(9/14)誰!?
「今夜は友達とご飯食べるから空いてないよ」と職場の自席で言われてしまったのだった。
「えーっ。会社近くにいい感じのパスタ店ができたんだよー」
「いいね。今日は無理だけど今度行こうね」と言われてミツヒコが仕事に戻ろうとした。
紗莉菜がミツヒコのそばでそのまま立っている。
「ん?」と再度目線を向けられた「まだ何かある?」「だっ。誰と行くの?」「そんなこと聞いてどうするの?」
紗莉菜はギューっと唇を噛みしめた。アナタいつだって教えてくれてたじゃないですか。こっちが聞かなくても教えてくれてたじゃないですか。隠すってことは隠すだけの理由があるんじゃないですか?
「誰と行くの?」
ミツヒコがため息をついた「大学時代の山元だけど」「ああ! 山もっちゃんね! えっ。アタシも会いたい! 久しぶりだよ!」「今日は山元の相談にのるからだめ」
どうして〜〜〜。
大学時代の友達。みんなに会わせてくれたじゃん〜〜〜。『彼女だよ』って紹介してくれたじゃん〜〜〜。急になんで〜〜〜。
「紗莉菜。仕事に戻って」
もうこっちを見てはくれなかった。
5時30分ピッタリにミツヒコは席を立った。
「お先に失礼します」と会社を出て行った。
紗莉菜は! 後を追いかけた! 女のカンだ! 絶対おかしい! 何がなんだかわからないがおかしい!
しかし中原紗莉菜は178センチだった!
こんな尾行に向いてない女がいるだろうか? それでも紗莉菜は。精一杯身を潜めて尾行した。木から木へと体を移し、電柱があれば電柱に隠れた。幸いミツヒコは気がつかなかった。
ミツヒコはそのまま30分も歩いた。
ミツヒコがたどり着いたのは繁華街。しかもホテル街であった。茫然とした気持ちで紗莉菜はネオンを見回した。
待ち合わせスポットにミツヒコは立つと腕時計を見つめた。まもなく彼の相手が到着した。
年の頃は30くらいの。女性だった。
髪の毛の先を上品にカールさせた色気のある人で。厚手のコートに一目で高いとわかるプリーツスカートスーツを着ていた。
白い生地。スパンコールの黒で縁取られたジャケット。胸に輝くシルバーのネックレス。耳元に同色のイヤリング。
ほどよく赤い唇。
この人が『大学時代の山元』の訳がない。山元は! 出っぷりした小男だ! 180度違う!!
プリーツスカートがミツヒコに手を振って。ミツヒコが笑顔になった。
あの! 自分にしか見せてくれないはずの『豆柴』の笑顔!
そのまま。その色気のあるプリーツスカートとホテル街に消えてしまったのだ。
中原紗莉菜という人は。
こういう時にガーッて走って。ガーッってミツヒコの首元をつかんで
「何浮気してんだテメーッ!!!」と言える人であった。
「アンタ誰っっ」と女に言える人であった。直情的であった。
それなのに。
まるで『アリのよう』に。『小市民のよう』にUターンしてその場を走って逃げた。
帰りの電車の中で手を震わせながら『山元くん元気だった?』とLINEした。しばらくして『元気だよ』と返事が帰ってきた。
山元じゃないだろ!!! 誰なの!!! その色気のあるオンナッッ。ピンヒールが黒くて。桜のようなマニキュアしてる女。
誰!?
【次回】終わったーーー!!!