力を持っており、3歳を迎える頃には森を走り回って鍛錬ができる程度には成熟していた。

 チートは要らないと言ったが、これは十分チートの部類に入るのではなかろうか。魔族対人類として見てみればそうでもないのだろうが、一対一の勝負であれば大人と赤ん坊レベルの実力差がある。




「それじゃあ母さん、行ってくるよ」

「ああ、気をつけて。夕飯までには帰って来るんだよ?」


 日課のトレーニングのために、僕は森に足を駆ける。自由に、好きなように生きれるというのは久々で新鮮さを噛み締めながら僕は日々を生きていた。一日も無駄にすることなく真剣に。


 因みにA君は人間の勇者としてこの世界に転生したようだ。そのチートぶりは中々のものらしく、この魔族界まで聞こえてきた。魔族のお偉いさ方は、日々対応に追われているようだ。


 僕が住んでいる村は魔族界の中でも辺境も辺境で、絶賛警戒中である。そんな中で抜け出すのは至難の業だが、母には隣の友人と遊びに行くと言ってるし、抜け穴も知っている。バレることはまずないだろう。


「そろそろ奥にも行けるかな。ここいらの魔物に負けることはなくなったし」


 一勝負を終えて、ほっと一息ついた時である。何やら後ろの方から僕を呼ぶ声が聞こえていた。


「ぉ――ぃ!お―――い!オ―――イ!」


 気のせいではない。確かに僕に向けられた声だ。恐らくその声の持ち主は…


「シルヴィ。なんでこんなとこにいるんだ」

「だってキラが外に出るのを見たんだもん」

「だってもクソもありません。早く家に戻りなさい。帰ったら遊んであげるから」

「ほんと?」


 瞬時に目を輝かせるシルヴィ。この年代の女の子は無理に追い返そうとするから余計ついてくるのだ。帰ったらご褒美をあげるとかなんとか言った方がよっぽど効果的なのだ。


「ホントホント。1時間もすれば帰るから、そしたら遊んであげるよ。もしこのままついてくるんだったら遊んであげないからね?」

「わかった!シルヴィ待ってるからね!かならずだよ?」

「はいはい。必ず行くから」


 バイバイと手を振りその場を後にするシルヴィ。普通、言葉を覚えだして一番イラつかせやすい年頃ではあるが、不思議とそういう感情はない。むしろ有難いとすら感じる。生前ほとんど会話ができなかった娘に重ねているのかもしれないな。


「それじゃあ気を取り直して」


 僕は森の奥へと進んだ。




「ドゴー――――ン!!」


 途端に思い出したのは、シルヴィとの約束。一時間で戻ると言ったが、ついつい寝過ごしてしまったようだ。日が傾きかけている。


 轟音に木の上から落ちそうになるが、必死に体を保ち、音の方角を確認する。


(まさか、な。)


 しかし、そんな淡い希望を打ち砕くかのように現実は僕の前に様々と。


(煙が見えるな。もしや!)


 村の方から見える濁った煙。それが見えた瞬間、僕は村へと駆け戻る。


 そこで目にしたのは、


「な、なんだよこれ」


 絶句。僕はもはや現実を受け止められないでいた。燃え盛る家屋。しかし人の気配は露ほども感じない。いや、確かに人の気配は存在した。燃え盛るを前に崩れ落ちる僕とは裏腹に、高笑いを上げる人間が四人。


「はは、やっぱり凄いなぁ。僕の力ってば」

「「「うんうん」」」

「これでここは全滅……おや?あそこに一人残ってるな」


 豪華絢爛といった装備を着た男が、露出の激しい女三人を連れてこちらにやってくる。


「誰かと思えば生き残りのガキじゃない!勇者様ここは私が」


 そう言って一人が腰に下げた剣を抜き、高らかに掲げる。


「いや、そこまでする必要はない。あくまで僕が命じられたのは村の破壊だからね」


 そう言って腰を下ろす男。

 僕は、その男が何を言ってるのか全く理解できていなかった。


「少ないけどこれはお金だよ。一月は生活できるんじゃないかな?」

「「「いや――ん。勇者様ステキ――――!」」」


 声を揃えて、腰をくねらせる女三人。やはり、僕は理解できていなかった。この男が今何を言ってるのかが全く。


「それじゃあ生きるんだよ。達者でね」

「「「お待ちになって!勇者様!」」」

「ははは、僕は逃げないよ!君たちを置いて逃げるなんてできるわけないじゃないか!」

「「「勇者様――!(以下略)」」」


 完全にその四人が視界から消えた瞬間、僕の頭は活動を始めた。止まっていた血液が動き出したかのように、さまざまな感情が僕を襲う。


(熱い、熱い、熱い、熱い!)


 燃え盛る家屋を探し回る。

 しかし、意外と僕は冷静で、ことの有様を僕は理解できていた。あの女どもの言葉を信じるならば男は勇者で、僕と俺がもっとも忌むべき存在だ。そして勇者は誰かに命じられこの街を滅ぼしにやってきたという訳だ。そして、恐らく愛すべき者たちはすでにこの世に存在しない。


「なるほどね」


 僕の記憶はそこまでだった。




 ポタン、ポタンと天井から滴り落ちる水滴で僕は目が覚めた。

 周りには見るも無残に打ち砕かれた魔物の数々。僕は余りの危険性から封印されていた、伝説レベルの洞窟で寝ていたのだった。


 あれから、王都に茫然自失とやってきた僕は、何を思ってか城に殴り込んだ。もちろん何をするでもなく捕らえられたわけだが、何を思ったか王は僕の話を聞こうと言った。


 そして、何を思ったか封印を解き、僕をこの洞窟へ放り込んだのだった。


 それからというのも、地獄の毎日だった。どこからともなくやってくる魔物の数々。そしてそれはやむことはない。常に連戦を強いられた僕は疲弊しきっていた。

 生き残るだけでも至難の業なこの環境で、ここまで生き長らえたのもそれは魔物のおかげにすぎない。強い魔獣の死骸の中に入れば、ちょっとは休むことができるし、餓死することもない。


 とは言え、一番難しいのは最初の魔物だ。こんな非力な僕が何故勝てたかというと、それはスピードのおかげだった。初めて出くわしたのは力ばかりで、とろい魔物だった。素早さばっかり鍛えていた僕は何とか魔物の首を掻き切り、勝利を収めたのだった。

 腕は一本持っていかれたが、命に比べれば安い安い。


 そして、それから10年。洞窟内全ての魔物を倒し、僕は晴れて洞窟から脱出することができたわけだが、その僕の目に映ったのはこれまた燃え盛る王都の姿だった。


 しかしながら、僕が悲観することはない。そんな感情などとうの昔に捨ててきたのだから。僕はこの10年ひたすら憎しみを抱き、憎しみの為に魔物を殺し、死に物狂いで生きてきたのだ。


 僕はむしろ喜んでいた。やっとこれで憎しみを晴らすことができるのだと。

 僕は足に力を溜め、一瞬で王都に戦火をまき散らした本人の元へ馳せ参じた。


 やはり、と言っては何だがその男、A君はその場にいた。

 そして、


「少ないけど、これはお金だよ」


 10年前と同じセリフを口にした。まあ今の僕の姿を見れば誰だってその言葉を言うかもしれないが、僕にはその言葉で十分だった。10年が経とうとも結局変わらない奴は変わらない。戦場で女三人を侍らせている奴なんてこいつ以外には存在しないだろう。


「ありがとよ」


 そう言って、俺は女三人の首を刎ねた。


「は?」


 事態が全く読み込めないと言わんばかりの顔をするA君。

 あぁ、いい気味だ。僕と俺はこの顔を見るために今まで生きてきたのだ。


「てめえは俺を怒らせた!」


 倒れる三人に駆け寄り、血涙を流しながら中二臭いセリフを吐くA君。

 道化もここまで極まれば尊敬するな。


「それで、A君は何をするつもりだい?その握った拳をどうするのかな?」

「A君が誰かは知らねえが、お前は俺を怒らせた!」


 ああ、そういえばA君は仮称だったな。失敬失敬。

 だが、ここにきてまた同じセリフを吐くとはな。大方自分に酔ってでもいるのだろう。どうせ治癒魔法で蘇生ができるからなんて思っているのだろう。


「お前は会話ができないのか?俺はどうするって聞いたんだが?」

「ああ、答えてやろう。この拳はお前をぶっ飛ばすためだ!」

「なるほどね。だけど肝心の拳が見当たらないなぁ。それでどうやって僕をぶっ飛ばすんだい?教えてくれよ」

「は?」


 反撃の機会を許す僕ではない。すでにA君の両手は地面と熱いキスを交わしている途中だ。


「ギャァァァァアア!」

「だから質問に答えてって言ってるよね?そうなるとその口もいらないのかな?」


 首に手を突き刺し、声帯を捻じり取る。


「ああもう、うるさいなあ。君も男だろう?何人殺したか分からない殺人者だろう?」

「……!」

「もう喋ろうとしなくてもいいよ。どうせ、君は魔族は人じゃないなんて言うんだろ?」


 まあ、薄々気づいてはいた。A君にしてみれば魔族はそこら辺の小動物と差はないということなんだろう。


「それじゃあ、そっくりその言葉を返すけど。僕も君たちに対して、自分の仲間だとかいう感情を持てないんだよ。という訳でさようなら」


 僕は手を振り上げる。が、


「まあそこまで僕も鬼じゃない。そうだね10秒あげようか。10秒間だけは何も反撃しないでいてあげるよ」

「言質はとったぞ?」


 そう中二臭い言葉を吐いたかと思うと、A君は起き上がる。


「もう少しの辛抱だからね」なんて言葉を首無し三人娘に吐くほどには相変わらず自分に酔い知れているようだ。残り5秒。


「その言葉後悔するんだな!」


 そう言うと、目を閉じ何やら魔力のようなものを練り始める。

 はは。この期に及んで大魔法か。笑わせてくれる。残り0秒。


「時間切れ―。はいじゃあね」

「魔法途中に攻撃すr!」

「この物語の主人公はA君じゃなかったという訳だね」


 しかし、主人公は僕ですらないのだろう。

 家族が死に、友人が死に、心が死に、最期には魔族が全て滅んだ。こんな悲劇の最期を遂げる主人公はいないだろう。


 首級を四つ得たものの、それを改めてくれる存在は魔族にはいない。こうなると、A君も運命に翻弄された一人の人間なのかな、なんて感傷に浸ってしまう。

 結果だけを見てみれば、人間側は実質三人の犠牲で世界征服を成し遂げたのだから。そして、悩みの種になるであろうA君も僕が始末したということになる。


 本来ならば、ここで人間に復讐を誓うところなのだろうが、そんな面倒な事、僕がする訳がないだろう。僕の心はある意味で満たされていたのだ。


「神様よ!これで満足か!」


 自分の首を切り落とし、消えゆく意識で神様に思いを馳せた。






「本当は『1000の技対1の技』の勝負ってやつを見たかったんですけどね。まあ、構いません。十分楽しませてもらいましたし、何より時間はまだいっぱいあるんですから」


「さて次のターゲットはどれにしましょうかね?天の神様の言う通りっと」

読んでくださりありがとうございます。

着想は某動画のコメント欄からで、私自身も面白そうと思ったので書きました。

かなり駆け足で書いたので、心情描写は少ないですが(そもそもの問題な気がします)、もし少しでも面白いと思って頂けたなら嬉しいです。誤字があったらすいません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ